動機付けは、メンバーが仕事や目標達成に向けて、やる気を高めてもらうためにとても重要です。
特に近年では、産業のサービス化、知識労働の普及、外部環境の変動などがあるなかで、メンバーに仕事への動機付けをしっかり行ない、メンバー1人ひとりが主体性を発揮して他メンバーと協働、自立して課題解決や改善が行なわれる状態を目指すことの重要性が増しています。
記事では、「動機」と「動機付け」の違い、動機付けの概要や活用シーン、動機付けの主要理論、関連する心理学用語を解説します。
<目次>
- 動機付けとは?
- 動機付けが注目される背景
- ビジネスにおける「動機付け」の活用シーン
- 動機付けに関する主要な理論
- 動機付けに関連して知っておきたい心理学用語
- 動機付けに活用できる「目的・目標の4観点」
- 動機付けを効果的に行い部下のやる気を高めるポイント
- まとめ
動機付けとは?
まず、「動機」とは「人が行動を起こすきっかけとなるもの」です。単なる「やる気」のようにとらえられることもありますが、しっかりと定義されたものです。
そして、「動機」が「動機付け」という言葉になると、「適切な情報や刺激を与えることで、相手の行動や意思決定をあと押しする」という意味になります。動機付けは、マネジメントや採用などにおいて適切に活用することで大きな効果を発揮するものです。
心理学の分野では、古くから動機付けに関する多くの研究・実験が行なわれています。マネジメントや組織づくりにおいて、適切に動機付けを行なうためには、主要な理論を知っておくことが大切です。
動機付けが注目される背景
現代のビジネス環境において、動機付けはますます重要視されるようになっています。背景には労働人口の減少、働き方改革、そして知識労働の増加などがあります。
働き方改革が推進され、時代の流れとしても長時間労働は避ける必要があります。繁忙期が厳しかったりシフト制の業種においても勤務間インターバル制度を取り入れる企業は増えています。現代の企業活動は残業を減らし、規定の勤務時間でいかに生産性を向上させるかが重要です。
また少子化の進行は確実であり、労働力がさらに減っていきます。その中で、従業員一人ひとりの生産性を高めていくことが、今後ますます重要となります。
生産性向上を図る手法として、従来は目標管理、行動管理、プロセス管理といった管理手法を用いる企業が多かったといえますが、そうした管理手法では従業員一人ひとりの仕事への意欲を引き出すことは困難です。
また、工場労働のような形であれば、上記のような行動管理の手法でも、一定の生産性は担保できたでしょう。しかし、知識労働が増え、コミュニケーションやコラボレーション、思考活動が業務の中心になってくると、行動管理ではなく、意欲を引き出すことが生産性向上を左右します。
そこで改めて重要性が増しているのが、従業員個々の自己実現を促進し、仕事への意欲を引き出す「動機付け」です。動機付けによるマネジメントができれば、従業員が一人ひとり主体的に行動するようになり、会社に対してのエンゲージメント向上も期待できます。
動機付けによって組織の生産性を向上させ、持続的に成果を得るためにマネジメントにおける「動機付け」はこれまで以上に注目されるようになっています。
ビジネスにおける「動機付け」の活用シーン
ビジネスで動機付けが多く活用されるのは、リーダーによるチームや個人のマネジメント、また、人事部門による採用シーンなどです。
本項では、それぞれの具体例を紹介しながら、どのように動機付けの概念を活用できるか確認しておきます。
マネジメント
管理職やリーダーがチームのマネジメントを成功させるには、メンバーへの動機付けを通して、メンバー1人ひとりに主体的に仕事をしてもらうことが大切です。
チームの仕事や目標への動機付けができていれば、メンバーのエンゲージメントは高まり、自律的に行動するでしょう。
たとえば、プロジェクトにトラブルなどの逆境が生じたときにも、メンバーの動機付けができていれば、各自がトラブルを“自分事”ととらえて、主体的に“自分ができること”を模索するようになります。
また、たとえば、「1年間でA商品の売上で1,000万円達成」といった業務目標に対してきちんと動機付けできれば、各メンバーの目標達成率は向上し、チーム全体の目標達成もしやすくなるでしょう。
採用
少子化にともなって中長期的に売り手市場が加速するなかで、採用したい人材に内定を出したにも関わらず、内定辞退されるケースは増える傾向にあります。
優秀な人材は、自社だけでなく複数の企業から内定を獲得しています。そのなかで、他社との比較が行なわれ、他社に負けることで内定辞退が生じてしまいます。
自社の魅力をしっかり伝えて不安や疑問を解除し、人材が「この企業で頑張りたい!」と思える動機付けをして意思決定してもらうことが大切です。
動機付けに関する主要な理論
「動機」という概念に対しては、心理学の見地から多くの研究や実証が行なわれています。主要な理論は、マネジメントなどの現場でも活用できるものです。本章では、それぞれの理論の内容や各理論を使った動機付けの例を紹介します。
外発的動機付け・内発的動機付け
外発的動機付けと内発的動機付けは、チームや人材のマネジメントをするうえで必ず知っておくべき考え方です。
まず、外発的動機付けは、言葉のとおり、「外から与えられる報酬による動機付け」です。たとえば以下のようなものです。
- <外発的動機付けの例>
- 金銭(給与・賞与)
- 昇進、昇格
- 褒め言葉
- 承認
- 感謝
- 罰則や降格(回避する欲求による動機付け) など
一方、内発的動機付けは、「本人の内側から生まれる動機付け」であり、以下のようなものです。
- <内発的動機付けの例>
- 楽しさ
- 面白さ
- 好奇心
- やりがい
- 達成意欲 など
外発的動機付けには、外から動機付けすることができ、即効性もあるというメリットがあります。
ただし、外的報酬への耐性ができると、より多くの報酬を与える必要が生じたり、なくなると不満が生じたりするなど、一種の中毒性や依存を生むリスクもあります。
一方で内発的動機付けは、外からコントロールすることはできませんが、本人の内側から尽きることなく湧いてきて、限りもなく、継続性があるという利点があります。
それぞれの特徴を把握したうえで、弊害が出ないように注意しながら外発的動機付けを行ないつつ、内発的動機付けを促進する人材育成の仕組みづくりをすることがポイントです。
マクレランドの欲求理論
ハーバード大学の心理学教授デイビッド・C・マクレランド氏によって提唱された「どういう状態だと人は動くのか? また、動かないのか?」を心理学的に追求したものが欲求理論です。
マクレランドの欲求理論では、人の動機には以下の4種類があり、人によって4つの強さの優先順位が違うとされています。
- 達成動機が強いタイプ
自分の努力で成し遂げられる目標や個人的な進歩に対して、興味や関心を持って動機付けされる。自分の行動に対して、結果やフィードバックがすぐ返ってくることを求める傾向がある。
- 親和動機
好かれたいという欲求が強いため、人間関係が良い状態のなかで高いパフォーマンスを発揮できるタイプ。一方で、人間関係が悪いと行動力が低下しやすくなったり、成果よりも人間関係に重きを置いてしまったりする傾向がある。
- 権力動機
他者のコントロールや影響を与えることに、モチベーションが上がるタイプ。他者からの信望を得たり、周囲との競争がある状況を楽しんだりする傾向がある。
- 回避動機
失敗やリスクを恐れるタイプ。リスクが高い行動やハイレベルな目標、冒険などは好まず、実現性の高い計画を作成したり、リスクを洗い出したりすることが得意。
マクレランドの欲求理論は、マネジメントのさまざまなシーンで活用できます。
たとえば、配属や異動を検討する際、どのタイプかを分析することで、どういう職種や部署でパフォーマンスしやすいかを見極めることができます。
また、マネジメントするうえで、相手の動機を知ることで、相手に適した動機付けをしやすくなります。さらには、各部署でどのような動機の人が活躍しているか、どのような動機の人がどのような活躍パターンを持っているかを分析することで、採用精度の向上や人財育成にも活用できるでしょう。
フレデリック・ハーズバーグの「動機付け・衛生理論」
フレデリック・ハーズバーグの「動機付け・衛生理論」は、メンバーの定着率やモチベーションアップの分野を考えるうえで押さえておきたい動機付けの考え方です。
ハーズバーグの理論では、動機に要因する要素を大きく2つに区分しています。
まず、衛生要因は、一定基準まで満たさないと大きな不満要因、モチベーションダウンにつながるものです。一方で、一定基準から多少水準をあげても、大きくモチベーションが上がる要素にはなりません。
したがって、組織の動機付けを考える際、衛生要因に分類されるものに関しては、競合や市場の相場と同等ぐらいまで充実させる必要があります。
- <衛生要因の例>
- 給与や賞与などの金銭的報酬
- 勤怠管理や労働時間、働き方
- 福利厚生 など
ただし、衛生要因をクリアしても不満が減るだけで強い動機付けはできません。メンバーの動機付けをするには、増えれば増えるほど動機付けが強化される動機付け要因をしっかりと高めていくことが大切です。動機付け要因は以下のような要素です。
- <動機付け要因の例>
- やりがい
- 承認
- 成長機会
- 感謝 など
衛生要因が整っている前提でメンバーのモチベーションを高めるためには、動機付け要因に着目して、たとえば、上司が1on1でポジティブなフィードバックをしたり、具体的な目標設定・達成で自信を付けさせたり、仕事の意味づけやしたりする取り組みが有効です。
動機付けに関連して知っておきたい心理学用語
マネジメントや人材採用で動機付けを活用して高い効果を得るには、以下のような心理学用語も押さえておくとよいでしょう。
アンダーマイニング効果
アンダーマイニング効果とは、内発的動機付けの高い人に、外的な報酬を与えることでモチベーションが下がる現象です。
たとえば、純粋に勉強が好きで、とても成績が高い子どもがいたと仮定します。その子どもの親がある日、成績をさらに上げようと思い立ちます。そして、成績アップや勉強時間を増やすことに対して、好きなお菓子や玩具などの報酬を与え始めるのです。
その結果、子どもの純粋に学ぶ楽しみや好奇心が失われて、勉強自体が嫌いになったり成績が下がる状態に陥ったりすることが、アンダーマイニング効果となります。
アンダーマイニング効果を起こさないためには、内発的動機付けの高いメンバーの仕事に対する目的「楽しい・もっとやりたい」が、外的報酬を与えることで「お金を得る手段」などにならないように工夫が必要です。
外的報酬(外発的動機付け)が悪いわけではありません。外的報酬によるこうしたリスクを知ったうえで、たとえば“お金で人を動かす”ような形ではなく、“素晴らしい仕事に対する報酬”といった形でのメッセージングをきちんとしていくようなことが大切です。
エンハンシング効果
エンハンシング効果とは、外発的動機付けによって内発的動機付けが高まることです。アンダーマイニング効果と逆の効果です。
前述のように外的報酬を単なる金銭ではなく、内的報酬・内発的動機付けと紐づけて提供することがエンハンシング効果を発揮するための基本となります。
内発的動機付けと外発的動機付けの考え方を使ってマネジメントをする場合は、まず、対象となるメンバーの動機付けがどちら中心かを分析することが大切です。
そのうえで、外発的動機付けに対してきちんと意味を持たせたり、金銭的報酬以外のものを用意したりして、エンハンシング効果につながるように工夫しましょう。
ピグマリオン効果
ピグマリオン効果とは、「人は良い期待に応えようとする」というものです。
たとえば、ずっと伸び悩んでいたメンバーに「今月の営業成績は良かったね。君は実績をだせる力が備わっているね!」とポジティブなフィードバックを行ないます。そうすると、営業成績がなかなか伸びなかったはずのメンバーのモチベーションが高まり、期待に応えようとします。
ピグマリオン効果を発揮させるうえで特に重要なポイントは、「結果」だけではなく、「行動」や「特性」などの本人が影響できる要素にフォーカスして期待することです。
一方で、たとえば、「今月もダメだったじゃないか。これじゃ来月も100万円の達成は難しいんじゃないのか。」といったネガティブなフィードバックばかりしていると、相手の自信が失われ、さらに成績が下がる可能性があります。
悪い期待やメッセージでモチベーションなどが下がり、ネガティブなメッセージや期待のとおりになる現象は、ピグマリオン効果の反対でありゴーレム効果と呼びます。
動機付けに活用できる「目的・目標の4観点」
メンバーの動機付けをする際には、「目的・目標の4観点」というフレームワークの活用がおすすめです。
「目的・目標の4観点」とは、自分‐他者、有形‐無形という2軸をかけ合わせた4観点を使って、目標達成したらどのように素晴らしいことが起こるかを見える化するものとなります。
・ 他者:自分以外の人にもたらされる利益や良いこと
×
・ 有形:形あるモノやコト
・ 無形:感情や気持ちなどの内面
「2022年の年間売上1,000万円を達成する」という目標に対して4観点を考えると、達成によって起こる(かも知れない)事柄として、たとえば以下のようなものが思い付くでしょう。
- 自分にとっての有形:社長から表彰される、来年から給料がアップする
- 自分にとっての無形:自信になる、モチベーションが高まる
- 他者にとっての有形:チームの目標も達成できる、給料アップで家計が楽になる
- 他者にとっての無形:チームメンバーが喜ぶ、家族みんなが笑顔になる
目的・目標の4観点は、このように「目標」に対して意味づけすることで動機付けを行なう方法です。
組織における目標は「与えられたもの」となりがちで、個人にとっての意味づけがされていないケースがありますので、こうした手法できちんと目標達成に動機付けすることが大切です。
動機付けを効果的に行い部下のやる気を高めるポイント
部下、メンバーの動機付けを効果的に行うためには次のようなポイントを押さえることが大切です。また、以下のポイントを実践する前提として、物質的な報酬や利益、評価などだけでは動機付けが難しい時代であることを理解しておくことが必要です。
コミュニケーションを取り、適切に動機付けを行う
動機付け要因は複数あります。また部下によっても動機付け要因は異なります。見極めるために、部下それぞれコミュニケーションを定期的に取ることが必要です。
さらには、状況に応じて動機付け要因は変化するということを理解しなければなりません。たとえば、プライベートで結婚して子供が生まれたことで家計の支出が増えれば、相対的に動機付け要因であるやりがいから衛生要因である待遇・報酬の重みが増すこともあるでしょう。逆に、女性の場合には結婚や出産を通じて報酬や役職への意識が薄くなり、仕事のやりがいや強みの活用といった動機付け要因の重みが増すこともあります。
また、動機付けをしていく中では、最初は昇給、昇進といった外発的動機付けから、少しずつ仕事のやりがい、意義、達成意欲といった内発的動機付けを増やしていくことも大切です。
継続してコミュニケーションを取ることによって、部下の状況を把握し、今の状況に合わせて適切に動機付けを行うことが大切です。
フィードバックの機会を設け、承認欲求を満たす
部下とコミュニケーションを取り、フィードバックを行い、承認欲求を満たすことも大切です。部下のやる気を引き出し、動機付けにつなげていきましょう。定期的に1on1を実施する方法がベースとなるでしょう。
1on1は一方的に上司が話す場ではなく、部下の話を聴く場です。部下も上司に相談したいことを抱えていることもあるでしょう。1on1などの機会が定期的にあれば、部下も相談がしやすく、話すことによって安心感を得ることができます。
部下の思考、価値観、仕事の志向性に合わせたフィードバックを行うことによって承認欲求を満たし、動機付けを強化していきましょう。
主体的に意味付けしてもらう
1on1などのコミュニケーション等も通して、動機付けしていく中では、部下に主体的に意味づけしてもらうことが大切です。外部からの働きかけで意味付くこともありますが、外部からの働き掛けによる動機付けは、長く維持することが難しいものです。
従って、上司側がアドバイスしたり示唆したりするような形で仕事の意味づけなどを行うのではなく、「問い」を通じて相手に考えて、答えを考えてもらうことが大切です。時間はかかるかもしれませんが、何度も考える中で、「意味づけする力」も高まっていきます。「問い」を知り、意味づけする力が高まることで、徐々に自分自身で意味づけもできるようになっていくでしょう。
まとめ
動機付けとは、「適切な情報・刺激などを与えることで、行動や意思決定のあと押しをすること」です。
マネジメント層がメンバーの動機付けをする場合、以下の主要な理論を押さえて、仕かけを設けたりフィードバックなどをしたりすると有効です。
- 外発的動機付けと内発的動機付け
- マクレランドの欲求理論
- フレデリック・ハーズバーグの「動機付け・衛生理論」
- アンダーマイニング効果とエンハンシング効果
- ピグマリオン効果とゴーレム効果
メンバーの特徴を分析したうえで、うまく動機付けを図っていきましょう。組織の業務目標に対してメンバーの動機付けをする際には、「目的・目標の4観点」というフレームワークも有効ですので、ぜひ活用してください。