キャリアラダーとは?|導入のメリット・デメリットや導入手順、事例を紹介

更新:2024/09/21

作成:2022/12/15

東宮 美樹

東宮 美樹

株式会社ジェイック 執行役員

キャリアラダーとは?|導入のメリット・デメリットや導入手順、事例を紹介

従業員の成長やキャリアアップなど、人材育成の仕組みに悩んでいる人事や経営陣の方は多いでしょう。

 

従業員の育成をスムーズに進める仕組みのひとつが「キャリアラダー」です。

 

キャリアラダーを設定することで、キャリアアップのためにやるべきこと、身に付けるべきスキルが明確になり、従業員の自発的な行動を促せますし、人材育成もやりやすくなります。

 

本記事では、キャリアラダーの概要や導入のメリット・デメリットを紹介します。実際の導入事例についても紹介しているので、従業員の人材育成にお悩みの方は、ぜひご一読ください。

<目次>

キャリアラダーとは?

まずはキャリアラダーの概要について紹介します。キャリアラダーと近い概念でもある「キャリアパス」との違いについても説明しておきます。

 

キャリアラダーの概要

キャリアラダーとは、従業員のキャリアアップを促すキャリア開発プランのことです。

 

キャリアラダーは、「ラダー(梯子)」のようにキャリアアップのプロセスを、いくつかのステップに区切り、各ステップの職務内容や必要なスキルなどを明確にしたものです。

 

従業員にとっては、自分が次のステップに進む上で身に付けるべき能力、果たすべき役割が見えるようになり、意欲的に業務や自己開発に取り組めるようになります。

 

指導する側も「何を身に付けて欲しいか」「何が身に付ければ昇格の推薦ができるか」といったことが明確になり、人材育成しやすくなります。

 

キャリアパスとの違い

キャリアラダーと似た言葉に「キャリアパス」が挙げられます。キャリアラダーとキャリアパスの違いは以下の通りです。

キャリアラダー

⇒職種内でレベルアップするための成長のステップ

キャリアパス

⇒職種間異動も含めた昇進までの経路

総合職などで役員などに昇進するまでの道筋、また、「総合職コース」と「専門職コース」などのキャリアに関する流れを示したものがキャリアパス、もう少し細かく各専門職や職種のなかで昇格していくために必要なステップを示したものがキャリアラダーです。

キャリアラダーを導入する2つのメリット

キャリアラダーを導入するメリットは、従業員のモチベーションUPに繋げられたり、社内の教育制度を標準化できたりすることです。

 

それぞれのメリットを詳しく解説します。

 

1.従業員のモチベーションUP

キャリアラダーを導入することで、従業員から見てステップアップや昇格のために必要なことが分かりやすくなります。

 

繰り返しになりますが、キャリアラダーを導入することで、社員それぞれが次のステップに向けて身に付けるべき能力や積むべき経験を自覚できるようになります。

 

昇格に向けた目標や道筋が明確になればモチベーションも上がりますし、成長に向けた努力もしやすくなります。

 

また自社内でのキャリア構築も考えやすくなり、離職防止にも効果があるでしょう。

 

2.育成の標準化

キャリアラダーは、求める業務遂行のレベルや必要な能力をステップごとに決めたものですので、社内の人材育成を標準化することにもつながります。

 

本人の自助努力を促すことにもなりますし、同時に、上司にとって人材育成しやすくなります。

 

キャリアラダーに限らず人材育成や昇格推薦に関する目安が定まっていないと、指導者の裁量や感覚に依存して、人材育成のレベルがばらつきます。

 

特に昇進推薦の基準がばらついていると従業員から不満が出てしまい、モチベーションの低下や不満にも繋がりかねません。

キャリアラダーを導入するデメリットや注意点

キャリアラダーを導入することで社内教育をスムーズに進められます。

 

しかし、導入プロセスや運用する上では、以下のようなデメリットや注意点も押さえておくことが大切です。

  • 1.導入までの時間と手間
  • 2.構築が難しい職種もある

 

1.導入までの時間と手間

キャリアラダーは導入までに一定の時間や手間がかかります。

 

キャリアラダーを構築するにあたって、ステップごとに求める業務レベルやスキルを決める必要があります。

 

誰かが勝手に決めてしまえば早いですが、そんなわけにはいきませんので、各部門のマネジメントメンバーを巻き込んですり合わせていく必要があります。

 

同じ職種であっても、仕事内容が微妙に異なることはよくありますし、組織編成によって同じ職位でも求める仕事が変わることもあるでしょう。

 

また、キャリアラダーを構築する過程では、評価体系や報酬制度ときちんと整合性が取れているかも確認する必要があります。

 

場合によっては、評価体系や報酬制度を修正する必要もあるかもしれません。

 

評価体系や報酬制度を触る場合には、切り替えのタイミングを計ったり、変更で不利益を被る人がいないかを確認したり、実際に評価してみて基準が妥当かを検証したりする等、更に多くの手間がかかります。

 

このように全社的にキャリアラダーを導入するとなると、運用開始までに時間を要することは理解しておく必要があります。

 

2.構築が難しい職種もある

キャリアラダーは業務スキルに基づいてキャリアアップを図るプランであるため、職種によっては構築が難しいことがあります。

 

キャリアラダーの導入に適している職種は看護師や介護士など、専門性が高く、かつ職種間の異動の少ない業務です。

 

一方で、職種間異動が多い文系総合職の場合、同じ職位でも部門や職種によって、求められる仕事内容やスキルが大きく変わってくるため、キャリアラダーを構築する難易度があがります。

 

人材育成に役立つ手法はキャリアラダーだけではありませんので、キャリアマップや昇格推薦基準の言語化など、キャリアラダーだけに囚われず、柔軟に取り組んでいくと良いでしょう。

キャリアラダーの導入と運用の5ステップ

キャリアラダーを導入および運用するまでの手順は、以下の5ステップで考えることがお勧めです。ステップ毎に詳しく紹介します。

  • 1.キャリアステップを設定する
  • 2.評価システムを構築・整備する
  • 3.教育研修制度を整備する
  • 4.面談・マネジメントで活用する
  • 5.効果を検証する

 

1.キャリアステップを設定する

まずは対象となる職種におけるキャリアアップのステップを設定しましょう。各ステップの業務内容を定義して、必要なスキルや知識、経験を洗い出してみてください。

 

この段階で設定するステップは、骨組み程度で構いません。大まかにでも、該当職種でのキャリアアップイメージを思い描きながら、構築していきましょう。

 

2.評価システムを構築・整備する

1.で構築したキャリアステップを元に、評価システムを構築・整備していきます。

 

評価システムとは、具体的に必要な能力を定義して、どういうレベルや基準で評価するかということです。

 

評価システムを構築・整備する際は、人事制度や報酬体系との整合性も考えておく必要があります。とくに昇格推薦の基準とは密接につながってきます。

 

実際にキャリアラダーの対象となるメンバーの名前を具体的に書き出し、当てはめながら調整していくと決めやすいでしょう。

 

3.教育研修を整備する

作成したキャリアラダーに基づいて、ステップアップに必要な教育研修を整備する作業に入ります。

 

ステップごとに必要な知識やスキルを身に付ける機会を提供するひとつが教育研修です。

 

研修だけでなく資格取得支援など、社員が各自で学び、身につける仕組みを作れればスムーズに運用できるでしょう。

 

また、当然ですが、求められる職務内容を出来るようになる、スキルを身に付けることは教育研修だけでは足りません。

 

次に紹介する面談・マネジメントを通して、実務での経験機会をどう作るかを設定していきましょう。

 

4.面談・マネジメントで活用する

作成したキャリアラダーや研修計画などを評価対象者へ共有しながら、現場のマネジメントや面談の場で活用していきましょう。

 

前述の通り、スキルはOff-JTの研修や学習だけで身につくものではありません。

 

従って、日常業務の中で上司がキャリアラダーに基づいてメンバーの成長を支援することが大切です。

 

キャリアラダーに基づいて現状へのフィードバックやキャリアアップのアドバイスを通じて成長テーマを明確化する、また、実務における成長機会を提供することが大切です。

 

5.効果を検証する

キャリアラダーを導入して一定期間が経過したら、効果の検証を行いましょう。

 

効果検証の際に振り返るべきポイントは、以下の4つです。

  • ステップ設計が実情と合っていたか?
  • 人材育成に役立っているか?
  • 運用はスムーズか?手間がかかったり不明瞭だったりする点はないか?
  • 個々の社員にとって自身の成長テーマは明確になっているか?

効果が薄い、不都合があると感じる項目があれば、原因を突き詰めて改善していきましょう。

 

キャリアラダーをより良いものにするには、実際に運用しながら改善を繰り返していくことが大切です。現場社員の声も聴きながらブラッシュアップしていきましょう。

【業種別】キャリアラダーの導入事例4選

最後にキャリアラダーを実際に導入・運用している事例を4つの職種で紹介します。

 

看護職|香川県立中央病院の場合

看護師はキャリアラダーを導入しやすい職種の1つです。香川県立中央病院の場合、キャリアラダーを以下5つのステップに分けて運用しています。

キャリアラダー|香川県立中央病院
画像引用:キャリアラダー|香川県立中央病院

 

香川県立中央病院のキャリアラダーは、看護師それぞれの役割を職務内容だけでなく、社会ニーズに応えられるように設定しています。

 

キャリアラダーの上層へ行くほど、病院の枠組みを越えた広い視点が求められることも特徴の1つです。

 

保健師|岡山県職員保健師の場合

岡山県職員保健師では“すべての県民が明るい笑顔で暮らす『生き活き岡山の実現』の実現”というミッションの実現に向けてキャリアラダーが組まれています。

 

県職員という立場もあり、保健師としての専門スキルだけでなく「地域社会への貢献度」が組み込まれていることが大きな特徴です。

 

介護士|豊川青山病院の場合

介護職でも多くの企業がキャリアラダーを取り入れており、愛知県にある「豊川青山病院」では以下のように設定されています。

キャリアラダー|豊川青山病院
画像引用:キャリアラダー|豊川青山病院

 

介護士としてのスキルやノウハウだけでなく、上層へ行くごとに新人教育や院内の改善案など、広い視野でみることが求められます。

 

エンジニア|株式会社メルカリの場合

キャリアラダーは看護や福祉領域だけでなく、一般企業でエンジニアなどを対象に取り入れる事例も増えています。

 

たとえば、株式会社メルカリでは強いカルチャーを作ることを目的に、エンジニア向けのキャリアラダー「Engineering Ladder」を設定しています。

 

メルカリの3つのバリュー(Go Bold, All for One, Be a Pro)からつくられた6つの項目ごとに、エンジニアの成長段階に応じて期待される行動が定義されています。

 

具体的には、MG1~MG6というレベルに応じて、下記6項目で求める行動が定義されて、かつ公開されています。

  • Bold Challenges
  • Vision
  • Priorities / Direction
  • Teamwork
  • Ownership
  • Expertise

例えば、Expertiseの領域では、MG1であれば、

業務に関連する技術的な知識やスキルを、周囲の手助けを得ながら学び実践している。 例:開発言語、フレームワーク、テスト、デバッグ、可読性の高いコードの書き方など周囲の手助けを得ながら、チームのコーディングガイドラインや基準に従い、テスト容易性、可読性、エッジケース、エラーを意識しながらコードを書いている。 コードレビューで指摘された内容を理解し、リリースプロセスを理解・実行している。

自分のプラットフォームの開発言語、フレームワーク、ライブラリ、ドメインに関する基礎知識があり、周りの手助けを得ながら、インターフェースの互換性や拡張性を考慮した上で小さい機能の設計をしている。

MG6であれば、

専門家レベルの技術や最先端の研究など、自分の役割の範囲に限らず、新しいことを学び実践している。グループのエンジニアに技術情報の発信を促進し、その模範となる行動をしている。特定の分野のコーディングにおいて、エキスパートとして周囲から認められている。カンパニーを超えてコードレビューや体系的なデバッグに関する基準を定めたり、コーディングの問題解決や難易度の高いリリースに関して助言をしている。

アーキテクトとしてグループ内で幅広く認知されており、ソフトウェアデザインのエキスパートである。幅広い知識と視野をもち、複数グループをまたぐ開発の設計や改善をリードしている。

[Engineering Manager Skills]

自己研鑽の時間をグループ内のエンジニアの文化として確保している。

長期のビジョン設定や、戦略策定、長期ゴール設定、マネージャー達のマネジメント、コーチングといった経営レベルのスキルを学び実践している。

社内外でエンジニアの成長を促すための環境を作るために、強いリーダーシップを見せている。

といった形です。

 

引用:株式会社メルカリ「Engineering Ladder」

まとめ

キャリアラダーとは、社員のキャリアアップを実現するために組織が設定するキャリア開発プランのことです。

 

各職種等において、いくつかのレベルを設定して、レベル毎に求められる職務内容や知識やスキルを明記することで、社員に努力すべき方向性を指し示します。

 

キャリアラダーを導入することで、従業員は次のステップに行くために自分が身に付ける必要があるスキルや経験が明確になり、自助努力しやすくなります。

 

同時に、育成する側も、どのような指導をしたり経験を積ませたり必要があるかの判断が標準化して、人材育成がスムーズになるでしょう。

 

職種間異動が多い職種よりは、専門性があり、職種内でキャリアップしていくようなエンジニア、看護や介護などの職種では導入しやすいでしょう。

 

自社の人材育成に取り入れられそうであれば、記事内で紹介した導入事例も参考に、ぜひ導入を検討してみてください。

著者情報

東宮 美樹

株式会社ジェイック 執行役員

東宮 美樹

筑波大学第一学群社会学類を卒業後、ハウス食品株式会社に入社。営業職として勤務した後、HR企業に転職。約3,000人の求職者のカウンセリングを体験。2006年にジェイック入社「研修講師」としてのキャリアをスタート。コーチング研修や「7つの習慣®」研修をはじめ、新人・若手研修から管理職のトレーニングまで幅広い研修に登壇。2014年には前例のない「リピート率100%」を達成。2015年に社員教育事業の事業責任者に就任。

著書、登壇セミナー

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