最近の日本企業では、高度経済成長期を支えてきたメンバーシップ型雇用からジョブ型雇用に移行する事例が増えています。
また、最近では、ジョブ型雇用の導入に関するニュースも増えるようになりました。
本記事では、今までの日本で長く続いてきたメンバーシップ型雇用の概要やメリット・デメリットを確認しながら、ジョブ型雇用との違いを明確にしていきます。
明確にしたうえで、最近相談も増えてきた「メンバーシップ型雇用からジョブ型雇用に転換すべきか?」という質問への考え方、ジョブ型雇用を導入する企業事例を紹介していきましょう。
<目次>
- メンバーシップ型雇用とは?
- メンバーシップ型雇用とジョブ型雇用との違いは?
- メンバーシップ型雇用のメリット
- メンバーシップ型雇用のデメリット
- メンバーシップ型雇用からジョブ型雇用に転換すべきか?
- ジョブ型雇用を導入している企業事例
- まとめ
メンバーシップ型雇用とは?
メンバーシップ型雇用とは、職務や勤務地などを限定せずに雇用契約を結び、従業員側は割り当てられた業務に従事する雇用システムを指します。
もともとメンバーシップ型雇用という言葉は、労働政策研究所長の濱口桂一郎氏が2009年に著書のなかで、後述するジョブ型雇用とともに示した概念です。
メンバーシップ型雇用は、長期雇用(終身雇用)を前提に新卒の一括採用で総合職を採用し、配置転換をしながら経験を積ませる日本特有の雇用システムになっています。
メンバーシップ型雇用は、「仕事(スキルや専門性)」ではなく「人」に賃金を払うシステムであり、勤続年数や年齢で報酬・役職がアップする年功序列制度とつながっているケースも多いです。
こうした特徴から、メンバーシップ型雇用は、「人に仕事を合わせるシステム」と呼ばれることもあります。
メンバーシップ型雇用は、戦後の国内企業で広く採用され、日本の高度経済成長期を長く支え続けてきました。
メンバーシップ型雇用とジョブ型雇用との違いは?
経団連では「採用と大学教育の未来に関する産学協議会・報告書」のなかで、日本のジョブ型雇用を以下のように定義しています。
・「特定のポストに空きが生じた際に該当ポストの職務(ジョブ)・役割を遂行できる能力や資格のある人材を社外から獲得、あるいは社内で公募する雇用形態のこと。」
ジョブ型雇用は、ポストの業務内容などを決めたうえで雇用契約を結ぶ考え方です。おもに下記のような内容をポスト毎に決めるイメージです。
- 仕事内容
- ポスト
- 勤務地
- 労働時間
- 待遇
上記を見ると、「日本において、新卒採用はメンバーシップ型だが、中途採用は従来もジョブ型ではないのか?」と思われる方もいるかもしれません。
しかし、日本の場合、中途採用などでポジションや業務内容が明確になっている場合も、あくまで「初期配属と待遇」が決まっているだけであり、雇用契約自体はメンバーシップ型であるケースが大半です。
一方でジョブ型雇用という場合、たとえば、「神奈川県横浜市にあるシステム部門に勤務するエンジニア」という募集をかけた場合、雇用契約でも上記の勤務地や部門・職種を明確にして契約します。
雇用契約として、勤務地やポストが明確になっている以上、採用後は企業が勤務地・部門・職種などを一方的に変更することはできません。
メンバーシップ型雇用の場合、基本は、新卒一括採用のように勤務地・部門・職種などを限定せずに採用します。
また、中途採用なども上述のとおり、初期ポストは決まっていても雇用契約自体はメンバーシップ型になっているケースが大半です。
たとえば、最初に「横浜市のシステム部門」に配属された人材が、組織の改編や本人の希望・適性などによって、同じ雇用契約で「新宿区の営業部門」に異動になるなどのケースも起こりえるでしょう。
出典:採用と大学教育の未来に関する産学協議会・報告書(経団連)
メンバーシップ型雇用のメリット
メンバーシップ型雇用には、以下のような効果・メリットがあります。
従業員が長く働きやすい
メンバーシップ型雇用は、終身雇用をある種の前提とした考え方です。
メンバーシップ型の場合、組織改編などでたとえ自分が働く支社や部門が廃止になっても、職種・部門・勤務地を変えながら定年まで働けるのが一般的です。
よって、メンバーシップ型雇用は従業員からすると、一つの企業が長く働きやすいメリットがあるわけです。
人材を長期的に育成できる
企業側からすると長く働くことを前提にしているからこそ、じっくり時間をかけて人材育成を行なうことが可能になります。
たとえば、リーダーに不可欠なヒューマンスキルなどを身に付けるには、ある程度の長い期間が必要となります。
期間が必要であれば、新卒の一括採用で多くの大卒を採用すれば、大卒の採用者のなかから素質のある人材を見出し、ジョブローテーションを経て、さまざまな部門やマネジメント経験を積んでもらいながら、時間をかけて幹部候補に育て上げる……といった育成も可能になるでしょう。
勤務場所やポストを企業の都合で変えられる
たとえば、リーマンショックやコロナ禍のような著しい社会や市場環境の変化が起こった場合、企業では、商品Aの製造販売を縮小する、B事業所を閉鎖する……といった対応が必要になってきます。
また、時代や状況変化にともなって、C部門はアウトソーシングする、D職種は従来ほどの人数がいらなくなったといったことも当然起こりえるでしょう。
メンバーシップ型雇用であれば、こうしたときに、B事業所で製造を行なっていた人材をC事業所に異動、商品Aの営業をコールセンター勤務に異動……などの変更を企業都合で行なえます(もちろん本人同意は必要ですが、ジョブ型と比べると企業側の意向を通しやすい、従業員の合意を得やすくなります)。
人事制度を構築・運用しやすい
メンバーシップ型雇用の場合、部門や職種をまたいで評価や異動などを行なうことになり、人事制度も汎用的、給与テーブルなどに関しても一律となります。
一方で、ジョブ型雇用の場合、極端にいえば、ジョブの数だけ人事制度や給与テーブルが必要となってきます。
メンバーシップ型雇用のデメリット
メンバーシップ型雇用には、以下の注意点やデメリットがあります。
採用難易度が上がる
前提として、知識労働の発達にともなって、今までは“総合職”とひとくくりにされてきた職種もどんどん専門分化しつつあります。
さらに、近年では、終身雇用の崩壊にともない、特に若手世代は「企業が自分のキャリアを保証してくれる」とは考えず、転職を前提に「市場に通用するスペシャリスト、プロフェッショナルでありたい」という志向が強まりつつあります。
転職志向が強まった結果、最近では“配属ガチャ”といった言葉もあるとおり、新卒世代でも特に優秀層を中心にメンバーシップ型雇用(本章でのメンバーシップ型雇用は“配属される部門や職種がわからない”状態)を嫌う傾向が生じつつあります。
大卒新卒に関しても、今まで大学進学率の上昇に隠されていた少子化の影響がいよいよ表出してくるなかで、メンバーシップ型雇用が採用のハードルになる側面が出てきました。
ただし、中途採用の場合は、前述のとおり、今までもポジションが特定されて採用活動が実施されることが大半であるため、求職者側から見たときに忌避感は生じにくいです。
ただし、中途採用で採用競争が激しい職種においては、次に紹介する「給与などが市場相場と合わせにくい」という点がメンバーシップ型雇用の採用におけるデメリットになることが多くなっています。
給与などを市場相場と合わせにくい
メンバーシップ型雇用では、全社員が同じ報酬制度、給与テーブル上で評価されることが一般的です。
一方で、組織における仕事が専門分化しているなかで、たとえば、AIエンジニアやデータサイエンティストなど、特に需給バランスが崩れており採用ニーズが高い仕事は、市場原理によって報酬相場がどんどん値上がりしています。
結果として、メンバーシップ型雇用に基づく人事制度では、待遇・給与的に競争が激しい職種を採用しにくくなるケースが増えています。
スペシャリストが育ちにくい
たとえば、高いプログラミング能力を持つ新卒人材がいると仮定します。
ジョブ型雇用であれば、プログラミング能力の高い人材の労働契約は、自分が得意なプログラミング業務だけに従事する形も可能でしょう。
一方で、メンバーシップ型雇用で年功序列の場合、経験や社歴に応じて以下のようなステップアップが求められるようになります。
- 1.プログラミングを行なう「プログラマー」
- 2.システムやプログラムの設計などを行なう「システムエンジニア」
- 3.システム開発チームを率いる「プロジェクトリーダー」
- 4.開発チームをマネジメントする「プロジェクトマネージャー」
メンバーシップ型雇用の場合、プロフェッショナルコースなどはあっても、まだまだマネジメント側にいかないと待遇が上がりづらく、徐々に現場から離れて管理する側になるケースがほとんどです。
よって、上の例のようにプログラミングでスペシャルな才能を持つ人材であったとしても、メンバーシップ型雇用の環境下では、特定のプログラミング技術だけを磨き続けスペシャリストになることは、かなり難しくなります。
メンバーシップ型雇用からジョブ型雇用に転換すべきか?
メンバーシップ型雇用からジョブ型雇用に転換すべきかを考えるうえでポイントになるのが、近年の日本で生じている以下の雇用・採用のトピックです。
- 終身雇用・年功序列制度の崩壊
- 人材の流動化(転職の一般化)
- 少子化による恒常的な人手不足(今から始まる大卒新卒の少子化)
- 働き方や採用方法の多様化
まず、日本のメンバーシップ型雇用を支えてきた三種の神器(終身雇用・年功序列・企業別組合)は、すでにほぼ崩壊済みといえます。
最近では、年功序列制度の完全撤廃を発表する大手企業も増えています。
なお、経団連の調査結果「2020年人事・労務に関するトップ・マネジメント調査結果」によると、35.0%の企業がジョブ型雇用を「導入済み」、48%が「導入を検討中」と答えています。
大手企業が年功序列制度を廃止し始めたということは、給与相場もジョブ型雇用の考え方である職種の市場価値で決まっていく方向になることを意味します。
また、大卒新卒の減少が始まることも相まって、メンバーシップ型雇用では優秀層の採用がどんどん難しくなるでしょう。
また、近年では、終身雇用の崩壊で人材の流動化も進んでいるため、優秀な新卒を獲得できたとしても、定年まで自社で働き続けてもらえるかはわかりません。
以上の流れを踏まえると、日本企業の雇用システムの主流は、徐々にメンバーシップ型雇用からジョブ型雇用に移っていくと考えられます。
ただし、ジョブ型雇用の必要性は、自社の組織構成や必要職種、採用のあり方によっても異なります。よって、いきなりすべてをジョブ型雇用に切り替える必要はありません。
ただ、採用競争の激しい職種や優秀層の確保が必要なのであれば、そうした職種からジョブ型雇用を導入する、また、ジョブ型雇用を取り入れる前段として年功序列の給与制度を廃止して成果主義型に切り替えたり、職種別採用を導入したりすることを検討したほうがよいでしょう。
出典:2020年人事・労務に関するトップ・マネジメント調査結果(経団連)
ジョブ型雇用を導入している企業事例
現在の日本では、ジョブ型雇用を導入する企業は大手が中心です。本章では、大手企業におけるジョブ型雇用の導入事例を3つ紹介しましょう。
富士通株式会社
富士通株式会社のジョブ型雇用では、従業員一人ひとりの職務内容で、期待する責任範囲や貢献を記載した「Job Description(職務記述書)」を作成します。
富士通株式会社では、職務記述書があることで、能力・成果を重視した報酬・昇進が決められるようになりました。
また、新たな人事制度では、より高い職責へのチャレンジを促進するために、富士通グループ共通の「FUJITSU Level」と、グループワイドの求人に従業員が自ら応募できる「ポスティング」の制度を組み合わせるなどの工夫もしています。
なお、富士通株式会社では、2022年度から全従業員の9割にジョブ型雇用を拡大しています。
日立製作所
日立製作所でも、2022年7月に、国内の一般社員の約2万人にジョブ型雇用を拡大しました。今後は、子会社にも拡げる予定です。
日立製作所のジョブ型雇用でも、富士通株式会社と同様に「ジョブディスクリプション(職務記述書)」を作成します。
職務記述書は、上司と部下の1対1面談やチームとの会話でも活用され、現場での人材育成や適材適所の配置につなげる仕組みです。
日立製作所では、各従業員のキャリア形成にも力を入れており、リスキリング(能力再開発)の場を拡充するとともに、社内で活躍したい人材と各部門のマッチングをする社内キャリアエージェントの設置も検討中です。
ジョブ型雇用で優秀な人材を定着させるには、日立製作所のように社内でキャリアアップや新しい仕事に挑戦できる仕組みづくりが大切になります。
KDDI
KDDIのジョブ型雇用では、以下2つの人財育成方針と欧米型ジョブ型の長所を組み合わせた制度設計に挑戦しています。
- KDDIの広範な事業領域を活用した多様な成長機会の提供
- 専門能力に加え、組織を成功に導く「人間力」の高さを評価
KDDIでは、ジョブの定義を可能な限り大きなくくりにすることで、専門能力と総合力の両方を伸ばせる仕組みにしています。また、人間力は、企業理念につながる評価ポイントです。
なお、KDDIの新卒採用では、初期配属の領域を確約する「WILLコース」も設けることで、入社後のミスマッチが生じにくい仕組みづくりにも力を入れています。
まとめ
メンバーシップ型雇用とは、仕事内容や勤務地を限定せずに雇用契約を結び、従業員側は割り当てられた業務に従事する雇用システムのことです。
一方でジョブ型雇用は、特定ポストの仕事内容や勤務地などを決めたうえで雇用契約を結ぶものとなります。
日本における新卒の一括採用などは、メンバーシップ型雇用の典型です。
また、新卒の職種別採用や中途でポジションが確定した採用なども、採用活動はある種のジョブ型となりますが、初期配属や待遇が決まっているだけで雇用契約自体はメンバーシップ型であることが大半です。
メンバーシップ型雇用には、以下のメリット・デメリットがあります。
- 従業員が長く働きやすい
- 人材を長期的に育成できる
- 勤務場所やポストを企業都合で変えられる
- 人事制度を構築・運用しやすい
- 採用におけるハードルとなるケースがある
- 給与などが市場相場と合わせにくい
- スペシャリストが育ちにくい
記事内で紹介したとおり、職種の専門分化や終身雇用の崩壊といった時代背景に着目すると、今後の日本ではジョブ型雇用への移行や導入をする企業が増えていくと考えられます。
また、ジョブ型雇用の導入企業が増加すると、特に人気職種や優秀層の採用に関しては、報酬の市場相場が高くなっていくことも考えられるでしょう。
現状の日本では、ジョブ型雇用を導入する企業はまだ少ない状況ですが、職種の専門分化などの複合的な理由や背景を考えると、ジョブ型雇用への移行を視野に入れて、成果主義の評価制度や職種別採用の導入などは検討を始めたほうが良いかもしれません。
なお、HRドクターを運営する研修会社ジェイックでは、ジョブ型雇用の導入にともなう従業員のキャリア自律促進に役立つキャリア面談サービス「Kakedas」を提供しています。
NTTグループやトヨタグループなどでも導入実績のあるサービスです。
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