褒め方のコツ!心理学に基づいた「相手の心を動かす」効果的な褒め方

更新:2023/12/26

作成:2022/03/15

東宮 美樹

東宮 美樹

株式会社ジェイック 執行役員

褒め方のコツ!心理学に基づいた「相手の心を動かす」効果的な褒め方

褒め方が上手な人は、褒めることで「相手の心をポジティブに動かす」ことができます。例えば、「相手が行動した内容」を含めて褒めるなどが具体例として挙げられます。

 

しかし、実際に褒めるとなると、どのようにすれば相手の心を動かせるかわからないこともあるでしょう。また、人によっては、自分の褒め方が間違っているのではないかと不安に感じることもあるかもしれません。ちなみに、日本人は、一般的に褒め方が下手ともいわれています。

 

記事では、相手を褒めるメリットを確認したうえで、心理学などの観点から相手の心を動かす上手な褒め方のポイントと褒める際の注意点、シーン別の上手な褒め方を紹介していきます。

<目次>

相手を褒めるメリット

褒められて照れるビジネスマン

 

リーダーや管理職が「褒める」ことに取り組むうえでは、まず褒めることにどのような効果やメリットがあるかを知っておくことが大切です。目的やメリットを知って、意識的に取り組みましょう。

 

上司や先輩がメンバーを褒めることには、大きく分けて以下4つのメリットがあります。

人材育成がスムーズになる【褒めるメリット①】

褒めることは良い行動の習慣化につながります。習慣化とは、意識しないとできなかった行動が、無意識で行なえるようになることです。

 

人間の行動は、意識してやるものが約3%、無意識にしている行動が約97%を占めているともいわれます。人材育成をスムーズにするためには、無意識を味方につける習慣化がとても大切です。

 

褒められると、褒められた相手は、無意識に褒められた行為を継続・強化しようと努めます。たまたま思いつきでやった行動であっても、褒められることで「今のは良い行動だったんだ」と自覚できるようになり、それが良い行動の継続・強化につながっていきます。

モチベーションが向上する【褒めるメリット②】

ノースカロライナ大学のドーソン・ハンコック氏が行なった実験では、褒めることでメンバーのモチベーションが向上したことがわかっています。実際に行なわれたのは、参加者を2つのグループに分けて実施した「リーダーシップトレーニング」と称した実験です。

 

トレーナーは、グループAの参加者たちを積極的に褒めました。一方で、グループBは、一切褒められません。トレーニング終了後、参加者には自宅で好きなだけやって良い課題が与えられました。

 

たくさん褒められたグループAは、自宅で平均46.8分も課題に取り組んでいます。一方で、褒められなかったグループBは、平均34.7分しか取り組みませんでした。

 

この実験は、褒められたことによるモチベーション向上などの効果がわかった一例です。実験結果からわかるように、上手な褒め方をすることで、相手の行動を促進したり、集中力を高めたりすることが可能になります。

自己肯定感が向上する【褒めるメリット③】

自己肯定感という言葉の産みの親である心理学者(臨床心理士)の高垣忠一郎氏は、自己肯定感を高める方法の一つとして成功体験を褒めることを紹介しています。

 

高垣氏が定義する自己肯定感とは「自分のダメなところや弱いところ、悪いところも含めて、自分が存在していることはいいことなのだ、許されているのだと、自分をまるごと肯定する存在レベルのこと」です。

 

つまり、自己肯定感とは、自分自身の存在を受け入れる感情を意味します。逆の感情が「どうせ自分なんて……」という自己否定です。

 

成功体験を積み重ねると、少しずつ自信がつくのが一般的です。上司や周囲がうまく褒めてあげることで、成功体験の自覚が強まり、不完全さを含めて自分を肯定することが可能になります。自己肯定感が高まると、自信を持って仕事に臨めるようになる他、以下のような効果も得られます。

  • 成長に意欲的になる
  • 周囲と対等に付き合って、周囲を受け入れられるようになる
  • 自己効力感も向上する など

円滑な人間関係が構築される【褒めるメリット④】

褒めることで相手との信頼関係が高まり、良好な関係性を構築することができるようになります。また、目標達成などの成果や良い行動などを褒められると、「上司は自分のことを認めてくれている」「自分のことを見てくれている」という想いから信頼関係も生まれやすくなるでしょう。

 

逆に、成功体験や成長を上司が褒めない場合、「上司は自分を認めてくれない」や「もっと頑張らないと認められないのだろうか?」「自分のことを見てくれていない」などの不安や不満が生じる可能性があります。

上手な褒め方で相手の心を動かすコツ

グッドサインを出して褒める上司

 

相手の心を動かす褒め方には、いくつかのポイントがあります。実際に褒めるときには、メンバー本人の性格や特徴、相手との信頼関係などを踏まえて、状況に合ったものを組み合わせることが大切です。

 

具体的な内容を褒める【褒め方のコツ①】

褒めている内容が相手に伝わらなければ、意味がありません。例えば、「最近よく頑張っているね!」とだけ言われても、相手は具体的に何が良い行動だったのか把握できないでしょう。

 

一方で「最近はアポイント件数も増えていて、よく頑張っているね!」と伝えれば、何が褒められる対象なのかが明確となり、成果や行動の継続・強化をしようという前向きな気持ちが生まれやすくなります。

行動やプロセスを褒める【褒め方のコツ②】

売上などの仕事の成果は、ある意味、自分では直接コントロールできません。一方で、以下のように成果につながる行動やプロセスは、習慣化という形で自分でもコントロールできるものとなります。

  • 毎朝ロープレ練習に参加する
  • 毎日10件の新規架電をする
  • 退勤前に営業報告を入力する など

良い結果はもちろん褒めるべきですが、結果だけでなく、以下のように良い結果につながった行動やプロセスを褒めることで、結果の再現性が高まるようになります。

(結果につながった行動やプロセスを褒める例)
「今回の新規受注1,000万は素晴らしい結果だね。商談のあとに、定期的に先方へフォロー連絡して状況把握、私に相談しながら先方の懸念点を消していくような丁寧な対応が成果につながったね!」

プラスのレッテルを貼る【褒め方のコツ③】

心理学には、レッテル効果というものがあります。レッテル効果とは、レッテルを貼られた相手が、レッテルどおりに行動するようになるものです。

 

褒めることを通じて、相手にポジティブなレッテルを貼っていきましょう。例えば、「今月のテレアポ件数がたまたま伸びている」というメンバーに対して、「Aくん、最近テレアポ頑張っているね!A君の努力する姿勢は素晴らしいね」とレッテルを貼ります。

 

このように良いレッテルを貼ることを通じて相手の自己認識が徐々に変化して、「テレアポをもっと頑張ろう」などのやる気も生まれやすくなります。

相手が褒めてほしいことを褒める【褒め方のコツ④】

相手が喜ぶという視点では、相手が認識している長所や、達成した・貢献したと思っているポイントなどの「褒められたいこと」を褒めてあげることが大切です。
また、相手の性格に応じて、以下のような方法でどこを褒めるか/どう褒めるかを調整することが有効になります。

  • とにかく盛り上げる
  • 具体的なポイントを褒める
  • 決断を褒める
  • 陰での貢献を褒める など

 

相手が気付いていないことを褒める【褒め方のコツ⑤】

前述のポイントと矛盾するように聞こえるかもしれませんが、成長促進や相手の視野を広げるという視点では、相手が意図していない点、相手は当たり前だと思っているけど貢献してくれている点などを褒めることも有効です。

 

褒めることを通じて、相手に「自分はこれもできるんだ」という新たな自覚を生み出すのです。「相手が褒めてほしいこと」と「気付いていないこと」を、相手や状況に合わせて上手に組み合わせていきましょう。

褒める際の注意点

誤った褒め方をすると、場合によっては逆効果になることがあります。褒める際には、以下のポイントに注意してください。

 

過剰に褒め過ぎる

メンバーが喜ぶ、モチベーションが上がるからといって、あまりにもオーバーな言葉を使ったり、頻繁に伝えたりする過剰な褒め方を繰り返すのはNGです。

 

頻繁に褒められたメンバーが「褒められ慣れる」という状態になった場合、上司からの褒め言葉がなければ不安や不満になったり、褒め言葉の報酬がなかったりすると行動できなくなってしまう可能性があります。

 

また、オーバー過ぎる褒め言葉や、低すぎるハードルを過剰に褒められた場合、以下のような疑念や不信感、勘ぐりなどが生じることもあるでしょう。

  • 「バカにされているのかな?」
  • 「自分はあまり期待されていないのかな?」
  • 「何か意図があるのかな?」

他の人と比較して褒める

例えば、「AくんはBくんと比べて◯◯だね」といった他人と比較する褒め方をした場合、「Bくんと比べられても、うれしくない」、また「Bくんよりもというのは、大げさでしょ……」といったように素直に喜びづらくなります。

 

また、常に誰かと比較する褒め方を繰り返すと、自分のやるべきゴールや絶対的な基準を高めることを目指すのではなく、比較対象となる周囲のメンバーの行動に左右されるようになってしまうリスクもあるでしょう。

 

さらに、上述の内容がBくんの耳に入れば、Bくんのモチベーションを下げてしまうことにもつながりますので、褒めるときに比較することは避けましょう。

上から目線で褒める

以下のような褒め言葉は、上から目線と感じられる場合があります。

  • 「よくできたね」
  • 「いいと思うよ」

上から目線の褒め言葉を絶対に使わないほうがいいということはありません。信頼する上司や尊敬する先輩から成長を褒められれば誰しもうれしいものです。

 

ただ、上から目線の褒め方は相手との信頼関係がないと「お前にそう言われても……」といった感情を生み出してしまうこともありますし、前述したような一種の依存症的な関係を作りやすくもあります。

 

上から目線の言葉を選びがちな人は、「ありがとう」「この結果はスゴイね」といった言葉を使う習慣をつけることがおススメです。

上手な褒め方の具体例【シーン別】

紹介したポイントと注意点を踏まえて、具体的な褒め方とフレーズをいくつか紹介します。

 

年上の部下を褒める

年上部下には、上司である自分よりも多くの人生経験やスキルがあります。そのため、相手への敬意を大事にするとともに、認めるよりも感謝に近いニュアンスで褒めるのが有効です。

 

なお、年上部下と会話をするときには、相手への敬意として褒めるとき以外でも敬語を使うことをおススメしています。

  • 「Aさんは提案資料の作成業務でも、いつも細かなところに気付かれますね。早く仕上げていただけて、いつも助かっています。ありがとうございます。」
  • 「Aさんに、ロープレ研修に加わっていただいてから、若手のモチベーションとセールストークの技術が向上しています。次回からもぜひよろしくお願いします。ありがとうございます。」

仕事ができない部下を褒める場合

仕事ができない部下の場合、多くの上司は、怒るところはたくさんあっても、褒める要素が見当たらないという問題に直面しがちです。
成果や結果を褒めにくい場合、少し離れて人間性や行動を褒めるのも一つの手です。

  • 「いつも早く出勤してロープレ会の準備をしてくれているんだってね。Bくんのおかげで、みんなロープレ会を継続できるんだよ。ありがとう。」
  • 「僕が始めたロープレ会も、今年で3年目になりました。ロープレ会を続けられているのは、毎朝早くから準備をしてくれているBくんのおかげです。」

なお、人間性などを褒めたうえで、きちんと是正して欲しい行動などは指摘する/叱ることが必要なのはいうまでもありません。

部下に自信をつけさせたい場合

自信がない部下には、大きな目標達成ではなく、小さな成功体験を褒めることを積み上げるのがおススメです。

 

小さな成功体験を、上司が褒め言葉を通して認めてあげることで、本人が「自分もできた(できる)」と思えるようになります。小さな成功体験・成長を承認して、次の成功体験を得るためにチャレンジを促しましょう。

  • 「あんなにテレアポが苦手だったのに、今月は初めて設定した目標の◯件をクリアしたね。おめでとう。やればできるじゃないか。ロープレ研修も毎日頑張って通っていたもんね。来月からは担当エリアも増えるから、今の調子で頑張っていこう。」
  • 「初めての成約おめでとう。商談中にコロナショックなどもあって大変だったけど、粘り強くお客様の不安をなくしていけたね。次からも丁寧にお客様の信頼を獲得していこう。応援しているよ。」

まとめ:褒め方のコツを学んでメンバーのやる気をUP!

「相手を褒める」という行為は、以下のメリットによって多くの心理学者などから注目されています。

  • 人材育成がスムーズになる
  • 相手のモチベーションが向上する
  • 自己肯定感が向上する
  • 円滑な人間関係が構築される

上司や先輩がメンバーを褒める場合、良い行動の継続・強化につながるように、以下のポイントを組み合わせることが大切です。

  • 具体的な内容を褒める
  • 行動やプロセスを褒める
  • プラスのレッテルを貼る
  • 相手が褒められたいことを褒める
  • 相手が気付いていないことを褒める

 

一方で、以下のような褒め方をする癖がある人は、相手を不快にさせる可能性があるため、注意が必要となります。

  • 過剰に褒め過ぎる
  • 他の人と比較して褒める
  • 上から目線で褒める

メンバーの成長を促すために上手な褒め方を身につけたい人は、以下の関連資料もダウンロードしてみてください。

 

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著者情報

東宮 美樹

株式会社ジェイック 執行役員

東宮 美樹

筑波大学第一学群社会学類を卒業後、ハウス食品株式会社に入社。営業職として勤務した後、HR企業に転職。約3,000人の求職者のカウンセリングを体験。2006年にジェイック入社「研修講師」としてのキャリアをスタート。コーチング研修や「7つの習慣®」研修をはじめ、新人・若手研修から管理職のトレーニングまで幅広い研修に登壇。2014年には前例のない「リピート率100%」を達成。2015年に社員教育事業の事業責任者に就任。

著書、登壇セミナー

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