新人の日報を価値あるものにして、成長を促す指導のコツ

更新:2023/07/28

作成:2021/09/29

東宮 美樹

東宮 美樹

株式会社ジェイック 執行役員

新人の日報を価値あるものにして、成長を促す指導のコツ

新人研修の中で、振り返りや報連相の習慣化、ビジネス文書の習得等を目的として、新人に「日報」を書かせる企業が大半です。せっかく新人に日報を書かせるからには、新人の成長を促す価値あるツールにしたいものです。記事では、新人に日報を書かせる効果や日報を価値あるものとして機能させるための運用ポイントや項目設計を解説します。

 

<目次>

新人に日報を書かせる3つの効果

「毎日の振り返りとして日報は書かせた方がいいよね」と、効果をあまり理解せずに実施している企業も多いのではないでしょうか。本章では改めて新人に日報を書かせることで得られる3つの効果を確認しておきます。

 

 

日報を書かせる効果① 振り返りの習慣が身に付く

日報を書くことを通じて、「その日の業務内容や自分の行動」「行動判断の結果」「何が上手くいったか」「何が上手くいかなかったか」等を振り返ることができます。また、後ほど説明しますが、日報の項目を工夫することで、単に事実を振り返るだけではなく、効果的な学習にすることもできます。新人に日報を書かせることは、「経験を通じて成長する」習慣形成になります。

 

 

日報を書かせる効果② ビジネス文書の基本を学ぶ機会になる

日報は、上司やOJT担当者への業務報告であり、ビジネス文章の一つと言えるでしょう。新人は新入社員研修等でビジネス文書の基本を学びますが、日報は実践を通じて、ビジネス文書について学んだことを身に付ける機会です。敬語、伝える内容を端的にまとめたり、相手に分かりやすいように表現したりするロジカルコミュニケーションのスキルを鍛えられます。

 

 

日報を書かせる効果③ 上司・先輩とのコミュニケーションツールになる

メールで日報を記入して、同じフロアの全員に発信する取り組みをしているお客様もいらっしゃいます。新人の日報をみんなに共有することで、新人を直接指導したり、一緒に働いたりしている上司や先輩以外の社員にも、新人たちの仕事ぶりや興味関心、学び等を伝えることができます。

 

HRドクターを運営する株式会社ジェイックでは、SNSやビジネスチャットを通じて新人の日報を全社や部門内で共有しています。新人の日報を読んだ他部署の先輩社員が応援や励ましの返信をする、といったことも日常的に行なわれており、日報が、新人と先輩社員との良いコミュニケーションツールとなっています。

 

 

日報を価値あるものにする運用・記入のポイント

前述のように新人に日報を書かせることで良い効果が得られます。日報を価値あるものにするためには、どんなところに注意して運用や記入の指導をすれば良いのでしょうか。日報を価値あるものにするための運用・記入のポイントを解説します。

 

 

日報を書く「目的」を理解させる

改めて言うことではありませんが、どんな仕事であっても、仕事には「仕事の目的」があります。同じように、日報にも日報を書く「目的」が存在します。しかし残念ながら、日報を書く目的がきちんと新人に伝わっていないケースが少なくありません。日報を書くことが、本人にとってどのような意味や効果があるのかを、上司やOJT担当者からしっかりと伝えることが、重要です。

 

意味や目的を理解しないまま、作業として日報を作成すると学びの効果は薄くなってしまいます。何のために書くのか、しっかりと新人自身が自覚・意識した状態で日報を運用しましょう。

 

 

日報作成で押さえたい2つのポイント

日報のフォーマットはいろいろありますが、基本となるのは「業務内容」と「所感」です。「業務内容」では、その日に行なった業務を端的に振り返ります。また、「所感」では、業務を行なっていて気づいたことや疑問に思ったこと、今の課題などを書いてもらいます。所感の部分でしっかりと思考することが成長に繋がります。所感をより効果的にするための設問は、次章で紹介します。

 

 

時間制限を設ける

初めのうちは、日報を書くことに時間を多く取られてしまいがちです。しかし、新人たちも次第に任される仕事が増えて忙しくなっていく中で、いつまでも日報に多くの時間を取られているわけにはいきません。日報の作成も給与が発生する業務時間だということを意識させ、限られた時間の中で効率的に書き終える習慣を身に付けさせましょう。

 

日報にかける時間は目安としては15分以内です。初めは時間がかかりますが、短時間でテキパキと振り返りをする習慣を身に付けることが大事です。

 

新人の成長を促す日報項目のコツ

日報作成を通じて新人の成長を促すためには、日報の項目設計も大切なポイントです。先ほど「業務内容」と「所感」の2つが基本と書きましたが、本章では日報の項目・設問設計について解説します。

 

 

日報項目のコツ① 上手くいったことを振り返る

新人に日報を書かせる際には、単に業務内容を時系列で書かせるのではなく、「成長のための振り返り」にすることがポイントです。成長のための振り返りとしては、コルブの経験学習モデルやリフレクションの概念が有名です。新人の日報も上記のような理論を基に作成すると効果的です。

 

具体的には、まず「上手くいったこと」から振り返りましょう。上手くいったことを振り返ることは、自己効力感やモチベーションを高めます。設問として、「今日上手くいったことは何か?」という問いを入れて毎日書かせることで、自然と日常の中でも「これは上手くいったな」と、上手くいったことを探す習慣が付きます。

 

また、上手くいったことを振り返る項目には、「もっと上手くやるにはどうしたらいいか?」という設問を加えましょう。成功の要因をしっかりと振り返ることで、再現性を持たせることができます。

 

<日報項目の例>

Q.今日上手くいったことは何か?さらに上手くやるためにはどうすればいいか?

 

 

日報項目のコツ② 上手くいかなかったことを完了する

日報を書くために一日を振り返ると、「上手くいかなかったこと」や「反省」に目が行くタイプの新人もいます。上手くいかなかったことや失敗を振り返ることは成長するためには欠かせません。しかし、上手くいかなかったこと、失敗したこと、失敗の原因…を延々と振り返っていると、自己効力感や自分への自信がどんどん失われてしまいます。

 

上手くいかなかった点を振り返る際に有効な設問が「もしもう一度やるならどうするか?」です。「もしもう一度やるならどうするか?」という設問は、上手くいかなかったことを振り返って、何が原因だったかを考えたうえで、「こうすれば上手くいったかもしれない」「次はこうしよう」と思考を未来に向ける効果があります。

 

<日報項目の例>

Q.もし今日をもう一度やるならやり直すことは何か?どうやり直すか?

 

 

日報項目のコツ③ 学びを書かせる

マネジメントの権威として知られるピーター・ドラッカーが、世界的な戦略コンサルティングファーム、マッキンゼー・アンド・カンパニーのコンサルタントたちに研修でアドバイスしたのが、「毎日、“今日学んだことを3つ挙げるとしたら何か”を書き出しなさい」だと言われます。

 

①や②で紹介した上手くいったことややり直したいことと並んで、新人の日報では「今日学んだこと」を書かせましょう。また、「学んだことは何か?」という問いは、主観的な視点や感情を離れて、客観的に振り返る(メタ認知)ことにも繋がります。一日の体験を振り返って、学びや成長に繋げるための大切な項目です。

 

<日報項目の例>

Q.今日学んだことは何か?

 

 

日報項目のコツ④ 疑問や質問、提案を書かせる

会社のカラーにあまり染まっていない新人ならではの視点や考えは、先輩社員たちにとって良い刺激となることはよくあります。面白いアイデアや、何か疑問を感じることがあれば、日報でどんどんアウトプットするように促すとよいでしょう。また、新人たちの日報から何か刺激になったことがあったら、一言でいいので、その旨をフィードバックしてあげましょう。新人たちは、自分の意見が先輩社員や会社に良い影響を与えたと知ると、とても励みになります。

 

<日報項目の例>

Q.疑問、質問、提案

 

おわりに

新人が日報を書くことは、成長に繋がる振り返りの習慣化、ビジネス文書のトレーニング、上司や先輩とのコミュニケーションなど、いくつもの効果があります。日報の効果を高めるには、作成の目的をしっかりと理解させる、短時間で集中して作成する、効果的な設問にするなどのポイントがあります。

 

記事内で紹介した

 

  • Q.今日上手くいったことは何か?さらに上手くやるためにはどうすればいいか?
  • Q.もし今日をもう一度やるならやり直すことは何か?どうやり直すか?
  • Q.今日学んだことは何か?
  • Q.疑問、質問、提案

 

といった設問も参考に、ぜひ日報を使った効果的な振り返りや成長の習慣を新人に指導してください。

 

著者情報

東宮 美樹

株式会社ジェイック 執行役員

東宮 美樹

筑波大学第一学群社会学類を卒業後、ハウス食品株式会社に入社。営業職として勤務した後、HR企業に転職。約3,000人の求職者のカウンセリングを体験。2006年にジェイック入社「研修講師」としてのキャリアをスタート。コーチング研修や「7つの習慣®」研修をはじめ、新人・若手研修から管理職のトレーニングまで幅広い研修に登壇。2014年には前例のない「リピート率100%」を達成。2015年に社員教育事業の事業責任者に就任。

著書、登壇セミナー

・新入社員の特徴と育成ポイント
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