新人教育でよくある5つの悩みと効果的な指導のコツ

更新:2023/07/28

作成:2021/04/02

東宮 美樹

東宮 美樹

株式会社ジェイック 執行役員

新人教育でよくある5つの悩みと効果的な指導のコツ

「新人が期待通りに成長しない」
「指導してもなかなか改善が見られない」
「行動や考え方を変えてくれない」

毎年のように生じる新人教育の悩みは、上司やOJT指導者の方であれば一度や二度ならず感じたことがあるのではないでしょうか。

記事では、新人教育に関連してよく相談される悩み5つを取り上げて、悩みの原因と解決策、指導のポイントを解説します。

 

<目次>

よくある悩み① 報告・連絡・相談(ホウレンソウ)が弱い、一人で抱え込んでしまう

相談や質問をためらう理由は、「遠慮」と「評価への不安」

新人たちの報告・連絡・相談(以下、報連相)に不満を感じる上司・先輩社員は少なくありません。しかし、ほとんどの会社では、新人教育で、報連相の重要性を教えています。では、なぜ新人たちの報連相は、上司や先輩の期待通りにならないのでしょう。

 

大きな原因は、先輩や上司への遠慮、そして、評価への不安があります。とくに近年では、“他人からの見られ方”に繊細な傾向が強まっており、評価への不安によって報連相がうまく出来ない新人が増えています。「こんなつまらない質問をしたらきっと怒られるだろう」、「こんなことを言ったら、出来ない奴だと思われるかもしれない」、「使えない奴と評価されてしまう」など、上司や先輩のネガティブな反応を想像してしまい、報連相をためらってしまうのです。

 

報連相が不足する状態は、上司や先輩も困りますが、新人たち自身にとっても成長機会や成果を上げるチャンスを失うことになります。従って、報連相の不足は新人のうちに改善しておくべき重要事項です。

 

 

指導のコツは、ルールと仕組みづくり

根底には、上司や先輩への「遠慮」がありますので、新人たちとの心理的な距離感を近づける、報連相しやすい環境をつくることは、まずポイントです。具体的には、下記の3つは必須事項です。

 

・良い報連相はしっかりと承認する⇒報連相の内容よりも、報連相のタイミングや質を褒めるほうが、“報連相の習慣化”には効果的です

・新人の報連相にしっかりと集中する

⇒パソコンを打ちながらなど、何かを“しながら”の対応は相手のやる気をそぎます。しっかりと手を止めて、相手に身体を向けて、報連相を聴きましょう

・ネガティブな報連相を怒らない

⇒悪い報告やネガティブな相談に怒ってしまうと、報連相の習慣化には逆効果です。新人の成長に向けて “言動”を叱ることは必要ですが、怒ってしまうと新人は報連相しにくくなります。

 

同時に、相談しやすい環境をつくるうえでは、“ルール”や“仕組みづくり”も有効です。報連相の実施を新人の“意識”などに依存するのではなく、仕組みにしてしまうのです。

 

たとえば、

・業務日誌や日報などに「報連相」の欄を設ける

・朝礼や夕礼などで報連相を確認する

・「自分で5分考えて/調べて分からなければ上司や先輩に確認する」ルールを決める

といったことです。

 

ルールや仕組みを決めてしまうことで、報連相を行う習慣が生まれます。加えて、報連相するタイミングが決まっていることで、事前に伝えるべきことを考えて整理する習慣が生まれます。

 

初めのうちはルールや仕組みで強制的に報連相を習慣化して、上司や先輩への報連相に馴れさせましょう。そして、日時の報連相タイミングなどのなかで、「急いで報連相すべきものと日報や朝礼のタイミングでいいもの」といった形で、報連相するタイミングを指導していくと良いでしょう。

 

 

よくある悩み② 教えたときは理解しているように見えるが、実際にやらせてみると分かっていない

情報収集が簡単なネット時代の傾向&「評価」を気にするいまどきの新人

いまの新人は、物心ついたときからネット環境が身近な世代です。とくに最近では、生まれてすぐのときからタブレットをおもちゃ代わりにして育っているのも当たり前です。従って、分からないことがあれば、スマートフォンで検索する、場合によってはスマートスピーカーでGoogleやSiriに質問するのが普通です。

 

分からないことが出てきたら、その場で調べられるITリテラシーを持っていることは新人世代の強みです。一方で、「その場で検索する/質問すればいい」という感覚は、新人指導のなかではネガティブに働くこともあります。というのは、“いつでも調べられる”感覚は、「教えてもらった場ですべて理解できなくてもいい」「何となく“分かった気”になりやすい」という志向にも繋がるからです。

 

加えて、先ほどの章で説明した通り、「分からないことを聞くと、出来ない奴と思われそう…」というSNS文化のなかで顕著になってきた心理もあります。

 

昨今の新人は教えたことに質問もなく、スッと飲み込んで、一見すると非常に物分かりが良いように見えます。しかし、「何となく理解すること」と「実際に出来ること」は大きく異なります。昔からの課題ですが、検索文化とネガティブ評価を恐れる心理の掛け合わせにより、「教えたときは分かったように見えたのに、やらせてみたら全然出来ない…」という声が最近増えています。

 

 

「復唱」により理解度を確認する

「理解する」と「出来る」の間にギャップが生じること自体は当たり前のことであり、完璧に防ぐことは困難です。どんな仕事も繰り返し「やる」ことで、「できる」ようになっていくものです。ただし、前述の通り、最近では「理解する」と「何となく理解する」の間でもギャップが生じやすくなっています。

 

「理解する」と「何となく理解する」のギャップを解消するうえでは、“復唱してもらう”ことが有効です。復唱することで相手の理解度を確認することが出来ますし、また、“事前に”復唱してもらうことを予告すると、相手の聴く態度も変わります。たとえば、「これから〇〇のやり方を説明します。説明が終わったら復唱してもらうので、しっかり聴いて、必要ならメモしてください」と最初に一言加える形です。

 

なお、補足ですが、「理解する」と「出来る」のギャップを素早く埋めていくためには、5ステップが基本となります。

 

  • 全体像や意味を伝える
  • やってみせる
  • 内容を説明する
  • 本人に経験させる
  • 評価・フィードバックを伝える

 

といった形です。詳細は下記の記事で説明していますので、ご興味あればご覧ください。

 

よくある悩み③ 目的や目標がなく、仕事のモチベーションが高まらない

目的・目標の意味付けやキャリア目標の欠如

入社して3ヶ月~半年ほどの時期になると、「成長に貪欲で日々の業務にもひたむきに取り組む人、反対にやる気のスイッチが入っておらず惰性で作業をこなしているように見える人・・・というように、新人たちの取り組み姿勢やモチベーションのバラつきが気になる」という声をよくいただきます。

 

新人に限ったことではありませんが、多くの場合、仕事に対するモチベーションは、「目的・目標に意味付けされているか?」、「自分のキャリアや成長と“目先の仕事”が紐づいているか?」といったところに左右されます。新人の場合、“そもそも働く目的・目標が見つかっていない”、“自分のキャリアや成長と仕事が紐づかない”といったことが多くなります。

 

 

新人の目標や目指すビジョンを把握して、仕事を紐づける

従って、新人教育においては、仕事の目的・目標の意味付け、仕事と得られるキャリアや成長の紐づけはとても大切です。

 

意味付けや紐づけする際に注意が必要なのは、「会社のミッションやビジョン」「上司が考えるキャリア像ややりがい」と、本人が価値を感じるものが一致するとは限らないということです。たとえば、頑張って働く目的として「成果を上げて給料や地位が上がる」ことに価値を感じる人もいますが、最近の新人は以前ほど給与や地位にモチベーションを感じない傾向もあります。10年前と比べると、「市場で通用する実力をつけたい」、「プライベートの時間を大切にしたい」といったことに価値を感じる傾向も強くなっています。

 

従って、上司や先輩は、「新人の目標やビジョンを知る」、場合によっては「一緒に見出す」ことが大切です。繰り返しになりますが、新人の場合、まだ目標やビジョン、仕事における価値観が明確になっていない場合もあります。その場合には、新人との会話のなかで提案していくようなことも必要です。

 

そして、新人の目標やビジョンを知ったら、目標やビジョンに紐づけて意味付けをしていきましょう。たとえば「将来独立したい」という目標を持っている新人に対しては、「頑張れば給料が上がるから、一緒に頑張ろう」と伝えるよりも、「この仕事をやり切れば、○○の知識が身につくから、きっと独立したときにも役立つよ」と伝えたほうが、動機づけしやすいでしょう。相手の目標や目指すビジョンを把握する、共に見出すことが、仕事に意味付けして、相手の本気を引き出す第一歩となります。

 

よくある悩み④ 挑戦させたいが、「プレッシャー」に感じてしまう

プレッシャーの原因は「できない自分」になることへの不安

新人が配属されてしばらく経つと、素直に吸収して努力する新人が分かってきます。成長意欲が高い新人は、少し難しい仕事にも挑戦してもらい、どんどん成長して欲しいと思うのが上司や先輩の親心です。そして、期待を込めて、少しレベルが高い仕事、新しい仕事をアテンドしていきます。

 

しかし、挑戦的な仕事のアテンドが、新人に「プレッシャー」を感じさせてしまい、精神的に潰れそうになる…といったことも新人育成の現場では生じます。残念ながら、うまく期待が伝わっていない、期待を受け止められていない状態です。

 

入社して間もない新人から見ると、上司や先輩はたくさんの知識や経験を持ち、いろいろなことが出来る人です。そして、上司や先輩と良好な人間関係が出来ているほど、新人には相手から「ダメな奴だと思われたくない」という心理も生じます。前の章で説明した通り、近年では「周囲からどう思われるか?」に対して、敏感になっている傾向があります。

難しい仕事をアテンドされて、「失敗したらどうしようか」、「分からないことが多いけど、質問したら“出来ない”と思われるんじゃないか」という不安がプレッシャーに繋がるのです。

 

 

挑戦させる理由と失敗談を共有する

上司の期待が裏目に出ないためにはどうすればいいでしょうか。大事なことは、「〇〇さんに、成長して欲しいと思っているから、まだやったことがないけど、この仕事を挑戦してもらっているんだ」というように、相手への期待を伝えたうえで、その仕事にチャレンジしてもらうことです。

 

そのうえで、「…とはいえ、今回の仕事は初めての仕事だから、失敗することもあるかもしれない。○○さんが失敗しても別に評価を落とすことはないし、○○さんが経験して成長することに価値があると思っている。私が失敗はカバーできるし、責任も私が取るので大丈夫」と、失敗しても大丈夫であることを伝えましょう。

 

そして、教える上司や先輩自身の失敗体験も一緒に伝えるとより良いでしょう。自分自身も失敗しながら成長したことを伝えると、新人も新しい仕事やチャレンジングな仕事に安心して挑戦しやすくなります。

 

 

よくある悩み⑤ 不注意で何度も同じ間違いをする

不注意や同じ間違いが起きる2つの理由

仕事を任せたら重要な数字を誤って入力する、アポ日程を勘違いしたりダブルブッキングしたりする、重要書類を紛失する…など、ミスの絶えない新人に頭を悩ませる上司や先輩の方も多いでしょう

 

いままでマネジメントや社員教育に携わってきたなかで、不注意やケアレスミスは正直なところ、個人の性格に依存する部分もあります。ただし、性格特性に拍車をかけて、不注意を引き起こす原因は大きくは、

 

・重要性を理解していない

・段取りが頭に入っていない

 

という2つの理由があります。

 

 

重要性を理解させたうえで「ダブルチェック」等を仕組み化する

理由が大きく2つに大別されますので、対策も大きくは2つに分けられます。

 

まず「重要性を理解できていない」という場合の指導のポイントは、仕事の重要性やミスの深刻さを、新人に理解させることです。ミスすることによって引き起こされるトラブル、仕事の目的やゴール、顧客にかかる迷惑や失われる価値などについて、重要性や深刻さをしっかりと伝えて、理解させましょう。一回言ってすぐ分かるものではありませんので、上司や先輩のほうが嫌になるぐらい繰り返し伝える必要があるでしょう。

 

繰り返し伝えるのは、非常にまわりくどい手段のように思われるかもしれませんが、仕事に対して目的や意味付けがされず、“作業”になってしまうと、本人にミスをなくそうという意識が働きません。それでは、どれだけ知識の教育やダブルチェックの仕組みを導入しても効果は薄れてしまいます。手間はかかりますが、しっかりと仕事への姿勢、認識を正す必要があります。

 

不注意や同じミスを繰り返す理由の2つ目、「段取りが頭に入っていない」場合、指導ポイントは仕組み化です。仕事上で同じミスを繰り返してしまう場合、段取りが頭に入っていない、ミスを起こしやすい部分が分かっていない、本人の性格や注意力の問題といった要因があります。

 

個人の能力や性格差もあるので、解決策を“注意力”や“意識”に求めるのではなく、“仕組み”に求めることが得策です。具体的には、ミスが起こりやすい箇所への注意喚起の仕組み、本人によるダブルチェック、他人によるダブルチェック等です。仕組みによるミスの防止や改善は、製造工場や交通機関などでの取り組みが非常に参考になります。

 

指導する側として、ミスを起こす新人に対しては、どうしても感情的に苛立つ部分もあるかもしれません。自分自身で自覚して修正して欲しい思う気持ちもあるでしょう。多忙ななかで、ミスを繰り返す新人に時間を割いて、重要性を繰り返し説明したり、ミスを起こさないための仕組みを一緒につくったりすることは大変だと感じるかもしれません。しかし、粘り強く指導することが、仕事の質を向上させるカギになりますので、ぜひ気長に取り組んでください。

 

おわりに

記事では、新人を教育する上司や先輩からよくいただく5つの悩みと指導ポイントについて紹介しました。

  • 連絡・相談(ホウレンソウ)が弱い、一人で抱え込んでしまう
  • 教えたときは理解しているように見えるが、実際にやらせてみると分かっていない
  • 目的や目標がなく、仕事のモチベーションが高まらない
  • 挑戦させたいが、「プレッシャー」に感じてしまう
  • 不注意で何度も同じ間違いをする

人の成長には時間がかかるものです。スッと期待通りに成長してくれる時期が、期待通りに成長せずに足踏みする時期もあります。新人の教育にあたる上司・先輩としては、感情が波立つときも多々ありますが、自らのマネジメントスキルの向上機会と捉えて気長に取り組むことをおすすめします。

 

多くの場合、新人教育の悩みは、原因を把握して適切な指導を行っていけば、いずれ解消されるものです。今回の記事が新人教育の参考になれば幸いです。

著者情報

東宮 美樹

株式会社ジェイック 執行役員

東宮 美樹

筑波大学第一学群社会学類を卒業後、ハウス食品株式会社に入社。営業職として勤務した後、HR企業に転職。約3,000人の求職者のカウンセリングを体験。2006年にジェイック入社「研修講師」としてのキャリアをスタート。コーチング研修や「7つの習慣®」研修をはじめ、新人・若手研修から管理職のトレーニングまで幅広い研修に登壇。2014年には前例のない「リピート率100%」を達成。2015年に社員教育事業の事業責任者に就任。

著書、登壇セミナー

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