ワークエンゲージメントとは、社員の精神面における健康状態、仕事へのコミットメント状態を示す概念で、ワークエンゲージメントの向上は、生産性はもちろん、組織へのエンゲージメントや従業員の定着率にプラスの影響を与えます。
ワークエンゲージメントを向上させるには、ワークエンゲージメントの基本を十分に理解しておくことが重要です。記事では、ワークエンゲージメントの定義や構成要素、計測尺度などを解説したうえで、ワークエンゲージメントを高める方法をお伝えします。
<目次>
- ワークエンゲージメントとは?定義を解説
- ワークエンゲージメントと従業員エンゲージメントの違い
- ワークエンゲージメントに関連する概念
- ワークエンゲージメントの研究事例
- ワークエンゲージメントを測定する3つの方法
- ワークエンゲージメントを構成する3要素
- ワークエンゲージメントを下げてしまう要素
- ワークエンゲージメントの低下がもたらすリスク
- ワークエンゲージメントを高めるメリット
- ワークエンゲージメントが高い企業の事例
- ワークエンゲージメントが高い企業に共通する特徴
- ワークエンゲージメントを高める「仕事の資質」
- ワークエンゲージメントを高める「個人の資質」
- ワークエンゲージメントを高める具体的な方法
- まとめ
ワークエンゲージメントとは?定義を解説
ワークエンゲージメントとは、仕事に誇りを感じ、仕事に熱中し、仕事から活力を得ている状態を指す言葉です。関連したり混同されたりする概念として「ワーカーホリズム(ワーカホリック)」や「リラックス」といったものがありますが、両者ともワークエンゲージメントとは全く異なるものです。
まず、ワーカーホリズム(ワーカホリック)はいわゆる「仕事中毒」の状態で、ワークエンゲージメントと同じく仕事へのコミット度は高いものの、仕事に対する認知はネガティブな状態です。
ワークエンゲージメントが「仕事をやりたい」だとすると、ワーカーホリズム(ワーカホリック)は「仕事をやらなければいけない」だといえます。
一方、リラックスは、仕事には満足しておりポジティブな認知ですが、活動水準は低い状態であり、「現状満足」とも言い換えられます。これもワークエンゲージメントが高い状態とは大きく異なるものです。
なお、ワークエンゲージメントは「ユトレヒト・ワーク・エンゲイジメント尺度(Utrecht Work Engagement Scale」などを使って測定することが可能です。
ワークエンゲージメントと従業員エンゲージメントの違い
ワークエンゲージメントと従業員エンゲージメントは言葉が似ているために混同されがちですが、測定するエンゲージメントの対象が少し異なります。
ワークエンゲージメントは「ワーク」と付いている通り、各従業員の仕事に対するポジティブな意欲、精神状態を指すものになります。
一方で、従業員エンゲージメントは、仕事だけでなく、組織とのエンゲージメントに重きが置かれたものになります。組織とのエンゲージメントに影響する要素として、仕事のやりがいも含まれてきますので、従業員エンゲージメントの中にワークエンゲージメントの要素が含まれる、と考えるとイメージしやすいでしょう。
組織とのエンゲージメントには、仕事に対するエンゲージメントだけでなく、組織のミッションやビジョンへの共感、職場の人間関係や働きやすさ、経営陣やリーダーに対する信頼、評価やキャリア形成への満足度などが含まれてきます。
ワークエンゲージメントに関連する概念
ワークエンゲージメントに関連する概念として、「バーンアウト」「ワーカホリズム」「職務満足感」などの用語がありますので紹介します。
ワーカホリズム(ワーカホリック)
ワーカホリズムとは、「仕事の活動水準が高い一方で、仕事への態度はネガティブである状態」を指します。ワーカホリズムは「仕事をしなければならない」という一種の脅迫感・切迫感を持って仕事をしていることが特徴です。
「従業員が自発的に働きたい」と積極的に仕事に取り組むワークエンゲージメントに対して、同じように積極的に取り組んではいても、仕事自体に対しては否定的な感情を持っている状態がワーカホリズムです。
バーンアウト
バーンアウトは「燃え尽き症候群」と訳され、ワークエンゲージメントとは対極に位置している概念です。仕事への意欲や自信、興味・関心を失くした状態を指します。
バーンアウトに陥ってしまう原因としては、「仕事に過度なエネルギーを費やしたのに期待した結果が得られずに失望した、また疲労感から仕事そのものへの意欲を失くしてしまう」といったケースがあります。
とくにワーカホリズムの状態で長く仕事していると、元々仕事に対して前向きではないため精神的なストレスが高いのに加えて、長時間労働などで体力的な余裕も失われていき、精神的なストレスがさらに高まり、バーンアウト状態に陥りやすいといえます。
職務満足感(リラックス)
職務満足感(リラックス)とは、仕事への態度・認知は肯定的ですが、活動水準は低い状態を指します。職満足度感が高い、リラックスした状態ですが、活動量は低いため、仕事の成果は大きくなりません。
仕事に対して肯定的な点はワークエンゲージメントと同じですが、活動水準が低いという点でワークエンゲージメントとは異なります。「仕事に対する捉え方」と「活動水準」という2つの軸で見た時、ワーカホリズム(ワーカホリック)と点対象の位置にある概念です。
ワークエンゲージメントの研究事例
少子高齢化によって生産年齢人口の減少が確実に見込まれる日本では、持続的な経済成長を実現していくことが重要な課題となっています。
課題解決のためには働きがいを持って働ける環境を整備するとともに、ワークエンゲージメントを向上させることが重要であるとされており、ワークエンゲージメントに関するさまざまな研究が行なわれています。
日本のワークエンゲージメント・スコア
日本を含めた16ヵ国のワークエンゲージメント・スコアを比較したShimazu,Schaufeli, Miyanaka, & Iwata(2010)によると、日本のワークエンゲージメント・スコアは他国と比較して低い傾向にあるとされています。
出典:https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/roudou/19/dl/19-1-2-3.pdf
ただし、この結果はポジティブな感情や態度の表現を抑制する日本固有の風潮や文化、国民性が影響している部分もあると考えられ、国別で比較してスコアが低いからといって「日本人のワークエンゲージメントは低い」と言いきれるものではありませんので、注意が必要です。
雇用形態別のワークエンゲージメント・スコア
出典:https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/roudou/19/dl/19-1-2-3.pdf
正社員と限定社員、正規雇用と非正規雇用といったように、ワークエンゲージメント・スコアを雇用形態などで比較してみると、正社員が3.41であるのに対し、限定正社員は3.51となっており、勤務地や仕事内容、労働時間などが限定されている限定正社員のほうが高い傾向にあります。これは意外に感じる人も多いかもしれません。
また、正規雇用と非正規雇用を比べた場合、「不本意での非正規雇用労働者」のワークエンゲージメントが全体的に低い水準となっているのに対し、「不本意ではない非正規雇用労働者」は高い水準となっています。
出典:https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/roudou/19/dl/19-1-2-3.pdf
つまり、正規雇用だからといってワークエンゲージメントが高いとは限らず、望んで今の職に就いたか否かが、ワークエンゲージメントに影響しているということです。
異動や配置に対する納得感や、仕事に対する意味づけ(キャリアや成長・待遇など)がとても重要であることがわかります。
年収別のワークエンゲージメント・スコア
ワークエンゲージメント・スコアを年収別に比較してみると、39歳以下の社員は年収の増加にともなってワークエンゲージメントが上昇する傾向があることがわかっています。
出典:https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/roudou/19/dl/19-1-2-3.pdf
一方で40歳以降は、年収増加とワークエンゲージメントは必ずしも相関しません。
出典:https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/roudou/19/dl/19-1-2-3.pdf
年収とワークエンゲージメントの関係にはさまざまな見解があり、例えば、Zeng, Zhou, & Han(2009)では「報酬の高いホテルのメンバーほどワークエンゲージメントが高い」ことを指摘していますし、看護師を対象にしたSimpson(2009)でも「報酬とエンゲージメントに統計的優位な正の相関がある」ことを言及しています。
しかし、以上の見解は年収を上げればワークエンゲージメントが高くなるという因果関係を示したものではなく、逆に、ワークエンゲージメントが高いからこそパフォーマンスが上がり、年収も高くなったと捉えることもできます。
ただし、年収は仕事へのやりがい・貢献・評価を示すものとして、ワークエンゲージメントに一定の影響はあると考えられます。
ワークエンゲージメントと組織コミットメント
ワークエンゲージメントは、組織コミットメントを構成する「企業の理念・戦略・事業内容を理解している」「担当業務の意義や重要性を理解している」「企業の組織風土に好感を持っている」のいずれとも相関関係にあることがわかっています。
上記の傾向も「ワークエンゲージメントが高まるから組織へのコミットメントが高まる」と断言できるわけではなく、「組織へのコミットメントが高まるからこそ、ワークエンゲージメントが向上する」という因果関係である可能性も示唆できますが、いずれにしろ、両者は密接に関係して相関していることは事実です。
出典:https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/roudou/19/dl/19-1-2-3.pdf
ワークエンゲージメントと定着率・離職率
ワークエンゲージメントが高いと、新入社員の定着率は向上する傾向にあります。
人手不足企業であっても同様のことがいえ、ワークエンゲージメント・スコアが3以下の場合は新入社員の定着率(入社3年後)が低下している企業が多く、逆に、ワークエンゲージメント・スコアが4以上の場合は人手不足企業の多くで定着率が上昇しています。
出典:https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/roudou/19/dl/19-1-2-3.pdf
また、社員全体で見ても、ワークエンゲージメントの高さと離職率の低下には正の相関があることが分かっています。
出典:https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/roudou/19/dl/19-1-2-3.pdf
ワークエンゲージメントと労働生産性
ワークエンゲージメントを高めると、社員個人の労働生産性は向上します。これも「社員個人の労働生産性が高いからワークエンゲージメントが向上している」という逆方向の因果関係も考えられますが、感覚としては、ワークエンゲージメントの向上が個人の労働生産性の向上につながる可能性は高いでしょう。
ワークエンゲージメントと労働生産性における正の相関は、人手不足企業においても同様の傾向が確認できます。
出典:https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/roudou/19/dl/19-1-2-3.pdf
ワークエンゲージメントは企業の労働生産とも正の相関が見られ、ワークエンゲージメントのスコアが1単位上昇すると、企業の労働生産性が1%~2%程度上昇する可能性があると見られています。
出典:https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/roudou/19/dl/19-1-2-3.pdf
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ワークエンゲージメントを測定する3つの方法
ワークエンゲージメントの計測には、主流となっているユトレヒト・ワークエンゲージメント尺度の他に2つ、合計3つの計測尺度が存在しますので、紹介します。
UWES(ユトレヒト・ワークエンゲージメント尺度)
ワークエンゲージメントは、オランダ・ユトレヒト大学のウィルマー・B・シャウフェリ教授らが考案した「ユトレヒト・ワーク・エンゲイジメント尺度(Utrecht Work Engagement Scale」を使って測定することが可能です。
ユトレヒト尺度では、「活力」「没頭」「熱意」の3要素に関する17個の質問(9個・3個の短縮版も存在)に対して、7段階で点数を付けていくことでワークエンゲージメントを測定します。
- 仕事をしていると、活力がみなぎるように感じる
- 仕事に熱心である
- 私は仕事にのめり込んでいる
- 「まったくない」(0点)
- 「ほとんど感じない」(1点)
- 「めったに感じない」(2点)
- 「時々感じる」(3点)
- 「よく感じる」(4点)
- 「とてもよく感じる」(5点)
- 「いつも感じる」(6点)
ユトレヒト・ワーク・エンゲイジメント尺度(Utrecht Work Engagement Scale(UWES))の設問や解説は以下のページからダウンロード可能ですので、ご興味あればぜひご覧ください(研究目的の場合は無料で利用できます)。
https://hp3.jp/tool/uwes
MBI-GS(マスラック・バーンアウト・インベントリー)
MBI-GSは、ワークエンゲージメントを測定するために、対極に位置するバーンアウトの状態を測定する尺度です。つまり、「ワークエンゲージメントが高い状態からどの程度遠ざかっているか」を測定する方法です。ワークエンゲージメントが高いほどMBI-GSのスコアは低くなります。
質問項目は以下の3ブロック16項目です。
・消耗感(疲労感) 5項目
・冷笑的態度(シニシズム) 5項目
・職務効力感 6項目
OLBI(オルデンバーグ・バーンアウト・インベントリ)
OLBIもMBI-GSと同様に、ワークエンゲージメントを直接的に測定するのではなくバーンアウトを測定する計測手法です。OLBIの質問内容は「疲弊」と「離脱」という2軸からなります。
ネガティブな項目に関して質問が行われ、OLBIの測定結果が低いほどワークエンゲージメントが高いという結果になります。
ワークエンゲージメントを構成する3要素
ワークエンゲージメントは「活力」「没頭」「熱意」の3つの要素から構成されており、3つの要素が満たされているほどワークエンゲージメントが高い状態となります。
「活力」が満たされている状態
仕事に対して高いエネルギー水準が維持されており、心理的な回復力が高い、仕事に費やす努力をいとわない、困難な状況にも粘り強く立ち向かえるといったことにつながります。
- 仕事をしていると、活力がみなぎるように感じる
- 職場では、元気が出て精力的になるように感じる
- 朝に目が覚めると、さあ仕事へ行こう、という気持ちになる など
「熱意」が満たされている状態
自身の仕事に対して情熱や誇り、意義を感じており、挑戦しようという意欲がある状態です。
- 仕事に熱心である
- 仕事は、私に活力を与えてくれる
- 自分の仕事に誇りを感じる
「没頭」が満たされている状態
時間を忘れて仕事にのめり込んでいる状態で、いわゆるフロー状態に近いものです。
- 仕事に没頭しているとき、幸せだと感じる
- 私は仕事にのめり込んでいる
- 仕事をしていると、つい夢中になってしまう
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ワークエンゲージメントを下げてしまう要素
以下の要素はワークエンゲージメントから遠ざけ、ワーカホリックやバーンアウトのリスクを高めてしまうものです。ゼロにすることはできませんが、過度なものになり、悪影響を与えていないか注意が必要です。
過度なプレッシャー
過重なノルマや高すぎる目標、厳しい納期など、組織からの期待やプレッシャーが高すぎると、何とか今の仕事を達成しようと過剰に仕事にのめり込んでしまい、ワーカホリックの状態を呈しやすくなります。なお、同じ目標だとしても、目標から感じるプレッシャーの重さは人によって異なりますので、注意が必要です。
対人業務における情緒的負担
仕事の中で「気持ちや感情がかき乱される」ことが生じるといった感情面の負担を指します。情緒的負担は客室乗務員や銀行の窓口スタッフ、飲食店スタッフ、販売員、営業職、看護師、保育士、教師など、「感情労働」と呼ばれる仕事で働く人に多い傾向があります。
感情労働においては、ときに本来の感情を押し殺して、表面的に感情を作る場面が出てきます。このように相手からの要求を処理したり、信頼関係を構築したりするために本来とは異なる感情をつくることは、多くのエネルギーが必要となります。こういったストレスや負担がバーンアウトを引き起こしやすくなります。
肉体的・精神的負担
身体的負担の大きい作業、長時間勤務、膨大な業務量、結果へのプレッシャー、評価に対する不安などは、「仕事がしたい」という前向きな気持ちではなく、「仕事をしなくてはいけない」というワーカホリック的な要素を誘発します。
こういった負担やストレスはすべてがネガティブなものだけでなく、個人の成長を促す「挑戦的なストレッサー」でもあります。ただし、本人が前向きにとらえていなければ「妨害的なストレッサー」となり、ワークエンゲージメントを下げてしまうので注意しましょう。
ワークエンゲージメントの低下がもたらすリスク
ワークエンゲージメントが低下することは、以下のようなリスクや事象に繋がります。
・モチベーションの低下
・生産性の低下
・離職率の増加
・業績や利益の低下
ワークエンゲージメントが低下している状態は、従業員が仕事に対して否定的、消極的になっていることを指します。仕事に対するモチベーションは低下しており、生産性も低下するでしょう。
仕事のパフォーマンスが低下すれば、社内評価等も落ちることになりますし、仕事に対するやりがい、組織への愛着も益々失われていきます。どこかで離職・転職することにもつながり、組織の離職率も上昇してしまうでしょう。
従業員のモチベーションが下がり、生産性が下がり、従業員の離職が増えるといった状態になれば、組織の業績も低下し、利益なども低水準となるでしょう。
ワークエンゲージメントを高めるメリット
組織にとって、従業員のワークエンゲージメントを高めることは以下のようなメリットがあります。
メンタルヘルスの改善
ワークエンゲージメントが高まることで、従業員の仕事に対してのストレスが低下します。ワークエンゲージメントが高い従業員は、仕事に対して前向きな認識をしており、かつ、高い活動水準にありますから、仕事のパフォーマンス自体も出やすくなります。ワークエンゲージメントを高める取り組みを通じて、メンタルヘルスの発症率などを低減させることができるでしょう。
生産性の向上
ワークエンゲージメントが高い従業員は、自発的・積極的に業務に取り組み、活動水準も高いため、生産性が高く、業績の向上を期待することができます。また、業務に対しての学習意欲も高い傾向にあり、自主的な最新技術・知識の習得、セミナーへの参加などの行動にもつながります。
CS(顧客満足度)の向上
ワークエンゲージメントが高い従業員は、仕事に対して自信を持ち、やりがいを感じ、積極的に取り組みます。その姿勢はサービス品質の向上にもつながり、結果として顧客満足度も高まるでしょう。
ワークエンゲージメントが高い企業の事例
ワークエンゲージメントを高める取り組みはすでに多くの企業で導入されており、導入した多くの企業が効果を実感しています。本項では、ワークエンゲージメントが高い企業の事例として以下の3社をご紹介します。
株式会社福井
株式会社福井は、創業100年を越える金物製造卸売業の老舗企業で、2018年からワークエンゲージメントの測定システムを導入しています。当初は物流センターのメンバーの点数が相対的に低く、原因を探っていくとマンパワー不足という課題が浮き彫りになりました。
分析も踏まえながら、物流センターのメンバーを増員したところ、ワークエンゲージメント・スコアが劇的に改善したわけではないものの、物流センターのメンバーの離職が止まり、最低限の効果を実感することができました。
それからというもの、「コミュニケーションは質より量である」をモットーに定期的な1on1を実施し、仕事の話に限らずざっくばらんな話をするようにしています。1on1導入の結果、ワークエンゲージメント・スコアの改善が見られるとともに、離職率の急激な低下も確認されています。
また、定期的にワークエンゲージメントを測定することで、生じている問題が可視化され、解決に向けたアクションが取りやすくなったとも実感されています。
株式会社 FICC
株式会社 FICCはブランドマーケティングを提供するデジタルエージェンシーで、戦略立案から施策実行までの一貫したサービスを提供しています。
最初は「一緒にやってきた仲間が辞めてしまうのがもったいない」という思いから、何かできることがないかと調べるうちにワークエンゲージメントという概念にたどり着いたそうです。
ワークエンゲージメントの測定システムを導入してからは月に1回のペースでスコアを把握しており、低下を認知した場合は原因の仮説を立てて、状況を確認することで、スピーディに対策が講じられるようになったそうです。
また、ワークエンゲージメント・スコアの可視化はマネージャーにとっての客観的評価となり、管理職による人材マネジメントの効率化にもつながっています。
Sansan 株式会社
Sansan 株式会社は、名刺を主軸としたサービスで事業を展開している会社です。人事施策の基本方針として「メンバーの強みを最大限に活かす組織作り」を掲げており、組織のパフォーマンス向上を目的にワークエンゲージメントの測定を始めました。
ワークエンゲージメントの測定は1ヵ月に1回のペースで実施され、平均7名ほどのチーム単位でも結果を分析しています。
メンバーを個人としてだけではなく、チームとしてとらえ、課題が生じている組織と個人を可視化することで、組織に足りないものに向き合うことができ、更なる組織改革に挑戦できるようになったといいます。
ワークエンゲージメントが高い企業に共通する特徴
細かな施策の違いはありますが、ワークエンゲージメントが高い企業ではワークエンゲージメントの測定システムを導入しており、ワークエンゲージメントを数字で計測・追跡し、改善のPDCAを回しています。
仕事環境の整備やコミュニケーション活性化、企業のミッション・ビジョンの浸透、成長機会の提供など、ワークエンゲージメントを高める施策は数多くありますが、どれが自社にとって効果的なのかはやってみなければわからないというのが現状です。
したがって、ワークエンゲージメントのサーベイツールを導入し、施策の効果を検証するとともに、うまくいった施策を強化し、うまくいかなった施策を改善あるいは撤廃するなど、PDCAを回していくことが重要です。
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ワークエンゲージメントを高める「仕事の資質」
ワークエンゲージメントを高めるためには、「仕事の資質」に着目したアプローチが有効です。仕事の資質とは、ストレッサー自体、また、ストレッサーによる身体的・心理的ストレスを低減させたり、目標達成や個人の成長を促進させたりする物理的・社会的・組織的な要因を指します。
ワークエンゲージメント研究の第一人者である慶應義塾大学の島津明人教授によれば、ワークエンゲージメントは仕事の資質に左右されやすい傾向があり、以下のようなアプローチが効果的です。
裁量性・コントロール
仕事の要求度とコントロールのバランスが取れていない場合、社員は仕事にストレスを感じるとともに、自分がアクセスできる様々な資源も活用できなくなり、ワークエンゲージメントが低下します。
したがって、社員に仕事の裁量権、自己決定権を与え、仕事の進め方を自分自身でコントロールできるようにすると、ワークエンゲージメントが向上します。
仕事のパフォーマンスに対するフィードバック
社員は上司からの良質なフィードバックを「自分が見られている」という承認、また自分の動きを効率的にするものだと考えます。したがって、良質なフィードバックがないと「働きにくい」と感じやすくなってしまい、ワークエンゲージメントが低下します。
ワークエンゲージメントを高めるには、周囲から仕事の成果や過程に対するフィードバックを受ける機会を与えることが大切です。もちろん、上司や管理職は良質なフィードバックを実施するためのスキルも身に付ける必要があります。
上司によるコーチング
コーチングは、社員の成長を促進させる効果があり、また、自主的な行動を促したり、課題を解決したりできます。したがって、フィードバックの技法と併せて、上司・管理職層にコーチングの技術を学ばせ、一方的な指示・命令ばかりではないマネジメントを実践することが有効です。
マネジメントにコーチングを取り入れることは、社員の裁量性や自己決定権の感覚を高めることにもつながります。
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社会的な支援(環境づくり)
心身の健康を維持するための制度や、出産・育児といったライフステージの変化に対応する支援など、社員が仕事に没頭できる環境をつくるためには、組織による環境づくりを充実させることも不可欠だといえます。
正当な評価
活躍に見合った正当な報酬や評価は、社員のモチベーションを上げるとともに、活躍に対する承認行為にもつながり、ワークエンゲージメントの向上に効果的です。正当な評価を実現できるように人事評価制度の運営や改善に取り組みましょう。
キャリア開発の機会
社員にキャリア開発の機会を積極的に提供し、キャリアや将来に対する不安を解消することも大切です。いまの仕事に集中した先に未来があるとイメージできることが、ワークエンゲージメントの向上につながります。
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ワークエンゲージメントを高める「個人の資質」
個人の資質とは、自分を取り巻く環境を上手にコントロールする能力やレジリエンス、自尊心などで構成される「個人」に紐づく要因を指します。
個人の資質はワークエンゲージメントに対する重要な予測因子となるため、個人の資質へのアプローチもワークエンゲージメントの向上につながります。
自己効力感
自己効力感は個人の資質のなかでも特に重要性が高く、「今の仕事をうまくこなせる能力が自分にはある」「きっとやれるはず」といった確信の度合いを示します。自己効力感が高まると、自分を取り巻く環境を上手にコントロールできている感覚が得られます。
組織での自尊心
「組織において自分は役立っている」「必要とされている」といった感覚で、マズローの欲求5段階説でいう「所属と愛情」「自尊」の欲求と類似します。社員一人ひとりの良さを見出し、自信をつける言葉をかけるようにするなど、個別に関わるようにすることが効果的です。
楽観性
楽観性とは、リスクを想定して現実的な対策を取りつつも、「何とかなる」というポジティブな気持ちを保つことです。単に物事を楽観視するわけではない、現実的な楽観主義といえるでしょう。完璧主義を手放すとともに、周囲や環境に感謝する機会を増やすことも楽観性につながります。
レジリエンス
レジリエンスとは、ストレスによって生じるダメージを減らし、素早くストレスから回復できる能力です。ABC理論などの認知行動療法や成功体験の積み重ね、自分の強みを知って活かすことで鍛えることができます。
粘り強さ・やり抜く力
目標に向けて自発的に動き、最後までやり遂げることができる能力を育てるには、社員の自己決定権を尊重すること、社員の自己肯定感を高めること、失敗を恐れない環境を構築することが重要です。
個人の資質を高めるためには、このように仕事の資質、職場環境、マネジメント、人材育成などのアプローチが大切です。
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ワークエンゲージメントを高める具体的な方法
ワークエンゲージメントを高めるには、本記事内でも紹介した通り、
・仕事の資質
・個人の資質
という2つの軸に働きかけていくことが大切です。同時に、正当な評価やキャリア開発の機会を提供するなど、組織としての取り組みも不可欠といえるでしょう。
記事の最後では、ワークエンゲージメントを高めるための具体的な方法を3つ紹介します。
職場環境の整備
人員が不足している、長時間労働が常態化している、従業員同士の関係が悪い、心理的安全性が低いなど職場環境が不健全だと、ワーカホリズムやバーンアウトの状況に陥ってしまいます。
ツール導入やIT化などによる業務の自動化・効率化、業務プロセスの見直しなどによって業務負荷を適切な水準にしたり、チームビルディングやピアボーナスなど従業員同士のコミュニケーションの機会を増やす施策を実施したりすることが、職場環境の改善につながります。
従業員のスキル向上、強み活用
個人の資源を改善するには、従業員のスキル向上や強み活用が有効です。特別な技術力などだけでなく、タスク管理やタイムマネジメント、コミュニケーションなどの基礎的なポータブル向上が、個人の資源改善につながることも多々あります。
また、従業員個々が自分の強みを認識し、仕事で成果をあげるために活用できるようになることも個人の資源改善、ワークエンゲージメント向上に効果的です。
適切な人材配置や役割分担
資源を有効活用するうえでは、人材配置や役割分担も大切です。組織全体の業務量を適切化するアプローチ、個々人の能力・パフォーマンス向上に併せて、個々人のスキルや強みをどう組み合わせるかという視点です。
経営学者として著名なドラッカーは、“強みを生かす”ということの重要性を何冊もの著者で繰り返し述べています。
「組織の目的は人の強みを生産に結びつけ、人の弱みを中和することにある」
「成果をあげるには、人の強みを生かさなければならない。弱みからは何も生まれない」
「人のもつあらゆる強み、活力、意欲を動員することによって全体の能力を増加させることである」
このように従業員の能力や強みを生かす、適切な人材配置や役割分担は従業員が本来持っているスキルや能力を発揮し、組織全体のパフォーマンス、ワークエンゲージメントを向上させることにつながります。
まとめ
ワークエンゲージメントとは、仕事に誇りを感じ、熱中し、仕事から活力を得ている状態を指します。活力・熱意・没頭の3つから構成されおり、ユトレヒト・ワーク・エンゲイジメント尺度(Utrecht Work Engagement Scale(UWES))を使って計測することができます。
ワークエンゲージメントを高めるには「仕事の資質」と「個人の資質」の両面へのアプローチが不可欠となり、両者が増強されることでワークエンゲージメントが高まる好循環を生むことができます。
ワークエンゲージメントは組織へのエンゲージメントや定着率、生産性にも大きく影響してくるので、今回の記事を参考に、ワークエンゲージメントを高めるための仕組みや人材育成を整備してください。