組織の風土醸成とは?風土を決める3つの要素と取り組み方を紹介

更新:2023/07/28

作成:2022/08/01

東宮 美樹

東宮 美樹

株式会社ジェイック 執行役員

組織の風土醸成とは?風土を決める3つの要素と取り組み方を紹介

近年、チームや組織の生産性を高める上では、組織風土醸成の重要性が改めて注目されています。組織風土とは、企業の体質や価値観、雰囲気、行動様式の傾向といったものを指し、メンバーの行動や意思決定に大きな影響を及ぼします。

 

記事では、組織風土を醸成するために理解しておくべき3つの構成要素を確認したうえで、良質な組織風土を醸成するための具体的な取り組み、チェックポイントや事例を紹介します。

<目次>

組織風土とは?

組織風土とは?

 

組織風土とは、メンバー内で共通認識となっている組織の価値観や暗黙のルール、行動様式、社内の雰囲気などのことです。組織風土は長い時間をかけて、自然と醸成されていきます。

 

組織風土は目に見えづらいものですが、メンバーの行動と意思決定に大きな影響を及ぼします。良質な組織風土は、前向きな行動や挑戦、連携や協働、イノベーションの創出に繋がりますが、逆のケースもあるでしょう。

 

優秀人材の定着や生産性の向上、企業の業績向上を目指すうえでは、良質な組織風土の醸成が不可欠です。

組織風土を決める3つの要素

  • ハード要素
  • ソフト要素
  • メンタル要素

組織風土に影響するのは以下3つの要素といわれます。したがって、風土醸成を考える際は、3つの要素のどこにどう働きかけていくかを考えることになります。

 

ハード要素

ハード要素とは、企業理念や評価制度、ルールなど、明文化された目に見える要素のことです。たとえば以下のようなものです。

組織風土のハード要素
  • 企業理念
  • クレド
  • 人事評価制度
  • 就業規則
  • 組織体制

 

ソフト要素

ソフト要素は、明文化されていない見に見えない要素のことです。価値観や人間関係、暗黙の了解といったものも、ソフト要素に含まれます。たとえば以下のようなものです。

組織風土のソフト要素
  • チームの人間関係
  • コミュニケーションの量や質
  • 組織内での暗黙の了解
  • 会議の進み方
  • 意思決定のされ方や傾向

 

メンタル要素

メンタル要素は、ソフト要素のなかで、メンバーの心理面に大きく影響する要素のことです。メンバー個々の内面で認識するものとなり、ソフト要素のなかでも特にコントロールが難しく、たとえば以下のようなものです。

組織風土のメンタル要素
  • 心理的安全性
  • 信頼関係
  • 仕事や組織へのエンゲージメント

組織に良い風土を醸成するメリット

  • エンゲージメントの向上
  • 生産性の向上
  • コミュニケーションの活性化

 

エンゲージメントの向上

良い組織風土を醸成することで、企業への愛着や信頼が高まり、メンバーのエンゲージメントが向上します。ハード要素では、企業の目指す方向性やビジョンがメンバーに浸透していることや、メンバーを大切にするための就労規則が整えられていること、納得性の高い評価制度が運用されていることが重要です。

 

ソフト要素、メンタル要素ではメンバーにとって居心地良いと同時に、働きがいがある環境を目指す必要があります。

 

生産性の向上

同じ目標に向かって全員で力を合わせる組織風土が醸成されていると、チーム全体の生産性が向上します。ハード要素では、信賞必罰の評価制度や作業効率化のための業務上のルールなどが挙げられます。逆に時代にそぐわないルールや価値観は、生産性を落とすものです。

 

また、ソフト、メンタル要素では、ミッションやビジョンの浸透、目標に対する納得感やコミットメントなどが重要です。

 

コミュニケーションの活性化

良い組織風土を醸成することは、コミュニケーションの活発化にもつながります。コミュニケーションが活性化することは、エンゲージメント向上、生産性向上にも寄与すると同時に、社内のイノベーション創出にもつながるでしょう。

 

ハード面では、1on1ミーティングや社内イベントなどの仕組みづくりや研修の実施などが効果的になります。ソフト、メンタル面ではメンバーの心理的安全性の担保が重要です。

組織に良い風土を醸成するための取り組みチェックリスト

 

 □経営層がコミットする
 □組織体制や制度を見直す
 □長期的に取り組む
 □メンバーに語り続ける
 □共通言語の構築

 

経営層がコミットする

良い組織風土を醸成するためには、企業のビジョンや評価制度といったハード要素を変革しなければならない場合もあるでしょう。また、ビジョンや理念を浸透させるためには、経営層が繰り返しメンバーに訴えることが重要です。

 

既存の組織風土を醸成・変革するうえでは、批判者が生じたり、退職者が発生したりもします。経営層が良い組織風土を醸成するいくことに覚悟をもって進めていくことが必要です。

 

組織体制や制度を見直す

長年アップデートされていない伝統的な組織体制や制度がある場合は、時代に合っているか見直すことが新しい組織風土の醸成につながります。従来のやり方に固執することは、ビジネスチャンスを逃したり、人材の能力を最大限に発揮させられなかったり、企業としての機会損失をしている可能性があります。

 

組織体制や制度を見直すことで、生産性が向上したり、イノベーションが起こったりしやすい組織風土が生まれる部分もあるでしょう。

 

長期的に取り組む

組織風土の醸成は大きな成果につながりますが、短期的に実現することではありません。「組織風土の変革は、これまで醸成されてきたのと同じ年月がかかる」という人もいるぐらいです。つまり、設立30年たっていれば、組織風土を完全に変えるには30年かかるということです。

 

これはさすがに大げさかもしれませんが、取り組みの中核となる経営メンバーは効果が見えなくても3年は継続するぐらいの覚悟は必要です。

 

メンバーに語り続ける

従来の組織風土を改革する際には、現場のメンバーにも負担がかかる場合が多いです。慣れ親しんだ習慣を変えるためには、メンバー一人ひとりが意識して行動を変えていく必要があります。そのため、改革する意義や目指す姿をメンバーに伝え、協力してもらうことが重要です。

 

時間はかかっても組織が本気で改革を進めようとしていることをメンバーに理解してもらわなければなりません。改革の意義や目指す姿を訴え続け、全社的に納得、協力してもらいましょう。

 

共通言語の構築

ミッションやビジョン、バリューの言語化を筆頭に、共通言語を構築することが組織風土の醸成に有効です。組織風土の3要素のうち、ソフト・メンタルの部分は目に見えない、言語化されていない部分です。言語化されていない部分に影響するためには、じつは目指すものや基準を言語化して共通言語にしてしまうことが近道です。

 

たとえば、HRドクターを運営する研修会社ジェイックでは、書籍『7つの習慣』を社員育成の軸とし、共通言語として利用しています。

 

『7つの習慣』では“個人の価値観や経験によって作られた物事を見るフィルター”を“パラダイム”と呼びます。パラダイムが共通言語化すると、「それってパラダイムじゃないですか?」「こんなパラダイムもありませんか」「これは私のパラダイムか……」といった言葉が飛び交います。

 

結果的に、“多様な価値観や見方を尊重する”という組織風土を醸成することに役立っています。このように自社独自の用語、また参考になるフレームワークなどをうまく共通言語にするとよいでしょう。

企業による風土醸成の取り組み事例

企業による風土醸成の取り組み事例

  • トヨタ自動車
  • キリンホールディングス
  • 村田製作所
  • ジェイック

風土醸成の取り組みによって、企業のパフォーマンス向上につながった事例を紹介します。

 

トヨタ自動車

トヨタ自動車には、かつて伝統的な“教え/教えられる”風土が存在しました。しかし1989年以降、時代の風潮やグローバル化を受けて、人事制度のフラット化を目指す大規模な組織改正を進めたことで、“教え/教えられる”風土の維持が難しくなりました。その結果、規模の拡大などに対して、人材育成の伸びが追いつかないという問題が生じ始めます。

 

トヨタ自動車は、状況を改善すべく2014年に、“教え/教えられる”風土の再構築を目指すことを決定。先輩が後輩を指導しやすい仕組みづくりを行ない、組織風土の改革を行ないました。

 

結果、後輩側が育ちやすくなったとともに、先輩側にも教える側としての責任感が高まるようになりました。

 

キリンホールディングス

キリンホールディングスは、以前は、成果が出ないことを人のせいにする雰囲気や、ヒット商品が一つ出ると安心しきってしまう慢心が目立つ組織風土があったといいます。

 

2015年に就任した布施社長はこれに危機感を抱き、全社員や労働組合をも巻き込んだ対話集会をスタートさせ、社員らに「自分たちの組織はどうあるべきか」を強く発信させ続けます。

 

数年をかけて組織風土の改革は成功し、社員全員がブランドを育てていく意識を持つ組織風土が醸成されました。また、メンバー一人ひとりが主体的に挑戦する組織風土やエンゲージメントの高い組織を目指す取り組みも進めてきました。

 

風土醸成の取組みとして、グループ情報の発信とメンバーの理解浸透を目的に経営情報を発信する社内Webサイト“KIRIN Now”の構築や、独自の“働きがい改革”などを行なっています。

 

村田製作所

村田製作所は人材育成の基本方針として、個人の“育つ力”、上司・職場の“育てる力”、企業の“育む力”の3つの力を高めることによって、育ち・育てあう風土を実現することを目指しています。

 

個人の「育つ力」を支援する取組みとしては、階層研修、選択型研修、選抜研修、職能研修、自己啓発などを実施しています。また、上司・職場の「育てる力」を支援するための取り組みとして、マネジメント力強化研修などを実施。

 

育つ側、育てる側双方を後押しすることで、人材育成を促進させ、メンバーのパフォーマンスを最大化させられるような風土の醸成を目指しています。

 

ジェイック

HRドクターを運営する株式会社ジェイックでは、前述のとおり、書籍『7つの習慣』を通じて、良質な風土醸成に成功しました。

 

風土醸成する前は、個人主義で成果主義の風土でした。極端には「何をしてもいいから自分が成果を上げて、成果に対する報酬を得る」という考え方です。

 

個人の努力を後押しする成果主義型の評価制度(ハード)と上記のソフトが組み合わさって成長してきましたが、リーマンショック時に人材業界全体が大不況となるなかで、組織が崩壊寸前となりました。

 

そのなかで「何のために仕事するのか?」「チームワークを生み出す」といったことを念頭に書籍『7つの習慣』の読書会をスタートさせ、結果として、社員の相互理解が進むことになりました。そして、ミッション経営・パーパス経営が実現した結果、企業をV字回復させて、上場するまでにいたりました。

組織に良い風土を醸成させることで、企業全体のパフォーマンスを向上させましょう

組織風土は、メンバーの行動や意思決定に大きな影響をおよぼします。良質な組織風土を醸成することが出来れば、メンバーの主体性や挑戦心、チームワークや心理的安全性を生み出し、企業全体のパフォーマンス向上につながるでしょう。

 

良い組織風土を醸成するためには、ハード面・ソフト面・メンタル面という3つの構成要素を理解し、適切な取り組みを行なうことが重要です。組織風土の醸成は、長期的に取り組むことで徐々に成果が現れるものです。記事で紹介した取り組みも参考にしながら、長期的な視点で取り組んでいきましょう。

著者情報

東宮 美樹

株式会社ジェイック 執行役員

東宮 美樹

筑波大学第一学群社会学類を卒業後、ハウス食品株式会社に入社。営業職として勤務した後、HR企業に転職。約3,000人の求職者のカウンセリングを体験。2006年にジェイック入社「研修講師」としてのキャリアをスタート。コーチング研修や「7つの習慣®」研修をはじめ、新人・若手研修から管理職のトレーニングまで幅広い研修に登壇。2014年には前例のない「リピート率100%」を達成。2015年に社員教育事業の事業責任者に就任。

著書、登壇セミナー

・新入社員の特徴と育成ポイント
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