【採用戦略の立て方】人事が押さえるべきポイントと作成の流れ

更新:2023/07/28

作成:2020/03/31

古庄 拓

古庄 拓

株式会社ジェイック執行役員

【採用戦略の立て方】人事が押さえるべきポイントと作成の流れ

企業の採用活動は、限られたリソースの中でいかに自社に必要な人材を確保するのが鍵となります。

 

また、中長期的に採用を成功させるためには、場当たり的なアプローチではなく、一貫した方針を掲げて、施策のPDCAを動かしていくことが求められます。本記事では、採用における戦略の重要性を明らかにし、採用戦略を立案する際の方法やポイントを解説します。

<目次>

採用戦略を立てるうえで人事が押さえるべき基本的なポイント

採用戦略とは自社が必要とする人材をより効果的に採用する、つまり、「誰をどのように採るか?」の大方針です。採用に関する個々の具体的な施策(戦術)の上位に位置するものといえます。

 

企業にとって事業の拡大や他社との競争の中で、必要な人材をタイムリーに確保していくことは経営上の重要テーマです。しかし、「採用」がコストセンターであることも事実であり、企業が割くことの出来るリソース、コスト・工数は限られます。その中で「採用の効果性を高める」ために必要なものが戦略です。一貫性を持たず場当たり的に施策を打っていくだけでは、中長期的な生産性は上がりません。

 

採用市場と自社の立ち位置(採用力)を客観的に把握したうえで、自社の持つリソースを、勝てるところに投資するのが採用戦略です。採用は常に他社との競争です。“自社で採りたい人材”は“他社でも採りたい人材”です。その中で「いかにして勝つか」、大方針を持つことが重要です。採用戦略を立てるうえでは、以下の2点を押さえておく必要があります。

事業戦略、人事戦略と一貫性を持たせる

採用戦略を立てるうえでまず重要になるのは「誰を採るか?」です。事業戦略に紐づいて考える必要があります。考える際に認識しておく必要があるのは、自社の事業モデルと成長ステージです。

 

例えば、「GoogleのようなWebサービスの初期段階」であれば、必要なのは「優秀なエンジニアやプロダクトデザイナー」でしょう。エンジニアはミドルレベルとハイパフォーマーで、生産性に雲泥の差が生まれます。従って、採用戦略を考えるにあたっては「いかにして超優秀なエンジニアを見つけて口説くか」という課題設定から始まるかもしれません。

 

一方で、「Web広告代理店の成長期」であれば、「市場を一気に攻めるために多くの営業職を採り切ること」が必要かもしれません。すると採用戦略で重視されるべきは「新しいものに興味を持つ感度の高い営業人材を大量に、かつ短期間で確保すること」になるでしょう。一方で、同じweb広告代理店でも「少数の大手クライアントを入り込む」事業展開であれば、採用の方向性は「同業他社からの引き抜き」かもしれません。

 

同じように「店舗/拠点展開型のビジネスにおける拡張期」であれば、ビジネスモデルが整った中で「人とプロセスをマネジメントできる拠点長候補」と「マーケティングや品質管理のプロ」の採用が事業成長のキーと位置づけられるかもしれません。

 

このように、事業モデルや成長ステージ、事業戦略に応じて、採るべき人材像は変わります。今後3~5年程度の時間軸で、自社の事業戦略がどうなっているか、戦略に応じてどんな人材を採用する必要があるかを考えることが採用戦略のスタート地点です。

 

同時に、採用戦略は「採用した人材をどのように処遇、育成、配置するか?」という人事戦略とセットになるものです。採用したいターゲットに応じた人事戦略が準備・実行されなければ、採用活動の難易度が増しますし、採用後の定着率・活躍にも影響が出てしまいます。

 

例えば「野心ある若手・第二新卒採用を採りたい」のに、「人事制度・評価制度は年功序列」では採用が難しく、仮に工夫して採用しても定着しないというのは容易に想像できます。従って、事業戦略から落とし込まれた「誰を採るか?」に応じて、採用戦略と人事戦略に一貫性を持たせる必要があります。

自社のミッション、ビジョン、バリューを採用戦略へ落とし込む

採用活動は常に他社との競争です。その中で「勝つ」、つまり「求職者」から選ばれるうえでは、差別化が重要です。採用活動における商品・サービスとは、「自社」そのものであったり、「自社で働く経験、得られるキャリア」であったりします。

 

自社の魅力が何か、自社で働くとどんな経験、キャリアが得られるのか。採用計画の中で、「この職種ではAというやりがいがある」「Bという経験を積んで市場価値を高められる」といった細かく落とし込むことも重要です。しかし、自社の魅力を考えるうえで一番重要であり、上位に来るのは、「我々はどんな組織として何をするのか?」です。この問いは2つのパーツに分けられます。

 

1つは「我々は何をするのか」、つまり「我々はどんな価値を生み出すのか?」です。「この会社は何のために存在するのか?」「我々はどんな社会を生み出すのか?」「我々は誰に対してどんな価値を提供するのか?」といった、「会社が社外に向けて生み出すものは何か」という問いです。

 

そして、もう1つは「どんな組織として」、つまり「我々は何を大切にするのか?」です。「我々はどんな価値観を持った組織なのか?」「組織において犯してはならないタブーは何か?」「組織の仲間として絶対に守って欲しいことは何か?」などの“うちの会社らしさ”とは何かという問いです。

 

「どんな組織として何をするのか?」の答えが求職者に会社の魅力を伝えていくうえでの原点です。答えは会社のミッション、ビジョン、バリューに紐づいています。従って、本質的に良い採用戦略を作り実行するためには、会社のミッション、ビジョン、バリューを確立し、社内に浸透させる必要があります。

 

「どんな組織として何をするのか?」というミッション、ビジョン、バリューが採用戦略の根幹です。そこから採用計画を設計していく中で、どんな事業をしており、事業の社会的価値が何で、どんなやりがいが得られて、どんな経験を積めて、どんな成長を出来るのか、といった具体論へ落とし込んでいきます。

採用戦略から採用計画へ落とし込み、採用全体を設計する

書面を眺めながら戦略を考えているビジネスパーソンたち

 

採用戦略を考えて、採用計画へと落とし込んでいくプロセスは特殊なものではありません。ただし、各プロセス、特にペルソナ設定や魅力抽出、採用メッセージの作成、採用プロセスの設計において、「事業戦略、人事戦略との一貫性」「自社のミッション、ビジョン、バリューとのリンク」を意識していただくと、採用計画がより効果的になります。

 

1.採用目標の設定

採用計画の作成で、まず行うことは採用目標の決定です。つまり、「どんな人をいつまでに何人採るのか」です。採用計画が持ち上がってきた段階で明確になっていることが多いとは思います。ただし、経営陣や現場から採用意向が届いた段階では、採用ターゲットは意外と不明瞭なことも多いかもしれません。

 

年齢層、経験値、選考で重視したいポイント・能力、レベル感はしっかりすり合わせておきましょう。いわゆる「スペック」や「選考基準」の明確化です。

 

2.ペルソナ設定

採用計画が決まったら、大まかに決めた採用ターゲットを詳細な人物像、ペルソナを設定していきます。採用側の視点で決めた年齢層や経験値、能力などの要素を踏まえながら、「人」としての価値観や行動特性などの定性的・内面的な特徴まで踏み込んだ「人物像」を設定していきます。設定したペルソナは、採用メッセージ、説明会のコンテンツなどの意思決定を行う際に立ち戻る原点になります。

3.魅力の抽出

ペルソナ設定が終わったら、求職者を集めて魅了付けするための“魅力の抽出”を行っていくことになります。魅力の抽出を行う際には、採用戦略の片輪である「自社のミッション、ビジョン、バリューとのリンク」を意識したうえで、さらに細かく、また具体的なもの、条件的なところを洗い出していきましょう。

 

魅力を洗い出した後、何を前面に打ち出していくかを決めるうえでは、設定したペルソナが重要です。洗い出した魅力を羅列すればいいわけではなく、「ペルソナにとって魅力に感じるものは何か?」が重要です。母集団形成の時に打ち出すべきメッセージと選考内で伝えていく魅力も、ペルソナに応じて変わってくることでしょう。

 

極端な例ですが、採りたい人が「ベンチャーでばりばり働きたい、やった分だけ次の機会を手に入れたい」なのに、求人原稿で「年間休日130日!仕事とプライベートを両立できる職場です!」と打ち出してもいい母集団は作れません。もちろん「年間休日130日!仕事とプライベートを両立できる職場です!」は伝えていくべき魅力ですが、説明会や選考中に補足材料として伝えていくぐらいの要素になります。

 

一方で、「地方の進学校から受験で地方国立へ進んだマジメで努力できるタイプ」であれば、「年間休日130日!仕事とプライベートを両立できる職場です!」を前面に出してもいいかもしれません。

 

このように「自社の魅力」は絶対的なものではなく、採用ターゲット(ペルソナ)が魅力に感じる」「ものが重要です。今回採用したいターゲット、設定したペルソナに近い人が社員にいれば、「自社の魅力はどんなところか?」「なぜ入社を決めたのか?」をヒアリングしてみることも有効です。

4.採用計画の詳細設計

「採用目標の達成に向けて、誰にどんなメッセージを伝えていくか」という大枠が決まったら、採用計画の詳細設計に入っていきます。具体的には採用チャネルの選定や求人原稿の方針、説明会のコンテンツなどです。各プロセスの数値目標なども詳細設計で設定します。

 

各プロセスは多少順番が前後したり、並行したりすることがあると思いますが、ペルソナや魅力の抽出が終わる前に詳細設計に入るのは危険です。採用チャネルを選ぶ時にも、「ペルソナがどんな就職活動をしているか」また「自社の魅力はどこで伝えれば伝わるか」などが選定の要素になってきます。

 

求人原稿や説明会のコンテンツも、抽出した魅力を基にして、どの段階でどの魅力を伝えていくかという設計です。魅力の抽出が終わらないままに進めると、単なる前年踏襲や思い付きでの変更になってしまいます。

5.採用プロセスの設計

採用計画の設計は採用プロセスの設計へと進んでいきます。詳細設計と採用プロセスの設計は並行しながら行われることが多いでしょう。採用プロセスを設計するうえでは、2つの視点があります。

 

1つは「接触」から「内定承諾」に至るまで、求職者の心理状態をイメージしながら設計するという視点です。どのフェーズでどんなメッセージを発信するのか、どんな接点を作ることで魅了づけをするのか。また、求職者の現状をいつどうやって把握して、採用競合に勝つまでのシナリオ、懸念点を解消するまでのシナリオを設計するのかといった視点です。カスタマージャーニーと呼ばれる考え方が参考になるでしょう。

 

もう1つは前年度や過去の採用実績データを見ながら、どのプロセスを改善すべきかという視点です。フェーズの遷移率(ステップ率)が低いプロセスには何らかの課題がある可能性があります(適切な選考でふるい落としている場合は除きます)。

 

対応スピードが遅い、求職者にハードルを作ってしまっている(説明会に履歴書持参が必須など)、コンテンツに問題がある、面接官が魅了付けを行っていない、採用競合の動きに負けているなどです。改善する必要があると思われるステップに対しては、しっかりと改善の手を打ちましょう。

 

6.実行

以上の内容を踏まえて、採用計画を実行していきます。「事業戦略・人事戦略、自社のミッション、ビジョン、バリュー」から落とし込まれ、ペルソナ設定によって一貫性と戦略性を持った用計画が作られていることは、実行するうえでも大きなパワーを与えて採くれます。多くの人が関わる採用活動において、足並みが揃い、メッセージが統一されることも非常に有効です。

7.検証

採用活動の実行過程ではリアルタイムに数値を把握して、計画とのズレに対して手を打っていきます。採用活動においては、数値計画と現状のズレ、施策の検討を1週間単位で行っていくと適切でしょう。

 

また採用活動が終わった時点で、全体の検証を行いましょう。数値で状況を把握したうえで、数値の裏にある原因を考察していきます。うまくいった施策、効果の上がらなかった施策、遷移率のズレが生じた要因、刺さったメッセージと刺さらなかったメッセージ、対応のスピード感、運営の段取り…といった要素があるでしょう。

 

振り返る時には、「もし(時間を溯れて)もう一度やるならどうするか?」という視点を持つことが重要です。解決策の糸口が見え、次年度にどうパワーアップ・改善していくかに繋がります。

 

現状把握と対策のPDCA・振り返りは地道な取り組みですが、採用力が強い会社ほど、基本が徹底されています。採用活動中、そして、1つの採用活動から次の採用活動に向けて、動かしてきたPDCAの積み重ねが「採用力」の強化に繋がります。

繰り返し分析・改善することが重要

繰り返し分析・改善するための指標のイメージ

 

採用戦略と採用計画は立てて終わりにするものではなく、分析・改善を繰り返しながらアップデートを続けていくものです。

 

例えば、年度の中では採用戦略を実行するための採用計画が適切だったか、効果を上げていたかという分析・改善になるでしょう。また、実際に採れた人材は、採用戦略に照らし合わせて適切だったかという視点でも見る必要があります。

 

事業戦略や企業の成長ステージに応じて採用戦略も変わってきます。3年に1回程度は、採用戦略や人事戦略がそのままでいいのか、事業戦略や組織のステージが変わる中で、対応できていない部分がないかということを振り返る必要があります。

 

細かい話では、ペルソナ設定や魅力の抽出も、一度行ったら終わりというわけではありません。採用活動を動かしながら、“実際に採れた人はペルソナにそっているかの確認”、“採用した人にヒアリングしてペルソナをアップデートする余地がないかの確認”、“決めた魅力は実際の応募者に伝わっていたかの確認”、“魅力を伝える順番や伝え方は現状のものでいいかの検討”などを常に行い、必要に応じて見直し続けることが大切です。

 

検証と改善のサイクルを回し続けなければ、ペルソナや抽出した魅力が「立ち返るべき原点」として機能しなくなり、形骸化してしまいます。採用戦略からペルソナ、魅力に至るまで、常に見直しを続けていくことが大切です。

まとめ

採用戦略は「事業戦略や組織の成長ステージとの一貫性」「自社のミッション・ビジョン・バリューとのリンク」が両輪です。採用戦略の土台のうえに、ペルソナ設定を行い、魅力の抽出を行っていくからこそ、一貫した方針に基づいて明確なメッセージを発信することが出来ます。

 

「一貫した方針を掲げる」ということは、決めたことに四角四面に縛られ続けるということではありません。一貫した方針に基づく計画があるからこそ、検証・分析することが可能になります。採用戦略から採用計画までを同じ軸に沿って作っているからこそ、どこを修正すべきか、どこまで修正すべきか、その判断も容易であり、改善が進みます。

 

事業戦略や組織の成長ステージ、ミッション・ビジョン・バリューに基づく一貫した採用戦略と採用計画を持つこと、実行しながら絶えず見直しを続けていくこと。2つを意識して実行していくことで、組織の採用力は年々上がっていくでしょう。

著者情報

古庄 拓

株式会社ジェイック執行役員

古庄 拓

WEB業界・経営コンサルティング業界の採用支援からキャリアを開始。その後、マーケティング、自社採用、経営企画、社員研修の商品企画、採用後のオンボーディング支援、大学キャリアセンターとの連携、リーダー研修事業、新卒採用事業など、複数のサービスや事業の立上げを担当し、現在に至る。専門は新卒および中途採用、マーケティング、学習理論

著書、登壇セミナー

・Inside Sales Conference「オンライン時代に売上を伸ばす。新規開拓を加速する体制づくり」など

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