企業にとって、必要な人材を確保するための採用活動は非常に重要なものです。
労働集約型の企業であれば、必要人材の確保が事業計画の達成に直結しますし、すべての業種において中長期的な企業の成長は優秀人材の確保に左右されるものです。
ただ、採用手法が多様化して、とくに新卒採用は早期化・長期化もする中で、採用業務を効率化したいというニーズも小さくはありません。
本記事では、採用活動で発生する業務を確認したうえで、多くの企業が抱えている課題や効率化のポイントを詳しく解説します。
採用業務を効率化したいとう担当者の方に参考になれば幸いです。
<目次>
採用業務の基本的な流れ
採用業務の効率化を考える上で、作用活動の中で発生する業務と基本的な流れについて確認しておきます。
1.採用計画の作成
短期的な採用業務は、採用人数や雇用形態の決定からスタートします。
採用ターゲットや採用基準の決定、それに合わせた選考チャネルの選定や選考プロセスの調整なども、採用計画の作成内で実施されることになるでしょう。
2.母集団形成
求職者に接触して、選考の母集団を形成します。休職を集めるには、次のような方法があります。
- 求人サイトへの出稿
- 人材紹介会社への依頼
- ダイレクトリクルーティングの利用
- 採用サイトの構築、SNSでの発信
- 会社説明会やセミナーの実施
3.選考実施
選考の母集団に対して、書類審査、筆記試験、面接、実技試験などの選考を実施し、応募者の中から内定者を決定します。
選考は会社が応募者を見極める場でもありますが、応募者が会社をチェックする場でもあります。先行すると同時に、求職者の志望度を高めるアピールも必要です。
4.内定者フォロー
応募者の中から内定者が決定したら、内定承諾を回収して、また、入社までの辞退が生じないようにしっかりとフォローを行います。
5.受け入れ(オンボーディング)
入社後、早く会社に慣れてもらい、活躍してもらうために、受け入れプロセスを実行します。業務についてのレクチャーと同時に、会社という組織に馴染んでもらうための仕掛けが大切です。
採用業務の効率化が重要な理由
採用業務の基本的な流れは上述した通りです。一見するとシンプルにも捉えられるかもしれません。
しかし、例えば、新卒採用であれば、多い企業では1万人以上の母集団、数100~数1000件の選考を並行して実施していくことになります。
また、中途採用においても、採用人数が多くなったり、継続して採用活動を実施したりすると、各プロセスが微妙にズレながら重なってくることになり、非常に煩雑になります。
だからこそ、採用業務の効率化を考える必要が生じてくるわけです。現場にいらっしゃる方にとっては当たり前だと思いますが、なぜ効率化が重要なのか、その理由を確認しておきましょう。
費用や工数の削減
採用活動は、多くの費用を使います。
採用は一種の投資でもありますので、単純をに費用を削ればいいというものではありませんが、コストを削減して同じ結果を出すことができれば収益改善に役立ちます。
また、費用の中で意外と見落とされがちなので、人件費です。ビジネスにおいては、時間や工数は費用そのものです。作業にかける時間や工数が多くなるほど、それだけ費用が生じます。
採用業務を効率化すると、工数や時間の削減ができるため、コスト削減につながります。
採用業務の効率化が実現すれば、採用担当者の労働時間や作業人員も削減できるでしょう。組織における人件費は非常に大きな比率を占める科目です。
業務の効率化を通じて、人件費の生産性向上を実現することは非常に大切です。
採用担当者の負担軽減
多くの会社では、人事部が採用業務を担っています。
人事の業務内容は幅広く、採用業務以外にも、入社・退職の手続き、社員研修、配属や異動に関する業務にも関わっています。会社によっては労務管理を行うところもあるでしょう。
また、組織開発やインナーブランディングなどの業務は目標設定が難しく、納期的な優先度が上がりにくい仕事ですが、組織の生産性を左右する仕事でもあります。
こうした中で採用業務が非効率的だと、本来の必要以上に採用業務に工数を取られてしまい、それ以外の人事業務への取り組みが疎かになる恐れがあります。
また、採用業務の中でも新卒採用は、偏ったシーズンに多くの業務が集中する繁閑期の差が激しい業務です。
新卒採用の繁忙期をきちんと乗り切るためにも、採用業務を効率化することが大切です。
優秀な人材の確保
採用業務が煩雑になってくると、求職者への対応スピードが遅くなったり、抜け漏れが生じたり、対応が雑になったりすることが生じます。
優秀な人材は常に他社との取り合いであり、対応スピードの遅れや対応品質の低下は人材の取り逃がしにつながります。
従って、採用業務を効率化して、スピード対応や採りたい求職者に対して丁寧に対応できる状態をつくることが大切です。
採用業務の効率化における課題
上述の通り、採用業務を効率化することは、コスト削減、採用担当者の負担軽減、優秀な人材の確保などにつながる重要事項です。
一方で、採用業務は通常の事務作業となどと比べて、なかなか効率化が難しい側面もあります。
効率化の具体的な手法に入る前に、採用業務の効率化を難しくする3つの課題を確認しておきます。
社内外のコミュニケーションの頻度が高い
採用業務というのは非常にコミュニケーションが多く発生する業務です。応募者とのやり取りはもちろんですが、他の採用担当者や面接官や役員とのコミュニケーションも多く発生します。
優秀な人材を確保するためにも、応募者とのコミュニケーションは安易に減らせるものではありません。
また、面接官やリクルーター、採用の決裁者等との調整も非常に重要です。コミュニケーションは定量化や自動化が難しい側面も多く、採用の効率化を妨げます。
システム化が難しい業務が多い
先ほど紹介したコミュニケーションもシステム化が難しい業務のひとつですが、採用業務にはシステム化が難しい業務が多い傾向もあります。
採用業務全体でみると繰り返すオペレーショナルな業務が多いのは事実です。一方で、応募者一人ひとりの事情は異なります。
内定後、スムーズに入社を決める人もいれば、入社を迷っているという人もいるでしょう。また、応募者に対する評価や志望度なども踏まえて、ケースバイケースで対応することが多いのも事実です。
また、たとえば、面接日程の調整などはオペレーション業務の筆頭であり、システム化しやすい業務ですが、実際には日程調整の連絡をする過程で、応募者から志望度や活動状況をヒアリングしたり、面接官と情報共有や面接スタンスの調整をしたりしている部分があります。
従って、安易にシステム化だけしてしまうと、コミュニケーションが阻害されてしまい、採用したかった人を取りこぼしてしまうような問題も生じます。これも効率化やシステム化を妨げる要因です。
新しい取り組みや改善活動は工数がかかる
採用業務は人事業務全体の中でも、比較的市場のトレンド変化が生じたり、採用手法が変わったりする分野です。
市場が変化する中で、人材確保を成功させ続けるためには新しい取り組みや改善活動を行う必要があります。
しかし、新たな取り組みは、得てして調整や実行に工数がかかるものです。
当然、社内にノウハウがありませんのでシステム化や自動化することも難しいですし、運用も試行錯誤となり工数が発生します。
従って、自社の採用を進化させる活動に取り組めば取り組むほど、業務の効率化が難しくなります。
採用業務を効率化する6つの方法
採用業務の効率化を妨げる課題を把握したところで、採用業務を効率化する方法について代表的な6つの方法を紹介します。
さほど新規性がある取り組みではありませんが、各方法をきちんと実行することが大切です。
- 採用フローを見直す
- コミュニケーションの一部を自動化する
- 面接を見直す
- オンラインでの選考プロセスを検討する
- ITシステムを導入する
- 採用アウトソーシング(RPO)に依頼する
それぞれのポイントについて詳しく紹介します。
採用フローを見直す
まずは、現在の採用プロセスを見直し、無駄がないか、生産性が低い業務がないかを確認することが大切です。具体的には以下の点を洗い出してください。
- 担当者が長い時間を割いている業務はあるか
- 工数が多すぎると感じる業務はあるか など
1人の社員に負担がかかって無理をしていないか、工数に無駄はないか、業務にムラがないかなどを確認していきましょう。
無駄と思われる部分を探し出したら、何を改善すれば生産性が向上するのか考えましょう。例えば、次のようなところです。
- 採用担当者の担当業務見直し
- 部署内のフォロー体制作り など
業務プロセスの改善と見直しを行う場合は、「ECRS」の法則に則って考えることが有効です。ECRSの法則は業務改善に使われるフレームワークです。
「排除(Eliminate)→結合・分離(Combine)→入れ替えと代替(Rearrange)→簡素化(Simplfy)」の頭文字をとったもので、排除から順番に業務プロセスにあてはめて効率化できないかを考えることが有効です。
コミュニケーションの一部を自動化する
前述の通り、採用業務の中で多くの割合を占めるのが、コミュニケーションに関する業務です。従ってコミュニケーションを一部自動化することで、担当者の負担の軽減が期待できます。
例えば、メールの自動返信や後述する採用管理ツールの機能を利用すれば、以下のような部分を自動化できます。
- 説明会会場の案内
- 選考フローの説明
- 面接日程の調整
さらに、社内で採用担当者間のコミュニケーションツールを見直すと、次のような点の自動化も可能です。
- 採用担当者のスケジュール調整
- スケジュールのリマインド
業務的なコミュニケーションの中で実施していたヒアリングやすり合わせをどのように代替するかの検討は必要ですが、コミュニケーションの一部を自動化すると採用担当者の業務工数を大きく削減できます。
面接プロセスを見直す
業務効率化を考える上では、時には面接プロセスを見直すことも有効です。採用人数が多くなってくると、面接だけで年間数百件~数千件実施することもあるでしょう。
その場合、面接官によって評価基準が異なっていたりすると、どの応募者を通過させるのに時間がかかる恐れもあります。
また、面接基準が曖昧だと、一次面接から二次面接への引継ぎなどがスムーズに進まず、余計な工数やコミュニケーションが発生したりすることもあります。
採用基準をしっかりと定めて、面接官が引き継ぐべき項目をフォーマット化して、面接官の所感回収や面接の引継ぎなどで、無駄な工数が生じないようにすることが大切です。
チェックシートや質問プロセス、面接基準をしっかりと定めておくことは、面接官を属人化させないことにもつながります。
誰が面接を担当しても、ある程度同じ基準、レベルで面接できれば、採用業務の繁忙期を吸収することもしやすくなるでしょう。
オンラインの選考プロセスを検討する
2020年からのコロナ禍で一気に浸透したのがオンライン採用です。
従来の採用活動では、会社説明会、面接などはすべて来社してもらうことが当たり前でしたが、コロナ禍を経て、会社説明会や一次面接はオンラインで実施することが当たり前になりました。
オンラインでの選考には次のようなメリットがあります。
- 紙の資料配布の必要がなく、印刷代がかからない
- 会場手配の必要がなく、外部会場を借りる費用もかからない
- 会場設営などが不要であり、業務工数を削減ができる
- 遠方に住む人材や多忙な人材にもアプローチしやすい
オンラインでの選考プロセスは、職場や仕事のイメージ付けがしにくい傾向はあり、補い方は考える必要があります。
ただ、上記の通り、費用も工数も効率化することが可能です。応募者側も時間や交通費がかからなくなりますので、母集団形成もしやすくなるでしょう。
ITシステムを導入する
採用業務の効率化を考える上では、人の手で行っていた業務をIT化し、採用担当者の負担を軽減することも考えましょう。
ITシステムの代表的なものは、採用管理ツールやWeb面接・録画面接などのツールです。
うまく活用することで、前述した通りコミュニケーションの自動化や業務の効率化につながります。
採用管理ツールもさまざまなものがありますので、自社の採用状況に合ったものを導入することが大切です。
採用アウトソーシング(RPO)に依頼する
採用業務の中でも付加価値が少なく、定型的なものについてはITシステムを活用し自動化できますが、自動化できない部分については採用アウトソーシング(RPO)を利用することも検討できるでしょう。
採用業務の効率化におすすめのITシステム
上述の通り、採用業務を効率化するうえで、定型化された業務をIT化することは効果的です。
ここでは採用活動で主に使われる2つのシステム、ATS(採用管理システム)とWeb面接システムを紹介します。
ATS(採用管理システム)
ATS(採用管理システム)とは、採用業務を一括で管理できるシステムです。提供サービスによって若干の機能差はありますが、ATSを導入すると、以下のようなことが可能になります。
- 応募者情報の一元管理
- 採用媒体などとの自動連係
- 応募者の絞り込みや特定
- 選考状況の管理
- 応募者へのメールやLINE送信
- 面接日程の自動調整
- チャネルごとの効果検証 など
業務を効率化することで、採用担当の負荷が軽減されますし、より少人数などで採用業務を運営することも可能になるでしょう。
応募者情報や選考プロセスの一元管理も可能ですし、採用担当者・面接官同士の情報共有も容易になり、業務の属人化の防止も期待できます。
ただし、導入するシステムによってできることや得意分野は若干異なりますので、導入を検討する際は、自社の採用状況、導入することで何を実現したいかをはっきりさせておく必要があります。
Web面接システム
オンライン選考を実施する際には、Web面接のツールが必須となります。
会社説明会をオンライン化したり、オンラインで面接したりするだけであれば、ZoomなどのWeb会議システムでも問題ありません。
ただし、現在は、応募者管理機能やATSとの連携、録画面接の機能などが充実したオンライン選考に特化したWeb面接サービスも提供されています。
自社の採用人数や面接件数によっては、そういったWeb面接の専用サービスを導入することで効率化できる部分もあるかも知れません。
Web面接システムもツールによってできることが異なりますし、採用管理ツールとの連携なども大切ですので、導入の際は機能や連携サービスをよく確認しましょう。
コスト削減しつつ優秀な人材を確保するコツ
採用業務を効率化できれば、工数やコストの削減をして、また浮いた工数で採りたい人材に対して丁寧なケアをしていくような余裕もできるでしょう。
また、効率化が実現した後は、「時間や工数はかかるが、優秀な人材を安価に見つけられそうな手法」に挑戦していくことも大切です。
時間や工数がかかっても、安価で優秀人材にリーチできる可能性がある採用手法はたとえば以下のようなものです。
- リファラル採用
- ソーシャルリクルーティング(SNS採用)
- オウンドメディアの活用
- アルムナイ採用 など
上記のような採用手法は、無料や低費用で優秀人材にリーチできる可能性を秘めたものです。一方で、確実性がない、効果が出るまでに時間がかかるといったデメリットもあります。
だからこそ、採用業務を効率化することで、上記のような中長期施策に手を付けて、採用活動全体をさらに効果性の高いものにしていくことが大切です。
まとめ
採用活動は、人事業務の中でも多くの費用と工数を投下するものです。また、新卒採用などは繁閑期の差が大きく、繁忙期の忙しさは大きな負荷となります。
また、採用活動が煩雑になってくると、採用したい人物へのケアなどに十分な時間を取れなかったり、ケアの質が落ちたりする場合もあります。
だからこそ、採用業務の効率化に取り組むことが大切です。
採用活動は、社内外とのコミュニケーションが多く、ケースバイケースの対応が求められるため、安易にシステム化しにくいといった側面もあります。
しかし、専用ツールなども各種ありますので、自社の採用プロセスを整理したり、ツールを導入したり、外注(RPO)を検討したりして、ぜひ採用業務の効率化に取り組んでみてください。
効率化してねん出した余裕で、個別のケアや中長期的な取り組みを推進することで、採用活動全体の効果性を高めることができるでしょう。