OJTとは、現場業務を通じてスキル・ノウハウを指導する教育手法のことです。
OJTには、座学のOff-JTよりも実践的なスキルなどを習得できるメリットがあります。ただ、OJTは、指導者によって効果のばらつきが生じやすいといったデメリットもあります。
そのため、OJTの指導者は、基本的な教育方法や成功のコツ、注意点、Off-JTとの組み合わせなどを把握しておく必要があります。
記事では、まず、OJTの概要とOJT指導をする5つのメリット、注意点を紹介します。そのうえで、記事の後半では、OJT指導を成功させるポイント、OJTとOff-JTを組み合わせるコツを解説します。
OJT指導の効果性を高めたい人は、ぜひ参考にしてください。
<目次>
OJTの概要
企業の人材教育で使われる手法には、OJTのほかに、Off-JT、OJDなどの種類があります。
この章では、OJTの概要を確認したうえで、関連用語であるOff-JTとOJDの意味、OJTとの違いなどを解説していきましょう。
OJTとは?
OJTとは、“オン・ザ・ジョブ・トレーニング(On the Job Training)”の略称です。OJTは、実際の業務を通じて仕事を習得する教育手法の一つになります。
おもに、業務未経験者に対して行なわれることが多いでしょう。
OJTでは、現場の上司や先輩社員が指導者(トレーナー)となり、現場で行なわれている業務の手順やフローなどを実際に見る、やりながら指導する形になります。
OJTには、座学よりも実践的なノウハウやスキルを身に付けられるとともに、即戦力化が期待できる特徴があります。
被指導者と職場とのコミュニケーションを深めたり、被指導者のモチベーションをアップできたりすることもメリットでしょう。
OJTの最も基本的な指導法として知られているのは、以下の「4段階職業指導法」といわれるものです。4段階職業指導法は、多くのOJT現場で無意識に実践されています。
- やってみせる(Show)
- やってみせたことを説明する(Tell)
- 実際にやらせてみる(Do)
- やったことを確認し、追加で指導する(Check)
「やってみせる(Show)」は、指導者が業務をやってみせることで、業務の流れや全体像を把握する教育です。「やってみせる」では、言葉による説明では伝わらないことを、視覚を通じて伝えられます。
「やってみせたことを説明する(Tell)」は、業務の内容を細かく言葉で説明する教育です。ただ単に作業を覚えさせるのではなく、作業の目的やゴールを理解させることが重要となります。
「実際にやらせてみる(Do)」では、業務を実際にやらせてみます。具体的には、指導者が傍についていて、間違いやミスがあれば指導する形になるでしょう。
「実際にやらせてみる」では、初めは“できなくて当たり前”という気持ちをもって丁寧に指導することを心がける必要があります。
最後の「やったことを確認し、追加で指導する(Check)」は、実際に業務をやらせたあとでフィードバックを行なうことです。
フィードバックでは、改善点も含めた具体的なアドバイスをすることが大切になります。できている点を言葉にしてほめることで、被指導者のモチベーションアップにつなげられるでしょう。
Off-JTとの違い
Off-JTは(Off the Job Training)の略称です。その名のとおり“Off the Job=実務外”で行なわれる教育すべてを指すものとなります。
OJTが実務のなかでスキルや知識を学ぶのに対して、OFF-JTでは、座学や研修など、実務から離れた環境で体系的な知識をインプットする特徴があります。
主なOFF-JTとして、入社後の新入社員を対象にした新入社員研修や新任管理職を対象にした管理職研修などが挙げられます。先述のように、OJTは上司や先輩社員が指導役を担うのが一般的です。
一方でOFF-JTでは、社内の教育担当者や外部の研修講師を呼んで実施します。
厚生労働省の調査によると、正社員に対するOFF-JTを実施した事業所は、令和元年に全体の75.1%に上っています。OFF-JTもOJTと同じように多くの企業で行なわれている人材育成手法といえます。
OJDとの違い
最近、HR分野で出てきたキーワードにOJTとよく似たOJDというものがあります。OJDは「On the Job Development」の略称です。
現場での実践を通して実務的な知識やスキルを身に付けるという点では、OJTと共通しています。
OJDとOJTの一番の違いは、OJTが当面の業務遂行に必要な知識や技術を習得することに重点を置くのに対して、OJDはより中長期的な時間軸や人材育成方針に基づいて、社員が将来的に求められるスキル、特にマネジメントを中心としたスキルの開発が目的である点です。
つまり、OJTとOJDは「実務を通じた人材育成」である点は共通しますが、OJTが「トレーナーが指導することによる短期的な戦力化」、OJDは「実務を通じて中長期的なキャリア開発」を目的とする点が異なります。
OJT指導の5つのメリット
OJT指導には、以下5つの効果やメリットがあります。この章では、各メリットを詳しく解説していきましょう。
1.実践的なスキルやノウハウが身に付く
業務と切り離して実施するOFF-JTの場合、目的とする知識やスキルを体系的に習得できるというメリットがあります。
ただ、学んだことを実際に活用できるレベルに至るには、実務経験が必要となるでしょう。
一方で、実業務のなかで学ぶOJTは、学んだことと実務が直結しています。したがって、OJT指導を実施すると、早期に現場で活躍できる人材を育成しやすくなるでしょう。
2.受講者に合わせた指導ができる
OJTは基本的に、トレーナーの上司や先輩社員がマンツーマン、もしくは1対数人程度の少人数で指導を行ないます。そのため、教える相手の理解度に合わせた指導が可能です。
OJTを始めて間もないうちは、教える相手のことを知らないケースがほとんどですが、指導を続けるうちに少しずつ相手のこともわかってきます。
個人の成長速度や特性に合わせた指導することで、相手が吸収しやすい状態となり、成長スピードを加速させられるでしょう。
3.その場でフィードバックができる
OJTの現場において指導者は、マンツーマンなどで相手を見守りながら指導を進めます。そのため、良かった点や改善点をその場の適切なタイミングでフィードバックできる点もOJTのメリットです。
初めて挑戦する業務の場合「自分はちゃんとできているのだろうか」「求められているレベルはもっと高いのではないか」など、教わる側も多くの不安を感じています。
OJTであれば、受講者は疑問点や不安点を逐次確認できますし、指導側も適切なタイミングでフィードバックを行なえるでしょう。
4.指導者や上司と人間関係を築くプロセスになる
業務を円滑に進めるためには、お互いのコミュニケーションが不可欠です。
OJTでは、新人が上司や先輩社員にわからないことを質問したり、反対に、指導する側が疑問点や不明点がないかを確認したりといったコミュニケーションが頻繁に生まれます。
結果として、指導する側と教わる側の間に信頼関係が生まれ、好ましい人間関係を築くきっかけになるでしょう。
5.指導する側の人材育成にもなる
OJTは教わる側だけでなく、指導する側の人材育成にもなります。
OJT指導をするためには、指導の計画書を作り、手順などを整理する必要があります。
手順の整理をするなかでは、自分がいつもやっている仕事の棚卸しを行ない、業務手順を整理し、成果をあげる、また、失敗しないためのポイントを言語化することが必要です。
こうした準備や言語化の作業を行なうと、「教えることで学ぶ」というとおり、今の仕事への理解を深めるきっかけとなるでしょう。
また、整理した内容を新人に教えるプロセスは、若手や中堅社員にとってマネジメントを学んでいくスタート地点としても最適です。
たとえば、OJTのなかで、業務の理解に苦戦する新人がいたとします。
指導者は「どこでつまづいているのだろう?」「どのように教えればわかりやすいだろうか?」といったことを考慮して進める必要が出てきます。
相手に合わせて教える、相手のモチベーションを高める伝え方やコミュニケーションを取る、相手に成長して成果をあげてもらえるようにするなどは、すべてマネジメントに通じることであり、OJTは教わる側だけでなく教える側にとっても価値があります。
OJT指導の注意点
OJTにはさまざまな効果やメリットがある一方で、いくつかの課題や留意点もあります。
まず、座学による研修に比べると、OJTで学べる知識は実践的な内容がメインとなるため、体系的な知識や全体観が抜け落ちがちです。
そのため、「なぜそれが必要か」「どのようにスキルアップするのが望ましいか」といった点の理解が進まないまま、実務のみに終始してしまうケースも予想されます。
また、OJTは1対1で先輩社員などが指導に当たるため、学習効果が指導者の指導スキルに依存しやすい側面もあります。
OJT指導者は必ずしも教えることがうまいとは限りませんし、被指導者と良好な人間関係を築けない場合もあります。
また、実施が現場に任されがちなため、行き当たりばったりの指導になったり、ときには指導者の実務が多忙で放置されてしまったりする可能性もあるでしょう。
OJT指導を効果的なものにするためには、上記のような課題や留意点を把握したうえで、以下のポイントを抑えた準備・実施をしていくことが大切です。
- OJT計画の準備フォーマットを作成して運用する
- 採用が多い職種などであれば、基本的な指導や教育内容のマニュアルを作成する
- OJT指導者に丸投げせず、人事部門や上司からもケアする仕組みを作る
- 信頼できる社員を指導者として選定する
- OJT指導者に対して「教え方」などのトレーニングを実施する
また、指導・運用を整備していったとしても、OJTだけでは断片的な知識・スキルに偏りがちです。必要に応じてOff-JTと組み合わせていくことが必須でしょう。
OJT指導を成功させるポイント
OJTの効果と課題をふまえたうえで、本章ではOJTを成功させるためのポイントを詳しく解説します。
明確なゴールを設定する
OJTの目的は、新人が実務をできるように育成して、「一人前」へと成長させることにあります。
「そのうち慣れるだろう」「とりあえず必要な業務を順次教えていけばいいか」「まずは雑用からやっておいてもらおう」などの行き当たりばったりであったり、なんとなく指導してしまったりすると、新人の成長に時間がかかり効果的なOJTとはなりません。
効果的なOJTにするうえで大切なことは、“一人前”の状態を「いつまでに、どのような成果を上げられるようになるか」「そのためにどのようなスキルが必要か」などで具体的に決めたうえで、設定したゴールに到達するためのフローを策定することになります。
ゴールまでの過程を分解してミニゴールを設定する
効果的なOJTを実施するためには、上述のとおり、具体的なゴールを設定し、そこから、いくつかの成長ステップへと分解していくのが効果的です。
最終的なゴールとは別に、ステップごとにミニゴールを設定し、各ミニゴールに達成するまでの期間を設定するとよいでしょう。
OJTの具体的なゴールとなる「いつまでにどのような成果を上げられるようになるか」「そのためにどのようなスキルをどのレベルまで身に付ける必要があるか」を、どのような順番でスキルを身に付けていくか?で分解したものがOJTの成長ステップになります。
そして、各ステップで「どのようなスキルを身に付けるのか」「ステップを身に付けるプロセスでどのような成果や結果を残すか」といったミニゴールを設定します。
最終ゴールと成長ステップ、ステップごとのミニゴール、ミニゴールに向けての指導内容がOJTの全体像となります。
全体計画を「成長目標・計画」という形で整理して被指導者とも共有すると、ゴールや全体像が見えることで被指導者のモチベーションや学習意欲が向上し、OJTの効果が高まります。
OJT担当者一人に丸投げせず上司や人事からも支援を行なう
OJTは1対1もしくは少人数でやるからこそ、新人の吸収ペースや理解度に応じて柔軟に内容を変更できる利点があります。
ただ、OJTの指導現場は、各チームやプロジェクトに分散します。
そのため、各OJT指導者の育成スキルや熱意、コミュニケーションの相性などによって育成効果が左右されやすいというリスクもあります。
最悪の場合、育成効果が落ちるどころか、OJT担当者と被指導者の人間関係などによっては、退職などにつながるケースも懸念されます。
問題を防ぐには、担当者ごとに生じる指導のばらつきを減らし、OJTがブラックボックス化することを防ぐことが大切です。
同時に、OJT担当者の負荷を減らすうえでも、「指導体制」を整えることが重要となります。
OJTでは、OJT担当者一人に丸投げせず、人事担当者や現場の上長などが連携してサポートすることが望ましいです。ただ、複数の上司・先輩がバラバラに指導すると、教わる本人が混乱してしまいます。
この混乱を防ぐには、たとえば、以下のように分担を決めることが有効です。
- ・実務に関すること
- ⇒基本的にOJT担当者
- ・中期的なキャリアや仕事の意味付け
- ⇒上司による1on1が中心
- ・メンタル的なケアや状況把握
- ⇒人事担当者が定期面談を実施してサポート
OJT担当者のトレーニングを実施する
先述のとおり、優秀な先輩社員が、優秀なOJT指導者であるとは限りません。
人事担当者や上司は、「プレーヤーとして実務ができるのだから、後輩に教えることもできるだろう」と、OJT担当者へいきなり指導を任せないことも重要となります。
OJTの質を底上げするためには、担当者の指導スキルを向上させることが大切です。OJT計画の作成や教え方のスキル、動機付けに関する理解などのトレーニングが効果的でしょう。
なお、担当者と被指導者は、必ずしも同じようなタイプとは限りません。
OJT指導の効果性を高めるには、性格特性やコミュニケーションタイプに応じて指導方法を変えることが有効です。
コミュニケーションタイプに関する基礎的な理解があると、コミュニケーションの違いを理性で理解できるため、感情的な人間関係のつまずきも生じにくくなります。
フィードバックを重視する
ゴールの設定や指導者のサポート体制、指導に関するトレーニングに加えて、日々のOJT結果をフィードバックすることは何よりも重要です。
フィードバックは、OJT担当者と被指導者、また、OJT担当者と上司・人事、2つの関係性で行なわれることが望ましいでしょう。
以下のような情報を随時共有することで、被指導者とOJT担当者双方の成長が促されます。
- 何ができたか?
- 何ができなかったか?
- 次の成長目標は何か?
- どこがうまくいっているか?
- どこに懸念があるか? など
OJTとOff-JTを組み合わせるコツ
新人育成の効果を高めるには、OJTとOff-JTをうまく組み合わせることも大切です。本章では、OJTとOff-JTをうまく組み合わせるコツを紹介しましょう。
初めにOff-JTで体系的な知識やスキルを教える
まず、OJTを実施する前に、Off-JTで全体像や体系的な知識、基礎スキルを教えてからOJTに進むことが大切です。
全体像や基礎知識などを教えておくと、いきなり現場に入ったときよりも、OJTの吸収度を高められます。
また、OJTで経験することになる業務のほかに、縦・横とのつながりや工程など、業務の「全体像」がイメージできるようにしっかりと指導することも大切です。
また、実務における共通言語をOff‐JTで共有しておくと、OJTでの指導もスムーズに進めやすくなります。
Off-JTの記憶が薄れないうちに「実務」として体験させる
Off-JTで全体像を学んだら、学んだ記憶が薄れないうちにOJTで「実務」として体験させることが有効です。
Off-JTでインプットした知識や学習内容は、OJTで実体験としてトレースできるようにすることで、知識やスキルをしっかり定着させられるでしょう。
ロールプレイング大会などのOff-JTを適宜差し込む
OJTをマンネリ化させず、また、指導者の力量に依存させないためにも、OJTの合間にロールプレイング大会などのOff-JTを適宜差し込む方法も効果的です。
Off-JTは、短時間でも構いません。ロールプレイング、振り返り(リフレクション)、事例共有という3つのOff-JTをOJTのなかに組み込むと、成長スピードが早まります。
節目のタイミングでもOff-JTを実施する
OJT終了時や、入社1年など、節目となるタイミングでOff-JTを実施することもおすすめです。
節目のOff-JTでは、新しい知識を学ぶことよりも、半年間や1年などのまとまった期間を振り返り、成長実感をえるとともに今後に向けた目標設を設定し、モチベーションを高めることがおすすめとなります。
マイクロラーニングを活用する
Off-JTでは、半日や1日といったまとまった時間の研修のほかに、数分~数十分のマイクロラーニングを意識することが有効です。
オンラインや動画を使ったマイクロラーニングをうまく活用することで、コストを抑えながら、効果的な学習環境を作ることが可能になります。
市販のe-learningサービスも活用できますし、成功事例やトレンドの共有など、社内のノウハウをオンラインや動画で共有してもよいでしょう。
Off-JTの場合、一般的に行なわれているようにまとまった時間の研修を節目で実施することも有効ですが、短時間での学びを高頻度でやること(マイクロラーニング)でも学習効果が高まります。
まとめ
OJT指導は、現場での実務指導を通じて、新人を一人前に育成することが目的です。
OJTには、実務ノウハウを身に付けられる一方で、体系的な知識の習得がしにくい、OJT担当者の意欲や力量に依存するなどの課題もあります。
OJTの基本は、以下の“4段階職業指導法”のステップです。
- 1.Show(してみせる)
- 2.Tell(説明する)
- 3.Do(させてみる)
- 4.Check(評価・追加指導)
効果的なOJTを実施するには、以下のポイントを押さえましょう。
- OJTの実施計画をきちんと作る
- 実施マニュアルの整備
- OJT担当者の育成スキル向上
- 上司・人事などがフォローを分担する など
また、OJTとOff-JTをうまく組み合わせることも、新人の育成スピードを高めるうえでは有効です。
厳しい経営環境が続く現在では、多くの現場で、人材の早期戦力化が求められています。
今回紹介したOJT教育は、実際の業務を通じたものであるため、戦力化に向けて非常に重要なステップになるでしょう。記事の内容を参考にしながら、ぜひ効果性の高いOJTを実施してみてください。