アンガーマネジメントとは?身に付けるメリットや考え方・実践方法、効果がないと言われる理由まで分かりやすく解説

更新:2024/06/20

作成:2022/06/16

東宮 美樹

東宮 美樹

株式会社ジェイック 執行役員

アンガーマネジメントは効果がない?効かないと言われる理由と誤解を解説

アンガーマネジメントは、怒りの感情をマネジメントする手法です。個人のパフォーマンスやマネジメント力を高めたり、良い職場の雰囲気を保ったりするうえで、非常に重要なスキルです。

 
アンガーマネジメントはすべてのビジネスパーソンにとって身につけたいスキル、とくにピープルマネジメントが重要になる中で管理職にとっては必須能力です。一方で、「アンガーマネジメントは効果がない」「意味がない」といった意見も見受けられます。

 
記事では、アンガーマネジメントの概要や怒りのメカニズム、また、効果がないという人が生じる理由や誤解、有名な6秒ルールを始めとする実践方法のポイントを紹介します。記事の後半では、実践的なアンガーマネジメントスキルを紹介します。

<目次>

アンガーマネジメントとは?

アンガーマネジメントとは、怒りという感情をうまく扱う技術を指します。怒りを「コントロールする・抑える」というよりも、「うまく付き合う・管理する」というイメージの概念です。

 
アンガーマネジメントは近年の職場において、パワハラ防止や組織風土の改革といったトピック、また最近の若者の価値観に合わせた人材育成の手段として、多くの注目を集めているスキルでもあります。

 
では、アンガーマネジメントは具体的にどのような技術なのでしょうか。記事では最初に、アンガーマネジメントとは何か?また、注目を集めている背景を解説します。

 

怒りの感情をマネジメントする技術

アンガーマネジメントは、名称の通り『anger(怒り)をmanagement(管理する)』技術で、1970年代にアメリカで提唱されたのが始まりです。もともとはアンガーコントロールと呼ばれていましたが、その後、怒りは「コントロールする」のではなく、「うまく付き合う・管理する」と捉えたほうが適切として、アンガーマネジメントと呼ばれるようになりました。

 
アンガーマネジメントの目的は、怒りをマネジメントし、状況にふさわしい感情表現を適切に使い分けることによって、円滑な人間関係と相互理解を実現することです。

 
近年、パワハラをはじめとする職場内の人間関係におけるトラブルに注目が集まっていることを背景に、アンガーマネジメントを導入する企業も増えています。

 

アンガーマネジメントは「怒らない」ことではない

「アンガーマネジメントは怒りを制御し、怒らないようにすること」と勘違いされることがありますが、これは正しい理解ではありません。

 
怒りは、防衛本能の一種であり、本能とは外部刺激によって引き起こされる反射のことを指します。例えば「目の前に何かが迫ってきたら目を閉じる」「痛みを感じた場所をとっさに押さえる」といった行動も本能です。

 
本能はもともと人間に備わっている機能であるため、本能に反する行動をとることは非常に難しく、現実的ではありません。したがって、防衛本能の一種である怒りを抑えることは、アンガーマネジメントの本質ではないのです。

 
繰り返しになりますが、アンガーマネジメントは『怒らない』ことではなく、「怒りを他人に迷惑をかけない形でどのように発散するか」という怒りのマネジメント技法です。アンガーマネジメントの本質を間違って理解していると習得は困難となってしまいますので、上記でお伝えしたことしっかり頭に入れるようにしましょう。

 

自分の価値観は怒りを引き起こす要因のひとつ

自分に対する差し迫った危機や外敵の存在など、怒りを引き起こす原因はさまざまです。アンガーマネジメントを習得するうえでは、最初に、「自分自身」が怒りの要因となっている可能性があることを知っておく必要があります。

 
ここでいう自分自身とは、自分の価値観です。私たちは自分に関係する物事に対して『~すべき』『~であるべき』という価値観を持っています。そして、もし『物事が自分の思い通りではない』、つまり『自分の価値観と反する状況』が生じると、怒りの感情が引き起こされやすくなります。

 
『法律は守るべきだ』『悪いことをしたら謝るべきだ』『仕事で頑張ったなら評価されて当然』といったように、人間は誰しも自分の中に『~すべき』という価値観を持っています。こうした自分の価値観に反する行動や態度を目の当たりにしたときに、心の中でふつふつと怒りの感情が沸き起こるのです。従って、『~すべき』『~であるべき』と考える範囲を減らしていくことも、怒りの要因を減らすことにつながります。

 

アンガーマネジメントの第一歩は怒りのメカニズムを知ること

お伝えしたように、怒りの感情は、人間誰しもが持っている『~すべき』という価値観が基になって生じます。アンガーマネジメントに対する理解を深め、正しいやり方を身に付けていく上での第一歩は、怒りのメカニズムを知ることです。

 
本章では、怒りのメカニズムの概要と、怒りの種類について解説します。

 

怒りのメカニズムとは?

怒りのメカニズムを理解するうえで重要となるのが、「一次感情」と「二次感情」の区別です。
 
一次感情とは、ネガティブな気持ちになったときに生じる以下のような感情を指します。

  • 不安
  • 心配
  • 恐怖
  • 悲しみ
  • 寂しさ
  • 苦しさ
  • 虚しさ
  • 辛さ
  • 後悔 など

たとえば、職場で上司から怒られたり、取り返しのつかないミスをしたり、また、部下の行動が許せないと感じたときなどに、上記の一次感情が生じるのはごく自然なことといます。

 
そして、たび重なる叱責やミスでストレスが蓄積すると、「コップから水が溢れる」ように心の許容範囲を超えてしまいます。許容範囲を超えたときに生じるのが、二次感情である“怒り”です。つまり“怒り”は、一次感情から生じたもやもやした想いやストレス、欲求が蓄積されて生じる防衛反応なのです。

 
私たちは、正体や仕組みがわからないものは、基本的にマネジメントできません。しかし、上記でお伝えした一次感情と二次感情という怒りのメカニズムを理解できていると、怒りとの上手な付き合い方も実践しやすくなります。

 
怒りという感情の裏側には、前述したような一次感情があります。どのような出来事がトリガーとなって怒りが生じているかを探る、また一次感情を解消する等で怒りを解決できる可能性が出てきます。

 
このように怒りのメカニズムを理解することで、問題行動やそれにともなうトラブルの可能性を大きく減らすことが期待できます。

 

怒りを構成する4つの要素

怒りの感情と上手に付き合うために重要なもう一つのポイントは、怒りを漠然と捉えるのではなく、怒りにはどのような種類があるのかを把握することです。以下では、怒りの強さや頻度といった4つの軸で、怒りの種類を詳細に見ていきます。
 

怒りの「持続性」

怒りの持続性とは、怒りの感情がどれくらい長く続いているのかを表します。一時的な怒りは、ストレスや刺激に対する反応であり、原因が解決されれば短時間で収まることがほとんどです。一方で、怒りが長く続くようであれば注意が必要です。

 
怒りが長期化すると、その人の健康や人間関係に悪影響を及ぼす恐れもあります。ストレスが高まり、自分がうつ状態になってしまう懸念もあります。長期にわたる怒りは、原因が複雑で深刻な場合も多く、専門家を交えた対処が求められることもあるでしょう。

 

怒りの「強さ」

怒りの感情にも、軽度の怒りから激しい怒りまで、さまざまな「強さ」があります。怒りの強さは、怒りの感情の激しさを表します。
 
例えば、満員電車でイライラしたり、少し困惑したりするなどであれば、軽度の怒りと言えるでしょう。一方で、周囲の人に激高したり、感情が制御不能になったりする事態であれば、強い怒りが生じている可能性があります。

 
強い怒りは、攻撃行動につながるリスクがあり、早急に怒りの原因を特定し、適切な方法で対処する必要があります。

 

怒りの「攻撃性」

怒りの攻撃性は、他者に対する敵意や攻撃的な行動の傾向を指します。攻撃性が強くなれば、言葉による非難や批判、場合によっては身体的な暴力や破壊行為にも発展する可能性があります。

 
攻撃性の強さは、個人の性格や遺伝的要因、環境など様々な要因が影響していると言われています。攻撃的な言動は、対人関係を損ねるだけでなく、法的問題にもつながりかねません。怒りの原因を冷静に分析し、理性を働かせて解決を図る必要があります。

 

怒りの「頻度」

怒りの頻度は、怒りの感情がどのくらいの頻度で生じるかを示します。ごく稀にしか怒らない人もいれば、少しでも不快なことがあれば感情を露わにする人もいるでしょう。頻繁に怒りを感じれば感じるほど、対人関係に支障をきたすのはもちろんのこと、心身の健康にも悪影響を及ぼします。もし怒りの頻度が高すぎる場合は、原因を見つけて対処する必要があるでしょう。

 

アンガーマネジメントの効果

本章では、アンガーマネジメントを実践することで期待できる効果について解説します。
 

自分が怒りやすい状況や相手の行動が理解できるようになる

怒りを引き起こす要因として、人間がそれぞれ持っている「価値観」が強く影響しているということを前述しました。私たちは、自分自身が大切にしている「~すべき」「~であるべき」という価値観を持っています。このような自分の内面的価値観を、他人が破ったと感じた時に怒りの感情が生じやすくなります。

 
もし、自分の内面的価値観を自覚できれば、自分が怒りやすい状況や相手の行動が理解できるようになるでしょう。また、自分の感情を客観的にとらえることは、アンガーマネジメントにもつながっていきます。

 
自分自身に以下のような問いを投げかけて見直すと、そもそも怒る必要がないと気付けたりもするでしょう。「今考えていることは“すべき”ではなく、自分の“したい”“ありたい”という価値観ではないのか?」「他人にも自分と同じ価値観や基準を守ることを期待すべきなのだろうか?」

 

自分の気持ちや本心を伝えられるようになる

アンガーマネジメントを実践すると、怒りの感情をそのまま相手にぶつけるのではなく、怒りのもとになる一次感情(悲しさや不安など)をうまく表現して、人間関係を壊さずに自分の気持ちや本心を伝えられるようになります。

 
ただし、アンガーマネジメントによって人間関係を壊さずに自分の気持ちを伝えるためには、大きなハードルが1つあります。そのハードルとは、私たちの多くは、悲しみや不安といったネガティブな感情を表に出すことに対して、「自制心がない」「大人げない」といった感覚を持っていることです。このような感覚があるがゆえに、私たちは往々にして、悲しさや不安を感じることがあっても、表に出さず心の中にしまっておこうとするのです。

 
そして、一次感情をこらえることでストレスが蓄積され、怒りの感情を抑えきれないものにしてしまうケースも少なくありません。一次感情を素直に表現することを自分に認めてあげて、うまく表現する方法を学ぶこともアンガーマネジメントのひとつです。

 

アンガーマネジメントを従業員が身に付ける企業のメリット

アンガーマネジメントを従業員が身に着けることで、企業にはどのようなメリットが生まれるでしょうか。本章では、アンガーマネジメントが注目される背景となるパワハラの現状、また離職率の観点から解説します。

 

パワーハラスメントが生じにくくなる

近年、職場の課題としてパワーハラスメント(パワハラ)が取り沙汰されるケースが増えています。パワハラ対処との取り組みは、一定規模以上の企業には既に義務化されており、ハラスメント研修を実施している会社が大半です。しかし、ハラスメント研修だけでは効果が限定的な場合もあります。

 
なぜなら、パワハラ行為をする上司の多くは、『怒り』を適切にマネジメントできずにいるケースが多いからです。従って、パワハラのない職場を実現するためには、「パワハラをしてはいけないという自覚」を持たせると同時に、「アンガーマネジメントのスキル」を身に付けることも求められます。

 
また、近年は、多様な人材を採用するダイバーシティーの動きが加速しています。多様な人材、多様な価値観の存在は、視点を多様化して優れた意思決定をする上でも効果を発揮します。一方で、組織内に異なる価値観を持った人が混じるダイバーシティーの促進は、マネジメント層にとっては今まで以上にストレスが増える可能性があることも事実です。

 

こうした動きに対処するためにも、今後のマネジメント層はアンガーマネジメントのスキルを通じて、自分とは異なる価値観を受け入れる度量を身に付ける必要があります。

 

離職率を下げられる

採用難と人材不足が続く近年、従業員の離職は、組織の現場を悩ませる大きな課題の一つです。

 
従業員の離職理由の大きな要因として、人間関係への不満が挙げられます。何かあるとすぐに部下に八つ当たりをする上司の存在やパワハラが横行する職場環境で離職率が高いのは、ある意味で当然のことと言えるでしょう。

 
管理職などがアンガーマネジメントを身に付けることによって、働きやすい職場の足かせとなる『怒り』を起点としたコミュニケーションが発生しなくなれば、パワハラや理不尽な叱責はなくなり、結果として離職率を下げられる可能性も高くなります。

 

業績アップにつながる

生産性向上のためには、社員が業務に集中できる職場環境が不可欠です。パワハラや棘のあるコミュニケーション等による人間関係のトラブルやストレスが減れば、その分、社員は仕事に専念できるようになります。

 
コミュニケーションが円滑になることで、部下が些細なことでも上司に相談するようになったり、社員同士で情報共有をする環境が自然と生まれたりすることも期待できます。結果として、職場全体での連携効率やモチベーションが向上し、業績アップに寄与するでしょう。

 

アンガーマネジメントを身に付ける個人のメリット

前章では、社員がアンガーマネジメントのスキルを身に付けることで期待できる組織のメリットをお伝えしました。アンガーマネジメントは、組織だけでなく、社員個人にとっても身に付けるメリットがあります。

 
本章では、アンガーマネジメントを身に付ける社員個人のメリットを解説します。

 

心身の健康を保ちやすくなる

強い『怒り』をずっと抱えたままでいると、人の体内ではノルアドレナリンの分泌量が増え、交感神経が優位になる状態が続きます。そうすると、心身と精神面に以下のような悪影響が生じることになります。

  • 身体面:心疾患、高血圧、過敏性腸症候群 等
  • 精神面:覚醒や興奮(プラス作用)、恐怖や不安(マイナス作用)

さらに、怒りが長時間続くと、自律神経の乱れや血圧上昇といった健康被害も懸念されます。アンガーマネジメントによって怒りをコントロールできるようになることで、怒りの感情を原因とする健康被害が減り、心身の健康を保ちやすくなります。

 

パフォーマンスを安定させやすくなる

『怒り』によって起きる心身の不調は、仕事のモチベーションや作業スピードを低下させてしまいます。アンガーマネジメントによって、ネガティブな感情に対しても適切に対処できるようになれば、自分の能力を安定して発揮できるようになります。

 
安定したパフォーマンスは成果や周囲からの評価にもつながり、待遇や昇格、職場での過ごしやすさにもつながってくるでしょう。

 

自身の素直な感情を適切に表現できるようになる

記事の中では、ネガティブな気持ちになったときに生じる「不安」や「恐怖」といった一次感情についてお伝えしました。一次感情に無自覚だったり、抑え込んでしまったりすると、心の許容範囲を超えたタイミングで“怒り”という二次感情が生じてしまいます。

 
アンガーマネジメントを適切に実践することで、私たちは、自分に生じた一次感情を意識できるようになります。これにより、いままで『怒り』で見えづらくなっていた自分の感情を自覚し、適切に表現できるようになると、ストレスが減り、人生の幸福度も高まるでしょう。

 

建設的なコミュニケーションが生まれる

アンガーマネジメントを身に付けることは、建設的なコミュニケーションにもつながります。たとえば、何かあると部下に当たり散らす上司がいれば、業務上言わなければならないことであっても、部下・メンバーは報告しにくくなってしまうでしょう。また、怒りを他者に向ける人がチーム内にいると、その怒りは伝播して、周囲の怒りを引き起こします。

 
自身がアンガーマネジメントのやり方を身に付ければ、怒りの伝播を避けることができます。また、コミュニケーションロスがなくなれば、ちょっとした報告や相談等もしやすくなり、円滑に仕事が回るようになるでしょう。

 

アンガーマネジメントにおける2つの視点

コップに水を注ぐ瞬間

 

アンガーマネジメントの理解を深めるうえでは、「コップ」と「水」をイメージすることがおすすめです。

 

コップは自分の心、感情を受け入れる要領であり、水は怒りの元となる一次感情や怒りの感情です。そして、コップに水が大量に注がれ、コップから溢れてしまった状態が、怒りをコントロールできず、怒りに飲み込まれてしまった状態です。

 

コップの容量を広げる

まず、価値観(~すべき)の見直しをすることで自分の「べき」を緩めて、他人の価値観を受け入れることは、心のコップの容量が広がるイメージです。

 

自分のコップの形である「べき=価値観」を自覚し、あくまで自分だけの価値観であることを自覚すると、他人の価値観、自分とは異なる価値観を受け入れやすくなります。

コップの水を外に出す

以下のようなネガティブな一次感情がコップに溜まりすぎると、ネガティブな想いがコップの容量を超えてしまい、二次感情の怒りが生じます。

  • 不安
  • 心配
  • 恐怖
  • 悲しみ
  • 寂しさ
  • 苦しさ
  • 虚しさ
  • 辛さ
  • 後悔 など

したがって、コップに溜まっている一次感情を自覚して、その原因を解消する行為が怒りを未然に防ぐ行為になります。

 

たとえば、メンバーの仕事内容への不安や心配が募りすぎて怒りにつながってしまう人は、一次感情である不安や心配を解消するために、以下のような対処をすることがおすすめとなります。

  • 定期的に進捗報告してもらう
  • 自分から報連相を取りにいく
  • メンバーとの1on1面談の頻度を増やす
  • メンバーが気兼ねなく相談できる信頼関係を構築する
  • メンバーに自分の心配性を伝えて小まめに報連相してもらう など

アンガーマネジメントの導入・実践方法

アンガーマネジメントの実践には、いくつかの方法があります。本章では、アンガーマネジメントの効果的な実践方法として、主なものを解説します。

 

アンガーマネジメント研修を実施する

組織としてアンガーマネジメントを導入する上で、「アンガーマネジメント研修」は効果的な選択肢の1つです。ここでは、アンガーマネジメントが効果的なシーンや研修方法を簡単に紹介します。

 

怒りやすい社員がいる

アンガーマネジメント研修は、「部署内に普段からイライラしている人がいる」、「ピリピリして雰囲気の良くない現場がある」といったケースで効果が期待できるでしょう。「怒りの感情は周囲に伝染する」と言われますが、組織内に怒りやすい人間が一人いるだけで、職場内の空気は悪くなってしまいます。

 
職場に怒りやすい社員がいる場合、怒りやすい社員に対してどう対処していいかわからない管理職層に対して、アンガーマネジメント研修の実施を検討すると良いでしょう。

 

ワークショップで他者理解を深める

アンガーマネジメントを学ぶきっかけとして、リラックスした雰囲気の中で、アンガーマネジメントの有効性を体験するワークショップを設ける方法があります。

 
アンガーマネジメントを身に付ける上では、ワークショップの中で、自分以外の人間の怒りのポイントを理解することも有効です。例えば、実際に怒りやイライラの感情が湧いてくるような状況を設定し、各参加者に「その出来事にどの程度怒りを感じるか」を数値化してもらいましょう。

 

同じ出来事でも、人によって数値(=怒りを感じる度合い)はまったく異なるはずです。こうしたプロセスを踏むことで、自分と他人では、怒りのポイントが違うということに気づき、相手の感情に配慮したコミュニケーションを考えられるようになります。

 
価値観や常識の違いを学べるゲームもおすすめです。一例として、様々な価値観が書かれたカードから各自が重要と思うものを選び、選んだ理由や解釈を共有し合う「価値観カード」があります。

 

こうしたゲームを通じて、自分が常識だと思っていたことが他人からすると非常識であったり、自分は当然と思っていたことも実はそうではなかったりすることに気が付くかもしれません。価値観の違いを周囲と共有しあうことで、相手の怒りの理由を受け入れやすくなり、結果として怒りを感じる状況を減らすことに繋がります。

 

自分の性格を知る

前述したように、アンガーマネジメントを導入する第一歩は、自分の性格や価値観を知ってもらうことから始まります。人は案外、「自分の怒りのポイント」を理解していないものです。怒りのポイント、背景となっている価値観を認識してもらうことは、アンガーマネジメントを身に付ける上で大切なステップです。自分の性格を知る上で、効果的なやり方をいくつか紹介します。

 

アンガーマネジメント診断

怒りの感情は、個々人の心の中にある『~すべき』という価値観によって発生するということは、前述の通りです。アンガーマネジメント診断は、『~すべき』という自分の価値観をより明確に示してくれるツールです。

 

アンガーマネジメント診断は、以下のリンク先にあるような無料でできるものもあります。
無料アンガーマネジメント診断

 

上記のアンガーマネジメント診断を実施すると、自分の価値観=怒りのポイントが6タイプに分類されます。自分がどのタイプに属するのかを明確にすることは自己理解にも効果的です。

  • 公明正大……正義感が強く、不正や曲がったことが許せない。マナー違反や犯罪に対して怒りを感じる
  • 博学多才……何事も白黒はっきりつけないと気が済まない。はっきりしないことがあると怒りを感じる
  • 天真爛漫……他人によって行動を制限されるなど、自分の意思通りに行動できないことに怒りを感じる
  • 外柔内剛……自分の決めたルールに忠実な性格で、そのルールとは異なった出来事に遭遇すると怒りを感じる
  • 威風堂々……承認欲求が高く、他人から軽んじられたり、マイナスの評価を受けたりすることに怒りを感じる
  • 用心堅固……慎重派で警戒心が強い。自分の領域に無遠慮に踏み込まれることに怒りを感じる

 

アンガーログ、「べき」ログをつける

イライラしたときや怒りを感じたとき、手帳やアプリに記録を残すアンガーログもアンガーマネジメントに有効です。アンガーログの記録を振り返ることで、「自分が何に対し怒りを感じるのか」を、客観的に知ることができます。

 
記録する内容は、下記のように具体的にしておくと、より効果的な分析が可能になります。

  • 日時
  • 場所
  • 出来事
  • 思ったこと
  • 怒りの強さ

 
アンガーログや「べき」ログの記録をつけてもらい、自身で分析して怒りのポイントを自覚することが大切です。記録をつけることで「自分はこんなポイントに怒っていたのか」「冷静に考えると、これはそんなに怒るようなことではないかも…」といったように、自身を客観視する機会になります。

 

怒りをクールダウンさせる方法を身に付ける

怒りを感じた時は、何か行動を起こす前に冷静になることが大切です。以下では、怒りをクールダウンさせる方法を紹介します。まず自分で試してみて、その上で研修に取り入れることをおすすめします。

 

心の中で6秒数える(6秒ルール)

怒りの感情は、長続きしないことでも知られています。『6秒』が怒りのピークといわれており、時間が経過すると徐々に落ち着いていきます。そのため、怒りを感じたときは、ピーク中の6秒間をいかに過ごすかが重要です。

 

具体的には「頭の中で6秒数える」などが効果的です。落ち着いて深呼吸してもよいでしょう。いずれにしても、怒りが収まるまでの間をやり過ごせるよう、各自にあったやり方を見つけ、いざという時に慌てずアクションできる準備をしておきましょう。

 

 

今の場からいったん離れる

怒りを感じたら、その場からいったん離れることも、前述の6秒ルールに近い行動テクニックです。

 
たとえば、気合を入れて作った企画に上司から開口一番にダメ出しされ、思わずカチンとなってしまったとします。この時、即座に反論すると、怒りの感情がピークに達しているため、以下のような行動をとってしまうかもしれません。

  • いつもより強い口調になってしまう
  • 相手に反論したり、非難する物言いをしてしまう
  • 主張を通そうと思うあまり、誇張や嘘をいってしまう など

上記のような行動で人間関係を壊さないためには、怒りが生じたときに、その場を離れてクールダウンをすることもおすすめです。

 
会議中に離席をすれば、無責任やマナーが悪いと思われるかもしれません。しかし、怒りから生じた行動や言動で関係を破壊するよりは、勇気を持ってその場からいったん離れたほうがよいでしょう。

 

筋肉を緊張させる・緩めるを繰り返す

人は怒りを感じると、体が緊張します。そこで、緊張した体をリラックスさせることで怒りを抑える方法もあります。『漸進的筋弛緩法』と呼ばれる方法です。

 
漸進的筋弛緩法では、筋肉の緊張と弛緩を交互に行うことで、体をリラックスした状態へ導きます。具体的には、10秒ほど力を入れて、15秒ほど脱力する、という動作を繰り返します。

 
なお、『漸進的筋弛緩法』は、高血圧の人をはじめ、心身に何らかの異常のある人が行うのは推奨されていません。該当する場合は、『漸進的筋弛緩法』を試してもいいか、必ず医師に確認をとるようにしてください。

 

怒らずに、冷静に伝えるスキルを身に付ける

私たちは怒っているとき、どうしても攻撃的な態度をとってしまいがちです。しかし攻撃的な態度で相手とコミュニケーションを取ろうとしても、大抵の場合、良い結果にはなりません。以下では、何か不快なことなどがあった場合でも、感情的にならずに冷静に相手とコミュニケーションをとるための方法を紹介します。

 

傾聴とアサーティブコミュニケーションを学ぶ

『傾聴』とは相手に共感しながら理解を示すこと、『アサーティブコミュニケーション』とは、自分と相手の両方を尊重したコミュニケーションのことです。どちらにも共通するのは『相手を尊重すること』と『相手に共感すること』です。

 
例えば、相手のミスに対して怒りを感じた時は、相手の話に耳を傾け、相手の立場に立って、どうしてミスをしてしまったのかを考えてみましょう。落ち着いて考えることで相手の心情に共感できれば、相手が受け入れやすい言葉で冷静に対話できるはずです。

 

自分ができることは手を貸す

怒っている時は、往々にして怒りの対象を拒絶したい気持ちになりがちです。ですが、こうした時こそ、ぐっとこらえて、自分が相手にできることは何なのか考えることが大切です。

 
感情的に相手を非難したところで状況が好転するわけもなく、むしろ、相手との関係性に亀裂が入ってしまう可能性が高いでしょう。怒りのピークを過ぎたら、現状に対して自分が何をできるかを考え、勇気を出して相手に申し出てみましょう。

 
「いきなり怒鳴りつける」「恫喝する」といったパワハラまがいのコミュニケーションをすれば、こちらの主張は拒絶されてしまうかもしれません。こちらから手を貸すことを申し出ることで、建設的な対話ができる雰囲気が生まれるのです。

 

目的を伝えて納得させる

どうしても相手を叱らくてはならない時は、相手を『説得』するのではなく『納得』してもらう伝え方をしましょう。納得してもらうためには、「なぜ怒っているのかの要因」と「こちらに何を求めているのか」という目的をはっきり伝えることが大切です。

 
例えば、ミスをした部下に対して上司がすべきなのは『どうすれば次に同じミスをしないか』を部下自身に考えてもらうことです。自分の要望や期待を一方的に話すのではなく、ミスをした本人に再発防止策を考てもらい、納得した上で行動に移してもらうことを目指しましょう。

 

相手を責めたり、決めつけたりしない

私たちは怒っていると、つい相手を責める口調になったり、原因を一方的に決めつけてしまったりしがちです。しかし、大切なのは相手の意見をしっかり聞くことです。

 
相手を責めたり決めつけたりする姿勢は、「この人は自分のことをわかろうとしてくれない」と受け止められ、相手の気持ちが離れてしまう要因になってしまいます。

 

相手を責めるのではなく、今後どうすれば望む結果が得られるかの対策を一緒に考える姿勢が大切になります。相手から事情をしっかり聞くまでは「どうせお前は…」といった決めつけの言葉を言わないよう、肝に銘じておくようにしましょう。

 

アンガーマネジメントが「効かない」「意味がない」といわれる理由

不機嫌そうな男性

 
ここまでお伝えしたように、アンガーマネジメントを通じて、「怒り」の感情に適切に対処できるようになれば、組織・個人の人間関係やパフォーマンスに数多くの恩恵が生まれます。

 
一方で、ネット上などで「アンガーマネジメントが効かない」または「アンガーマネジメントは意味がない」といった、アンガーマネジメントに対する疑問の声を目にすることもあります。このように言われる理由として多いのは、アンガーマネジメントに対する誤解がある、合わない手法を取り入れている、実践方法が誤っていることなどです。

 
記事の最後でアンがマネジメントに対するよくある誤解のついて簡単に紹介しておきます。

怒りの感情をなくすと誤解している

「アンガーマネジメントが効かない」といわれる理由の多くは、アンガーマネジメントの理解や期待する効果の誤解から生まれています。

 

まず、アンガーマネジメントを実践しても、怒りの感情をなくすことはできません。できない理由は、怒りの感情というものが、一種の生理反応だからです。生理反応である感情をなくす、感じないようにすることは、アンガーマネジメントでは実現できません。

 

アンガーマネジメントで実現できるのは、怒りという感情の「マネジメント」です。怒りをなくすのではなく、適切に付き合えるようになることが、アンガーマネジメントで得られる効果になります。

 

怒りを感じたり、怒りを表したりすること自体は、ネガティブなわけではありません。また、生理反応として怒りをなくせるものもありません。アンガーマネジメントは、怒りを抑圧するものではないのです。

 

また、英語で「rage」と書かれる「強すぎる怒り(激怒)」は、アンガーマネジメントではマネジメントできないものになります。アンガーマネジメントで対処できるのは「angry(立腹)」レベルの怒りです。

 

自分に合わないアンガーマネジメントの手法を取り入れている

アンガーマネジメントは、先述のとおり怒りの感情をコントロールするものです。ただ、アンガーマネジメントにも、必ずしも万能なわけではありません。

 

また、アンガーマネジメントには、さまざまな手法があります。そのため、自分が試した手法が合わない場合、「アンガーマネジメントは効かない」と感じることもあるでしょう。人によっては、アンガーマネジメントで感情をコントロールするよりも、「思い切り怒ることで怒りを発散したほうが、自分には向いている……」ということもあるかもしれません。

 

ただし、このように怒りのコントロールが苦手な「瞬間湯沸かし器タイプ」の人であっても、怒りが瞬間的かつ本当に頂点に達することは基本的にありません。怒りのエネルギーとは、徐々に蓄積されていくものです。そして、エネルギーがピークに達して初めて、怒りが爆発する形になるでしょう。

 

そのため、アンガーマネジメントを身につけられると、怒りのエネルギーがたまりはじめた段階で気付くことが可能になったりします。また、怒りのエネルギーがたまりはじめた段階で、方向転換することも可能になるでしょう。

 

アンガーマネジメントによって怒りのエネルギーが小さい段階で解決できれば、心身へのダメージも少なくなります。

 

アンガーマネジメントを実践してうまくいかなかった

アンガーマネジメント研修で手法は理解しているものの、職場で実践してもうまくいかないため、「アンガーマネジメントは意味がない」と思う人もいるかもしれません。

 

アンガーマネジメントを実践できるようになるには、反復トレーニングが必要となります。最初はうまくいかなくても、自分に合った手法を理解し、くり返しトレーニングを行ないながら少しずつ身に付けていくことが大切です。

 

たとえば、アンガーマネジメントの代表的な手法に“6秒ルール”があります。この6秒ルールにも、合わない人は存在します。また、人によっては、理解不足などから実践方法を間違えている可能性もあるでしょう。

 

6秒ルールは、6秒間待つことで理性を取り戻すために行なうものです。そのため、極端な話、6秒の間に「この怒りをどうしてやろうか……」などと考えていた場合、逆に怒りが増幅してしまう結果になることもあります。

 

そのため、6秒ルールなどのアンガーマネジメントを行なうときには、正しい方法を理解・実践することが大切でしょう。

 

まとめ

アンガーマネジメントは、怒りをなくすのではなく、怒りと適切に付き合うことが目的です。生理的な反応である「怒り」自体を感じなくしたり、抑圧したりすることは、アンガーマネジメントを実践しても不可能です。

 

アンガーマネジメントの目的や効果を「怒りをなくす」のように解釈していると、「効果がない、効かない」と感じてしまいがちになるでしょう。一方で、アンガーマネジメントを「怒りとうまく付き合う」というように正しくとらえて、怒りをマネジメントするスキルを身に付けると、怒りに飲み込まれることによる好ましくない結果を、回避できるようになります。

 

また、アンガーマネジメントは、自分に合わない手法を取り入れていたり、誤った実践方法を行なっていたりした理由から、「アンガーマネジメントは意味」がないといわれることもあります。アンガーマネジメントを実践する場合、自分に合った手法や正しいやり方を、トレーニングを通じて身につけることも必要です。

 

なお、2022年4月から、いわゆる“パワハラ防止法”が中小企業も対象として施行されています。管理職に対するアンガーマネジメントのトレーニングは、職場におけるパワハラのリスク回避策や、生産性向上に向けた対応としても実施すべきでしょう。

 

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著者情報

東宮 美樹

株式会社ジェイック 執行役員

東宮 美樹

筑波大学第一学群社会学類を卒業後、ハウス食品株式会社に入社。営業職として勤務した後、HR企業に転職。約3,000人の求職者のカウンセリングを体験。2006年にジェイック入社「研修講師」としてのキャリアをスタート。コーチング研修や「7つの習慣®」研修をはじめ、新人・若手研修から管理職のトレーニングまで幅広い研修に登壇。2014年には前例のない「リピート率100%」を達成。2015年に社員教育事業の事業責任者に就任。

著書、登壇セミナー

・新入社員の特徴と育成ポイント
・ニューノーマルで迎える21卒に備える! 明暗分かれた20卒育成の成功/失敗談~
・コロナ禍で就職を決めた21卒の受け入れ&育成ポイント
・ゆとり世代の特徴と育成ポイント
・新人の特徴と育成のポイント 主体性を持った新人を育てる新時代の学ばせ方
・“新人・若手が活躍する組織”は何が違う?社員のエンゲージメントを高める組織づくり
・エンゲージメント革命 社員の“強み”を組織の“強さ”に繋げるポイント
・延べ1万人以上の新人育成を手掛けたプロ3社の白熱ディスカッション
・新人研修の内製化、何から始める? オンラインでも失敗しないための “5つのポイント”
・どれだけ「働きやすさ」を改善しても若手の離職が止まらない本当の理由 など

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