マーケティングにおいて、自社商品やサービスの立ち位置を見極めるために使われる「3C分析」は、採用活動においても非常に有効です。最近は、採用マーケティングとして、マーケティングの手法やノウハウを、採用活動に取り入れて、採用活動をパワーアップさせることが増えています。その中でも、3C分析はペルソナ設定等と並んで取り入れやすい手法です。
採用活動において、3C分析を導入すると、自社の立ち位置を整理することが容易になり、採用コンセプトや採用競合との差別化等の打ち手が見えやすくなります。また、個別の候補者を口説くうえでも3C分析は有効です。記事では、採用に使える「3C分析」の基本と実践的な活用法を分かりやすく解説します。まだ取り組んでいないようであれば、ぜひ参考にしてください。
<目次>
- 3C分析とは
- 3C分析を取り入れた採用マーケティングの基礎
- 3C分析は採用市場の分類とターゲット設定から始める
- ターゲットの視点で、採用競合をリストアップ
- ターゲットの視点で自社の位置づけと強みを考える
- 3C分析のゴールは、採用ブランディング
- 3C分析を成功させるために重要な「リサーチ力」
- まとめ
3C分析とは
まずは、3C分析の基本を確認しておきましょう。
3C分析の概要
3C分析とは、3つのC
- 市場、顧客(Customer)
- 競合(Competitor)
- 自社(Company)
に関して分析をするためのマーケティングフレームワークです。
自社や自社商品・サービスの立ち位置を把握して、どのような顧客をターゲットにしていくのか、自社の商品・サービスブランドをどんな方向にするのか、競合とどう差別化するのか等を考えるために用いられます。
それぞれの分析について具体的に説明すると、以下のようになります。
市場や顧客のニーズを分析し、セグメンテーション(市場細分化)とターゲティングをおこないます。つまり、ニーズや属性に基づいて市場を細分化して、その中でどこを顧客;自社のターゲットにするのかを決める、ということです。
顧客を獲りあう競合の分析です。ここで大事なのは、「自社から見た競合」ではなく、「顧客から見た競合」を分析するということです。これは3C分析における非常に重要なポイントです。あくまで、市場、顧客が中心であり、それを軸に競合と自社を見ていきます。
競合分析では、他社や他社製品・サービスが、市場のニーズに対してどのように対応しているのか、顧客からはどのように見えているのかを分析します。自社とのポジショニングの違いを明確にしたり、また、マネすべきポイントを見出したりすることができるでしょう。
「顧客から見た自社」を分析します。競合分析と同じく、顧客視点で自社のポジショニングや現状を洗い出します。そのうえで、競合のポジショニングや市場のセグメント等とも見比べながら、自社が取るべきポジショニングや顧客へのブランディング等を検討していきます。
3C分析が用いられる場面
3C分析は、「企業戦略」「チーム」「製品」等、さまざまな単位に有効活用できるため、とても使い勝手が良いフレームワークです。例えば、商品やサービスの開発や新規参入を検討するとき、プロモーションの方向性を検討するとき、営業戦略を考えるとき、また、既存事業の方向性を考えるとき等、使える場面はさまざまです。
ただ、全体としては、「自社の置かれた状況を、市場、顧客との関係性の中で整理して、方向性や計画を考える場面」に有効であると言えます。
採用活動に3C分析を使用するメリット
3C分析を採用活動に導入するメリットは、大きく分けて2つあります。
最初のメリットは、3C分析は、非常にシンプルなフレームワークであるため、外部の力を借りなくても、社内の採用担当者だけで導入することができるという点です。これは、「とりあえず試してみる」うえでは、非常に重要です。
そして、2つめのメリットとして、うまく活用することで、採用活動全体の生産性や効果性を高めることができるという点です。3C分析をうまく用いれば、アウトソーシングやツール、外部のコンサルタント等にコストや時間をかけずに、欲しい人材を獲得できる可能性があるのです。
3C分析を取り入れた採用マーケティングの基礎
上述の通り、3C分析は採用の分野においても有効です。しかし、「採用の場面にマーケティング手法を取り入れる」ということに、馴染みがない方も多いかもしれません。まずは、採用活動に3C分析のようなマーケティング手法を取り入れる「採用マーケティング」の意義を確認しておきます。
採用マーケティングが注目される背景
大前提として、少子化による労働人口の減少は確実に進行しています。それに加えて、事業の「サービス化」「IT化」が進む中で、企業が求めている人材はますます「自立型」となりつつあります。
事業の「サービス化」に伴って、一人ひとりの社員が、顧客に向き合って自らサービスを生み出す状態になりつつあり、その中で、自分で考えて決めていける自立型人材のニーズが増加しています。また、「IT化」により、優秀な人材1人の存在で事業が大きく変わる時代になっています。
少子化によって絶対的な人数が減る中で、ニーズは自立型人材や優秀層へと偏っています。結果的に、採用市場は売り手市場となって競争が激化し、「欲しい人材がなかなか獲得できない」と悩む企業が数多く出てきます。
リーマンショック後に上がり続けてきた新卒求人倍率は、コロナ禍により一時的に下落します。しかし、同じタイミングで、大卒新卒の少子化もついに始まり、中長期的には採用市場の競争激化は変わらない傾向でしょう。
こうした状況の中、以前にも増して効果的な採用活動が求められているわけです。自社のターゲットを明確に定義して、ターゲット人材に対してリーチする、そして、自社の魅力を訴求していく必要があります。
そこで注目されているのが、市場や顧客を分析して、商品・サービスを開発、顧客に届けていくマーケティング活動の手法です。マーケティング分野は、事業活動の根幹ですので、1世紀以上にわたって膨大なコストが投下され、成功を収めるための研究や検収も進んでいます。
それらの実証されてきたマーケティングノウハウやフレームワークを、採用活動に取り入れることで、採用活動を進化させるのが採用マーケティングの考え方です。
3C分析は採用における自社の立ち位置を把握するために効果的
採用マーケティングに取り入られるマーケティングのノウハウやツールは、3C分析やペルソナ設定、ダイレクトレスポンスマーケティングから、SFAやMA、CXまで、さまざまなものがあります。その中でも3C分析は最も基礎的で、汎用性が高いものと言えるでしょう。
まず、3C分析は、採用市場における自社の立ち位置を整理することに役立ちます。自社がどのようなポジションにいるのか把握することで、どのような採用コンセプトを打ち出して、競合との差別化を図っていくのか、どんなメッセージを強化すべきなのかも見えてくるでしょう。ペルソナ設定と組み合わせることで、求職者向けのプロモーション設計も明確になります。
また、応用編としては、特定の候補者に対して、3C分析のフレームワークを用いることで、候補者の状況を整理して、“口説き方”のシナリオを設計することにも役立ちます。記事では、自社の立ち位置整理を目的とした3C分析について、詳しく解説していきましょう。
“口説き方”のシナリオを設計するための3C分析にご興味あれば、下記の資料を併せてご覧ください。
関連ノウハウ資料を
ダウンロードする
『苦労して母集団を集め、内定を出しても、なかなか承諾してくれない』『内定辞退の連発で、これまでのコストや工数を考えると、しんどい…』という悩みを解消できる!累計約1,000社の採用支援に携わってきたジェイックのシニアマネージャーが、【 どう...
3C分析は採用市場の分類とターゲット設定から始める
ここからは、採用活動に3C分析を取り入れて、自社の立ち位置を整理する方法を説明します。最初におこなうのは、市場、顧客(Customer)の分析。つまり、採用市場の分類と、ターゲットとなる人物像の設定です。
採用市場の分類方法
採用活動では、母集団の形成が非常に重要になります。そして、母集団形成の下準備として不可欠なのが市場の分類、セグメンテーションです。
採用市場には、さまざまな特性やニーズを持つ求職者が集まっています。そのような不特定多数の求職者たちを、共通する特性やニーズに着目して分類し、自社のターゲットとなる集団を明確化します。
新卒採用であれば、どのようなキャリア観を持ってどんな企業群に応募するかという志向性の軸でのセグメントが分かりやすいでしょう。それに加えて、就職エリアに関する考え方、学歴や地頭、情報感度等もあるかもしれません。体育会系等の特定のセグメントを好む会社も多いでしょう。
中途採用であれば、転職市場全体を考えると広範囲過ぎますから、採用したいポジションを念頭に置いたうえで、顕在/潜在層、ポジションに対する経験値や能力レベル、転職理由等の軸で考えてみると良いでしょう。
ターゲット設定の方法
そもそもターゲットが曖昧な場合は、自社の立ち位置や経営戦略に基づいて、どのようなスキルや性格を持った人材を採りたいのかを言語化しましょう。ターゲットの幅がある程度広いようであれば、ターゲットに入ってこない属性を考えるアプローチも役に立つかもしれません。
「欲しい」要件だけでなく、「自社に興味を持ってもらえる」「採用できる」人材かどうかも念頭には置いたほうが良いでしょう。「採りたい人物に如何にアプローチして、口説き落とすか」が採用活動であるとも言えますので、この段階であまりターゲットを制限する必要はないでしょう。ただし、難易度が高い層を採用したいのであれば、それだけ本気で取り組み、費用や工数等のリソースを投下する覚悟は必要です。
ターゲットの視点で、採用競合をリストアップ
続いて、競合(Competitor)の分析です。採用マーケティングにおける「競合」は、同業他社だけではありません。求職者が応募の際に自社と比較検討する企業です。同業他社がほぼ入ってくると思いますが、業界を超えて入ってくることが多いでしょう。過去の応募者が併願していた企業等をリストアップして、分析していきましょう。
ターゲット視点を持つ方法は「ペルソナ設定」をすること
ターゲット視点で分析を深める際には、市場、顧客分析をもう一段深めて、「ペルソナ設定」をおこなうことも有効です。ペルソナとはマーケティング領域でよく使われている概念で、ターゲットとなる顧客像を具体化したものです。
年齢や属性、能力やキャリアといった情報だけでなく、ライフスタイルや価値観といった人物像や、どんなコミュニティに所属したり、どんな就職/転職活動をおこなったりするのかといった行動傾向まで考えて、「1人の人物」としての顧客像を明確にしていきます。
ペルソナを設定することで。ターゲットから見た競合や自社の見え方を考えやすくなることはもちろん、どのような採用コンセプトを設定して、求人広告等でどんなメッセージを発信するかも考えやすくなります。
ペルソナ設定に関しては、以下の記事でも詳しく解説しています。
ペルソナ設定後は、関係者で情報共有する
上述のペルソナ設定は、経営陣や現場メンバーも巻き込んでおこなうことが望ましいです。ワークショップ等を実施することが有効でしょう。また、採用計画を進める中では、面接官はもちろん、求人広告代理店やアウトソース先等、プロジェクトの関係者間で共有しておきましょう。それにより、認識やメッセージ、採用基準のズレが生じにくくなります。
採用競合の分析
応募者の併願先等から採用競合をピックアップしたら、分析に入ります。このピックアップと分析は前述の通り、過去の応募者情報を基におこなうことが一番簡単です。
新卒採用であれば、内定者に対して併願した企業名や各企業の印象をアンケートで回答してもらっても良いでしょう。また、HRドクターを運営するジェイックの新卒採用では、選考途中のアンケートや面接で、必ず併願先の情報や印象をヒアリングしてデータベースに反映しています。
採用競合の把握は、個別の候補者を口説くうえでも重要ですが、「自社がどんな属性の会社として見られているのか」を把握して、採用力を向上させていくうえでも重要です。
採用競合のリストアップが終わったら、とくに重視したい5~7社程度は、しっかりと求人媒体の原稿、採用ホームページやSNS等をチェックして、ターゲット目線で「どのような印象を受けるか」「どんな魅力を打ち出しているか」「どんなキーワードを多用しているか」を分析しましょう。
分析する対象となる企業は、
- 採用競合としてバッティングすることが多い一番の競合先
- 採用競合としてバッティングすることが多いが、採用ターゲットが少し違う
- バッティング頻度は高くないが、ここに応募する学生に自社にも応募して欲しい(採用競合にしたい先)
といった区分で考えてみると良いでしょう。
なお、新卒採用では、競合分析は採用期間中も定期的におこなって、「採用競合がおこなっているイベントと訴求内容」だけはチェックしておきましょう。この情報を蓄積するだけでも、翌年度の採用計画を考える際にとても参考になります。
ターゲットの視点で自社の位置づけと強みを考える
先ほどおこなった競合分析と同じように、ターゲット目線で自社(Company)を分析します。ターゲットから見た自社の位置づけと強みをチェックしましょう。
ターゲット視点での自社分析
採用競合でおこなったのと同じように、自社の求人原稿、採用HP等を確認しましょう。業界や規模、採用職種等が分かりやすいところですが、同時に採用メッセージや求人原稿、説明会で多用しているキーワード、描けるキャリアイメージ、待遇面等も確認しておきましょう。
競合分析、とくに重点の5~7社でおこなったのと同じ項目で分析しておくことで次ステップでの比較がやりやすくなります。注意して進めてください。
自社分析は採用チーム内でも実施できますが、場合によっては3C分析に馴染みがあるマーケティング部門や内定者等の力を借りても良いでしょう。採用チームだけでおこなうと、どうしても“見慣れ過ぎている”“愛着がある”ため、新鮮な視点で情報を見ることが難しい側面があるからです。
自社と競合の比較
次に、自社と競合を比較していきます。まずは、採用メッセージや打ち出しているキーワードに注目していきましょう。応募者に「どんな印象の企業として認識されるか/されたいと考えているか」が採用メッセージやキーワードに現れてきます。競合他社のものと比較して自社がどう見えるか、どんな位置づけになりそうかを考察していきましょう。
また、採用HPのコンテンツや実施しているイベント情報等も確認しましょう。自社だけがおこなっていることや、他社がおこなっていて自社がおこなっていないことをチェックしましょう。ここでも、ターゲットからの見え方を重視してください。「実際に行っているか/いないか」よりも、「ターゲットから見て違うか」が大切です。
例えば、同じような内容のイベントをおこなっていても、競合他社のイベント情報のほうが魅力的に映っていれば、自社イベントの切り口や訴求を変える必要もあるかもしれません。
比較は、複数の切り口でおこなうのが大切です。多様な角度から自社の立ち位置を把握することで、自社の強みを再発見しましょう。ある切り口から見れば他社にかなわなくても、別の切り口では優位に立てる場合もあるでしょう。
3C分析のゴールは、採用ブランディング
3C分析は、「分析して終わり」というわけではありません。3C分析の目的は、最終的には採用ブランディングをおこなうための立ち位置の整理です。
採用ブランディングとは
採用ブランディングとは、言葉の通り、採用市場において自社をブランド化することです。ブランドとは、「○○と言えばHRドクター」「HRドクターと言えば○○」といったように商品・サービスとイメージが紐づいた状態です。
3C分析を通じて、採用コンセプトを考える中では、「自社の魅力として最も打ち出すべきものは何か」を見出すことが重要です。そして、どう表現するか、採用HPや求人原稿、説明会、面接等を通じてどう伝えるかを落とし込んでいきます。
3C分析と採用ブランディング
3C分析がどのように採用ブランディングにつながるのでしょうか?3C分析による効果は、主に以下の3つです。
- 市場における自社の現状が明らかになる
- 競合と比較して、自社の魅力やビジョンを見出すヒントが得られる
- ターゲットに対するメッセージの伝え方のヒントが得られる
市場、顧客分析、競合分析、自社分析で、まず市場(顧客と競合を含めた採用市場)における自社の立ち位置、見え方が明確になります。そのうえで、ターゲットのニーズ、競合の訴求を併せて見ていくことで、自社独自の魅力ポイントを見出すヒントが得られます。
また、顧客分析をペルソナ設定まで深めていくと、ターゲットの価値観等が分かりますので、自社の魅力をどのように伝えると効果的なのか見えてくるでしょう。
3C分析を成功させるために重要な「リサーチ力」
3C分析を成功させるためには、正しく情報を集めることが重要です。最後に、3C分析のためのリサーチ方法のヒントをお伝えします。
採用競合の募集要項をチェック
3C分析で採用を成功に導くためには、競合他社の分析は非常に重要です。どのような学生に向けて、どんな採用コンセプトで訴求したり、どんなキーワードを使っていたりするか、またどんなイベントをおこなっているかを知ることが大切です。
そのためには、採用競合の採用HP、求人媒体の原稿、イベント情報等は必ずチェックしましょう。内容だけでなく、デザインや文章のトーンも意識してみましょう。
採用競合の存在は意識していても、採用競合の採用HPや求人原稿をチェックしている方は意外と多くありません。ぜひ実施してみてください。
求職者に対して志望企業に関するアンケートを実施
どのような企業が競合となるかを知るためには、求職者が実際にどのような企業と自社を比較検討しているのかを知ることが最も正確です。これは、すでに接点のある求職者に対してアンケート調査を実施するのも有効な手段です。
HRドクターを運営するジェイックでは、新卒採用では、説明会・一次選考ではアンケート形式、それ以降は口頭で必ず採用競合を確認してデータに残しています。
情報が蓄積されてくると、
- 説明会の段階では併願しているが、選考が進んでいくとあまりバッティングしない会社
- 数年間のトレンドで、自社の採用力や採用メッセージの浸透度を測る
といったことも見えてきます。
まとめ
3C分析を採用に活用すれば、採用市場、ターゲット人材に対する自社の立ち位置が明確になります。採用競合と違い、自社独自の強みが分かると同時に、ターゲットへの訴求方法もはっきりと見えてくるでしょう。
マーケティングでおこなわれる3C分析、市場と顧客(Customer)、競合(Competitor)、自社(Company)は、採用マーケティングの一環として、採用活動に取り入れると非常に有効です。ぜひターゲット人材の採用に、3C分析を活用してみてださい。