ポータブルスキル(Portable Skills)とは、業界や職種を問わず汎用的に活用できるスキルです。異動しても転職しても「持ち運びできるスキル」ということで、「Portable」と名付けられています。転職が当たり前となり、また専門知識だけであれば生成AIに代替される時代になっている中で、、業界や職種を問わず汎用的に活用できるポータブルスキルに注目が集まっています。
本記事では、24種類のポータブルスキル一覧と具体例、ポータブルスキルの鍛え方などを解説します。
<目次>
- ポータブルスキルとは?
- ポータブルスキルが必要な理由3つ
- ポータブルスキルの一覧と具体例【3分類24種類】
- ポータブルスキルの伸ばし方3つ
- ポータブルスキルを活用すると得られるメリット3選
- ポータブルスキルを身につけ、どこでも活躍できる人材へ
ポータブルスキルとは?
ポータブルスキルの概念
ポータブルスキルとは、業界や部署、職種を問わず汎用的に活用できるスキルのことです。別名、トランスファラブルスキル(英語ではTransferable Skill)とも呼ばれています。
業界や部門・職種を超えて異動・転職しても活用できるという意味で、ポータブル=「持ち歩ける」、トランスファラブル=「移転できる」スキルです。
テクニカルスキルとの関係性
仕事における専門スキルは、どのようなものでもポータブルスキルを基礎としており、言い換えれば、業界や職種ごとの専門スキルを発揮するための土台になるともいえるでしょう。
ポータブルスキルは、テクニカルスキル(業務遂行の能力)の一種として分類されることもあります。テクニカルスキルは、ポータブルスキルのほかに、専門スキルと特化スキルの2つがあります。
ただし、ポータブルスキルは、テクニカルスキルだけに分類されるものではありません。ヒューマンスキルやコンセプチュアルスキルなども、ポータブルスキルをベースにしています。したがって、ビジネスパーソンとして活躍するには、ポータルブルスキルをしっかりと意識し、磨いていくことが不可欠です。
ポータブルスキルが必要な理由3つ
この数十年で、雇用環境や労働市場は激しく変化し、ポータブルスキルの必要性が増しています。以下では、ポータブルスキルがなぜ必要なのかを解説します。
雇用の仕組みが変化した
数十年前と比べると、雇用環境は激しく変化しています。
昭和から平成の時代には当たり前の価値観だった安定した「ひとつの企業に定年まで務める」終身雇用のモデルは崩壊し、転職は当たり前となりましたし、副業やフリーランスなどの選択肢も出てきました。また、年功序列から成果主義、ジョブ型へとなり、成果をあげなければ待遇は向上できなくなっています。
こうした時代に対応するためには、成果をあげるための基盤となるポータブルスキルをしっかりと磨くことが大切になります。
VUCA時代に対応する
現代社会はVUCA(Volatility, Uncertainty, Complexity, Ambiguity)の時代とも言われ、経済や技術の変化が速く、数年後の見通しが立ちにくい状況が増えてきました。
個人の仕事という視点で考えても、ITの発達や実用レベルのAIが登場したことの影響を受けつつある人も多いでしょう。また、副業やフリーランスなどの働き方が普及したことが、一緒に仕事するメンバーの変化につながる部分もあるでしょう。このように、たとえ同じ会社・同じ職種で仕事していたとしても、このように外部環境の影響で、仕事内容や仕事のやり方が変わる時代です。
こうした変化に対応するためには、汎用的なポータブルスキル、また、その中に含まれるコミュニケーションスキル・ヒューマンスキルが非常に大切です。
業種業界問わず活躍可能な人材になる
上述の通り、転職や副業が当たり前になり、たとえ同じ会社で働いていても仕事内容が変化する可能性がある中、業種業界を問わず活躍する、成果を生み出す能力を持つことが大切です。そのため、ポータブルスキルを磨くことは、キャリアの安定性を保ちつつ、どんな企業でも価値を発揮できる人材になるためにも重要です。
「どんな企業でも価値を発揮できる」というと専門性をイメージする人もいるかもしれません。確かに専門性は重要です。しかし、特定の業界や職種に特化、また、既存の人間関係などを前提にした専門性は、限定的な仕事しかできない場合も多いものです。専門性に加えて、ポータブルスキルをしっかりと磨くことで、会社や分野を超えて活躍の機会が広がるでしょう。
ポータブルスキルの一覧と具体例【3分類24種類】
株式会社リンクアンドモチベーションでは、ポータブルスキルは3テーマ24種類に分類しています。非常にイメージしやすい分類になっていますので、リンクアンドモチベーションの定義をもとに、ポータブルスキルの各項目がどのような能力かを解説していきます。
対人力
対人力は、さまざまなメンバーとともに目標達成に向けて協力するための力です。営業やサービス業などの場合、お客様と接するシーンでも求められるスキルになります。
・傾聴力
相手の話に真剣に耳を傾け、理解する「聴く」スキルです。通常の「聞く」とは区別され、相手と信頼関係を築き、より深いコミュニケーションをとるために不可欠なスキルです。
・受容力
自分と異なる意見にも耳を傾けられる力です。組織内においてマネジメントしたり、多様なメンバーが集まるプロジェクトを成功に導いたりするためには受容力が欠かせないものとなるでしょう。
・主張力
相手に対して自分の考えや意見を伝えられるスキルです。組織内外で適切な意思決定や交渉をするためには、自分の考えや意見をしっかり伝えることは不可欠です。相手に不快な思いをさせることなく、しっかりと意見や考えを伝えるスキルを磨きましょう。
・否定力
提言や意見を鵜呑みにするのではなく、自分で考えたうえで否定の決断ができる力です。成果をあげるためには「断る」という意思決定も必要です。否定力や主張力は、問題への当事者意識があって初めて発揮できるスキルになります。
・説得力
コミュニケーションを通して相手を納得させられるスキルです。単なる喋りのうまさではなく、自分の意見や提案に対して相手が感じている不安要素や問題を理解して解除していく能力でもあります。
・統率力
向かうべき方向やゴールを示して周囲を先導する力です。いわゆるリーダーシップに近いスキルです。統率力を発揮するためには、周囲との信頼関係を築くヒューマンスキルなどを高めることも大切です。
・支援力
チームやほかのメンバーを助ける力です。適切な方法・タイミングで支援をするには、相手の現状を把握したり、相手に依存させないようにうまく支援したりする力が必要です。
・協調力
同じ目標達成に向かって、ほかのメンバーと力を合わせて協働や共創ができるスキルです。協調力を高めるには、相手の話に耳を傾け、受け入れる傾聴力や受容力が大切です。
対課題力
対課題力とは、目の前の課題を考え抜き、解決するうえで必要なスキルの総称です。
・試行力
意思決定できるだけの材料がない状況で、必要であれば思い切りよく試せる力です。ビジネスにおける意思決定の多くは正解がわからないことが大半ですので、試行力は前に進むうえで大切な力です。また、困難な課題の解決やイノベーションを生み出すうえでも不可欠なスキルです。
・変革力
古い慣習や固定概念にとらわれず、物事をより良い方向に変えていこうとするスキルです。変革とは決して大きなことばかりではありません。チームや職場の制度や仕組みをより良いものに変えていくために大切な力です。
・機動力
状況に応じて、素早く行動を起こせる力です。試行力と合わさることで、「試しにやってみる」という動きをスピーディーに進めることができます。機動力を高めるには、自分の仕事や課題に対する当事者意識や主体性なども必要です。
・発想力
新しい案を思いつき、自分の考えを発展させられる力です。クリティカルシンキングやコンセプチュアルスキルなどにも関連する力です。さまざまな発想をするには、ほかのメンバーとは違った視点や固定概念にとらわれない柔軟性なども必要でしょう。
・計画力
目標達成に向けて、緻密な計画を立てられるスキルです。適正な計画を立案するうえでは、現状分析力や課題発見力、施策に優先順位をつけられる力が必要です。
・推進力
ゴールに向かって、仕事を前に進められるスキルです。リーダーシップ力につながる能力でもあります。変革力と合わさることで、チームや組織の変革を力強く推し進められるチェンジリーダーシップとなるでしょう。
・確動力
間違いなく確実に実行をしていく力です。物事には多少粗くてもスピーディーに進めることが大切なときもあれば、確実にミスなく進行していくことが重要なこともあります。どちらが重要ということではなく、状況によるものであり、どちらも成果をあげるうえで大切な力です。
・分析力
自分が置かれている現状や物事の因果関係、仕組みなどを分析・解明するスキルです。課題解決するうえでの適切な目標設定や計画立案にも必要な力になります。
対自分力
自分が設定したゴールに到達するうえで欠かせないスキルです。セルフリーダーシップにつながる力でもあります。
・決断力
素早く意思決定するスキルです。スピーディーな決断をするには、決断の前段階で行なう課題の把握や分析などの能力も高める必要があります。そのうえで、正解が見えない意思決定をしていく決断力は、リーダーシップに不可欠な力です。
・曖昧力
曖昧ではっきりしない状況に対して、ありのままに受け入れられる力です。VUCAの時代には、先行きが不透明で予測困難なことが多いため、曖昧力の重要性は高まっています。ある意味でグレーゾーンの存在やケースバイケースの判断を受け入れられる力です。
・瞬発力
短期間で一気にパワーを出すスキルです。新規事業のスタートアップや課題の早期解決を図るには、瞬発力がとても重要です。また、集中力ともつながってくる力です。
・冒険力
リスクを恐れず難度の高いことに挑戦するスキルです。新しいイノベーションを生み出し、競合との差別化を図るうえで、特に必要な能力になります。変化の激しい時代に、新しいことに挑戦する冒険力も重要性が高まっているといえるでしょう。
・忍耐力
直面した課題や困難に耐えるスキルです。設定したゴールに到達する過程では、途中の困難な課題から生じたストレスを上手に受け入れ、跳ね返すレジリエンスなども必要となります。
・規律力
チームメンバーと協働や共創をするには、ルールや秩序にのっとり、整然と仕事を進めるスキルが必要です。また下記の持続力とも併せて、自分自身で決めたルールや習慣をきちんと守って実行していくことが自己効力感や成果につながります。
・持続力
設定した目標を達成するために、自分の決めた施策を実施し続けられるスキルです。自己成長につながるルーティンの習慣化にも関係する力になります。何かを学んで実行する人はわずかですが、それを成果が出るまで継続できる人はさらに少数です。「継続する力」は成果を出す、何かを成し遂げるうえでとても大切です。
・慎重力
注意深く落ち着いて仕事を進める力です。注意力や集中力を高めるには、時間管理を通して余裕を持ったスケジューリングをする能力なども必要となるでしょう。慎重力と確動力を併せ持つ人は、周囲から安心して仕事を任せられる筆頭です。
ポータブルスキルの伸ばし方3つ
前述のとおり、ポータブルスキルは、業界や職種を超えて成果を上げて、各種専門スキルや特化スキルの土台となる重要な力です。ビジネスパーソンとして、自己開発に取り組むうえでも、ポータブルスキルの改善に取り組むことは大切になります。
ポータブルスキルを伸ばす場合、①現状把握する、②伸ばすスキルを決める、③集中的に鍛える、という3ステップで取り組むとよいでしょう。
現状把握
ポータブルスキルを伸ばすには、まず自分の現状把握をすることが大切です。24種類のスキルを5段階で自己評価して、可能であれば、上司や同僚などの他人からも客観的な評価をしてもらうとよいでしょう。評価によって、今の自分は何ができていて、どこに課題があるかが見えてきます。
伸ばすスキルを決める
続いて、伸ばすスキルを決めていきます。24種類すべてを万遍なく伸ばせるのが理想です。しかし、24種類すべてのスキルを伸ばすことは、効率的ではありません。したがって、どこを重点的に伸ばすかを決めて、集中的に鍛えることが必要になります。
視点としては、以下の2つを大切にするとよいでしょう。
- 1.自分の強みを伸ばす
- 2.キャリアステップや今の仕事で成果を上げるために必要なスキルを伸ばす
集中的に鍛える
ポータブルスキルの鍛え方は、スポーツの基礎トレーニングとよく似ています。何か大きな知識をインプットするというよりは、基本的なフレームワークなどをインプットしたあと、日常生活のなかでトレーニングをして身につけていくことが大切です。
例えば、「決断力」であれば、「意思決定の基準の明確化」「リスクと報酬」といった決断するための基本的なフレームワークがどういうものかを知ったあと、「日常生活のなかで10秒以内に意思決定する」といった自分ルールを決めて実践する、といったイメージになります。
ポータブルスキルを活用すると得られるメリット3選
ポータブルスキルという共通の「ものさし」を導入することは、組織開発における採用や人材育成などにも役立ちます。
採用基準への反映
自社の各職種などにおいて24種類のポータブルスキルのうち、どれが大切になるかを協議していくと、簡易的に採用基準を決められます。また、専門スキルだけでなく、ポータブルスキルも加味して採用基準を作ることで、活躍する人材のポテンシャルを見極める精度を高められるでしょう。
人材育成での活用
人材育成をするうえでも、仕事で成果を上げるために必要なポータブルスキルを洗い出し、各スキルの習得状況をチェックしていきましょう。育成で大切なのは、足りていないスキルを重点的に伸ばすための教育や研修を実施することです。
職種に応じて成果を上げるためのポータブルスキルは多少異なってきます。しかし、ポータブルスキルは仕事で成果を上げるうえでの共通の「足腰の強さ」です。しっかりと足腰を鍛えることで、専門スキルを習得したときの活用効率、異動したときの立ち上がりスピードなどにつながってくるでしょう。
そして、ポータブルスキルを鍛えて足腰を強くする取り組みは、社員のキャリア形成にもつながってくるでしょう。
適材適所な人材配置の実現
採用と同じように人材配置の基準としてポータブルスキルを追加することで、専門スキルや実績だけで判断するよりも人材配置の精度を上げることが可能になります。
各部門が求めるポータブルスキルを持つ人材を配置できれば、OJT指導者の負担が軽くなり、離職率の低減といったメリットも生まれやすくなるでしょう。
ポータブルスキルを身につけ、どこでも活躍できる人材へ
ポータブルスキルとは、業界や部署、職種を問わず汎用的に活用できるスキルの総称です。以下の3テーマ24種類に分類できます。
<ポータブルスキルの一覧>
【対人力】
傾聴力、受容力、主張力、否定力、説得力、統率力、支援力、協調力
【対課題力】
試行力、変革力、機動力、発想力、計画力、推進力、確動力、分析力
【対自分力】
決断力、曖昧力、瞬発力、冒険力、忍耐力、規律力、持続力、慎重力
ポータブルスキルを伸ばすには、現状把握 → 伸ばすスキルを決める → 集中的に鍛える という3つのステップを踏むことがおススメです。人材育成や採用、配置などでも、ぜひポータブルスキルを活用してください。