「自律型社員」の育成に必要な2つの1on1~社内1on1と社外1on1の組み合わせ方~ Vol.1

更新:2024/12/05

作成:2024/12/04

東宮 美樹

東宮 美樹

株式会社ジェイック 執行役員

従業員のモチベーションアップやキャリア自律を目的に1on1の実施を進めている企業が増えています。しかし、実態として1on1が単なる仕事の進捗管理になっているケースも見受けられます。さらに良かれと思って導入した1on1が、退職の原因になっているというケースもあります。

 

モチベーションアップにつながる「1on1」と退職につながってしまう「1on1」は何が違うのか? 400名を対象にしたアンケートデータをもとに、従業員のモチベーション向上につながる「1on1」を解説します。
*本レポートは2024年7月10日に開催したセミナーを基に作成したものです。予めご了承ください。

<目次>

1on1と面談の違い

最初に1on1とは何かを確認しておきたいと思います。マネジメント分野において1on1という言葉はかなり定着していますが、上司と部下の面談は以前からもありました。1on1と、これまでも行われていた上司と部下の面談はどう違うでしょうか?

 

1on1と面談の違い

 

従来まで行われていた上司と部下の面談というのは「上司のための時間」という位置づけが強かったのではないでしょうか。目標に対する達成具合や業務の進捗確認など、上司が主体となって状況確認する場になっていたことが多いでしょう。

 

一方で、1on1は「部下のための時間」であることが大きな違いです。1on1の目的は、本人の成長促進や育成支援をするために上司が関わることです。上司は本人の思いや考えを引き出していき、部下が主体となって話す場です。

 

1on1を導入している企業では、これまでも実施されていた評価フィードバック面談や通常の業務レビューと区別して導入している企業が殆どですが、1on1と言いながら業務レビューの場になってしまっているケースも多くあります。

1on1では何を相談しているのか

今回、社内1on1に関する実態をアンケート調査しました(2024年の8月実施。調査対象は1on1を定期実施されている400人)。

 

1on1では何を相談しているのか

 

まず1on1で話している内容に関する設問結果です。

 

左側のグラフ1は管理職以外、いわゆる部下を持っていないプレイヤーの方で、かつ1on1を受けている方です。右のグラフ2は管理職の方です。部下がいて1on1を実施している。同時に、管理職自身も部下として1on1を受けているという状態の方です。

 

結論からいうと、管理職以外も管理職も、1on1で話している内容のトップ3は業務関連であり、「業務の進捗」「仕事の方針」「業務の負荷」です。結局、1on1でも業務以外の話は余りされていないという実態が見えてきます。

1on1では言えない本音とは?

続いて「上司/部下に本音を言えていること、言えていないことは何か?」という設問の調査結果です。

 

1on1では言えない本音とは?

 

調査結果を見ると、本音を話せていないテーマの上位は「プライベートの悩み」「昇進・昇格」「人間関係」です。

 

とくに「プライベートの悩み」は、本音は話せていないという結果になりました。「言っていいのかな?」と思う人も多いと思いますし、同時に「言っても仕方がない」という方もいるでしょう。また、上司側も「そこまで踏み込んでしまうとハラスメントにならないかな?」と考える方が増えてきました。

 

左のグラフ1を見ていただきたいのですが「上司にどのぐらい本音を言えているか」という問いに対して、プライベートの悩みについて「ほぼ本音を言えている」と回答した方は11%に留まっています。

 

他にもキャリア形成に関する話も言えていなかったり、職場の人間関係も本音を話せていない人が多いという結果が出ていたりします。人間関係の悩みは、職場内ですと不満や文句のように聞こえてしまいます。また、上司との人間関係も悩んでいたら言えないですし、昇進・昇格の話も評価者である上司には聞きづらいと感じる人も多いでしょう。

 

上司側もプライベートのことはなかなか自己開示しにくいですし、キャリアの悩みも同様です。結果的に、お互いに言いづらい・聞きづらいので、業務の話が1番しやすいという実態です。

 

昇進昇格やキャリアの話は、1on1よりも評価面談の方が直結しやすい場かも知れません。ただ、評価面談の時にはネガティブなフィードバックなども生じてくることが多いでしょう。

 

成長テーマや改善点などを1時間近く話した後、最後に「では仕事でやりたいことある?」と訊かれても、「昇格したいです」「これに挑戦したいです!」と生き生き話しづらいのはイメージが湧くと思います。結果として「大丈夫です。まずは今の仕事に集中して頑張ります。」といった本音ではないメッセージになりがちです。

 

「1on1」の満足度は仕事への熱意に影響するのか?

続いては1on1の満足度や効果性についてデータを見ていきたいと思います。結論から言うと、1on1の満足度は仕事への熱意に大きく影響することが分かります。

 

「1on1」の満足度は仕事への熱意に影響するのか?

 

定期的な1on1に対して「非常に満足している」と回答された方は、67.5%が仕事への熱意もあると回答されています。「ある程度は熱意がある」まで入れると9割近くが仕事への意欲があると回答されています。一方で「まったく満足ではない」と回答した方の55%は、仕事に「まったく熱意がない」と回答されています。

 

これは相関傾向であって、このデータだけで1on1の満足度と仕事への熱意が因果関係だと言えるわけではありません。ただ、ある大手企業のCHROの方からも社内での1on1満足度とエンゲージメントスコアに明確な相関があったとお伺いしました。

 

満足度の高い1on1は間違いなくエンゲージメントに好影響を与えます。一方で、「1on1をやっているから大丈夫だよ」ということではなく、1on1をやればやるだけ熱意がなくなっているケースも生じているわけです。

 

すでに定期的な1on1を実施しているのであれば「1on1満足度が高いか?」は確認の必要があるでしょう。また、これから1on1を導入していく場合には、野放しで上司に任せることは危険です。上司に悪気はなくても部下は満足できず、1on1がエンゲージメントに逆効果になってしまう場合がありえることは覚えておいてください。

 

たとえば、離職率に課題を感じていた会社が、離職防止を目的に1on1を導入したケースで実際に合った事例です。1on1の中で部下は仕事の課題や職場への不満を話していました。しかし、上司に「いやいや、俺の時代はね…」とか「この会社だと難しいよ…」と言われてしまい、部下からすると話を聞いてもらえず説教されてしまう状態がありました。

 

これでは満足度は上がりません。上司も悪気なく言ったのかもしれませんが、離職者にヒアリングしたところ、1on1が離職の決め手になっていた事例が複数発覚しました。

満足度の高い「1on1」とは?

満足度が高い1on1とはどんな内容なのかを見ていきたいと思います。面談の満足度を高めるためには、業務以外の話を引き出す必要があります。話を引き出すには、上司が喋りすぎてはいけないことは容易に想像できるでしょう。

 

部下と上司の喋る比率がどの程度だと満足度が高くなるかを調査した結果があります。

 

満足度の高い「1on1」とは?

 

部下の満足度が最も高い1on1というのは、部下が8割話していて、上司がかなり聞き手に回っている状態です。これは、1on1でも商談でも「自分2割、相手8割」が理想といわますが、実際にその通りです。

 

左側のグラフ1には1on1での喋っている比率(自分の感覚)が記載されていますが、一番多いのは管理職と部下が大体半々で話しているケースです。

 

右側のグラフ2は喋っている比率別の満足度です。一番上の「自分2割:相手8割」というのが満足度は1番高くなっています。

「1on1」で部下が本音で言わない理由

次に「1on1」で部下が本音で言わない理由に関する調査結果です。現在、これも管理職と、管理職以外の人に分けて回答を出しています。

 

「1on1」で部下が本音で言わない理由

 

本音を言わない理由の1位は「言ってもしょうがない」です。また、2位や3位には「人間関係がぎくしゃくする」「人事評価に影響しそう」が入ってきます。「人間関係がぎくしゃくする」は管理職の方が強く思っている、逆に「人事評価に影響しそう」というのは、部下の方が強く思っているという結果です。

 

「言ってもしょうがない」「上司に話しても解決してくれるわけではない」というのはある意味ではその通りであり、合理的な思考かも知れません。一方で、その状況に陥ると困るのが「知ることでサポート/配慮できる」ことすら言ってもらえなくなってしまうことです。

 

人間は機械ではありませんので、仕事も、プライベートも、人間関係も、キャリア不安も、様々なものが連動して、仕事へのモチベーションや集中力の状態が生まれます。“職場の上司はあくまで仕事のつながり”という考え方は間違っていませんが、一方で、セルフマネジメントレベルがかなり高くないと、「仕事は仕事」と切り分けてパフォーマンスすることは難しいでしょう。

「1on1」で仕事のモチベーションが落ちるケース

次に、「上司との1on1で仕事へのモチベーションが下がってしまった経験があるか?」というデータです。

 

「1on1」で仕事のモチベーションが落ちるケース

 

管理職、管理職以外いずれも過半数が「上司との1on1によって仕事へのモチベーションが落ちた経験がある」と回答しています。管理職の方が「上司との1on1でモチベーションが落ちた経験がある」と回答している比率は多く、部下と上司の間で板挟みになっていることが想像できます。

 

「上司との1on1でモチベーションが下がった経験が何度もある」と答えている人は管理職・管理職以外、いずれも3割を超えています。

 

1on1は仕事へのエンゲージメントを高める効果があると同時に、強力だからこそモチベーションを下げる力をあるわけです。この点は注意が必要です。失敗した1on1は「効果がない」だけでなく、「悪影響を与える」わけです。

 

ある物流系の会社での事例です。男性社員のひとりが育休を取りたいということで、男性上司に相談したそうです。男性の育休は会社の人事制度としてはありましたが、事例は殆どなかったそうです。その男性社員が上司に「育休を取りたい」と相談したところ、上司は笑いながら「男が育休を取るのか」と言われたそうです。本人は家庭の事情もあり、必ず育休を取りたかったということでしたが、上司のコメントを聞いて辞めるかどうかの話まで発展してしまったそうです。

 

1on1の調査結果まとめ

1on1に関する調査結果をまとめました。

 

1on1の調査結果まとめ

 

結論としては、まず1on1の満足度と仕事への熱意は相関があるということです。働きがいを感じてもらえるし、エンゲージメント向上にも繋がります。そして満足度の高い1on1というのは、業務の話だけでなく、プライベートまで含めた話ができるとエンゲージメント向上に繋がります。

 

いまの20代のキャリア感は、以前とはかなり変わってきています。40〜50代の方は「キャリア=昇進・昇格」というように会社での評価と待遇を軸にキャリアを考える人が多いです。しかし、いまの20代は、自分の人生の一部として仕事がある。また転職という選択肢を常に持っている中で現在の会社や仕事があるという感覚です。

 

つまり、プライベートも含めた人生全体をキャリアとして考えていますし、いまの会社・仕事に固執もしていません。だからこそ、プライベートも含めた人生の応援支援サポートをしていくことが、エンゲージメント向上や、目の前の仕事に対する熱意につながっていきます。

 

また、部下から話を、本音を引き出していくために、上司は聞き手に徹するということです。業務レビューや評価面談であれば上司が話す比率は増えてもいいでしょう。しかし、部下の成長促進や育成、本音を知るための1on1であれば、部下が主体的に話したいテーマを話していくことが重要です。上司は話を整理し、方向づけをし、応援していく。結果として、上司の話は2割ぐらいになるという感じです。

 

繰り返しになりますが、1on1の満足度が低いと、モチベーション低下につながってしまいます。既に1on1を導入されている企業や、これから1on1を導入していく場合、上司の育成が非常に重要です。

 

今の管理職は1on1を経験して育ってはいない人が大半です。1on1を通じて上司に寄り添ってもらった方よりも、指揮統制型マネジメントの中でたたき上げて昇進・昇格してきた方が多いでしょう。その結果、管理職の方も非常に苦労しています。持っているキャリア観が違う上に、朝から晩までオフィスで部下と一緒にいる、飲みにケーションでわかり合えるという時代ではありません。

 

だからこそ、1on1をできる上司の育成が重要です。

 

ただし、キャリアやプライベートのテーマは扱うことが非常に難しいです。仕事の話であれば、上司の方が全体を俯瞰していますし、同じ仕事を経験してきていることも多いでしょう。しかし、キャリアやプライベートの話は、人によって置かれた状況も価値観も違います。その中で、傾聴8割で相手の話を聴きながら、質問などを通じて整理・気づきを与えていくにはかなりの技量が必要です。

 

また、上司がどんなに人格者で良い人であったとしても、プライベートの事や人間関係は距離が近いからこそ言いにくいこともあります。その中で、最近は社内の1on1、社外1on1と併用して個別対応していく企業も増えています。

 
 

本記事は、全2部構成でお送りします。Vol.2は下記よりどうぞ。

著者情報

東宮 美樹

株式会社ジェイック 執行役員

東宮 美樹

筑波大学第一学群社会学類を卒業後、ハウス食品株式会社に入社。営業職として勤務した後、HR企業に転職。約3,000人の求職者のカウンセリングを体験。2006年にジェイック入社「研修講師」としてのキャリアをスタート。コーチング研修や「7つの習慣®」研修をはじめ、新人・若手研修から管理職のトレーニングまで幅広い研修に登壇。2014年には前例のない「リピート率100%」を達成。2015年に社員教育事業の事業責任者に就任。

著書、登壇セミナー

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