経営幹部やCXOなどのハイクラス人材確保の手段として、「ヘッドハンティング」という手法があります。
これまでは主に外資系企業を中心に用いられていた採用手法ですが、近年では日本でも実施する企業が増えつつあります。。
本記事ではヘッドハンティングとはどのような手法かを紹介し、ヘッドハンティング会社の選び方や依頼する際の注意事項などを紹介します。
<目次>
- ヘッドハンティングとは?
- ヘッドハンティングが注目される理由
- ヘッドハンティングを利用するメリット・デメリット
- ヘッドハンティングに向いているポジション、向いていないポジション
- ヘッドハンティングの依頼フロー
- ヘッドハンティング会社の選び方
- ヘッドハンティングを依頼する際の注意事項
- ヘッドハンティングや引き抜きで違法になるケース
- まとめ
ヘッドハンティングとは?
ヘッドハンティングとはどういうものか、まだ広く知られていないところもあります。ヘッドハンティングの概要や人材紹介との違いを解説します。
ヘッドハンティングの意味
ヘッドハンティングは、英語を直訳すると「首狩り」という少々物騒な意味になります。
ここでヘッドというのは、組織のトップや幹部クラスの人材、いわゆる「CxO(Chief x Officer)」と呼ばれる経営幹部、また特定のスキルを持った優秀な人材を指します。
こうしたハイクラスの人材をピンポイントに口説いて自社に引き入れる活動が、“首を狩る”ようだとして、ヘッドハンティングといいます。
ヘッドハンティングは欧米では一般的であり、他社から人材を引き抜いて自社のCXOに据えることは珍しくありません。
ヘッドハンティングの有名な事例として、たとえば、アップルの創業者、スティーブ・ジョブズが、当時ペプシコーラの副社長であったジョン・スカリーを引き抜いたケースがあります。
ジョブズの口説き文句、「あなたは、残りの人生も砂糖水を売ることに費やしたいのか、それとも世界を変えるようなチャンスが欲しいのか?」という言葉は非常に有名です。
ジョン・スカリーは、ヘッドハンティングを受け、後にアップルコンピューターの社長を務めることになりました。
ヘッドハンティングの種類
ヘッドハンティングは、自社の関係先や知り合いなどに声をかけるケースと、ヘッドハンティング会社に依頼するケースがあります。
自社で行えば費用は掛かりませんが、引き抜く会社との関係が悪くなったり、そう都合よく候補者が見当たらなかったりするケースも多いでしょう。
ヘッドハンティング業者に依頼すると、ある程度まとまった費用は掛かりますが、手間がかからず、よけいなリスクもありません。
ヘッドハンティングと人材紹介の違い
ヘッドハンティングと似た業態として、人材紹介業があります。2つの違いはどこにあるでしょう。
基本的にヘッドハンティングが対象としているのは、ハイクラスの人材のみです。
そして、現在、就業中で転職の意思がまだない状態から話をして、依頼先のポジションに移るように交渉・調整をしていくのがヘッドハンティングです。
これに対して、人材紹介は転職を考えている登録者の中から求人企業の条件にマッチする人材を見つけて紹介するサービスです。
扱う人材は第二新卒層などからキャリア層まで幅広くなります。
もちろん上位層の人を支援することもありますが、CXOクラスは自分の人脈等で転職することも多く、人材紹介会社に登録するケースは少ないでしょう。
なお、上記のような一般的な人財紹介を「登録型」、ヘッドハンティングを「サーチ型」とも呼びます。
ヘッドハンティングが注目される理由
これまで日本ではあまり馴染みがなかったヘッドハンティングですが、近年は取り組む日本企業も増えています。その理由を紹介します。
欧米流ビジネススタイルの広まり
前述した通り、転職が当たり前であり、“プロのCXO”というキャリアが成立している欧米では、ヘッドハンティングは一般的な手法です。
しかし、転職も少なく、また、自社で長年経験を積んでいく中で幹部として昇格しているスタイルだった日本企業では、なかなか導入企業が少なかった状態です。
しかし近年、日本でも欧米流のビジネススタイルは広がっていますし、転職も一般的なものとなり、コンサルティング会社や総合商社の出身者などが“プロ経営者”として活躍するケースも増えてきました。
さらに、日本で事業展開する外資系企業がヘッドハンティングで経営幹部を引き入れるケースなども増えた中で、日本企業でもヘッドハンティングを実施するケースは増えつつあります。
人材の流動化が進んでいる
上述の通り、日本で長く続いていた終身雇用は崩壊し、転職が当たり前の社会になりました。
また、年功序列も崩れてきており、年齢にとらわれない人材配置も普通に行われるようになっています。
中途採用も一般的なものとなり、企業に必要な人材を他社から連れてくることに対する抵抗感はなくなってきています。
欧米のようにCxOクラスの人材をヘッドハンティングで中途採用することに対しても拒否感などはなくなりつつあります。
優秀人材の不足とグローバルな獲得競争
転職や中途採用が一般化した中で、一般的な職種では中途採用で人数を確保できるようになってきていますが、本当に優秀な人材、幹部クラスは、やはり転職市場にはなかなか出てきません。
上記のような理由で登録型の人材紹介ではCXOクラスの採用は難しいですし、また、スペシャリスト層の獲得競争などでは待遇等で外資系企業などに負けるケースも増えています。
一方で、知識労働社会となる中で、CXOクラスや専門分野のスペシャリスト人材が経営に与えるインパクトは大きくなっており、優秀人材を獲得する上で、ヘッドハンティングを活用する必要性が増しています。
ヘッドハンティングを利用するメリット・デメリット
ヘッドハンティングを利用するメリット・デメリットを改めて整理しておきます。
メリット① ハイクラスの人材確保
前述の通り、経営の後継者となる人材やCXOクラスの人材はそういません。そして、転職市場に出てくることは少なく、自社に引き入れることは難しいでしょう。
そのような人材を、時間をかけて探し出し、転職意思の有無に関わらずアプローチして口説き落とせることが、ヘッドハンティングを利用する大きなメリットです。
メリット② 社内に不足する人材の確保
CTOやCIOといった専門領域から経営を支えるスペシャリスト人材は、自社で育成するは困難です。
組織拡大やDX推進などに伴って、そういった人材を自社に取り込みたいとなれば、他社から連れてくる意外に手段はありません。
企業経営に関わるようなハイスキルのスペシャル人材は、ヘッドハンティング以外にはなかなか採用が難しいでしょう。
メリット③ 内々に進められる
人材募集する際、求人広告を出せば、従業員や取引先、ライバル会社などに、そのポジションで人材を探していることが知られてしまいます。
経営幹部などの重要なポジションを探していることが知られてしまうと、何か問題が起きているのではないかと、あらぬ疑いを持たれかねません。
ヘッドハンティングでは、人材紹介の非公開求人と同様に、内密に採用活動を進めることができます。
デメリット① 時間がかかる
ヘッドハンティングでは、着手から実際に採用が決まるまで1年かかることも普通です。場合によってはそれ以上になることも頭に入れておいたほうがいいでしょう。
ハイクラス人材や特別なスキルを持った人材は、条件にあった人を探すにも時間がかかる上に、まだ転職を考えていない状態から話をしていくため、どうしても時間がかかっていまいます。そのため、即採用したいという場合には向いていません。
デメリット② 費用がかかる
ヘッドハンティングに依頼すると、成功報酬の他に、着手金やリテイナーフィーと呼ばれる月々の業務のための費用がかかるのが通常です。
登録型の人材紹介だと、採用した人材の理論年収の30%~35%が成功報酬の相場です。
しかし、ヘッドハンティングの場合は、成功報酬が50%を超えることもありますし、上記のようなリテイナーフィーなども含めると、一人の採用に500万円~1000万円程の費用がかかってきます。
ヘッドハンティングに向いているポジション、向いていないポジション
ヘッドハンティングは、全てのポジションに向いているものではありません。どのようなポジションの採用に利用するのがいいのでしょうか。
向いているポジション
転職市場に出てこないようなハイポジションの人材や、特殊なスキル・経験を持った人材の採用にヘッドハンティングは適しています。
こうした人材については、就業中の企業も出ていかれては困るため、強い引き留めがあります。
仮に転職を考えていたとしても、自分の人脈で決まったり、すぐに多方面から声がかかったりするケースが多く、オープンな転職マーケットに出てくる前に話がまとまってしまいます。
希少な人材を採用したいと考えているならば、ヘッドハンティングの活用は有効な手段だと言えます。
向いていないポジション
転職市場に常に一定数いる人材は、ヘッドハンティングには向いていません。通常の求人広告や登録型の人材紹介を使って採用できます。
業界・職種にもよりますが、年収1000万円以下のポジションは、ヘッドハンティングに向いていないでしょう。
前述したように、ヘッドハンティングで採用するには、通常の採用よりも多額の費用がかかります。ポジションに合った採用手段を用いる必要があります。
ヘッドハンティングの依頼フロー
ヘッドハンティングを依頼した場合に、どのようなフローで採用まで進むのかを紹介します。
1.依頼
自社の求める人材確保に向いているヘッドハンティング会社を探します。いくつかの会社と打ち合わせをし、見積もりや提案書を出してもらい比較しましょう。
一般の登録型の人材紹介と比べて、ヘッドハンティングは会社によって料金体系のばらつきも大きいため、事前にしっかりと確認しておきましょう。
2.条件・期間などの設定
ヘッドハンティング会社と、採用までのプランをすり合わせていきます。
求めている人材のスキルや経験、採用する際のポジションや給与などの待遇を細かく設定し、採用までにかかるプロセスや見込まれる期間を確認していきます。
3.候補者探し
ヘッドハンティング会社が持っている情報やネットワーク、その他の様々なルートを使って候補者を探していきます。
見つかった条件に合いそうな候補者とは、実際に会って話をしていきます。
ヘッドハンティングの場合、相手に最初から転職の意思があるケースは殆どないでしょう。この段階でかなりの時間がかかります。
4.候補者との面談
転職に対して前向きな候補者や案件に興味がある候補者が見つかれば、ヘッドハンティング会社が候補者との面談をセットしてくれます。
何度か話をしていきながら、お互いのミスマッチがないよう、仕事の内容や条件だけでなく、候補者が求めるキャリアの在り方、会社が求めている人物像や成果、社内の雰囲気といった細かいところまでお互いの理解を深めていきます。
前述したジョブズのようなドラマチックな口説きはそうありませんが、相手のキャリア希望などを聞きだしながら、自社への合流を口説いていく必要があります。
5.条件交渉、採用オファー
企業側が採用の意向を示し、候補者側の転職の意思が高まった段階で、待遇や条件など細かく打合せをしていきます。
最終的な合意内容は書類にまとめ、採用条件のオファーとして候補者に提示されることになります。
6.内定
お互いに合意に達した時点で、企業から内定を出し、入社に向けて調整を進めていきます。
ヘッドハンティング会社は、入社するまでのフォローや退職手続きのアドバイス等を行います。
ヘッドハンティング会社の選び方
ヘッドハンティング会社に実際に依頼をしたことがある会社は少ないでしょう。もし実際に依頼をする場合、どのように選べばいいかの基本を紹介します。
ヘッドハンティング会社の種類
ヘッドハンティング会社には、ターゲットとなる層の違いによって、3つに分類することができます。自社が求める人材に適した種類の会社を選ぶことが大切です。
①エグゼクティブサーチ型
経営者や経営幹部となるエグゼクティブ層の人材に絞ってターゲットにしている会社です。
ヘッドハンティングが盛んに行われている欧米では、エグゼクティブ人材をターゲットにしたヘッドハンティングが通常のケースです。
外資系ヘッドハンティング会社の多くがこのタイプです。
②フルサーチ型
フルサーチ型とは、職種を定めずミドル層の人材を幅広くターゲットにしているヘッドハンティング会社のタイプです。
特殊なスキルを持った技術職や専門職を対象にしている会社もあります。
③業界特化型
IT業界や医薬業界など、業界に特化して人材のヘッドハンティングを行っている会社のことです。
業界の事情にも通じており、業界内の人脈を持っていることが多いことから、採用までスムーズに進められる可能性があります。
選ぶポイント
ヘッドハンティング会社を選ぶ際には、どういったポイントを見て判断すればいいでしょうか。
①業界・職種のことに精通しているか
ヘッドハンティング会社には、それぞれ得意分野・不得意分野があります。
その会社が業界や職種のことに、どのぐらい精通しているかは一つの判断材料となります。
候補となる人材の良し悪しの判断は、クライアント企業との面談をセットする前にヘッドハンティング会社が行います。
業界や職種についての十分な知識がなければ、見極めは難しいでしょう。
②経験が豊富にあるか
経験豊富なヘッドハンティング会社には、これまでの案件から得た様々な人材情報を保有しています。
また多様な人とのつながりがあるため、紹介を受けることも少なくありません。
依頼案件と似た案件を過去に扱った経験があれば、候補者探しの時間短縮も期待できます。
③交渉スキルがあるか
ヘッドハンティングのターゲットになる人材は、すでにある程度の成果を上げている人物であり、自分の能力にも自信を持っている人たちです。
経営者層などハイクラスの人物であれば、人を見る目もあるので、ヘッドハンターの人間力も問われることになります。
転職の意思がない段階から話を進めるには、相当な交渉スキルが求められます。
ヘッドハンティングを依頼する際の注意事項
ヘッドハンティングを依頼する際にはどのようなことを注意すべきでしょうか。
ターゲットを明確にする
ヘッドハンティング会社に依頼する際には、自社が求める人物像を、できるだけ明確にしておく必要があります。
「人柄」や「リーダーシップ」といった曖昧な条件ではリサーチも難しく、ミスマッチの原因となりかねません。
「スキル」「経験」「実績」といったものを定量的に示すことで、お互いの認識のずれを減らすことができます。
採用までの期間を長くみておく
繰り返しになりますが、ヘッドハンティングは、通常の採用活動とは異なり、リサーチが必要であり転職の意思がまだない候補者と面談を重ねて調整をしていくことから、かなりの時間を要します。
依頼から採用までは、最低でも半年~1年はかかるとみておいたほうがいいでしょう。
案件によっては数年近くかかることもるでしょう。すぐに採用したい場合には向かない手法です。
ヘッドハンティングや引き抜きで違法になるケース
ヘッドハンティングや引き抜きをされた会社側としては、貴重な人材を失うこととなり、大きな痛手です。違法になることはないのでしょうか。
ヘッドハンティングは違法なのか?
欧米流のヘッドハンティングに対して心理的な抵抗を感じ、「もしかしたら違法なのでは…」と思われる方もいるかもしれません。
結論から言うと、労働者には職業選択の自由があり、ヘッドハンティングは合法です。
労働者側に課せられる競業避止義務などは、努力目標に近いものであり、ヘッドハンティング会社も「転職を支援するサービスの提供」といえますので、違法と見なされることはありません。
引き抜きが問題になるケース
ヘッドハンティングは原則合法ではありますが、ケースによっては違法行為と見なされ損害賠償請求の対象となる場合があります。
判断の基準としては、『社会的な相当性を逸脱しているかどうか』ということです。
具体的には、引き抜きを行ったのは誰か、何名を引き抜きしたか、引き抜きの際に虚偽の情報を用いていないか、引き抜きされた会社の損害がどのぐらいか、といったことを総合的に見て判断されます。
まとめ
ヘッドハンティングは欧米では一般的な手法ですが、日本では導入企業は少なかった採用手法です。
しかし、日本でも人材流動性があがり、転職/中途採用が一般的なものとなり、また、“プロ経営者”のキャリア事例なども増えてきた中で、ヘッドハンティングを活用する企業は増えつつあります。
ヘッドハンティングは、採用までの時間も費用も掛かりますが、転職マーケットでは獲得できない経営幹部やハイクラスの人材を採用できる可能性があります。
後継者探しや経営を支えるCTOやCIO、また、研究開発やデザインなどのスペシャリスト人材などを確保したい場合、ヘッドハンティングの活用を検討してみるのも一つかもしれません。