アンダーマイニング効果とは?意味や具体例、防止策を解説

更新:2024/11/13

作成:2022/03/08

東宮 美樹

東宮 美樹

株式会社ジェイック 執行役員

アンダーマイニング効果とは?モチベーション低下が起こる原因と具体例、対策を解説

アンダーマイニング効果とは、外発的動機づけ(報酬など)を使うことで、内発的な動機が失われてしまう現象を指します。管理職や経営者など、リーダーの立場にある人が押さえておきたい心理学用語の一つが「アンダーマイニング効果」です。

 

アンダーマイニング効果は、誰にでも起こり得る現象であり、組織においてもいつの間にか生じている場合があります。例えば、インセンティブなど報酬を十分に与えているはずなのに、メンバーのモチベーションが低い、以前よりも下がってきた気がする、といった悩みの背景にはアンダーマイニング効果が関係しているかもしれません。

 

本記事では、アンダーマイニング効果の概要や具体例、モチベーション低下を防ぐための対策を解説します。

 

<目次>

アンダーマイニング効果とは?

アンダーマイニング効果のイメージ

 

アンダーマイニング効果とは、内発的動機づけによって行なっていた行為に対して、外部からの報酬を提示することで、内発的動機づけが損なわれてしまう現象を指します。

 

内発的動機とは、本人の内面的なモチベーションであり、興味や探求心、行為自体への喜びややりがいなどがあてはまります。アンダーマイニング効果を生じさせる外部からの報酬は、外発的動機であり、金銭や上司から評価、またペナルティなど外部からの働きかけによってモチベーションを生み出すものです。

 

内発的動機づけが起きているとき、人は目的の行為を純粋に楽しみ、価値を見出している状態です。尽きることがないエネルギーであり、動機づけにおいて最も望ましい状態にあるといえるでしょう。

 

しかし、目的の行為に対して外発的動機、つまり金銭などの物理的な報酬が提示されると、人の関心はどうしても報酬に目移りしてしまいます。目移りすることで、本来の「目的」が報酬を得るための「手段」にすり替わってしまい、次第にモチベーションも低下していくのがアンダーマイニング効果です。

 

もともとは行為自体が楽しかったのに、いつの間にか行為が報酬を得るための手段となってしまい、行為自体の面白さが失われてしまう状態です。アンダーマイニング効果は日本語では「過正当化効果」とも呼ばれます。

 

なお、外発的動機づけによって、必ずアンダーマイニング効果が生じるわけではありません。逆に外発的動機づけによって内発的動機づけが高まり、モチベーションが上がる現象もあり、「エンハンシング効果」と呼ばれます。外発的動機づけのなかでも、言葉による賞賛や期待は、エンハンシング効果を生みやすいとされています。

 

HRドクターを運営するジェイックでは、言葉による動機付けを実践できるリーダー、管理職を育成するデールカーネギー・トレーニングを提供しています。部下の主体性や熱意を引き出せる管理職の育成にご興味あれば、ぜひご覧ください。

 

アンダーマイニング効果の具体例

アンダーマイニング効果への理解が深まる3つの事例を紹介します。自分たちの状況に置き換えて考えてみると、アンダーマイニング効果への理解をより深められるでしょう。

 

幼稚園児を対象とした心理実験

1つ目は、「幼稚園児を対象とした心理実験」です。絵を描くことが好きな幼稚園児たちのグループを3つに分けて、各グループに以下のような違いをつくりました。

・グループ1:絵を描いたらお菓子がもらえることを子どもたちに知らせ、実際にお菓子を与えた
・グループ2:絵を描く前にはお菓子がもらえることを知らせず、絵を描いたあとにお菓子を与えた
・グループ3:お菓子がもらえるとは伝えず、描いたあともお菓子を与えなかった

2週間後に、上記の3グループにお菓子のことも何も伝えず、ただ絵を描いてもらったところ、グループ2と3の幼稚園児は以前と同様に絵を描くことを楽しめました。しかし、グループ1の幼稚園児だけは、以前は好きだったにも関わらず、絵を描くことに興味を示さなくなってしまいました。

 

好きなことを仕事にしたらつまらなくなった

2つ目は、「好きなことを仕事にしたらつまらなくなった」という非常にわかりやすい例です。好きなことで起業したり、好きを活かせる仕事に就いたりした途端、楽しくなくなってしまったという話は珍しくありません。

 

好きなことを仕事にした場合は、次の2つの理由でアンダーマイニング効果が起きていると考えられます。「好きなことがお金を得るための手段になった」「納期や成功へのプレッシャーから純粋に行為を楽しめなくなった」のいずれか、あるいは両方です。

 

つまり、仕事にしたことで、報酬を得ることや納期に遅れないこと、失敗しないことが目的になり、楽しみの対象だった行為に今までのような興味や情熱を持てなくなってしまうのです。特に「ペナルティを課されないため」といった罰則からの回避が動機になってくると、以前のように純粋に楽しめないどころか、苦痛すら感じるようになってしまうかもしれません。

 

テストの成績に応じてお小遣いを与えることで子どもの勉強意欲が下がった

3つ目は、「子どもの勉強意欲」に関する例です。子どものテストの成績に応じてお小遣いを与えていたら、勉強の意欲が高まるどころか逆に下がってしまったというケースです。

 

これは、子どもの内面から湧いていた勉強への意欲、知らないことへの好奇心が外部からの報酬によって失われてしまったパターンです。

 

これは社会人でもまったく同じことが起こり得ます。例えば、営業成績に応じて優秀な営業スタッフにインセンティブを与えていたところ、あるときから自主的な行動が減り、以前より成績が下がってしまったケースなどです。良かれと思って与える報酬が、与え方を誤るとやる気を失わせてしまう恐れがあるのです。

 

アンダーマイニング効果が起こる理由

アンダーマイニング効果が起こる理由を理解することで、防止するための適切な対策を打てるようになりますので、改めてアンダーマイニング効果の裏側を確認しておきます。

 

アンダーマイニング効果は、純粋な好奇心や達成感を満たすために行なってきた行為が、外部から報酬を提示されることで報酬を得るための手段に成り下がってしまうことで起こります。

 

「好き・楽しい」から「お金を得る手段」というように、行為に対する自分のなかでの意味づけが変わってしまうことが、内発的動機づけが損なわれる原因です。

 

一般的に、物理的な報酬によるモチベーションアップは長続きしません。外発的動機づけによって一時的にはやる気が上がっても、アンダーマイニング効果によって次第にモチベーションは低下していきがちです。

 

加えて、動機が外発的なものに移ると、行為を他人から「やらされている感」が生じやすくなります。やらされている感覚が強まると当事者意識は失われます。

 

そして、内発的動機付けと当事者意識の低下、両方の掛け合わせにより、ますますやる気は損なわれ、自発的に行動しなくなってしまうのです。

 

組織は、メンバーが自発的に行動しなくなると、さらに外発的動機づけを強化したり、指示や命令を通じて人を動かそうとしたりしがちです。こうして、マイナスのスパイラルが生まれます。

 

メンバーが自発的に動いてくれず、外発的動機づけをどんどん強化していかないといけない状態になれば、組織の力は費用対効果の面でもスピードや実行力の面でも弱くなっていくことになります。

 

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アンダーマイニング効果を防ぐ対策

ゴールに向かって走る人のイメージ

 

メンバーの健全なやる気が損なわれると、組織全体のパフォーマンスも低下します。アンダーマイニング効果を防ぐ3つの有効な対策を紹介しますので、ぜひ組織のマネジメントにうまく取り込んでいってください。

 

内発的動機づけを尊重する

内発的動機づけが高いメンバーに対しては、必要以上に干渉しないことも大切です。内発的動機づけが高いメンバーとは、リーダーがある程度放っておいても自ら目標を立てることができる、さらに自発的に行動したいという欲求も強い人たちです。

 

こうしたメンバーに対しては、個々の主体性を尊重し、自己決定の余地を多く残すことが、やる気の維持には最も効果的です。

 

一方、内発的動機づけが低いメンバーに対しては、やる気を生むきっかけとして外発的動機づけを適度に提示してみてもよいでしょう。エンハンシング効果が生まれる可能性も期待できます。

 

ただし、外発的動機づけを導入する際には注意も必要です。金銭や商品など「報酬自体の価値」を過度にアピールするのではなく、「行為や貢献に素晴らしい価値があり、行為や貢献を形として評価するうえでの報酬である」というメッセージを大切にしましょう。

 

大切なのは「あくまで行為そのものに価値がある」という点を繰り返しメッセージすることです。「馬の鼻先にニンジンをぶら下げて動かす」という意味合いで報酬が伝わってしまうと、アンダーマイニング効果が起きやすくなります。

 

外発的動機づけを乱用しない

メンバーの貢献に対して、金銭的・精神的な報酬で報いること自体は、悪いものではありません。目に見える形での報酬や賞賛の言葉は、メンバーのモチベーションアップに大きく寄与します。

 

しかし、行き過ぎると、もともとの興味や意欲まで損なわれたり、失われたりします。また、外発的動機づけへの依存も生じかねません。外発的動機づけへの依存とは、金銭的報酬などを長期的に継続することで、報酬を得ることが当たり前になったり、現状の報酬水準では満足できなくなったりすることです。

 

外発的動機づけの頻度やタイミングは、慎重にコントロールしていくことが大事です。乱用しない、依存状態を作らない、あくまでも内面からの意欲や情熱を促進するためのきっかけとして効果的に使う、といった点を意識して実践していくとよいでしょう。

 

 

メンバーをよく理解する

内発的な動機と外発的な動機、どちらの影響をより受けやすいのかは、メンバーそれぞれで異なります。それぞれの価値観はリーダーのものと違うかもしれません。

 

押しつけや思い込みなどで、モチベーションを刺激する方向性を間違えないようにしましょう。刺激する方向性を誤ると、かえってモチベーションが落ちて生産性が低下したりしてしまいます。

 

方向性を誤らないためには、各メンバーそれぞれに対して興味や関心を持ち、相手の内面を普段からよく観察しておくことです。何にやりがいを感じるのか、モチベーションの源泉は何なのかを正しく理解するように努めましょう。

 

普段から積極的にコミュニケーションを取り、特に相手の話に耳を傾けることが大切です。相手に合わせて報酬の与え方やメッセージを調整したり、アプローチ方法を変えたりすることが、アンダーマイニング効果を本質的に防ぐカギとなります。

 

まとめ

アンダーマイニング効果とは、もともと「好き」で行なっていた行為に外部からの「報酬」を与えることで、内発的動機が損なわれてしまうことです。

 

自分のなかで「行為自体が楽しい・やりがいがある」から「報酬を得るための手段」に行為への意味づけが変わってしまうことが、アンダーマイニング効果の原因です。

 

年齢や環境問わず起こり得る現象であり、金銭や昇進・昇格といった報酬が標準的に準備されているビジネス組織は、気づかぬうちにアンダーマイニング効果が生じやすいともいえます。

 

メンバーの内発的動機づけを維持するためには、アンダーマイニング効果の仕組みをよく理解して防止対策を実践することが大事です。外発的動機づけが悪いわけではなく、メンバーの内発的動機を損ねないように適切に導入・運用していくことがポイントです。

 

また、本質的には、各メンバーの内面をよく観察して、それぞれのモチベーション源泉を見極めることが重要です。見極めたうえで、内発的動機づけ・外発的動機づけの与え方をメンバーごとに調整していきましょう。

HRドクターを運営するジェイックでは、言葉による動機付けを実践できるリーダー、管理職を育成するデールカーネギー・トレーニングを提供しています。部下の主体性や熱意を引き出せる管理職の育成にご興味あれば、ぜひご覧ください。

 

著者情報

東宮 美樹

株式会社ジェイック 執行役員

東宮 美樹

筑波大学第一学群社会学類を卒業後、ハウス食品株式会社に入社。営業職として勤務した後、HR企業に転職。約3,000人の求職者のカウンセリングを体験。2006年にジェイック入社「研修講師」としてのキャリアをスタート。コーチング研修や「7つの習慣®」研修をはじめ、新人・若手研修から管理職のトレーニングまで幅広い研修に登壇。2014年には前例のない「リピート率100%」を達成。2015年に社員教育事業の事業責任者に就任。

著書、登壇セミナー

・新入社員の特徴と育成ポイント
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