労働人口が減少し、雇用形態も多様化する中で、採用活動の難易度が徐々に高まっています。また、いよいよ大卒新卒の少子化もスタートする中で重要なのが、母集団形成を担う採用広報です。
本記事では、採用広報の定義や役割を確認したうえで、具体的な進め方のポイントなどを紹介します。
<目次>
- 採用広報とは?
- 採用広報の目的は選考の母集団形成
- 採用広報を設置することで得られるメリット・効果
- 採用広報の基本施策
- 採用広報を効果的にするための手法
- 効果的な採用広報の進め方
- 【まとめ】採用広報に取り組んで、良質な母集団形成を実現しましょう
採用広報とは?
採用広報とは、そもそもどんな定義の言葉でしょうか。採用広報という言葉の定義や沿革、類似した部分もある採用マーケティングや採用ブランディングとの違いを紹介します。
採用広報とは?
「採用広報」とは、求職者に就職先・転職先の候補として検討・応募してもらうために企業、採用人事が実施する活動を指します。
一般的には「採用したいターゲットに対して、認知・応募してもらう母集団形成のプロセス」を指し、「採用選考」と対になる言葉です。採用広報は、もともと経団連が主導してきた採用スケジュールの中で使われていた言葉です。
経団連が主導してきた採用スケジュールの中では、大きく3つの期日、採用活動の告知や会社説明会が開始できる「採用広報」の解禁日、面接などの選考活動をスタートできる「採用選考」の解禁日、そして、内定出しの解禁日がそれぞれ定められていました。
従って、採用広報という言葉は、基本的には「母集団形成のプロセス」と同じ意味だと考えて間違いありません。
採用広報の具体的な活動には、就活ナビサイトへの求人掲載、SNSやオウンドメディア、また交通広告やテレビCMなどでの認知拡大、インターンや会社説明会の企画や実施、応募プロセスや採用ホームページの企画・制作などがあります。
採用広報と採用マーケティングの違い
採用マーケティングとは、マーケティング手法を取り入れて採用活動を実施することを指します。「商品・サービスを認知してもらい、その魅力を伝えて購入してもらう」マーケティングの手法は、「自社の認知を拡大し、魅力を伝えて、応募や内定承諾をもらう」採用活動にそのまま活かせます。
採用方法の多様化、採用競争の激化などによって、昨今、採用マーケティングを取り入れる企業が増えてきつつあります。具体的な採用マーケティングの手法には、ペルソナ設定、3C分析、Web広告、オウンドメディアの運用、マーケティングオートメーションの活用などが挙げられます。
なお、採用広報は一般的に「応募」までのステップを指しますが、採用マーケティングは採用広報から採用選考までプロセス全体に関わるという点が少し異なります。
採用広報と採用ブランディングの違い
採用広報は就職先・転職先として自社を検討してもらうための活動全般を指しますが、採用ブランディングは、その中でも職場としての自社をブランディングする活動を指します。従って、採用ブランディングは採用広報のなかに含まれる施策と捉えてよいでしょう。
採用ブランディングの場合、自社をどういう魅力を持った職場として発信するかを設定し、それを採用広報の活動、たとえば、採用サイト、SNS、会社説明会、採用ツール、また、それ以外のPRなども含めて、一貫してメッセージを発信する活動となります。
採用広報の目的は選考の母集団形成
採用広報の目的は、ターゲットとする候補者に自社の魅力を認知してもらい、応募のアクションにつなげることです。つまり、自社が採用したい人材で選考の母集団を形成することです。
少子高齢化、また終身雇用が崩壊した中で、採用競争は激化の一途をたどっています。また、採用手法が多様化するなかで、採用市場における大手求人媒体のポジションが低下しつつあり、求人媒体に掲載するだけでは求める人材を採用できない状況になっています。
一方で、SNSやWebサービスなどの発展によって、中小企業やベンチャーでも知恵と工夫を活かして採用広報に取り組むことで、企業自体の知名度や認知度を超えて、認知拡大できるようになっている側面もあります。
採用広報を設置することで得られるメリット・効果
ここまで紹介した目的などとも重複してくる部分もありますが、採用広報を設置すると得られるメリットや効果を確認しておきましょう。
ターゲット人材の母集団を形成できる
採用広報を行う最大の効果は、これまで紹介した通り、自社の採用ターゲットを含んだ母集団を形成できることです。採用活動における母集団とは「自社に応募してくれる採用候補者」を指します。量と質ともに高い母集団を形成することで、採用活動を成功させることができます。
認知度が上がる
採用広報を進めていくことで、転職顕在層だけでなく、転職潜在層にも認知度を拡げることが可能になります。短期的な効果は見込めないかもしれませんが、中長期的に認知度向上ができれば、転職ニーズが顕在化するタイミングで自社の名前を思い出してもらい、応募に結びつけることができるかもしれません。
ミスマッチの防止
採用広報や採用ブランディングを通して、自社のカルチャーや価値観が候補者へ伝えることが出来ると、母集団形成の段階でマッチしていない人材からの応募を減らすことができます。ミスマッチの防止や採用選考の効率化につながります。
採用広報の基本施策
採用広報でまず基本となる施策には、求人媒体、採用サイト、認知広報の3つが挙げられます。
求人媒体
求人媒体は、自社の求人情報を掲載し、応募者を集めるための媒体を指します。いわゆる就職サイト・転職サイトであり、リクナビやマイナビなどの大手求人媒体が代表例として挙げられます。
近年では、リクナビやマイナビのような総合型サイト以外にも、業界や職種、属性に特化した特化型サイトも増えています。特化型サイトの対象は、例えば、飲食、エンジニア、介護、看護、ベンチャー、女性、体育会系、理系、間接部門といった形で多様です。
ファッション業界に特化した「READY TO FASHION」や法律事務所に特化した「リーガルブライト」といったサイトも存在します。また、従来型の求人媒体以外にも、「OfferBox」や「ビズリーチ」といったダイレクトリクルーティングや「Indeed」や「求人ボックス」といった求人検索エンジンなどもシェアを伸ばしています。
また、いま就職/転職活動している求職者に対して認知を獲得するという意味では、合同企業説明会や転職イベントなども求人媒体と位置づけは同じといえます。
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採用サイト・採用ページ
コーポレートサイト内に採用ページ、もしくは、別途で採用サイトをつくることも採用広報において基本となります。
日本国内においては、殆どの人がスマートフォンを持っており、企業に応募しようと思った際、また、選考の過程で企業のホームページを確認することは当たり前になっています。その際、コーポレートサイトは顧客や取引先に向けて作られていることが大半です。
「採用する=職場としての自社の魅力を伝える」ために作られているわけではありませんので、別途で採用ページや採用サイトを準備したほうが良いでしょう。採用サイトは、次に紹介する認知広報の受け皿、導線にもなってきますので、採用広報に力を入れていく上では必須です。
認知広報
求人媒体はいま就職/転職活動している求職者に直接的に選考応募してもらうための手段になります。
それに対して、認知広報はもう少し間接的に、まずは自社を知ってもらう、興味を持ってもらうための活動になります。認知広報も最終的には“求人に応募してもらう”ことがゴールですが、求人媒体ほど直接的に応募者数、採用者数などを効果検証にしないという形です。
たとえば、秋~冬頃の就活が本格化する手前のシーズンになると、自社の認知度を向上させることを目的として、よく新卒向けの交通広告やラジオCM、テレビCMなどが流されています。
例えば、新卒学生が見ているようなゴールデンタイムの番組でテレビCMを流すことができれば、認知度向上に大きな効果を期待できますが、出稿には多額の費用がかかるため、主に資金力のある大手企業が実施する施策となります。
ただし、次章で紹介するようなオウンドメディアやSNSなども認知広報のひとつであり、無料から低額で実施できる手段です。
採用広報を効果的にするための手法
採用広報の大枠は、前章で紹介した3施策となってきますが、強化・ブラッシュアップするための施策として、下記で紹介する手法もおススメです。
採用ピッチ資料
採用ピッチ資料は、端的にいえば「会社の魅力を説明するための資料」を指します。「Googleスライド」などのプレゼンテーションツールで作成することが一般的です。
採用ピッチ資料は採用サイト上で公開する、リファラル採用の面談で利用するといった形で幅広く利用します。採用ピッチ資料は言い換えれば「会社説明会の資料」ですが、会社説明会の資料は口頭で説明しながら話すことが前提になっています。
しかし、採用ピッチ資料は、採用サイト上などで公開するなど、資料が単体で機能するように作ることがひとつのポイントです。また、採用ピッチ資料では、良い部分だけでなく、現状の課題などもオープンに伝えることも大切です。
オウンドメディアなどで興味を持ってもらったところから、エントリーしてもらうためのフックになるので重要なコンテンツです。
オウンドメディア
オウンドメディアは、自社で保有するメディアの総称です。“オウンドメディア”と言われるものと、従来の採用ページ・採用サイトなどとの違いは“更新性”を前提としているかどうかです。
オウンドメディアの最大のメリットは、コンテンツが資産化することです。従来までの採用ページやサイトは一回作るとそれまでになりますが、オウンドメディアは定期的に情報発信することでコンテンツを蓄積し、自社の魅力をしっかりと伝えていく武器になります。
仮に1か月に1本更新したとしても、運用して3年経過すれば36本のコンテンツが蓄積されることになります。これだけのボリュームがあれば、説明会や面接と並行してみてもらう補足資料としての活用、ミスマッチを起こさないための情報提供、また、検索結果での上位表示も可能になってきます。
オウンドメディア構築の具体的なやり方としては、採用サイトに「WordPress」や「STUDIO」などのCMSを組み込む、また「note」や「wantedly」などの外部媒体を使うやり方があります。オウンドメディアは、求人媒体の掲載広告と異なり、運用に費用が発生せず、内容や文量も制限なく発信が可能です。
次に紹介するSNSなどと合わせて活用することで、効果を最大化できるでしょう。
SNS
採用広報における認知とエントリー獲得の手段として、スタートアップやベンチャー、中堅中小企業を中心として、取り組み企業が増えているのがSNSを使った採用広報です。
採用広報でSNSを使うメリットは、
- 1)費用が掛からない(もしくは低額)
- 2)社風や人柄など定性的な魅力を発信しやすい
- 3)転職や就職の潜在層にもリーチできる
- 4)媒体によっては強い拡散性がある
といったところです。
ただし、SNSは投稿内容を誤ると炎上する恐れなどもあり、最悪の場合はブランドイメージの低下や風評被害につながることもありますので、活用前には他社事例を確認したり、ガイドラインの策定を行ったりして取り組むことが得策です。
SNSの運用方法としては、採用チームで公式アカウントを運用するケース、また、経営陣や採用担当の個人名義でアカウントを運用するケースの2つがあります。
前者はチームで運用を行うため、運用の負担を分散したり、多様な意見を取り入れて運用できたりするメリットがあります。一方で、顔が見えづらいため、なかなかフォロワーが伸びづらいといった欠点もあります。
一方で、個人で運用を行う場合、「顔が見える」「キャラクターが見える」ため、フォロワーが伸びやすく、SNS担当者および会社へファンがつきやすくなります。一方で、個人に負担がかかる、また、個人の裁量や価値観で投稿を行うことで炎上につながるリスクも検討する必要があります。
音声メディア
音声メディアとは、音声のみで情報を発信するプラットフォームのことを指します。「Voicy」「Clubhouse」「Twitterスペース」などが挙げられます。
文字情報より多くの情報や雰囲気を伝えられる、動画よりも作成負荷が圧倒的に少ない一方で、移動時間や作業時間に、“ながら”で聞いてもらえる点が音声メディアの魅力です。
効果的な採用広報の進め方
効果的な採用広報を実施するには進めるにはどのようにすればよいでしょうか。採用広報を進めるステップについて、順番に説明します。
採用ターゲット・ペルソナを明確にする
まず、採用ターゲット・ペルソナを明確にします。ここが決まらないと「誰に向けてどんなメッセージを発信するか?」「その人はどこにいるか?」など、採用広報に取り組むうえでの基本的な軸が定まりません。
定量的な属性や採用合否を決める能力基準となる採用スペックに、性格や価値観、ライフスタイルなど、架空の人物像を想像しながら“人”としての側面を肉付けしたものが採用ペルソナです。
人物像(ペルソナ)を作成するうえでは、自社で活躍する従業員も思い浮かべながら考えてみると良いでしょう。
自社の魅力や強みを整理する
次に、自社の魅力や強みを整理します。まずは、職場としての自社の魅力や強みを洗い出していきましょう。会社の魅力を最大限伝えるために、発信するポイント、発信しなくても良いポイントを精査し、さらに刺さるようにメッセージを企画することが採用広報の腕の見せ所になります。
3C分析などを取り入れて、「競合が発信している魅力」を把握しておくことも有効な方法となるでしょう。
もちろん、存在しないものをまるであるかのように偽る、大きくみせることはNGですが、自社のどの魅力をどう発信するかが大切です。
社内広報からはじめる
採用広報に着手する前に、まず社内広報を実施しましょう。社内に向けて発信してみて、違和感がないか、変えた方がいいことがないか、ぜひ確認してみましょう。
社外に向けてどんな情報を発信しているかを全社員に認識してもらうことも大切ですし、定期的に自社の強みや魅力に社員で触れることは従業員のモチベーションやエンゲージメントの向上にもつながります。
発信方法・手段を決める
発信方法・手段を決めます。まずは、ここまで紹介したような基本となる求人媒体、採用サイト、認知広報に関してどう取り組むかを考えていきましょう。
取り組み方を考える上でポイントになるのは、先ほど考えた「採用ペルソナ」です。誰に向けて発信するのかを軸に、どのチャネルで、どんなメッセージを発信していくかを考えていきましょう。
また、採用広報は、単年度で取り組むものではなく、中長期的な活動として捉えることが大切です。媒体選定などは単年度で動かしていけばよいものですが、採用サイト(オウンドメディア)やSNS、認知広報などの取り組みは、単年で効果が出るものではありません。
3か年ぐらいでどう進化させるか、何を実現するかを考えていくことが大切です。
誰に向けて、どんな魅力を、どこでどう発信していくかが、採用戦略の基本であり、採用ブランディングにもつながっていきます。
コンテンツを作成する
最後にコンテンツの作成です。ここまでのステップがすべて決まりきらないと動き始めてはいけないということはありません。ただ、繰り返しになりますが、単発の施策ではなく、中長期的に取り組むことが大切です。
また、コンテンツ作成は中途半端にやめてしまうと資産化しません。採用広報、とくに認知広報やSNS,オウンドメディア、採用ブランディングなどに取り組む上では、数年は継続してコンテンツ作成や情報発信をするための工数やコストを維持する手間を背負う覚悟が大切です。
もちろん、作りっぱなしではなく、定量的な目標を設定して、効果検証することも必要不可欠です。
【まとめ】採用広報に取り組んで、良質な母集団形成を実現しましょう
採用広報は従来まで経団連が策定してきた新卒採用スケジュールの中で定められた“採用広報”“採用選考”“内定出し”という3つのフェーズのひとつです。
上記の流れを見れば分かる通り、採用広報は「良質な母集団をつくるために、“職場”としての自社を、採用ターゲットになる人たちに認知して、応募してもらう」ための活動です。記事内で細かな違いも説明しましたが、大枠としては採用マーケティングや採用ブランディングとも類似した活動です。
採用広報が上手くいき、求職者に広く認知してもらえるようになると、短期的な求人媒体の効果性UP、マッチ度の高い求職者の応募、採用コストの低減などに繋ります。
採用広報を成功させるためには、直接的に応募者を集める求人媒体の選定や運用に加えて、全体の受け皿になる採用サイトやオウンドメディアの構築・運用、また、SNSなども含めた認知広報に中長期的に取り組んでいくことが大切です。