理系学生の就職動向と、理系採用を成功させるポイントを紹介

更新:2023/07/28

作成:2022/11/24

古庄 拓

古庄 拓

株式会社ジェイック執行役員

理系学生の就職動向と、理系採用を成功させるポイントを紹介

新卒採用において、“理系採用”といえば昔から採用が難しいことが知られます。以前は機械・電気・建築・土木などの専攻分野に限定されていましたが、この10年ほどはITエンジニアの採用ニーズが急増したなかで、ITエンジニア採用の候補として理系採用が注目されています。

 

理系学生は論理的思考力が高く、仮説検証の習慣やデータ分析の経験があったりするため、ITエンジニアとしての適性が高いと考えられています。しかし、理系学生はもともと学生数が少ないうえに専攻分野へのこだわりがあるなどの事情で採用は難しいものです。

 

記事では、理系学生の特徴と理系学生の採用難易度が高い理由を数値的な根拠も含めて解説します。理系学生の採用を成功させるポイントも紹介しますので、参考になれば幸いです。

<目次>

理系学生の特徴

研究室でパソコンを使う学生

 

文系の場合、基本的に「人」や「人の活動」にフォーカスして学んだり研修したりすることが多い傾向にあります。一方、理系では「モノ」や「数式」、「自然科学」などを対象にその追求や応用を行なうため、理系分野を学ぶ学生には次の3つの特徴が見られます。

 

専攻分野の知識がある

理系学部・学科の研究は、企業で必要な知識と直結するテーマも多くなります。たとえば、以下のようなテーマは、企業での業務や研究開発と直結するでしょう。

  • 工場における生産管理の効率化
  • 災害に強い構造物のあり方
  • 航空機における空気抵抗の低減

これらの知識や研究過程で身に付けたデータ分析などの専門スキルは、企業に就職したあとも仕事で大いに役立ちます。理系学生は4年間の経験を通じて専門性を持っているため、就活においてはカルチャーフィットとともにスキルフィットも重視される傾向が見られます。

 

数字やロジカルシンキングに強い

理系学生の多くが、研究や実験のデータ分析・集計などで、大量の数字を扱った経験を持ちます。また、数字や実験結果の積み重ねで研究を進めていくことが基本となります。そのため、数字やロジカルシンキングに強く、課題の原因分析や分解・整理が得意です。複雑な課題に対しても冷静に考察できる論理的能力は、理系学生が好まれる大きな理由の一つといえるでしょう。

 

数字やロジカルシンキングは、専門分野やITエンジニアの育成において非常に有効であるのはもちろん、ビジネスシーンで幅広く役立つスキルだといえます。たとえば、財務や経営企画など、日々数字を扱う部門でも重宝されるでしょう。

 

仮説検証のサイクルに慣れている

理系分野では、特定の対象に生じる「なぜ?」についての追求を繰り返す実験・研究を日々行なっています。具体的には以下のステップで問題の原因を深堀りし、解決するための対策を立案します。

  1. 問題を提起する
  2. 仮説を立てる
  3. 検証する
  4. 結果を分析する
  5. 実験のやり方を改善する

理系学生が日常的に実践しているこの行動は、ビジネスでいうPDCAを回しながら論理的な思考力を鍛える訓練になっています。これも前述した数字やロジカルシンキングに加えて、ITエンジニアなどをはじめとする専門技能系の習得・実務に向いている特徴といえるでしょう。

企業にとって理系学生の採用難易度が高い理由

こめかみを押さえる女性

 

理系学生の需要が高まる一方、中小企業では理系学生の獲得が厳しい状況が続いています。その背景となっている3つの事情を紹介します。

 

理系学生数の絶対数と減少

そもそも理系の学部生は、文系と比べて卒業後に就職する人が少なめです。このことは、平成29年度学校基本調査の以下のグラフの水色部分(大学院進学率)を見ても、明らかです。理系学部の学生の進学率は理学で42.7%、工学で37.1%と文系の学部と比べて圧倒的に高くなっています。

 

結果として、文系学部では就職率(正規の職員等への就職)はおおむね7~8割程度であるのに対し、理学や工学などの理系の分野では5割前後にとどまります。

 

分野別卒業者の進路状況

出典:平成29年度学校基本調査

 

また、絶対的な人数としても文部科学省による「理工系人材育成戦略」によると、理系学生は、平成11年度をピークに減少し続けています。また内閣府による令和4年の「総合科学技術・イノベーション会議」の素案でも理系学生の減少が指摘されています。

 

義務教育終了段階では比較的高い理数リテラシーを持つ子どもが約4割いるにも関わらず、高校段階では文理別コースを選択するシステムなどから理系学生は約2割まで半減します。そして、大学入学時には入学定員とも関連して約1割までとさらに半減します。

 

このように理系学生はそもそも学生数の1割程度しかいないうえに絶対数も減少している状況です。一方で、ITエンジニアの採用ニーズなどに伴って理系人材への需要は高まっており、今後ますます採用難易度が高くなっていくと予想されます。

 

出典:Society 5.0の実現に向けた 教育・人材育成に関する政策パッケージ(素案)(内閣府 総合科学技術・イノベーション会議)

 

大手との競争

テックオーシャンによる調査結果では、23年卒の理系学部生・大学院生の4分の3が大手志向であることがわかっています。就職先を決めるうえで重視する点は「安定性」が最も多く約70%が選択しています。

 

出典:理系学生の就活 23卒は4分の3が大手志向 =テックオーシャン調べ=

 

昨今の就活市場が売り手市場になっていることに加えて、給与や福利厚生などの待遇も大手のほうが好条件であることが多くなっています。加えて、理系の場合には、研究・開発を行なう環境や取り組み分野の先進度といった点でも大手が有利になる傾向があります。

 

さらにメジャーな学科では、毎年大手から学科推薦の求人が来る流れができている場合も多いでしょう。たとえば、機械学科に大手自動車メーカーから求人が来るようなケースです。このような環境では、学生が「OB・OGや仲の良い先輩と同じように自分も大手に就職したい」と思うのも無理はありません。

 

就職活動に充てられる時間の少なさ

理系の学生は、文系学生ほど就活に時間を割かないという理由もあります。理系の場合は、研究や実験を伴う必修授業が多く、それに加えて卒業論文の負荷も文系よりも大きくなります。

 

さらに理系学生の場合、卒業論文の進行なども実験を伴ったり、機材を使ったりすることが多く、大学のキャンパス、研究室でないと出来ないことが多くなります。結果的に、文系学生ほど就活に時間を割けないため、就職活動は短期決戦になりやすく、活動量も少ない傾向にあります。

 

また、理系学生の場合、企業の専門職と学部の研究とのマッチングによる学部・学科推薦が多いのも事実です。偏差値の高い大学のメジャーな学科では、学科推薦の求人が殺到しているケースも珍しくありません。そのため、文系の学生と比べて就活に焦っていない学生や教授も多い実情があります。

理系学生の採用を成功させるポイント

説明したとおり、理系学生は希少価値が高く、就活を行なう時間も短いため、企業からすると採用が難しくなっています。特に、中小企業は大手との厳しい競争にも勝たなくてはなりません。本章では、理系学生の採用を成功させるための4つのポイントを紹介します。

 

大学や教授との連携を強化する

優秀な理系学生を採用するには、大学や教授との関係構築も肝心です。理系の場合、かつてほどではないものの、教授推薦に近いような形で、研究室とのつながりで採用が決まるケースもまだ多く存在します。

 

たとえば、同じ研究室の先輩や就職した企業や教授が関わりを持っている先から内定をもらうケースなどです。規模は小さくても優良な企業、将来的に発展する可能性が高い企業で、さらに信頼する教授が認めている企業となれば関心を持つ学生もいるでしょう。教授推薦の場合は簡易面接、あるいは面接なしで内定を出す企業もなかにはあります。

 

就活の負担を減らせるのは学業に忙しい学生にとっても大きなメリットであり、Win-Winの関係も目指せます。理系の場合、学科の区切りが細かく、学科単位で就職支援担当の教員がいることも多くなります。対象が限られているからこそ、こうした教授、教員との関係を作っていくことも理系採用を成功させるひとつのポイントです。

 

理系採用に強い採用サービスを利用する

理系人材は理系に特化した採用サービスを使って就職活動をすることも多くあります。ただし、採用サービスもさまざまであり、中小企業は自社に適した採用サービスを選ぶことが大切です。

 

たとえば、企業が求人広告を出稿して「待つ」タイプの求人媒体では、ネームバリューや予算の大きさが有利不利を決める部分もあります。結果的に大手のほうが中堅・中小企業より有利になりやすいでしょう。

 

中堅・中小企業が優秀な理系学生を採用するには、「攻め」の採用手法である新卒ダイレクトリクルーティングや、理系学生の登録が多い新卒紹介サービスを利用するのも手です。

 

ダイレクトリクルーティングは企業が直接求職者にアプローチする採用手法であり、中途採用では転職潜在層にも働きかけられます。自社の仕事環境や事業内容の面白さをしっかりアピールすることで、知名度のなさなどをひっくり返して採用を募ることも出来るでしょう。

 

理系学生のニーズに合致した訴求を行なう

理系採用を実施するうえでは理系学生のニーズを理解して訴求することも大切です。理系学生は一般的に自分の専攻分野へのこだわりが強いものです。

 

たとえば、HR総研(ProFuture株式会社)とLabBase(株式会社POL)による調査結果によると、4分の3の理系大学院生が「仕事内容に自身の専門性活用は重要」と回答しています。そのため、理系学生向けにスカウトメッセージや求人広告をつくるなら、大学生に「この企業(プロジェクト)なら自分のスキルを活かせる!」と思わせる工夫が欠かせません。

 

専攻分野が直接一致することは難しいかもしれませんが、専攻分野を学ぶ中で培ったものが、自社でどう生かせるかを訴求しましょう。

 

出典:HR総研×LabBase:2022年修了理系院生の就職活動動向調査(1月)結果報告

 

相対的に求人倍率が低い専攻分野を狙う

理系学生の中でも冒頭に述べたとおり、機械、電気、建設、土木といった分野は昔から採用競争が非常に激しい分野です。また、この10年ほどITエンジニアの採用ニーズに伴って、情報分野も採用が難しくなっています。

 

一方で、自然科学や理学、数学などの分野は理系のなかでは相対的に求人倍率が低い分野です。自社で必要な専攻分野の知識を持った人を採用したいというニーズもありますが、一方で、たとえば学部の4年間で培った知識は、フルタイムで仕事する中で学んでもらえば1,2年でキャッチアップできる部分もあるでしょう。

 

選考分野が異なっていても、前述したとおり、ロジカルシンキングや仮説検証、データに基づく思考スタイルなどは十分に生かせるものです。競争が激しい分野にこだわり過ぎて採用できない結果になるよりは、相対的に求人倍率が低い専攻分野を狙うこともひとつのポイントです。

まとめ

昔から機械、電気、建設、土木といった分野を専攻する理系学生の採用競争は非常に激しい分野でした。また、最近はITエンジニアの採用ニーズが高まる中で、ロジカルシンキングや仮説検証サイクル、数字やデータに基づく思考が得意な理系学生全般の採用競争が激しくなっています。

 

ただ、理系学生はそもそも絶対数が少なく、大手に対して知名度や規模で劣る中小企業では採用が難しい側面があります。中堅・中小企業が理系学生の採用を成功させるには、本記事で紹介した以下の4つのポイントを意識することが大切です。

  1. 大学や教授との連携を強化する
  2. 理系採用に強い採用サービスを利用する
  3. 理系学生のニーズに合致した訴求を行なう
  4. 相対的に求人倍率が低い専攻分野を狙う

理系に特化した求人媒体やダイレクトリクルーティングなども登場しています。自社に適したサービスを選び、理系採用を成功させてください。

著者情報

古庄 拓

株式会社ジェイック執行役員

古庄 拓

WEB業界・経営コンサルティング業界の採用支援からキャリアを開始。その後、マーケティング、自社採用、経営企画、社員研修の商品企画、採用後のオンボーディング支援、大学キャリアセンターとの連携、リーダー研修事業、新卒採用事業など、複数のサービスや事業の立上げを担当し、現在に至る。専門は新卒および中途採用、マーケティング、学習理論

著書、登壇セミナー

・Inside Sales Conference「オンライン時代に売上を伸ばす。新規開拓を加速する体制づくり」など

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