新卒や未経験の若手人材を受け入れて育成する際の新人教育は、組織にとって非常に重要なものです。
新人教育は、ビジネスパーソンとしての基準を教える期間でありますし、定着率や活躍率にも影響します。
近年では、終身雇用が完全に崩壊し、雇用の流動化が進むなかで、Z世代は「入社時点から転職することを視野に入れている」ともいわれ、早期離職も起こりやすくなっています。
したがって、新人を定着・活躍させるうえで、新人教育の重要性は増しているともいえます。
記事では、新人教育で大前提とすべき考え方、また、新人教育が失敗する5つのパターンを紹介します。
そのうえで、新人教育を成功させるポイント、新卒と中途で教育内容をどう変えるべきかを解説します。
後半では、新人教育を外部機関に委託するポイントなども紹介しますので、参考になれば幸いです。
<目次>
新人教育における大前提
新人教育を実施すると、計画時のイメージどおりに新人が育たず、さまざまな不安やネガティブな気持ちが生じることがあります。
教育担当者がこうした想いに悩まされることなく教育を実施していくには、まず、新人を育てることの大前提を知る必要があります。
新人教育はそもそも難しい
新人の教育担当者は、まず「新人教育はそもそも難しく、簡単にできるものではない」という姿勢でいたほうがよいでしょう。
教育担当者が「計画どおりに育成すれば、新人もすぐに即戦力化する!」と思い込んでしまうと、指導をするなかで以下のような不安や苛立ちが生じやすくなります。
- 『なぜ彼は成長しないのだろう?』
- 『同じチームのAくんよりBくんの成長が遅いのは、自分の指導法に問題があるからだろうか?』
- 『自分は新人の教育係に向いていないのかも知れない……』 など
こうした精神的疲弊が生じると、新人への厳しい叱責なども起こりやすくなってしまいます。
新人に対するポジティブな期待を持つことは大切ですが、上記のような焦りや苛立ちが生じないように注意することも必要です。
したがって、教育担当者は、根拠のない楽観は持たず、「新人教育は難しいものだ」という前提姿勢でいることがおすすめです。
人は簡単には育たない
新入社員に限らず、そもそも人は簡単には育ちません。また、新人の成長スピードは、それぞれのスキルや特性、教えられた仕事との相性によっても変わってきます。
同じことを同じように教えて、10吸収する人もいれば、3の吸収になる人もいます。
また、新人研修における成長スピードが、3年、5年、10年後のパフォーマンスを約束するものでもありません。
特に新卒の新入社員などは、先日まで学生だった若者です。
新卒の場合、まず、ビジネスのプロフェッショナルとしての意識を植え付けなければ、仕事を覚え成長するスタートラインにも立てないでしょう。
1つめと少し内容が重複するようですが、「新人教育はそもそも難しい」ことに加えて、「誰もが同じような成長曲線になるものでもない。そして、短期的な成長曲線がその人の能力やポテンシャルすべてを示すものではない」ということを頭に入れておきましょう。
こんな新人教育は失敗する!?5選
教育担当者が新人教育の大前提を理解していても、やはり失敗は起こります。どういうときに新人教育の失敗は起こりやすいでしょうか。
本章では、代表的な5つの失敗パターンを紹介します。
目的(ゴール)が明確でない
たとえば、「半年後には、一人で営業活動できるようになって、半期で○百万の売上を上げられるようになる」といった具体的な目的やゴールがなく、行き当たりばったりで仕事を教えている状態です。
営業職の新人だとすれば、目的(ゴール)がなくても、先輩の営業活動に同行したり、営業管理システムの使い方を教えてもらったりして、仕事のやり方は何となく理解するかもしれません。
しかし、ゴールが明確でないと、以下のことがわからず不安が生じがちです。
- 自分はいつまでにどうなれば良いのか?
- 今日教えてもらったことは、何の役に立つのか?
- このままで一人前になれるのか?
- 全体像のイメージがいまいち、つかめない
- 自分は営業パーソンとしてデビューできるのか? など
こうした不安は成長の妨げになりますし、モチベーション低下や早期離職につながることもあります。
そのため、新人教育を行なうときには、きちんと教育のゴールを設定して、育成の全体像と計画を決めて、新人とも共有することが大切です。
考え方や価値観の教育をしない
詳しくは後述しますが、近年では、Z世代の仕事に対する価値観と、多くの企業で経営陣や管理職を占める昭和世代の価値観とのギャップが大きくなりつつあります。
また、世代間ギャップが拡がるなかで、入社後に新人が感じる入社後ギャップ(リアリティギャップ)も大きくなっている傾向があります。
また、冒頭で紹介したとおり、年功序列の崩壊にともなって、いまの新人世代は早期離職に対する心理的な抵抗も少なくなっています。
だからこそ、入社時の早期教育で、仕事に対する心構え、ビジネスのプロフェッショナルとしての価値観、入社後ギャップへの心構えなどをしっかりと伝えておくことが大切です。
心構えや価値観の早期教育をせず、スキル教育だけを行なうと効果が出にくくなります。
仕事の全体像や意味を教えない
新人教育では、教えないといけない内容が多いため、スキルややり方だけの詰め込み教育になりがちな傾向があります。
しかし、たとえば、製造業の現場で「この部品はとても大事だから、しっかり丁寧に磨き上げます」と教えられても、以下のことがわからなければ、丁寧に磨こうとする気持ちが生まれません。
- これは、何の機械に使う部品なのだろう?
- そもそも、なぜしっかり丁寧に磨く必要があるのだろう?
また、「新しいお客様のところには、必ず週2回の訪問をする」という指示を受けたものの、全体像や意味を伝えられていない場合、新人には、以下のような想いが生まれてしまうでしょう。
- 週2回も客先に行く意味がわからない。面倒くさいからサボってしまおうかな……
- なんて非効率的なことばかりをする企業なのだろう。成長が期待できないな……
このように全体像や意味がわからないと、作業の意図や必要性を理解できず、作業への愛情は生まれませんし、実施しても熱が入らず、作業品質も雑になるものです。
また、ビジネスマナーなどに関しても、目的や意味をきちんと伝えないと、応用がきかなくなります。
ビジネスマナー教育のポイントは以下の記事でも解説しています。
自社の価値観を押し付ける
新人に限らず、すべての人には、自分が大事にしている価値観があります。
ただ、近年では、上述したとおり、Z世代の仕事に対する価値観と、多くの企業で経営陣や管理職を占める昭和世代の価値観とのギャップが大きくなりつつあります。
もちろんビジネスで成果を挙げる、活躍するための価値観は吸収してもらう必要はあります。
ただ、そこで新人の価値観に理解を示さず、自社の価値観、上司の価値観を押し付ければ、新人側に企業や上司への不信感が募ってしまうでしょう。
特にいまの新人は、“昭和世代”の価値観を一方的に押し付けられることを嫌う傾向があります。
信頼関係が壊れてしまえば、その後の指導内容やフィードバックなども受け入れられなくなるでしょう。
配属先のOJTに丸投げする
OJTは、配属先の現場を中心に行なわれる実務教育です。
Off‐JTでの知識インプットやロールプレイングを踏まえて、実務的なスキルを身に付けるOJTに入っていくことが新人教育における一般的な流れです。
OJTは1対1に近い形で、現場のOJT指導者が実施することになります。そのため、OJT指導者の準備や指導力によって、教育の品質にばらつきが生じやすくなります。
また、必ずしもすべてのOJT指導者が、OJTの経験を積んでいるわけでもないですし、本記事で紹介したような新人教育のノウハウなどを知っているとも限りません。
したがって、配属先のOJTに丸投げすると、新人教育の品質が低下して、特定の部門などで早期離職が継続発生するようなケースもあります。
OJTの品質を高めるためには、人事側でOJT計画を作成するフォーマットをつくったり、過去の計画(事例)を蓄積したりすることで現場の負荷を減らし、かつ品質を高める必要があります。
また、人事側でも新人と定期面談する、ブラザーシスター制度を設定するなどの方法で、OJT指導者だけに新人を任せない工夫も大切です。
新人教育を成功させるポイント
ここまで紹介した失敗ケースも踏まえて、新人教育を成功させるポイントを確認しましょう。
目的(ゴール)の明確化と逆算したカリキュラム設計
目的(ゴール)とは、以下のように「この教育を通じてどういう状態になってほしいか?」ということです。
目的(ゴール)の設定では、いつまでに、具体的にどのような成果を挙げられる状態かを以下のように明確にします。
- ・半年後には、一人で営業活動できるようになってもらう
- その後、来年4月には1人で月商500万を達成できる状態になってもらう
- ・6月末までに、一人でオンラインの画面設計ができるようになってほしい など
たとえば、「一人で営業活動をできるようにする」というゴールが決まったら、そのために必要な要素・スキルを以下のように洗い出し、その要素やスキルを身に付けるための教育カリキュラムを設計していきます。
- 商談のフレームワークを知って実践できる状態
- 商談創出のやり方
- 企業説明
- 顧客心理や購買プロセスの基本
- 相手の課題に合わせた商品・サービス提案
- 見積もりの取り方
- クロージング
洗い出した要素・スキルを、どのような順番で、どう教え、身に付けさせていくかが、OJTの基本カリキュラムになります。
OJT指導者は、無意識にこのフローに則ってやっているものですが、きちんと言語化して整理することでOJTの品質が高まりますし、新人との共有も可能になります。
考え方教育の実施
失敗事例のところで紹介したとおり、仕事に対する価値観、リアリティギャップに対する心構えなどの考え方教育は非常に大切です。
まず、Z世代の仕事に対する価値観と、多くの企業で経営陣や管理職を占める昭和世代の価値観とのギャップが大きくなっています。
例えば、どこかしら「終身雇用」的な価値観に基づいて、
- 会社や仕事を自分のプライベートよりも優先する
- 職場の価値観は、自分の価値観と多少違っても受け入れる
といった感覚は、昔と比べるとかなり薄れています。
仕事をしたことがない新卒の場合、必ず入社後ギャップ(リアリティギャップ)は生じるものです。
ただ、世代間ギャップが拡がるなかで、入社後ギャップ自体も大きくなっている傾向にあります。
だからこそ、仕事に対する価値観、リアリティギャップに対する心構えなどを入社初期に教えることが大切になります。
実際にギャップに出合ってからだと、その時点で、会社や上司に対する信頼度は低下しています。
そこから、考え方教育を実施しようとしても難しいですので、入社初期に実施することが大切です。
“今どきの新人”の価値観理解
上述のとおり、Z世代などの今どき新人には、仕事やキャリアに関して、リーダーや上司の世代とは大きく異なる価値観を持っている傾向があります。
そんな新人を成長させるには、新人の価値観を頭ごなしに否定して、一方的に企業の価値観を押し付けるのではなく、理解して受け入れる姿勢を持つことが大切です。
また、新人を育成するうえでは、「新人の価値観を矯正することが目的ではなく、仕事を早く覚えて活躍できるようにすることが目的」という意識をしっかり持つことが大切になります。
上司やOJT指導者が、新人の価値観を受け入れ、話に耳を傾ける姿勢を見せると、新人は相手に心を開きやすくなります。
もちろん、仕事をするうえでどうしても自社の価値観に合わせてもらわなければならない場合もあります。
ただ、その際も、相手の価値観は理解したうえで、「この価値観を何のために身に付けるのか?」「身に付けることでどうなるのか?」「実践しないとどうなるのか?」ということをきちんと伝えることが大切になります。
新人への積極的な声かけ
新人教育は、仕事のやり方を教えるだけでは足りません。新人が力を発揮するには、組織に馴染むことが大切になります。
これを組織社会化といいます。一方で新人は、自分の入ったチームや上司に対して以下のような印象を抱きやすいものです。
- 皆さん忙しそうなので、いつ話しかけていいかわからない……
- 話したいが、先輩の皆さんに提供できる話題がない……
新人を孤立させないためには、上司やOJT指導者側から積極的に声をかける姿勢が大切です。
また、人事による定期面談やブラザーシスター制度を導入するなど、職場での上司部下だけではない人間関係、新人の声を拾う仕組みも有効です。
日報などによる経験学習
新人の成長を促進させるには、日報などを通じた振り返りを習慣化させ、自分自身で成長する力を身に付けさせることも大切です。
成長のための振り返りの流れは、コルブの経験学習モデルが非常にわかりやすいでしょう。
- 1.具体的な経験をする
- 2.振り返る
- 3.学びとして解釈する
- 4.学んだことを試す
日報などはうまく設問を工夫することで、上記の「2~3」の実施につながります。
なお、新人教育に日報を取り入れるときには、以下の観点を項目に取り入れると経験学習につながりやすいでしょう。
- 1.うまくいったことを振り返る
- ⇒再現する、さらにうまくやるためにはどうすれば良いか?
- 2.うまくいかなかったことを完了する
- ⇒もしもう一度やるなら、どうするか?
OJT品質の底上げ
OJT研修の品質を上げる方法には、以下2つの視点があります。
- 1.現場レベルの視点
- 2.全社的な視点
まず、現場レベルの視点では、以下のポイントを意識することで、品質向上が期待できます。
- 目的(ゴール)を明確化する
- 考え方や価値観も教える
- 仕事の全体像や意味を教える
また、全社的な視点で考えると、新人の受け入れ部署にOJTをすべて任せてしまうと、受け入れ部署の負担が大きくなりますし、品質がばらつくリスクも大きくなります。
そこで、たとえば、人事部門で以下のような取り組みを行なうことで、現場の負担を軽減したうえで、OJT教育の質を底上げするとよいでしょう。
- OJTプログラム設計のひな型を作成する
- OJTプログラムの過去事例を蓄積する
- OJT指導者向けのレクチャーを実施する
- 新人と定期面談する
- ブラザーシスター制度を導入する など
実務以外の教育コンテンツ
OJT研修では、基本的に実務ノウハウを中心に教えることになります。
したがって、人事部門で以下のような実務以外の教育コンテンツを準備して、実施することも大切です。
- 企業のミッション・ビジョン・バリュー
- 企業の沿革
- 企業の組織構成
- 各事業部の仕事
- 共通言語 など
実務以外のことを人事主導で教えておくことで、現場の負担も軽減しますし、新人の成長も早くなります。
新卒と中途で教育内容はどう変える?
新卒と中途の教育で、大枠のノウハウやポイント、注意点は変わりません。
中途にもOff‐JTによる価値観や考え方、組織文化の教育や共有は大切です。
一方で、新卒と中途では入社時の知識や経験が異なるため、カリキュラム自体は変わります。
たとえば、中途の社会人経験者であれば、ビジネスマナー講習などは不要になるわけです。
ただし、中途の場合、入社人材それぞれの経験やスキルが違うため、実務的な内容部分は個別にカスタマイズすることが増えます。
上記を踏まえると、新人向けと中途向けで基本の初期教育パッケージ+OJTの計画テンプレートを用意するのがおすすめです。
中途向けの初期教育パッケージは、組織に馴染む、マインド面のケア、組織のインフラ、実務以外のコンテンツなどがメインとなり、実務部分は受け入れ部門で個別に計画してもらう形がおすすめです。
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まとめ
そもそも、人はそう簡単に、また、計画どおりに育つものではありません。
このあたりは認識しておかないと、教育担当者の人は多くのストレスを感じてしまうでしょう。
そのうえで、新人教育が失敗するおもなパターンなどをしっかりと押さえておくことが大切です。
- 目的(ゴール)が明確でない
- 考え方や価値観の教育をしない
- 仕事の全体像や意味を教えない
- 企業の価値観を押し付ける
- 配属先のOJTに丸投げする
上記も踏まえて、新人教育を成功させるには、以下のポイントを押さえることが有効です。
- 目的(ゴール)の明確化と逆算したカリキュラム設計
- 考え方教育の実施
- “今どきの新人”の価値観理解
- 新人への積極的な声かけ
- 日報などによる経験学習
- OJT品質の底上げ
- 実務以外の教育コンテンツ
上記のようなポイントを自社だけで実現することが難しい場合は、外部の研修会社にカリキュラムの一部を委託することもおすすめです。
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