新人教育のアドバイス ~よくある指導の間違いと新人育成のコツ~

更新:2023/07/28

作成:2021/06/01

東宮 美樹

東宮 美樹

株式会社ジェイック 執行役員

新人教育のアドバイス ~よくある指導の間違いと新人育成のコツ~

新人教育を成功させるカギは、上司や先輩社員の「新人への接し方」です。記事をご覧の方も「新入社員が何を考えているか分からない」「新人のモチベーションが低く悩んでいる」といった悩みをお持ちかもしれません。

 

記事では、新入社員の特徴を確認したうえで、新人を教育するうえで押さえておきたい指導のコツをアドバイスします。

<目次>

新人教育をするうえで知っておきたい「今どきの若者」の価値観と特徴

新入社員を教育するうえで大切なことは、相手を知ることです。まずは、今どきの若者がどのような環境で育ち、どのような価値観を持っているのか、3つの特徴を解説します。

 

 

「今どきの若者」の特徴① 他人からの評価を強く気にする

特徴として挙げられることの1つ目は、「人からの評価を強く気にする」ということです。今どきの新人は、子供の頃からSNSがある中で育ち、クラスやサークル内でもいつもLINEグループ等がある環境でした。芸能人やインフルエンサーが、ネット上で炎上したり叩かれたりするのを見ながら育った新人たちは、「目立ちたくない」という意識が強く、「他人からの見え方」を強く気にします。

 

従って、良くも悪くも上司や先輩からの見られ方をすごく気にします。良い面としては、指摘や指示に素直に従いますし、一方で、悪い面としては自分から提案したり発言したりする積極性にはブレーキがかかりがちです。

 

 

「今どきの若者」の特徴② 自分で考えるより答えを探すことに慣れている

昨今の新人は、物心がついた頃から当たり前のようにインターネットに触れて育ってきました。そのため、パソコンやスマートフォンを使って情報収集することに長けています。大学の論文や卒業研究などでも、インターネット上からの「盗作」「コピペ」が問題になっていることはご存じの通りです。

 

自分で検索して答えを探すことは長所でもありますが、「自分が考えて答えを決める」ことに慣れていないとも言えます。何かあった時に、自分の頭で考えるよりもインターネットや先輩・上司に答えを聞く傾向があります。

 

 

「今どきの若者」の特徴③ 失敗することを極端に恐れる

特徴の1つ目、「他人からの見られ方」を気にするにも関連しますが、今どきの若者は挑戦して失敗することを恐れます。HRドクターを運営するジェイックでは、毎年1,000名近い新入社員を対象に研修を実施していますが、彼らは「挑戦したくない」よりも「失敗したくない」傾向が強いと言えます。

 

学校教育がモンスターペアレンツ等の影響もあり、「失敗や怪我に繋がるような挑戦はなるべくさせない」という方向性に進んでいる影響もあるでしょうし、失敗した時にSNS上で叩かれたりコミュニティから弾かれたりするリスクを感じていることもあるでしょう。

新人教育の現場でありがちな指導の失敗を段階別に解説

人材育成の世界で非常によく知られている名言に、旧日本海軍の司令官 山本五十六氏の言葉、「やってみせ、言ってきかせて、させてみて、褒めてやらねば人は動かじ」があります。人を育てる順番や要諦(大事なこと)を示した言葉として、非常に理にかなった内容です。この章では、山本五十六氏の言葉に紐づけながら、新人教育の現場でありがちな指導の失敗を解説します。

 

「やってみせる」でありがちな指導の失敗

「百聞は一見に如かず」という言葉があるように、どんなに整備された手順書を読ませても、人はやったことがない業務を想像することは難しいものです。従って、新人に仕事を教える際には、まず「見て覚えてもらう」ステップを欠かすことは出来ません。

 

いまの若者はYouTubeをはじめとする動画メディアに慣れ親しんで育ってきた世代です。その意味でも、「実際にやってみせる=動画」を見せることが教育には効果的です。ただし、「やってみせる」時に失敗を起こしやすいポイントが2つあります。

 

1つ目は、目的や全体像を説明しないことです。目的や全体像を伝えずにいきなり、やっている姿を見せても新人は吸収しにくいです。何のための仕事や作業で、なぜ大切なのか。そして、大まかにどんな順番で何をするのかを説明してから見せると、やってみせる効果が倍増します。

 

2つ目は、自己流のやり方を教えることです。自己流が必ずしも悪いとは思いません。基本となる型を身に付けたうえで、強みや特性に応じた自己流にアレンジすることは生産性アップに繋がります。しかし、新人にはまず基本となる型を教えることが大切です。新人の強みや特性が教える相手と一致するとは限りません。

 

伝統芸能の世界では習熟の順番を「守破離」と言い、型を身に付けたうえで型から飛び出すことを“型破り”、型を身に付けないまま外れてしまうことを“形無し”と呼びます。新人にはぜひ基本となる型を教えてあげてください。

 

 

「言ってきかせる」でありがちな指導の失敗

「新人メンバーにはきちんと教えているんですが、覚えが悪いんです」という声をOJTの指導者からはよく聞きます。しかし、丁寧に聞いてみたり、新人側からヒアリングしたりすると、「教える」ことが適切な「言ってきかせる」になっていないことは頻繁にあります。

 

最も多いのは、「あーしろ」「こーしろ」と指示することが「言ってきかせる」ことだと思っているケースです。「言ってきかせる」の本来の意味は、「やってみせる」ことで新人に成功事例をイメージさせたうえで、「やり方のポイントを解説し、実践するうえでの不安や疑問を解消する」ことです。細かく指示しているからと言って、「言ってきかせる」ことが出来ているとは限りません。

 

また、「言ってきかせる」というと教える側が主語のように見えますが、新人教育するうえで、一つ根本的なことをアドバイスするとすれば、「中心となるのは新人である」ということです。従って、教える側が教えやすいように、自分の感覚で言ってきかせてはいけません。新人が分かりやすいように言ってきかせることが大切です。

 

ある程度、論理的に整理して教える必要がありますし、相手の経験や知識に応じて例えや単語で説明することも大切です。新人の反応を見ながら、彼ら彼女らが受け取りやすい言葉を選んでいきましょう。

 

「させてみる」でありがちな指導の失敗

「させてみる」で一番ありがちな失敗は、「やってみせ、言ってきかせた」後に、すぐさせないことです。

人は実際に身体を動かして体験することで記憶の定着率が高くなります。「十分に理解したつもりであっても、いざやってみると教わったように出来ない」ことは、新しいものを覚える過程ではよくあることです。

 

また、昨今は新人が上司や指導者からの目を気にして、「分からない」と言わない傾向が強くなっています。

何が分かって何が分かっていないかを確認する意味でも、「教えたらすぐ実践させる」ことが理想です。説明だけで終わらせず、「実際に手を動かしてやらせてみる」ステップを必ず設けるようにしましょう。

 

コロナ禍以降、リモートワークの職場が増えた中で、新人教育もオンラインとなり、どうしても“させてみる”ことが減っている傾向があります。“教えっぱなし”にならないように注意しましょう。

 

 

「褒めてやる」でありがちな指導の失敗

ほとんどの人は、初めてのことに取り組む時、「本当にこれでいいだろうか」「これで正しいだろうか」と不安に思うものです。まして社会人となって新しい環境で、新しいことばかり学んでいる新人の内心は不安でいっぱいです。

 

そして、記事の冒頭でも紹介した通り、昨今の新人たちは「人からの評価を強く気にする」という傾向が強く、上司が思っている以上に「上司の目」「上司の評価」を気にしています。

 

初めてのことに取り組んだ新人たちのレベルは、合格ラインに届かないことも多いでしょう。その時に、いきなり「これとあれとそれが不合格。やり直して」と指導すると新人は委縮してしまいます。アドバイスするなら、「これとこれは合格ライン!これは合格ラインには届かないけど、先ほどよりも良くなった」と褒めてあげることです。

 

褒めるとは、合格ラインを下げる、妥協することではありません。

「褒める」ことの本質は、相手を肯定し、勇気付けて自信を持たせることで、現状の不足点や理想とのギャップを受け入れて改善する意欲に繋げることです。出来たこと、進歩や改善、意欲など、褒められるところをしっかり承認したうえで、改善点を絞り込んでアドバイスしましょう。

新人教育をする方へのアドバイス ~新人育成のコツ~

どうすれば新人は指導する側の期待に応え、成長してくれるでしょうか。新人教育で外してはならない大切なポイントと3つのアドバイスを紹介します。

 

 

新人育成で外してはならないポイント

新人教育で大事なポイントをまず1つお伝えすると、「上司や先輩の価値観ではなく、新人の価値観に寄り添う」ということです。

 

「まだ社会人としては未熟で、時にはビジネスパーソンとしてのマインドセットも出来ていない新人に迎合するのはおかしい」と思われる方もいるかもしれません。しかし、「新人の価値観に寄り添う」とは新人に迎合するわけではありません。新人を最短で成果を上げるビジネスパーソンに育てるためには、新人の価値観を踏まえた教育をする必要がある、というだけです。

 

基準を妥協する必要はありません。しかし、新人の価値観で受け取りやすいボールを投げなければ、教育効果は上がりません。教える側の価値観を一方的に押し付けるのではなく、新人の価値観を知ったうえで、指摘するべきことは冷静に指摘していきましょう。

 

 

新人に指示する/フィードバックする時のアドバイス

毎年1,000人近い新入社員の教育に携わっていると、今どきの新人たちの傾向や変化を感じられます。傾向や変化の中でも、指導する側が知っておいたほうがいいことは「褒められて伸びる」という傾向です。

 

記事の冒頭で紹介した通り、今どきの若者は人からの目を気にしますし、失敗することを恐れます。

従って、「失敗したな!」というフィードバックは新人にとっては一番嫌なフィードバックです。従って、「失敗したな!これを直さないと次も失敗するぞ!」という方向でアプローチすると、新人は心を閉ざしやすいです。感情的な“怒り”が加わるとなおさらです。

 

「褒めて伸ばす」と言っても、新人を大げさに褒めたり甘やかしたりするわけではありません。「褒めてやる」でありがちな指導の失敗という章で解説した通り、「これは合格点だ」「これは良くなった」「これは努力している」といった点を事実に基づいて具体的に褒めることが大切です。

 

そのうえでは、改善して欲しい点や指摘したいことは、一番改善したい一つに絞り込んでフィードバックしましょう。教える側としては、あれもこれも一気に修正したくなりますが、一気に細かくアドバイスしても、新人は消化しきれません。一つずつ修正するのが結局近道なのです。

 

また、指摘する時には「会社の常識だから」「こういうものだから」と一方的に押し付けるのではなく、「なぜこうするのか」「身に付けることであなたにどんなメリットがあるのか」「出来ないとあなたがどう困るのか」といった内容をしっかり伝えましょう。論理的に、かつ、自分事にさせることが大切です。

 

壁にぶつかっている新人と接する時のアドバイス

今どきの新人が持つ特徴として「自分で考えるよりも答えを探すことに慣れている」と紹介しました。新人たちは検索して答えを探すことには慣れていますが、新人たちがぶつかる壁の多くは感情的なものや答えがないものであるケースが多いでしょう。従って、探しても答えがない壁に対して、新人たちは昔以上に深く悩みます。

 

指導する側が30代や40代であるならば、指導者側が思っている以上に、新人は些細なことを「壁」と感じています。従って、指導するうえでは、新人たちを「自分で考えて決める」ことに導きつつも、一人で悩み続けたり、プレッシャーを感じ過ぎたりしないように配慮することが大切です。

 

新人が思考の沼にはまってしまわないように、例えば、「まずは自分で調べてみる/考えてみる」としつつも、「5分探して分からなかった時点で一度上司や先輩に質問する」といったルールを決めておくこともおすすめです。

また、壁を感じている新人から相談があった際、上司や先輩は壁の乗り越え方を教える以上に、「壁にぶつかるのは当たり前である」「壁にぶつかるのは、自分が前に進んでいるから」と言ったことを伝えることも大切です。

 

なお、新人たちは“壁を乗り越えた”経験を通じて、自分で考えたり挑戦していったりする習慣を身に付けていきます。従って、教える側としても「壁を乗り越える体験をさせる」ことは新人教育における重要なテーマです。実際には、都合よく乗り越えられる試練が訪れるわけではないので、新人たちに一皮むけさせる経験を演出することも求められます。

 

 

新人を叱る時のアドバイス

新人たちの特徴を踏まえると、「叱る」時のアプローチは注意が必要です。大手企業も簡単に倒産したり買収されたりすることを目の当たりにして育ってきた新人たちは高い成長意欲を持っていますが、「失敗を極端に恐れる」傾向も強いです。

 

従って、闇雲に叱ると、叱られたことを重く受け止めてしまい、新人たちが叱る前にも増して「いかに失敗しないように行動するか」を考えるようになってしまいます。もちろん仕事のミスは、事故や取引先への迷惑、また損失に繋がりますので、きちんと叱ることは当然です。

 

新人を指導する際は、「取り返しのつかないミスをしないように指導する」「成長させるために叱る」と同時に「失敗を恐れず挑戦することを教える」「積極的にチャレンジさせる」ことが重要で、両者をうまく舵取りをすることが求められます。

 

指導したり、叱ったりする時に大切なことは、「何をどう叱るか?」です。最悪な指導は「失敗した結果を相手の人格や考え方と紐づけて感情的に怒る」ことです。間違いなく新人は委縮するか、心のシャッターを閉ざしてしまいます。

 

叱る時は、「何のために叱るか?」「何を改善して欲しいか?」を冷静に指摘すると共に、「失敗したこと自体は問題ない」「成長や成功のためのプロセスである」ことを伝えましょう。

 

周りの目を気にする新人たちは「失敗は良くない」「格好悪い」と、指導する側が思っている以上に失敗に対する強い負のイメージあります。

 

「失敗すること」「叱られること」に対して強い負のイメージがあるという前提に立って、成長させるために必要な指導をしましょう。新人たちが不安に感じるのは、「ミスを厳しく叱られること」以上に「自分を否定・拒絶されること」です。指導する側は「相手を受け入れながら叱る」ことが大切です。

おわりに

新人教育のすべてが順風満帆に進むものではありません。個人の性格や能力にばらつきがあったり、指導が思うようにいかなかったりしてアドバイスが欲しくなることもあるでしょう。大切なことは新人たちの特徴と価値観を理解して、新人教育の原理原則に則って気負わずやっていくことです。

 

他人からの評価を気にする、考えるよりも答えを探す、失敗を極端に恐れるといった傾向を踏まえたうえで、新人たちの価値観に寄り添った指導をしていくことが大切です。

 

記事内では、新人教育のやり方をアドバイスするうえで、山本五十六氏の名言を紹介しました。「やってみせ、言ってきかせて、させてみて、褒めてやらねば、人は動かじ」という言葉は非常に有名ですが、じつはこの言葉には続きがあります

 

「話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば、人は育たず。

やっている、姿を感謝で、見守って、信頼せねば、人は実らず」

 

新人教育するうえで、「新人たちの価値観に寄り添う」というポイントがまさに表現されているように感じます。人に教えるうえでは、相手の立場や考え方を知り、尊重することが不可欠です。記事内で紹介した価値観や特徴はあくまでも一般論です。実際の現場では、新人一人ひとりに向き合って教育することが何より大切です。記事が参考になれば幸いです。

著者情報

東宮 美樹

株式会社ジェイック 執行役員

東宮 美樹

筑波大学第一学群社会学類を卒業後、ハウス食品株式会社に入社。営業職として勤務した後、HR企業に転職。約3,000人の求職者のカウンセリングを体験。2006年にジェイック入社「研修講師」としてのキャリアをスタート。コーチング研修や「7つの習慣®」研修をはじめ、新人・若手研修から管理職のトレーニングまで幅広い研修に登壇。2014年には前例のない「リピート率100%」を達成。2015年に社員教育事業の事業責任者に就任。

著書、登壇セミナー

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