主体性のある新人が育つ職場の特徴と企業が取り組むべきこと

更新:2023/07/28

作成:2020/08/25

東宮 美樹

東宮 美樹

株式会社ジェイック 執行役員

主体性のある新人が育つ職場 特徴と企業が取り組むべきこと

新人や若手教育の仕事に携わっていると、多くの経営者や人事の方から「うちの若手は主体性がない。言われたことしかやらない」「もっと自分で考えて動く新人を増やしたい」「入社したての頃は勢いが良かった新人も、数か月もするとすっかり化けの皮が剥がれる」等のお悩みを聞くことが多くあります。

 

確かに新人や若手自身の問題もあるかもしれませんが、じつは“新人や若手の主体性が失われているのは組織のせい”という場合もあります。記事では、なぜ新人や若手の主体性がなくなるのか、主体性のある新人が育つ職場とはどんな職場なのか、新人の主体性を引き出すために何が大切かを解説します。

<目次>

主体性のない新人が育ってしまうのはなぜか?

新人や若手教育の講師として登壇する機会が多いと、世間が言うほど「はじめから主体性のない」若手が多いわけではないと感じます。いまの日本では、フリーターでも生活できる現状がありますので、「本気で働きたくない」と思う人はそもそも社員として就職していません。

 

入社したときは、個人差はありますが、社会人としてのワクワク感やヤル気を持っている人が大半です。一方で、入社をして数か月~1年が過ぎると、“受け身”や“指示待ち”の社員が増えてしまうのも事実です。なぜでしょうか。いろいろな理由はありますが、じつは一番の原因は、「周囲の人の影響を受ける」ことです。

 

主体性の欠如は、新入社員や若手だけではなく、組織によっては中堅社員や管理職層にもみられる傾向です。主体性がない先輩や上司がいる中に、“何でも吸収しよう”と思っている免疫のない新入社員が放り込まれたら、新人の主体性がなくなってしまうのは、自然な話です。

 

主体性が発揮されていない組織では、本人たちも悪気はなく、『そんなに頑張っても…』とか『焦らなくていいよ…』という主体性を奪う台詞を新人に投げかける上司や先輩が数多くいます。はじめは『社会人として、頑張ろう!』と思っていた新入社員も、このような台詞を投げかけられる中で、徐々に“主体性のなさ”を吸収してしまうのです。

 

言葉を投げかけている上司や先輩からすると、『そんなに張り切って勝手に何かをしでかしたら困る」とか、『頑張ってもそんなに給料なんて変わらない』、また、『無理して頑張りすぎるとどこかで気持ちが折れちゃうよ』といった彼らなりの正義感や善意である場合もあります。

 

気持ちは分からなくもありませんが、新人の主体性を損ねる言動が繰り返されていたら、新人の主体性はどんどん削がれていきます。そして、主体性を発揮することが少ないまま、入社からの時間が過ぎて、“指示待ち”“受け身”の若手社員ができあがるわけです。

 

もちろん、障害を乗り越えて主体性を発揮する若手社員もいます。しかし、主体性の欠けた組織では、主体性を発揮しようと頑張る若手社員に、「浮いてる」とレッテルを貼って孤立させるということもあったりします。やがて、状況に耐えられなくなり、「主体性を発揮しようとする社員から順番に去っていく」と、残るのは主体性のない社員ばかりという状況になります。

 

少し極端に紹介しましたが、新人や若手の主体性は、「組織風土」、「上司や先輩の言動」に大きく左右されるのです。「新人や若手の主体性が気になる」という場合には、「上司や先輩は主体的か」「上司や先輩はどんな言動をしているか」を併せて考えてみることをおすすめします。

指示待ちにならない主体性のある新人が育つ職場とは?

前章では、新人や若手の主体性を奪ってしまう組織や上司・先輩について紹介しました。逆にどういう職場であれば、主体性のある新人が育つのでしょうか。主体性のある新人を育てるには、「チャレンジできる」と「失敗しても責めずに容認する」という2つの環境を作ることが非常に大事です。

 

 

チェレンジできる環境

例えば、ある企業では「主体性コンテスト」というものを開き、新入社員が「直近の1年間で主体的に取り組んだこと、体験から学んだこと」を発表し合う場を用意しています。全員が発表した、「1位をとった新入社員とその上司」が表彰されます。ポイントは、上司も表彰対象として巻き込んでいる点です。

 

先ほども話したように、新入社員が影響を受けるのは、周囲の人、とりわけ直属の上司や先輩です。従って、主体性の発揮を「新入社員」だけでなく、「上司の仕事」でもあるとしていることが、この制度のユニークな点です。このように、主体性を新入社員のマインド頼りではなく、環境面からもフォローをしている組織もあります。

 

 

失敗しても責めずに容認する環境

また、別の企業では「入社3年間は、どんなに仕事で失敗したとしても、怒ったり責めたりしない」というルールを設けています。「やりたいことに挑戦しろ、失敗しても会社が責任をとる」という組織のメッセージが、新入社員たちのチャレンジを推奨して、主体性を引き出します。

 

多くの方が「仕事で失敗しながらも、失敗から学び成長した」という経験をしたことがあると思います。チャレンジを推奨するメッセージのメリットは、“多くの失敗を体験させ、成長を加速させる”ことができます。失敗を多く経験することで、失敗に対する免疫、失敗したときの対応力が強化され、メンタル的にもスキル的にも成長する土壌ができあがるのです。

 

2つの事例から学べることは、「挑戦と失敗」を本人の努力に任せるだけではなく、上司を巻き込んだり、組織で仕組み化したりすることの大切さです。貴社では、「新入社員研修」や「OJT」の中に挑戦させたり、主体性を発揮させたりする仕組みは組み込まれているでしょうか。

 

意図的に挑戦させたり、主体性を発揮させたりする仕組みは、「許容できる失敗体験」を生み出すことができます。さらに、取り組んだことに対して、本人が振り返ったり、上司や先輩等がしっかりフィードバックしたりする仕組みも作りやすいでしょうし、挑戦するときに大切な報連相のやり方なども実務を通して学ばせることができます。

 

「チャレンジさせ、失敗させることが大事」とはいえ、顧客に大きな迷惑をかけたり、自社のブランドや信頼を傷つけたりするリスクは犯すわけにはいきません。従って、「チャレンジさせ、失敗を許容する」うえでも、はじめは枠の中で挑戦や失敗を経験させ、徐々に枠を広げていくことを意識すると進めやすいでしょう。

新人の主体性を育成するために企業が取り組むべき3つのこと

「新人に主体性を持たせる」ために、“挑戦と失敗”ということ以外に、組織がどんなことに取り組めばいいかというポイントを3つご紹介します。

 

 

新人に興味を持つ

この数年、退職防止を目的とした研修を依頼いただくことが増えてきました。多くの場合、表向きは「マネージャーを対象としたマネジメント研修」として実施するのですが、主目的は「退職防止/定着率のUP」として依頼されます。

 

研修内で、「部下にどれだけ興味を持っているか」を測るワークをおこないます。ワークの中で、『部下に興味を持っていますか?』と聞くと、ほとんどの人が手を挙げます。しかし、『どれだけ部下のことを知っているか?』というフォーマットを書いてもらうと、「あまり書けない…」という管理職は意外と多いです。例えば…部下の「フルネームの名前(漢字)」「誕生日」「家族構成」「出身地」「入社理由」「いま興味・関心があること」「いまの悩み」等です。自分の部下、全員分を書けるでしょうか?

 

上記の設問の中でも、新人や若手の部下を対象にしたとき、書けない管理職が多いのが、「自社への入社動機」という項目です。なぜ、「この会社に入社しようと思ったのか」は、「働く動機」であり、答えの中には「モチベーションを高めるスイッチ」のヒントがあります。

 

当たり前の話ですが、新人に興味を持ち、相手を知り、どこがモチベーションのスイッチかを知ることが、彼らの主体性を引き出すうえで重要です。新人や若手の「なぜ入社したのか」「何をしたいと思っているのか」を、彼らの仕事とリンクさせて伝えられると、新人や若手の主体性や挑戦を引き出しやすくなります。

 

 

新人同士が刺激し合える環境を作る

新人や若手が刺激を受けやすいのは、上司や先輩以上に、同じ立場にある新人や若手からです。従って、主体性を引き出すうえでは、新人や若手同士が刺激し合う環境づくりは非常に効果的です。

 

例えば、「入社半年後の研修」でもいいですし、「毎月の成果レポートの提出と共有」や「日誌の共有」でもいいかもしれません。実施するうえでは、単なる業務の振り返りや反省ではなく、「主体的に挑戦したことは何か」「何を学んだか」「もし、もう一度やるならどうするか」「明日(ここから半年で)どんな挑戦をするか」等、主体性の発揮や挑戦に繋がるテーマを書かせることがポイントです。

 

ある会社では、新人に「今月頑張ったこと」を毎月レポートとして提出させ、全社員がレポートを基に“1番主体的に取り組んだと思う人”を投票、“1位になった人は社長とご飯に行ける”という制度を設けています。この制度は、新人に主体性の大切さを思い出させ、かつ、コンテスト形式にすることで“新人同士で刺激を与える”ことを実現しています。さらに、投票している社員に対しても同じメッセージを発信できることが非常によくできている仕組みです。

 

 

主体性を育むための目標を明確に持たせる

新人や若手社員の育成における「目標設定」は、多くの企業でおこなっているかと思います。単純な業務上の目標ではなく、新人研修や2年目研修などの最後に「1年後/3年後にこうなりたいと思うようなワクワクするような目標」を設定させるイメージです。

 

目標設定を効果的にするうえで大事なポイントは2つあります。1つ目は、“明確な目標を設定すること”です。曖昧な目標は、進捗状況も曖昧になりますし、いつの間にかモチベーションも「まぁできてないわけじゃないし、こんなものかな…」と曖昧になり見失われがちです。ここでの目標設定は「1年後/3年後のビジョン」に近いイメージですので、数字等で明確にすることは難しいかもしれません。しかし、状態を明確にする、周囲からどう言われているかを表現する、どんな役割を担っているかを表現する等の工夫ができるでしょう。

 

主体性を発揮させるための目標は短期的なものよりも、1年~2年程度の長期的なものがおすすめです。「実現させることにモチベーションが働く」かつ、「何度か失敗しても、繰り返し挑戦できる」目標が設定できると、 “挑戦して失敗して、失敗から学んで次の挑戦をする”という主体的な行動をすることに動機付けされやすくなります。

 

目標設定を効果的にする2つ目の大事なポイントは、“本人にフィードバックする/思い出させる”ことです。目標設定している会社の中には、「研修等で目標設定はしているものの、設定した後は振り返る機会がなく、設定しっぱなしで終わっている…」という会社も少なくありません。これでは効果は半減してしまいます。

 

本人が主体性を発揮しやすいように「動機付けされる目標」を設定したら、必ず上司やOJTのトレーナーにも宣言する、月次のレビュー等では、「目標達成に向けてどんな挑戦をしたか」「どんな成長があったか」、振り返ったり、フィードバックしたりしましょう。

まとめ

この数年、「新人や若手の主体性を高めたい」と企業から相談をいただくことが増えています。新人や若手の主体性を伸ばすポイントは「挑戦できる、失敗を許容できる環境づくり」です。逆に、悪気はなくても、上司や先輩社員が「挑戦させない」「失敗させない」ことで、新人や若手の主体性を損ねてしまっている組織も少なくありません。

 

新人や若手の主体性を伸ばしていくうえでは、「挑戦する」こと等を、本人たちだけの責任にせずに、組織として支援するための仕組みや制度を作ることが有効です。新人研修やOJTの中に、「挑戦」の体験を組み込んだり、挑戦するときの報連相を教えたりすることは効果的です。

 

また、新人に興味・関心を持って「入社理由」などの主体性を発揮させるためのカギを知る、新人同士で刺激を与え合う環境や仕組みを作る、新人自身が動機付けされる目標設定をさせるといったことも大切です。新人や若手が主体性を発揮して挑戦してくれると、中堅社員やうえにも大きな刺激を与えます。記事の内容を参考に、ぜひ主体性溢れる新人や若手を育ててください。

著者情報

東宮 美樹

株式会社ジェイック 執行役員

東宮 美樹

筑波大学第一学群社会学類を卒業後、ハウス食品株式会社に入社。営業職として勤務した後、HR企業に転職。約3,000人の求職者のカウンセリングを体験。2006年にジェイック入社「研修講師」としてのキャリアをスタート。コーチング研修や「7つの習慣®」研修をはじめ、新人・若手研修から管理職のトレーニングまで幅広い研修に登壇。2014年には前例のない「リピート率100%」を達成。2015年に社員教育事業の事業責任者に就任。

著書、登壇セミナー

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