新卒採用を成功させるためには、母集団形成が重要となります。
私たちは、「1/1採用」、1人採用するのであれば、ターゲット通りの1人が応募してくれて、その人に内定を出して承諾してくれるという形が、最も生産性が高い採用の理想形だと思っています。
しかし、現実には、どれだけ考えて母集団形成をしても、全員に内定を出せるわけでも、内定を出した全員が承諾してくれるわけでもありません。従って、新卒採用はある程度の確率論で考えることも必要です。記事では、新卒採用の母集団形成を成功させる10個の方法について解説します。
<目次>
新卒採用における母集団形成の重要性
新卒採用において、採用の成否を左右するのが母集団形成です。この章では「そもそも母集団形成とは何なのか?」「どのような考え方で母集団形成に取り組んでいけば良いのか?」について解説します。
母集団形成とは
母集団形成は、採用対象となる就活生と接点を作ることです。新卒採用における母集団は、自社の求人等にエントリーしてくれ「個人情報を獲得できた学生」、また、もう一段絞り込む場合は、「説明会に参加してくれた学生」です。
当然ですが、採用する学生は、母集団の中から絞り込まれることになります。採用活動は学生に会えないことには始まりません。従って、自社の採用目標人数から逆算して、母集団を形成することが、採用活動におけるファーストステップです。
なお、母集団形成は「自社に興味を持っている学生を集める」こととイコールではありません。むしろ、「自社で採用したい学生を集める」と考えたほうが良いでしょう。まずは採用したい学生群とどう接点を持つか、そのうえで、接点の中でどう自社に興味を持ってもらうか、魅了付けをするかと考えたほうが採用活動はうまくいきます。
母集団形成は人数を集めれば良いものではない
母集団形成は、ただ人数を集めれば良いというものではありません。自社にマッチしていない、内定を出せないが学生を1,000人集めても、その母集団には価値がありません。
同様に、例えば、1万人の学生を集めても、その中に10人しか採用したい学生がいないとしたら、説明会の参加枠、適性検査等の費用、面接の工数等が無駄になってしまい、非常に生産性の低い採用活動となってしまいます。また、膨大な一次面接等に工数を取られてしまう中で、採用したい10人に十分なケアをできずに、辞退されてしまう恐れも高まります。
従って、母集団形成は「数を集める」ことと「質を高める」ことの間でバランスを取ることが重要です。
なお、このバランスをうまく取るには、一次選考をいかに効率的におこなうかもポイントです。一次選考を効率的におこなうことができれば、数を集めたうえで、ターゲット学生にしっかりと時間を割くこともできます。
自社での内定率や活躍状況を踏まえたうえで、信頼性(予測的妥当性)の高い適性検査を用いる、応募者に動画をアップしてもらう録画面接を使う、書類選考を入れる等の方法があるでしょう。
採用基準と必要な母集団人数
前述した通り母集団形成は数を集めればいいわけではありません。ただし、ターゲット学生を設定して、ターゲット学生にリーチするためのチャネル選定や広告訴求の工夫をした前提で、目標人数を設定して取り組むことが必要です。
とくに、採用人数が増えてくると、確率論で考えられる部分も増えてきます。選考基準に応じて必要な母集団は下記のような目安で考えることができます。なお、下記の母集団は、説明会の参加者数≒選考の応募者数です。
⇒「超厳選採用」ともいわれる採用レベルです。この採用レベルでは、ターゲティングした母集団を前提として、目安として採用目標人数の100倍の選考母集団が必要となります。
⇒いわゆる「厳選採用」の基準です。目安として、採用目標人数の30~50倍の選考母集団が必要となります。
⇒およそ採用目標人数の20倍程度の選考母集団が必要となります
母集団の目標人数は採用予定人数の10~15倍程度になることが多いでしょう
上記はあくまで目安です。
必要な母集団 = 採用目標人数 ÷ 内定承諾率 ÷ 内定率
です。選考応募者のうち、何人に1人の割合で内定を出せるか、また内定者の承諾率はどうなっているか、自社の新卒採用データを過去3か年ほど確認してみれば、自社で必要な母集団の目安が分かります。
あとは、
- 内定承諾率のトレンドがどうなっているか?(落ちているか、上がっているか)
- 内定承諾率を変動させる要素はあるか?(採用担当者の異動等)
- 採用レベルを上げたいか?(上げるのであれば、必要な母集団を増やす)
といった要素を加味して、母集団形成の目標を設定しましょう。
新卒採用で母集団形成を成功させるためのポイント
母集団形成が必要であることは分かっていても、「募集をかけても学生が集まらないから困っている…」と悩まれている企業も少なくありません。この章では、母集団形成を成功させるための基本的なポイントを確認しておきます。
ターゲットが求めるメッセージを発信する
自社の求めるターゲットを集めるためには、ターゲットが求めるメッセージを発信することが重要です。そのためには「ターゲットがどんな情報を欲しがっているのか?」から考えることが非常に重要です。
母集団形成のしやすさは、会社の知名度やブランド、業界の人気度等によっても左右されます。しかし、不人気業界でもうまく母集団形成している会社は、ターゲットが求めるメッセージを発信する、ターゲットが参加したくなるイベントを開催することを徹底しています。
ターゲットが求めるメッセージをしっかりと考えるうえでも、マーケティングのフレームワークを活用したペルソナ設定をおこなうことが効果的です。ペルソナ設定のメリットや具体的な手順については、以下のページに詳細をまとめてありますので、ぜひ参考にしてください。
母集団形成は、魅力の発信よりも、ターゲットの目線で考えることが重要
繰り返しになりますが、母集団形成においては、「自社が発信したいもの」ではなく「ターゲットの興味・関心があるもの」を考えることが重要です。
採用に慣れていない会社ほど、母集団形成において自社の強みやメリットを積極的にアピールする、また、インターン等の企画においても自社の魅力を伝える、仕事を体験してもらうことに重きをおいて考えてしまいがちです。
もちろん、間違ってはいないのですが、重要なことは、ターゲット学生のニーズを満たすことです。自社の魅力を打ち出したり、自社を理解してもらったりすることは、重要な要素ではあるのですが、入り口の段階(母集団形成)では、学生のニーズを満たすことが最重要です。
接点を持てれば、そこで改めて自社の魅力訴求をおこなうことができます。しかし、接点を持てないことには、採用活動はスタートできません。
自社が不人気業種であったり、採用難易度が高いターゲットを狙ったりする場合には、自社の魅力や仕事を発信することよりも、ターゲットの興味・関心を優先して考えましょう。
母集団形成を成功させるための計画作りのノウハウ
母集団形成に関しては、掲載チャネルと求人内容に視点が行きがちです。その中で抜けがちな2つのポイントを確認しておきます。
適切なタイミングでの採用スケジュールを組む
ターゲット層からの応募を集めるためには、タイミングも重要です。自社が求めるターゲット層が積極的に活動をしている時期に情報を発信しなければ、ターゲット層を集めることは難しくなります。
適切なタイミングを把握するためにも、ターゲット設定が重要です。ターゲット設定やペルソナに基づいて、ターゲット層が活発に活動している時期にイベント等をおこないましょう。
採用ターゲットによって、3年生のサマーインターンやウィンターインターン等にも積極的に取り組む必要があるでしょう。また、学生のスケジュールを把握して、期末試験の時期とイベントを被らせないこと等も重要です。
採用競合の動向をチェックする
自社が欲しい人材は、他社にとっても「欲しい人材」である可能性が高いといえます。従って、選考や内定承諾のフェーズでは、採用競合を意識することが増えるでしょう。母集団形成においても同様のことがいえます。
採用競合の社名を意識している人事の方は多くても、採用競合がどんな媒体を使って、どんな訴求をしているか、また、どんな時期にどんなイベントをしているかをチェックしている方は多くありません。
採用競合も知恵を絞って採用活動をおこなっている中で、採用競合の動向をチェックしておくと、自社の採用活動に活かせるヒントを得られることもあります。ぜひ、確認してみてください。
新卒採用の母集団形成に使える10個の採用チャネルと使い方
最後に新卒採用の母集団形成に使える10個の採用チャネルと使い方を解説します。幅広い採用手法を知り、自社にあった手法を選択することで、より効果的な母集団形成をおこなうことが可能になります。
1.求人サイト
求人サイトは、新卒採用におけるメインの手法として長く定着しています。求人サイトのメリットは、一度に多くの学生にアプローチして、効率的に母集団形成できることです。
10年ほど前は、主要な求人サイトは数個しかありませんでしたが、現在は、数十万人の学生が登録する総合サイトから、業界や職種、志向性等に応じた専門サイトまで多数の求人サイトがあります。
総合サイトは、学生数が多い一方で、大手企業や人気企業とも同じ土俵で戦うことになります。専門サイトは、登録学生数は数千~数万人と少ないものの、特定の条件で絞り込まれた学生にアプローチすることができます。自社のターゲットや採用力を踏まえて、適切な求人サイトを選んでいきましょう。
2.人材紹介会社(新卒紹介)
人材紹介会社のサービスを利用した場合、自社に必要な人材を効率よく採用できます。人材紹介会社を利用するメリットは、以下の4つです。
- 採用ターゲットに近い人材を厳選して紹介してもらえる
- 採用活動の手間や負担を最小限に抑えられる
- 成功報酬であり、リスクがない
- 内定承諾までを人材紹介会社のアドバイザーがサポートしてくれる
成功報酬である分、採用単価は少し高くなりますが、工数を抑えられる分、採用人数等によっては最も効率よい採用手法になることもあります。母集団形成をはじめとした採用に関するノウハウを自社に蓄積できない点は注意が必要です。
3.ダイレクトリクルーティング
ダイレクトリクルーティングは、従来型の「待ち」の採用ではなく、企業側から学生に対してアプローチしていく「攻め」の採用手法です。
具体的には、ダイレクトリクルーティングサービスに登録している学生のプロフィール(匿名)をチェックして、自社にマッチしそうな学生に対してメッセージを送る形になります。学生がメッセージを読んで、興味を持てば、エントリーや返信をして、個人情報が公開されます。
ダイレクトリクルーティングは、知名度で劣っている中小企業やベンチャー企業でも、メッセージ等を工夫することで優秀な人材を採用できる、はじめから絞り込んだ母集団を形成できる手法として注目が高まっています。
一方で、こまめに学生のプロフィールをチェックして、メッセージを送信する手間がかかるという注意点もあります。
4.リファラル採用
リファラル採用は、社員や関係者から応募者を紹介してもらう手法です。昔からある縁故採用と同じですが、より積極的・組織的に応募者を探す仕組みとして進化させたものがリファラル採用です。
実際に働いており社風や働き方をよく知っている、また、相手のことをもよく知っている社員がマッチングしてくれることで、精度の高い採用ができることが特徴です。新卒の場合には、サークルや研究室等の繋がりを保っている新入社員や内定者等を巻き込むことで、効果的なリファラル採用が可能です。
優秀な学生にリーチできる、また、コストを抑えられる等、大きなメリットがあるリファラル採用ですが、短期的に採用人数を計算しにくいという部分があります。従って、中長期的に取り組んでいくことが良いでしょう。
5.合同企業説明会
合同企業説明会(合説)は、一度に多くの学生に接触できるチャンスの一つです。また、「理系学生向け」等、ターゲットを絞った合同企業説明会も開催されているため、参加するイベントを選ぶことで、ターゲットに接触できる可能性を高めることも可能です。
合同企業説明会の動員は、“リアル版求人サイト”のようなイメージです。イベントに参加した学生は、入り口でパンフレットをもらって、行きたいブースを回る形となります。もちろん、ある程度声をかけて集めることも可能ですが、求人サイトと同じように人気業界、知名度のある会社に人が集中しやすい傾向があります。自社の動員しやすさによっては、最適な手法ではないかも知れませんので注意しましょう。
6.マッチングイベント
マッチングイベントとは、小規模の合同企業説明会と一次面接がセットになったようなイベントです。集まる学生は数十人から百人程度となることが大半です。その代わり、合同企業説明会と異なり、集まった学生全員に対して自社の会社紹介をできることが大半です。
また、学生のグループワークやディスカッションを見たり、短時間での面談を踏まえたりして、学生を評価したりすることが可能です。評価後に、会いたい学生との話せる時間を設けられているものも多いです。
従って、マッチングイベントをうまく活用すれば、知名度のない企業でも学生を魅了付けすることが可能ですし、採用の工数を減らすことも可能です。合説と同様、あらかじめ対象をセグメントしたイベントも開催されています。
7.学内セミナー
学内セミナーは、特定の大学や専門学校の生徒に向けた会社説明会のことで、一般的には、大学内の教室等で開催されます。学内セミナーは、特定校での母集団形成が可能であり、また、ゼミ等で実施できれば理系学生や特定の専攻学生にアプローチすることも可能です。
なお、一般的には、大学内での会社告知は、
-採用広報の解禁前 ⇒人気企業による業界勉強会-採用広報の解禁直後 ⇒学内での合同企業説明会
-5月6月頃から ⇒単独での学内セミナー、キャリアセンターからの個別推薦
といった形でおこなわれることが大半です。
8.大学の就職課・研究室
前項でも少し触れましたが、大学の就職支援課や研究室に直接通って、就職の決まっていない学生を紹介してもらう手法もあります。費用が発生しないため、コストを抑えた採用活動が可能です。
ただし、学生を紹介してもらうためには、大学の担当者や教員との関係作りがカギとなります。関係性を構築するには、定期的に学校に通ったり、情報を交換したりする等の長期的なアプローチが求められます。
9.Web広告やSNS
自社ホームページ内に採用ページを設けたり、採用サイトを立ち上げたりすることは採用活動においては一般的です。求人サイトと異なり、掲載内容やテキスト量、写真や動画等のコンテンツも自由に設計できますので、学生の求めている情報を伝えやすいという特徴があります。
一般的に採用ページや採用サイトは、新規の母集団形成というよりは、接点を持った学生に自社の魅力を伝えるための施策となります。しかし、SNSやWeb広告と組み合わせることで、採用ページに新規流入を作ることも可能です。とくに最近では、Twitterを使った採用活動にも注目が集まっています。
10.新卒ハローワーク
ハローワークというと、中途のイメージが強い方もいるかもしれません。しかし、リーマンショック後から国が力を入れて進めてきたのが、新卒ハローワークです。新卒ハローワークの強みは、各大学にキャリアカウンセラーを派遣していることです。
とくに、翌年度(3年生)の採用支援がスタートする5月6月になってくると、各大学で4年生支援に手が回り切らなくなる状況が発生するため、新卒ハローワークのキャリアカウンセラーを受け入れている大学は非常に多いです。
従って、おもに夏以降の施策となりますが、後半戦で採用活動をおこなう中小企業や夏までに採用目標人数に届いていない場合には、頭に入れておくと良い採用チャネルです。
インターンシップ
インターンシップは採用チャネルではありませんが、この数年、母集団形成を目的としたインターンシップが一般化、急増しています。過去5年ほどで、インターンシップを実施する企業は約3倍、2万社に迫る勢いです。
大半が1dayインターンシップであり、そこで接触した学生に対して、早期選考を案内するというやり方です。最近では、「インターンシップをメインの採用活動として、3月以降はインターンシップで採り切れなかった場合の予備施策」「インターンシップ経由で採用目標人数のうち、5割を採る」等、明確に目標設定する動きが増えています。
これに伴って、「1dayや2時間等の手軽なインターンシップを、ターゲット学生が興味・関心を持つテーマでおこなって母集団形成をおこなう、そこから選抜して、合格者にだけしっかりと自社の魅力を伝えたり、社員との交流を作ったりすることで志望度を上げる、選抜型の2dayや合宿型のインターンシップを開催する」という企業も増え始めました。
まとめ
新卒採用を成功させるためには、母集団形成が不可欠です。とくに新卒採用は中途採用と違って、一斉に数十万人が活動するため、どれだけ工夫して採用活動をおこなっても、「1/1採用」を実現させることはなかなか困難です。
自社の採用レベルや過去3か年の実績等を見れば、確率論で必要な母集団の人数を設定することができます。
必要な母集団人数を設定したうえで、なるべく質の高い、ターゲットを多く含む母集団を作っていけるように活動しましょう。記事で紹介したように、さまざまな採用手法がありますので、ターゲット、採用力、予算やスケジュール、体制を考慮して、最大限の結果を出せるように組み合わせましょう。