企業の成長や事業計画の推進には、従業員のスキルアップが不可欠です。人材育成や社内研修にもさまざまな種類がありますが、従業員のスキルアップを目的にした研修は「業務研修」と呼ばれます。
本記事では、研修会社としての経験を踏まえて、業務研修の種類や実施プロセス、効果性を高めるためのポイントを紹介します。
<目次>
業務研修とは?
本章では、業務研修はどのような研修を指すのか、そもそも“業務”とは何か、業務研修の目的が何かといった基本を確認します。
業務研修とは?
業務研修とは、業務を行っていく上で必要となる知識や技術を習得するための研修です。企業が生産性を高めていくためには、従業員のレベルアップが欠かせません。
企業が行う研修にはいくつか種類がありますが、業務研修はMVVの浸透やチームビルディングなどではなく、「業務知識の習得」「業務レベルの向上」にフォーカスした研修のことをいいます。
「業務」「仕事」「作業」の違い
そもそも“業務”とは何を指すのでしょうか? 日頃は「仕事」「業務」「作業」という3つの言葉をあまり明確に使い分けないことが多いですが、業務研修の目的を考える上で、3つの違いを確認しておきます。
まず仕事は「与えられたミッションとゴールを達成するための活動全体」を指すものです。そして、業務とは「仕事を果たすために行ういくつかの作業を組み合わせた一連の流れ」を指します。最後に、「作業は業務を構成する一つ一つの小さなプロセス」です。
営業職を例に考えてみると、「顧客の課題に対して解決策を提案して売上をあげる」ことが仕事であり、業務は「新規商談において信頼関係を構築。顧客の課題や実現したいことを把握して、詳細提案の機会をもらう」ことなどです。
そして、作業に「新規商談前に、自社データベースと企業HPで顧客情報を検索する」「仮説に基づいて必要な資料を準備する」「商談の冒頭でアイスブレイクを実施する」といったことが入ってくるイメージです。
業務研修の目的
業務研修の目的は、仕事で成果を上げられるように、業務のやり方を身につけること、また、特定の業務のレベルを向上させることです。業務の流れと業務に含まれている作業、作業の実務を理解して、それらを効率的に、また、状況に合わせて行えるように技術を習得することがゴールです。
業務研修のメリットと留意点
業務研修を実施することでどのようなメリットがあるのか、また実施する際にはどのような点に注意する必要があるかを確認します。
業務研修のメリット
業務研修を行うことで、スキルや知識を向上させることができ、業務を効率的に行えるようになる、成果を向上させる効果が期待できます。
現場での実務だけで学ぶのではなく、業務研修と現場の実務をうまく組み合わせることで戦力化また、成長速度が早まります。
業務研修の留意点
業務研修を実施するためには、社内で準備をしたり、参加者のスケジュール調整をしたりといった一定の工数がかかります。また、外部講師や研修会社に依頼する場合にはコストも生じます。
また、研修の参加時間分、参加者の業務時間は減ることにもなります。費用が生じるわけではありませんが、機会損失が生まれることになります。きちんと準備しないと、費用をかけて機会損失を生み出すことになりかねない、ということを十分留意しておく必要があります。
形式による業務研修の種類
業務研修は実施形式によって3つに分類することができます。それぞれを紹介します。
OJT(On the Job Training)
従業員が実際に働いている現場で、実務をしながら実施する研修がOJT(On the Job Training)です。上司や先輩が、随時指導・アドバイスを行います。OJTは、それぞれの現場、また相手の習得スピードに合わせた指導ができますし、実務に即したノウハウを身に付けていけることが出来るのが特徴です。
ただし、指導する側に一定の負担が生じる、また、指導者の力量によって成長速度のばらつきが生じます。また、その場での指導になるため、体系的な知識やスキルの習得がなされず、応用が効きづらくなるような側面もあります。OJTは、Off-JTやe-ラーニングと組み合わせて実施することがお勧めです。
Off-JT
Off-JTとは実務の現場から一時的に離れて実施する行う研修です。座学などのイメージもあるかもしれませんが、実務から離れて実施するロールプレイングやグループワーク、事例共有会などもOff-JTの一種だといえるでしょう。
Off-JTは、実務から切り離して実施するからこそ、研修の目的やゴールに合わせてプログラムを組んで進めていけることが特徴です。全体像を理解する、体系的な知識をインプットする、特定の業務スキルを集中的に習得するといったことに向いています。
e-ラーニング
e-ラーニングは、Off-JTの一種ですが、動画などを使ってオンラインで学習する研修のやり方のことです。動画は一方的なインプットになってしまいますが、スマートフォンでも閲覧できる、いつでもどこでも学べるという大きなメリットがあります。
昔から、多店舗展開している飲食店や小売店などで、アルバイト、パートスタッフなど向けの業務マニュアルをオンライン化・動画化するといった形でよく取り入れられてきました。
最近ではリモートワークやオンライン研修が増えるなかで、オンラインでのOff-JTなどを録画して、参加できなかった人に公開するようなやり方も多くなっています。
対象やテーマによる業務研修の種類
業務研修は対象やテーマによって分類することも可能です。大きな4つの種類を見ていきましょう。なお、OJTとOff-JTという区分もどちらに入るか微妙な研修形式があるように、対象やテーマによる分類は、いわゆるMECE(漏れなくダブりなく)できれいに区分するものではありません。自社に必要な業務研修を考えるヒント、という程度でご覧ください。
階層別研修
新入社員研修、若手研修、管理職研修など、各階層で必要な業務スキルを学ぶ研修のことです。
新入社員研修や新任管理職研修など、新たにその階層に入ってきた人を対象とする場合は、階層で必要な業務スキルを網羅的に学んでいく形になります。
また、例えば、中堅社員の中でも“管理職候補”だけを選抜して実施したり、“管理職になって数年のメンバーを対象として自己革新研修”を実施したりといった形で、各階層を更に細かに区分して実施する階層別研修もあります。細かくセグメントして実施する場合は、後述するスキル研修やテーマ別研修とも重なることが多いでしょう。
職種別研修
営業、企画、開発、人事、生産管理など、各職種の仕事内容に合わせた業務研修です。業務研修は、当然“業務”スキルを身に付けるためのものですので、組織内の役割分担、つまり職種に応じて実施されるものが多くなります。
職種別研修も、階層別研修と同様に、新規で配属された人材向けの網羅的な内容と、各職種における特定業務だけを切り出して実施するような研修があります。
スキル研修
「階層別研修」「職種別研修」でも述べたように、各階層や職種で実施する特定業務、また、そこで必要なスキルにフォーカスした研修のことです。
たとえば、管理職であれば「コーチング研修」「評価者研修」、営業職であれば「クロージング研修」「ソーシャルスタイル研修」といったものがスキル研修に該当します。
テーマ別研修
テーマ別研修は階層や職種を横断して必要となる業務に関連した研修のことです。スキル研修の一種ともいえるでしょう。ハラスメント研修やPマーク研修、インサイダー取引に関する研修など、コンプライアンス関連のものが多く見られます。
なお、業務研修には入りませんが、ミッションビジョンバリューの浸透を目的とした研修、チームビルディングのための研修、キャリア研修などもテーマ別研修の一種と言えます。
業務研修の実施プロセス
業務研修を企画・実施する際の流れを簡単に紹介します。
①目的と対象者の設定
組織の課題を踏まえて、生産性を向上させたい業務、従業員に足りていないスキルや持つべき能力などを特定して、研修の目的や方向性を検討します。目的や方向性を検討する際、同時に、研修の対象者についても考えていくことになるでしょう。
②研修内容の準備
研修の目的や方向性、ターゲットが決まったら具体的な研修内容を企画していきます。具体的には、下記のような項目を検討していくことになります。
- 研修のゴール(終わったときに、参加者はどんな状態になっているか)
- 研修の実施方法
- 研修の実施期間と日程
- 研修のタイムテーブル
- 各カリキュラムの詳細
③研修の実施
実施計画に基づいて、研修資料を準備したり、参加者への案内を送ったり、実施準備をして当日を迎えます。
なお、研修効果の4割は参加者の参加姿勢や事前準備、そして、もう4割は研修後に職場実践するためのアフターフォローにかかっているともいわれます。研修当日の準備をすることはもちろんですが、「どんな状態で研修に参加してもらうか?」「そのためにどんな働きかけをするか?」、そして、「研修後に職場で何を実践してもらうか?」「どうやって実践率を高めるか?」といった事前・事後の企画と実施まで含めて“研修の実施”だと捉えましょう。
④振り返り
研修の実施後はやりっぱなしにせず、研修の振り返りを実施しましょう。前述したように研修を実施するにはそれなりの費用(工数)がかかります。実施した価値があったか、どこを改善すべきか、きちんと振り返ることが大切です。
振り返りをする際には研修当日のアンケートも有効ですが、研修を実施してからしばらくたってからのアンケートや実践度の測定、派遣者へのヒアリングなども効果的です。
効果的な業務研修を行うためのポイント
業務研修を効果的なものにしていくために押さえておくべきポイントにはどのような点があるでしょうか。
目的とゴールの明確化
研修を効果的なものにするためには、目的やゴールを明確にすることが大切です。「誰のどんな業務スキルを、どういうレベルにするのか」「職場でどのような実践をするのか」というゴールを具体的にすることが重要です。
目的やゴールが曖昧なまま研修内容を設定すると、研修内容も曖昧で、何となく必要そうな内容を羅列したものになりかねません。「何を実現するのか」を明確にして、研修内容を決めていきましょう。
受講者の選定
研修目的を踏まえて参加者をしっかり考えて選定することも重要です。
Off-JTの場合、実施する側の都合で「どうせ実施するならなるべく多くの人に参加してもらった方が効率的」と考えてしまうこともあります。しかし、参加者を拡げると、実施している業務が異なる、現在の業務スキルも違うといった状態になり、研修内容が抽象化・一般化して研修効果が薄まりますので注意が必要です。
研修内での交流やチームビルディングなどを抜きにして業務スキルの向上だけを考えれば、なるべく同じ業務内容、同じ業務スキルや課題を抱えた人に絞り込むことが効果的な業務研修を実施するポイントです。
アフターフォロー
業務研修の目的は、業務スキルを習得して成果を向上する、生産性を向上させることです。従って、コンプライアンス研修や新任者研修などの基本知識やスキルを習得させるもの以外は、基本的には現状からの変化「行動変容」を起こすことが目的になります。
研修の結果として、どのような行動変容を起こすのかを明確にする。そして、研修がやりっぱなしにならないように、現場での行動変容までをきちんとフォローすることが重要です。
オンラインでの業務研修
かつて集合研修は会場に集まって対面で行うのが当たり前でしたが、コロナ禍を経て、オンライン研修も大幅に増えました。オンラインでの業務研修について、メリットやデメリット、ポイントを簡単に見ていきましょう。
オンライン研修のメリット・デメリット
オンラインの一番のメリットは、コストがかからない点です。会場費などのコストもありますが、拠点展開している企業になると、コスト削減で一番大きいのは旅費交通費と移動時間です。
例えば、全国展開している企業で対面での集合研修をやろうとすると、旅費交通費も大きなものになりますし、各地から本社などへ移動する場合、前日や翌日の業務に影響が出るケースもあるでしょう。
しかし、オンライン研修であれば、費用・工数が生じない分、日程調整もしやすく、繰り返し実施することも可能です。例えば、1日研修を1回やるのではなく、2時間の研修を4回やり、研修と研修の間で実践していく方が研修の効果性は高くなります。
また、場所にとらわれることがないからこそ、遠隔地で働く従業員にも学ぶ機会を平等に提供し、生産性の向上を図る機会となります。
一方で、対面での実施ほど反応や意欲を掴みにくいというデメリットがあります。また、リアルな実技をすることは難しいでしょう。業務自体が対面でやっているという場合などは、デメリットが大きくなる側面があるでしょう。
オンライン研修のメリット・デメリットを把握して、対面研修とオンライン研修をうまく組み合わせることが重要です。
オンライン研修の種類
オンライン研修といわれるものの種類をいくつか紹介します。
① オンライン研修
一般にオンライン研修といわれるものはWeb会議ツールなどを使って行うものです。講師の資料共有はもちろん、対面研修と同じく、双方向でコミュニケーションを取りながら進めます。オンライン研修で使われるツールの大半は、オンラインでグループワークを行うことも可能です。
② ウェビナー・講演
オンライン研修は、ウェビナーや講演形式で実施することもできます。ウェビナーや講演は、一方的な発信になりがちですが、スマートフォン等からでも参加できるので、全スタッフに一斉に知識を共有する、メッセージを届けるなどには有益です。
ただし、一方的な情報提供の多くは、e-ラーニングで実施できることも多いでしょう。時間を同期してリアルタイムで行う意味があるかは十分に検討する必要もあるでしょう。
③ e-ラーニング
主に動画を使った学習形式です。前述した通り、いつでもどこでも見れることがe-ラーニングの強みです。オンライン研修やウェビナーが普及したことで、それらを録画してe-ラーニングとして活用することも容易になっています。
また、schooなどをはじめ、法人向けのe-ラーニングを提供している会社も多数ありますので、内製するものと組み合わせてうまく活用すると効果的でしょう。
外部研修の選び方
社内に十分な知見がないテーマや講師の適任者がいない場合は、業務研修を外部の研修会社に依頼することも有効な選択肢です。費用は生じますが、社内にないノウハウを取り込んでレベルアップする、プロの品質で提供される研修を利用できるといったメリットがあります。本章では、外部研修を選ぶ際の視点に関して、4つのポイントを溶解しておきます。
実績・得意分野
研修会社には、それぞれ得意なテーマや分野があります。各社の情報を収集して、過去の実績も踏まえて、その研修会社、また講師が自社のニーズに適しているかどうかを見ていきましょう。
講義の質
研修会社側でカリキュラムや投影資料などを整えていたとしても、研修の効果は講師の力量で大きく変わってきます。カリキュラムや投影資料を見せてもらうことはもちろんですが、研修会社をある程度絞り込んだあとは、登壇してもらえる講師と会う、動画などのサンプルをもらうなどもすることがお勧めです。
カスタマイズの柔軟性
業務研修の場合、自社の業界、業務内容に合わせてカスタマイズしてくれるかも大切になってきます。公開研修に社員を派遣する場合は、カスタマイズは出来ませんが、講師派遣(インハウス)の場合は、プログラム内容、使う用語や事例などを、自社に合わせてくれるかで研修効果に差が出てきます。こうした対応が可能かどうか確認することも大切です。
コスト
研修は安ければいいわけではありません。予算と内容、効果のバランスがとれているかをしっかりと確認しておく必要があります。
まとめ
各社で様々な形で業務研修が行われていますが、これまでの研修を踏襲しているだけになって今ひとつ効果が感じられないといったケースも少なくありません。
自社の現状課題や業務に必要な知識・スキルを見つめ直し、どのような研修を実施していくと効果があるか、改めて考えていくことが大切です。