ライフイベントと仕事の両立ができる職場環境の整備は、もはや企業の持続的な成長のために欠かせない要素です。創業26年で売上高1兆円を達成した株式会社オープンハウスグループは「女性活躍推進」を“企業成長になくてはならないもの”と位置付けて、力を入れて取り組んできました。
今回は、女性活躍が重要である背景やそれに基づく制度設計、当事者意識の醸成について、株式会社オープンハウスグループ 管理本部 人事部次長 兼 女性活躍推進ワーキンググループリーダーの小山内 悠子氏に、『HRドクター』を運営する株式会社ジェイック 執行役員 東宮がお話を伺いました(以下敬称略)。
<目次>
企業成長において不可欠な女性活躍推進
女性活躍推進の背景にあるもの
東宮オープンハウスグループは先日グループ売上高1兆円を達成し、さらなる成長のために女性活躍推進を掲げています。女性活躍を推進する背景や現状をお聞かせください。
小山内当グループの女性活躍推進の背景にあるのは、代表取締役社長の荒井の強い想いです。私は2010年に新卒入社したのですが、その当時から朝礼や全社イベントなどの場を通じて、社長の「女性に期待している」というメッセージを聞き続けてきました。
それが、会社としての「女性活躍を推進していく」という共通認識の醸成につながり、社内の意識変化にも大きな影響を与えていると考えています。
現在、女性活躍推進における定量目標として掲げているのは「管理職に占める女性労働者の割合10%」と「育児休業復帰率100%の維持」の2点です。前者は2023年9月時点で7.14%。少しずつ数字は伸びており、2025年の10%達成に向けて動いています。
2024年10月には女性2名が部長に昇格しました。そして後者は、ここ5年連続で100%を維持し続けています。
東宮代表のメッセージの下、女性活躍推進に関する取り組みの成果が数値にも現れているのですね。これには、貴社ならではの社風も影響しているのでしょうか?
小山内そうですね。当社はベンチャー気質や「成果主義」が強い社風です。これは1兆円規模の企業になった今も変わらず、男女問わず成果を出せば、昇進・昇格できるような「誰しも平等に評価される環境」があります。
私も新卒1年目に最優秀新人賞を、妊娠中にMVPを獲得するなど、これまでに何度か表彰を受けてきました。不動産会社というと体育会出身者や名門大学を卒業した男性が活躍している印象があるかもしれませんが、こうした経歴や性別はまったく関係ありません。
また、社長だけでなく当時の人事部長(現執行役員 管理本部長)からも、女性活躍推進を重視している姿勢を感じています。例えば、女性活躍推進の一環で「LDH(Life Design Holiday)休暇」という名称の生理休暇を導入した際には、制度を悪用する社員が出るのではないか、という懸念の声も少なからずありました。
しかし人事部長が「それを気にしていては、いつまでも制度が実現できない」と制度化を推進し、最終的には社長の賛同も得て制度化されています。そして実際に、LDH休暇を取得しながらも成果を上げている女性社員もいます。
ダイバーシティ推進委員会から女性活躍推進グループへの道のり
働き方やキャリアへの不安から、ダイバーシティ推進委員会を発足
東宮不動産業界でプレイヤーとして活躍する女性が増えている一方で、女性管理職・リーダーの輩出に苦戦している企業も多くあります。
オープンハウスグループでは、小山内様自身の声がきっかけで、ダイバーシティ推進委員会が立ち上がったと伺っています。当時の組織状況や立ち上げの背景、実際の取り組みについて教えてください。
小山内ダイバーシティ推進委員会が発足したのは、2014年頃です。当時はまだ、業務の質より量を重視するような風潮が根強くありました。その頃、私は結婚が現実的になったタイミングで、「今後も継続して働けるのだろうか?」と思い、会社の規程や制度を確認していました。
そして、産前産後休暇や育児休暇など、必要最低限の制度しかないことを知り、今後の働き方やキャリアに大きな不安を感じるようになったのです。そのときから、現状の制度や環境を何とかしたいと思うようになりました。
2014年3月、私は営業成績が1位になり表彰を受けたのですが、このとき偶然にも、表彰者の多くを女性が占めていました。営業職の女性比率は低いのに、こんなにも多くの女性が表彰されている。ということは、会社としても女性活躍を推進する必要があるのではないか、と強く感じたのです。
そこで表彰式の翌日、社長に時間をもらい、女性の働き方やキャリア、現在の制度面について、今考えていることや目指したい展望などを伝えました。
どんな反応があるか、少し不安もありましたが、社長から「ぜひやってみてほしい」と背中を押してもらいました。非常に驚きましたし、私の思いを受け止めてくれて嬉しくなったのを覚えています。
こうしてダイバーシティ推進委員会が発足し、表彰歴のある女性社員などとともに、業務の合間を縫って女性活躍に関する活動を進めていきました。
東宮業務と並行して委員会活動を行っていたのですね。活動は順調だったのでしょうか。
小山内正直なところ、順調ではありませんでした。営業活動と並行して委員会活動をしていたので、営業が不調なときほど時間的・精神的にハードな状況に追い込まれていました。
また、委員会のメンバーは全員女性なので、時間が経つにつれ、妊娠や出産によって一時的に離脱するメンバーが出たり、定期的に集まって話す機会を持つことが難しくなったりして、歯がゆい時期が続きました。
これが大きく変化したのが、2020年に人事部長が交代し、人事部内に女性活躍推進グループが設置された時です。当時、私は育児休暇中で仕事から離れていたのですが、復職後に女性活躍推進グループへのジョインを打診され、そこから女性活躍に関わる取り組みを、チームメンバーとともに推進するようになりました。
若いうちからキャリアアップできる環境が効果的に作用
東宮女性活躍を進めたくても、出産・育児などのライフイベントと、組織のリーダー・管理職昇格への準備・タイミングが重なって、女性社員側がどちらかを諦めてしまうケースも散見されます。こうした子育てとキャリアの課題に対して、どのように取り組んできたのでしょうか。
小山内そもそも当社は成果主義の下、若いうちからキャリアアップできる環境があります。しっかりと結果を出せば、結婚や出産前にキャリアを築ける可能性が十分にあるのです。私も次長へ昇進した後に出産していますが、すでにマネジメント経験があったことは復帰後の大きな支えになりました。
また、子育て中はどうしても時間的な制限が大きくなりますが、若手社員と業務を分担するなどの工夫をして乗り切ることもできます。チームとして仕事にあたることで、若手社員にとっては自分一人ではできない経験を積むことができ、私にとっては若手社員に定型業務などを任せて自分しかできない業務に打ち込むことができるようになりました。
このように、チームメンバーとも協力しながら、お互いにとってWin-Winで生産性が向上するような働き方も可能です。
東宮20代のうちにキャリアを積み、マネジメントを経験することは、女性活躍における重要なポイントですね。企業によっては、妊娠・出産の復帰後の社員に、管理職を打診することもありますが、そうすると初めてのマネジメントと子育てを両立する必要があり、人によっては昇進を断る理由になり得ます。
小山内子育てとマネジメントの両立はかなり大変だと思います。実は当社でも、女性社員が復帰後に昇格する事例は、数年前まではほぼなかったのです。
しかし、2020年頃から女性活躍を推進するようになってから、会社全体が仕事の量だけでなく質を評価するような風土に変わってきました。この社風の変化を受けて、結果的にはここ3〜4年で、時短勤務中に昇格する子育て中の女性社員が増えています。
東宮業務の量よりも質を重視する流れはあるものの、会社によっては未だに、働く時間に基づいて業績を評価することが少なくないと思います。業務の質が高いかどうかの判断材料として、具体的にどのような点を見ているのでしょうか。
小山内営業職は以前と変わらず、営業成績で判断されます。その際に「長時間働いているか」を考慮する人はかなり減ったと感じています。短時間勤務でも、成果を上げれば認めてもらえるようになりました。
また、例えば営業職から間接部門に異動した子育て中の社員も、これまでの営業経験を活かした効果的な資料の作成や企画立案などによって、一定の評価を受けています。
20代から数多くの仕事をこなしてきたことに加えて、子育て中に培ってきた経験やスキルを活かして、効率よく働き、成果を上げることができるのだと感じています。
また、女性が昇進を打診されたとき、人によっては「満足に働けていないのに昇進してよいのだろうか」などと思い悩むかもしれません。しかし当グループの女性社員には「女性活躍の一環で昇進させてもらった」という感覚はないと思います。
成果を出したから昇進しただけであって、そこに胸を張れる女性社員が多いと感じています。こうした成果に紐づく昇進は、社員のさらなる自信につながるのではないでしょうか。
東宮とはいえ、仕事の量だけでなく質でも評価する方針に対して、社内からの反発等は有りませんでしたか?
小山内少なからずさまざまな意見はあったと思います。しかし当グループでは以前から「成果の形はさまざまである」という認識がありました。加えて、人事部から現場の組織長に社員の異動や職務付与に関する権限の多くを委譲している点も、大きく影響していると感じています。
各組織長が業績や社員それぞれの状況に応じて、適切な職務をアサインすることが常なので、社員それぞれがパフォーマンスを向上できる環境を現場の組織長が整えやすいのです。
もし人事部が全ての人事権限を持っていたら、状況に応じた適切な配置が難しかったり、年1〜2回しか異動が実施できなかったりと、組織の柔軟性が下がっていたかもしれません。
そうした点で現在の仕組みは非常に合理的ですし、社員それぞれに合わせた調整の積み重ねで組織が柔軟に変化していくことが、企業成長を牽引するひとつの要素になっていると思っています。
オープンハウスで広がるキャリアの可能性
社員一人ひとりの働き方に合わせた制度設計
東宮オープンハウスグループでは、女性活躍に関して福利厚生やキャリア形成などに関するさまざまな制度を用意されています。どのような考え方の下で制度設計を行っているのか、また実際にどのような制度があるのかをお聞かせください。
小山内当グループでは、関連法令に基づく行動計画を策定し、先ほど紹介したLDH休暇、サニタリー用品の備品化、婦人科検診の費用補助、子育て中の社員が情報共有できる「mamaキャリコミュニティ」などの制度や補助を整備しています。
制度設計においては「やる気ある社員が活躍し続けることを支援する。そのために手厚く、柔軟性が高く使いやすい制度にする」という考えを軸にしています。制度を運用する人事部としては大変な面もあるのですが、女性活躍を推進するならば、やはり多くの社員に制度を使ってもらいたいのです。
出典:オープンハウス様「サステナビリティ 女性活躍推進」より
特にご紹介したいのが、2022年から始まった「OPENキャリアデザイン制度」です。これは業務経験3年以上・役職ありの社員が、子どもが6年生になるまで働く時間や年間休日などを自分でデザインできるというものです。
前身となる制度では、6時間までの時短勤務が認められていました。しかし、本当に社員それぞれが働きやすい環境になっているのだろうかと制度を見直し、営業職は1日あたり2時間〜、営業職以外は4時間〜と、1日の勤務時間を選べるように変更しました。
また勤務時間だけでなく、休日を平日から土日に変更するなど、休日とする曜日の変更も可能です。営業職はこれまで土日出勤が基本でしたが、この制度によって子どもと一緒に土日を過ごすこともできるようになりました。
また、最近スタートした制度としては、卵子凍結費用補助制度が挙げられます。これは卵子凍結に関して最大40万円まで会社が費用を補助する制度です。それから、月30万円までベビーシッター代を支援する制度を活用している社員も見られます。
東宮今話題の卵子凍結に関する制度まで用意されているのですね。女性のキャリア形成に関する研修なども実施されているのでしょうか。
小山内まさに今、女性のキャリア研修に力を入れているところです。当グループはこれまで新人研修や階層別研修などは実施していたものの、キャリア形成や女性向けの研修は未実施でした。現在は、若手女性研修や新人女性向け研修などを実施しています。
また、最近は外部講師による女性社員研修にも取り組んでいます。先日は営業で活躍してきた外部の女性執行役員に登壇してもらい、これまでのキャリアの歩みや、女性のキャリアに対する思いなどを話していただきました。当社にはまだ女性執行役員がいないため、社員にとって何らかの糧になることを期待しています。
今後は、先輩社員との座談会や懇親会など、キャリアの悩みに寄り添えるような施策にも積極的に取り組んでいきたいと思います。
東宮キャリアの悩みは何歳になっても尽きないと思います。とりわけ女性の場合、30歳前後では出産・育児などのライフイベントを考えると、一時的にキャリアを中断せざるをえない可能性が高まります。そのタイミングで初めて悩むというわけではなく、実はその前からずっと悩み続けているのです。
だからこそ、会社に制度や研修があり、お互いの考えや悩みを共有できる場があるととても心強いですね。
このような女性活躍に関わる取り組みを一気に進めるためには、強力な推進力が必要だったのではないでしょうか。
小山内それに関しては、社長の存在がかなり大きいと思います。社長がオフィスフロアにふらっと登場して社員とフランクに話したり、社長室で社員と談笑されている声を聞いたりすることがあります。自分から現場の声をキャッチしに行っているようです。
これまで整えてきた多くの制度には、社長の思いや、社長が直接聞いた社員の声が反映されています。例えばOPENキャリアデザイン制度は、小学一年生から仕事との両立が厳しくなる「小1の壁」を乗り越えたいという社員の声を反映して誕生しました。
これまで、思うように学童に入れないことを理由に退職者も出ていたこともあり、社長の「一定期間の短時間勤務を可能にして、女性社員が会社を辞めないで済むようにフォローしたい」という想いを受けて、人事部の方で制度に落とし込んでいきました。
また、世の中では、時短勤務者の給料が低いのは仕方のないことだと考えられていると思います。しかし社長は時短勤務者のつらい声を受け止め、どうにかしたいと人事部に打診してきました。
そこで、すぐに給与の計算方法を見直して調整を行い、時短勤務でも給料が下がりすぎないように制度を改定。結果として、時短勤務者の給与を数万円引き上げています。
それから卵子凍結補助制度も、社長が社員の声を拾ったことをきっかけに制度化に向けて飛躍的に加速しました。
社長は日頃から「社員に還元したい」という強い思いを持っており、私たちと社長が向かっている方向は同じです。制度を細かく調整するのは苦労を伴いますが、理想を実現させる方法を考えることは私たち人事部の大切な役割だと思っています。
大切なのは当事者意識の醸成
東宮各種制度の整備と並行して、当事者である女性社員の意識醸成も重要だと思います。女性社員の当事者意識やキャリアへの意識を高める取り組みについて、ぜひお聞かせください。
小山内女性社員の当事者意識は、社長が朝礼や表彰式などの場を通じて期待を込めたメッセージを頻繁に発信していることから醸成されていると感じます。
このような社長の姿勢は、男性管理職の意識を変化させる上でも重要です。先ほど、業務の量とともに質も重視するようになったとお伝えしましたが、男性管理職の中にはその考え方に賛同していない人もいます。そこで社長が日々働きかけを行ったり、人事部が男性向けの管理職研修を実施したりするなどして、理解を深める努力をしています。
また今年から管理職の女性は、人事部を管掌する管理本部長(執行役員)と一対一の面談を実施しています。このように悩みや目標設定を話す機会を設けることが、少しずつではありますが女性社員のキャリア意識を高める助けになっていると思います。
東宮最後に、女性活躍推進に関する今後の展望について教えてください。
小山内女性活躍推進グループが始動して早3年が経ちました。ここ数年でかなり多くの制度を整備してきましたので、今後は制度の浸透や、社員一人ひとりへの細かなフォローなどを実施していきたいと考えています。
オープンハウスグループには、性別問わず活躍できる環境があります。成果を出せば誰でも認められるという環境は、仕事も家庭も全部の希望を叶えたいという意欲の高い女性に、非常に適していると思います。
そう考える方には、ぜひ当社にお越しいただきたいと思いますし、今いる社員が自らのキャリアを追求できるよう、さらに充実した環境を構築していきたいです。
東宮多くの企業が働きやすい環境づくりに力を入れていますが、制度が充実しても社員が利用できないという“心理的な壁”が生じていることもあります。その点、オープンハウスグループでは、社長や人事部の働きかけによって、さまざまな壁を突破できているようでした。
現場の声をキャッチして意思決定を迅速に行い、制度へ反映させていく。そんなスピード感と柔軟性がすばらしいと感じました。
現代の女性にとって「働くこと」はごく当たり前であり、重要なのは「どの会社で働くのか」です。結婚や出産、子育てによって働き方が変わっても、平等に評価され、給与に反映され、生活も保証される。そのような環境がある会社が、今後多くの女性に選ばれていくのではないかと思います。
本日は貴重なお話をいただき、ありがとうございました!
管理本部 人事部 次長
女性活躍推進グループ長
小山内 悠子氏
株式会社Kakedas 取締役
東宮 美樹氏