キャリア支援の施策を社内検討する際に押さえておくべきポイント

更新:2024/09/21

作成:2023/09/10

東宮 美樹

東宮 美樹

株式会社ジェイック 執行役員

キャリア支援の施策を社内検討する際に押さえておきたいポイントサムネ用2

現代、終身雇用の崩壊、価値観の多様化した中で、個人のキャリア形成においても、転職が前提となる時代となっています。さらには経済環境としても、国内市場が成熟したことで、ビジネス現場では新しい価値創造やイノベーションが求められるようになっています。

 

その中で注目されているのが、「キャリア自律」です。キャリア自律は、上記のような環境変化を前提とする中で、個人が自身のキャリアビジョンをしっかり持ち、長期的な視点で自分のキャリアを構築する考え方を指します。

 

この流れの中で、企業が従業員のキャリア自律を支援する動きが広がっています。キャリア支援を推進することで従業員の「パフォーマンス向上」「離職防止」「エンゲージメント向上」につながるとされています。

 

本記事では、キャリア支援における施策とポイント、キャリア支援を実現するためのサービスがわかります。キャリア支援施策の検討にご活用ください。

<目次>

キャリア自律が注目される背景

キャリア自律とは何か?

米国キャリア・アクション・センター(Career Action Center:CAC)の定義

  • ⇒めまぐるしく変化する環境の中で、
  • 自らのキャリア構築と継続的学習に積極的に取り組む生涯にわたるコミットメント

キャリア自律は、特定の分野でスキルを高めていくことを目指すものではなく、環境変化を前提とする中で、自分自身のキャリアビジョンをしっかりと持ち、長期的な視点から自分のキャリアを構築する考え方を指します。

 

キャリア自律は、働く個人ひとり一人のものですが、次に紹介するような背景から、企業が従業員のキャリア自律を支援する動きが広がっています。

キャリア自律の支援を進める企業が増える背景

キャリア自律の支援を進める企業が増える背景

 

①終身雇用の崩壊

2019年10月13日に、トヨタ自動車の豊田章男社長(当時)「終身雇用を守っていくのは難しい局面に入ってきた」と述べて話題になりましたが、企業が終身雇用を保証できない時代になっています。

 

一方で、とくにミドルシニア層は終身雇用を前提としていた時代に採用されています。

 

会社が終身雇用を保証できなくなり、キャリアにも自己責任が求められている流れの中で、若手のキャリア自律を促進することはもちろん、入社時と現在でキャリアを取り巻く環境が大きく変わったミドルシニア人材のキャリア自律を促していく必要があります。

 

②価値観の多様化と大転職時代

「スカウトサービスに登録してみる」「人材紹介会社でオンライン面談してみる」といった転職活動のきっかけが極めて身近になった中で、新卒や若手が持つキャリアの悩みを解消して、モチベーション高く自社で働いてもらいたいというニーズも増えています。

 

Z世代と呼ばれる現在の新人や若手は、組織への帰属意識は従来ほど高くなく、「新卒の入社時点から転職を考えている」とも言われます。

 

そして、成長意欲と情報感度の高い優秀層ほど、転職という選択肢は身近です。

 

だからこそ、若手、とくに優秀層の離職防止とエンゲージメント向上を図るために、キャリア自律の支援を通じて「社内でのキャリア展望を描き、実現機会を提供する」ことが不可欠になっています。

 

③自走する現場の創造

国内市場が成熟し、人口減少に向かう中で、企業には新たな顧客価値、そして、感情を動かすような顧客体験の創造が求められています。

 

現場におけるイノベーション、個々人の内発的動機づけが企業の業績に大きなインパクトを与える時代になっています。

 

必要となるのは、決められたオペレーション、上司の指示を粛々と実行する人材ではなく、組織のミッションやバリューを理解して、顧客に寄り添って、自ら考える人材であり、「個の力」を最大化するための人事戦略です。

 

個人が「やらされ感」で仕事を実行するのではなく、「仕事への目的意識」「自分の人生、キャリアにおける意味づけ」「個人のミッション・パーパス」を持ち、強い内発的動機を持った個人を生み出すためのキャリア自律支援が企業の競争力を高めることにつながります。

キャリア自律の取り組み状況

調査によると、既にキャリア自律の取組みを実施または検討している企業は、83.2%。実施している・実施する予定がある・実施に向けて検討している企業を合わせると8割を超える結果となりました。

 

キャリア自律を目的とした取り組みを実施していますか?

キャリア自律の支援施策の重視度

キャリア自律の取り組みを重視している1,000名以上の大手企業は、71.0%。とても重視している・やや重視していると回答をされた企業を合わせて7割を超えています。

 

キャリア自律をに対する重視度

キャリア自律の支援で企業が得られるメリット

キャリア自律の支援で企業が得られるメリット

 

①従業員のパフォーマンス向上

パーソル総合研究所の調査によると、キャリア自律が高い層は、低い層よりも1.2倍のパフォーマンスになるという結果が出ています。

従業員のパフォーマンス2

②離職防止とエンゲージメント強化

パフォーマンス向上の手前で、キャリアコンサルティングの取り組みは従業員の定着率上昇にもつながります。

キャリアコンサルティングの取り組みを通じて従業員の定着率上昇

 

キャリアや職場に関する不満や不安は、家族や友人と会った時、また、気が置けない同僚との食事等で言語化されやすい傾向にあります。

 

こうした相手は、職場のことをネガティブな文脈でのみ聞かされ、またリアルな人間関係に忖度してしまいがちな傾向があります。結果的に、不満が正当化されて、人材紹介会社やスカウトサービスへの登録につながります。

大切なことは、異動希望制度やジョブクラフティングの理解により、“社内でキャリア探求”する機会を設けることです。

 

さらに副業や兼業の許容、学習環境といった自己成長の環境や機会を提供することで、“自分のキャリアを応援してくれる会社”という認識につなげることがエンゲージメント強化につながります。

キャリア支援の全体像と施策

キャリア支援の施策は、「描く⇒学ぶ⇒築く」というサイクルと基礎となるエンゲージメント、そして、ベース・きっかけ施策と個別化施策という形で捉えられます。従業員一人ひとり、年齢や性別、ライフステージ、そして、価値観が異なります。だからこそ、ベース・きっかけ施策を整備・実施しながら、個別化施策を実行していくことがキャリア支援では大切です。

キャリア支援で目指す先(キャリア自律の定義)

  • 1)自らのキャリアビジョンを描けている
  • 2)キャリアビジョンに向けて行動している
  • 3)キャリアビジョンに紐づけて仕事に意味付けして、前向きに集中できている

従業員のキャリア支援をする(キャリア自律を目指す)に際しては、目指すゴールを自社なりに言語化しておくことが大切です。

 

支援する会社側も目指す状態を言語化できていない中で「キャリア自律して欲しい」とメッセージしても、従業員も困惑してしまうでしょう。

 

上記は、キャリア支援サービスを提供するKakedasがサービス提供を通じて実現したいと考えるキャリア自律の姿です。一例として、ぜひ自社なりのキャリア自律の定義を実施してみてください。

キャリア支援施策の全体像

キャリア支援の全体像

自社の状況・リソースに合わせた適切な組み合わせが大切

キャリア支援の施策は、「これだけやればいい!」という魔法の一手があるわけではありません。各施策にメリット・デメリット、強み・弱みがありますので、それを理解したうえで、自社の状況に合わせて施策を組み合わせて、また順番に実施していきましょう。

強み弱み
1.スキルアップ研修成長実感が得やすい、一律に実施できる個人のキャリア像が明確になっており、かつキャリア希望と一致しないと効果は薄い
2.キャリア研修考えるきっかけを多数に提供できる研修だけでは深い自分事にはなりづらい
3.社内キャリア面談社内制度などを踏まえたアドバイスができる社内の人間に本音は話しづらいという心理人事や有資格者などの対応キャパシティ
4.社外キャリア面談本音を話しやすい
中立的な質問やコメントで考えが整理される
社内状況や組織の意図までは踏み込めない
5.日常のマネジメント個人に合わせた動機付けやアドバイスが可能上司の能力に依存する
いまの仕事に留めたいという力学が働きがち
6.異動希望・公募制度社内でのキャリア実現機会を提供できる上司の能力に依存する
導入や運用の手間がかかる
7.副業・兼業制度社内に留めた上で社外での挑戦機会になる意欲と行動力がある人間のみが利用する
8.学習環境の提供
(資格支援/e-learning導入など)
幅広いスキル習得や成長機会を提供できる意欲のある人間のみ利用する
実務のパフォーマンスUPにならない場合も…

キャリア支援の導入を考える際のチェックリスト

自社にどんなキャリア支援の施策を取り入れると良いかは、従業員のキャリア自律レベル、そして、管理職のマネジメント能力、2つの視点から考えてみるとよいでしょう。

  • 従業員の「キャリア自律」レベル
  • 管理職の「マネジメント能力」

従業員の「キャリア自律」レベル

・キャリア構想を描けている従業員が多ければ「キャリア実現機会」や「成長機会」の提供が有効
・自律度が低い場合は「キャリアイメージの棚卸」「マイパーパスの発見機会」が大切

 

管理職の「マネジメント能力」

・管理職の面談力・キャリア自律度が高ければ、「社内面談」や「意思表明の機会」を中心に設計することが有効
・ミドルシニアのキャリア自律度が十分でない場合は、「研修による介入」「人事や第三者による面談」が有効

 

キャリア面談による効果

キャリア施策の中でも、キャリア自律への貢献度は高い一方で、まだまだ導入率が低いのでキャリア面談です。キャリア面談・キャリアカウンセリングの効果について紹介します。

キャリアカウンセリングによる効果

上述の通り、キャリア面談・キャリアカウンセリングは、キャリア自律を向上させる効果は高い一方で、まだ導入率は低い状況となっています。

 

教育研修の経験・受講とキャリア自律向上効果のプロット図

 

キャリア面談・キャリアコンサルティングを導入している企業への調査では、
 ・若手従業員の定着率が高まった 44.0%
 ・ベテラン従業員や有能な従業員の定着率が高まった 38.3%
といった結果が出ています。

 

企業におけるキャリア・コンサルティングの普及等の状況に関する調査

キャリア支援やキャリア面談の導入検討でよくある質問

キャリア自律に向けた支援施策やキャリア面談を導入する際に、よくある質問についても紹介します。

キャリア自律は、転職につながるのではないか?

一番多いのは、キャリア自律を支援する、またキャリア面談などをすると、かえって転職が生じるのではないかという懸念です。しかし、キャリア自律のレベルが上ったからという理由で転職への意向が高まるわけではないということが分かっています。

 

転職を促すきっかけにならないか?

 

転職を促すきっかけにならないか?上

 

転職意向の上昇につながるのはキャリア不安と市場価値

調査では、転職意向の上昇につながるのは大きく2つだと分かっています。ひとつは、「自分の将来像が見えず、モヤモヤする」「自分のキャリアはこれでいいのだろうか」「現状が自分にとって望ましい状態ではない気がする」などのキャリアへの不安。

 

そして、もうひとつは、「他の組織でも通用する」「今よりも処遇や条件が上がる」「活動すれば別の仕事が見つかる」といった、自分は市場価値が高いのではという思考になった場合です。

 

転職を促すきっかけにならないか?中

 

何もしなくてもSNSや広告を通じて、自分と同年代で活躍する人たちの情報、そして魅力的な転職支援サービスの情報など、「隣の青い芝生」への憧れを掻き立てる情報が入ってくる現在、情報や思考を遮断することで従業員を社内に囲い込もうとするのは不可能です。

 

むしろ、キャリア支援の施策を展開することでキャリア自律を促し、キャリアへの不安を解消する。そして、社内を一種の「市場」することで、離職リスクは低減できると言えるでしょう。

 

転職を促すきっかけにならないか?下

キャリア開発支援により仕事への満足度が向上、残留意向が高まる

自律的なキャリア形成を図る社員は、自身のスキルを適切に発揮できる場、希望するキャリアを実現するための環境を求めます。従って、以下の要素を企業側が提供していくことが大切です。

  • ①企業が、自身のキャリア希望を理解しようとしてくれると感じさせる機会
  • ②理解してくれた上で、自己成長やキャリア実現を支援してくれていると感じさせる仕組み

HRドクターを運営する株式会社ジェイックでは、グループ会社Kakedasを通じて、キャリア支援施策として有効な「キャリア面談」を1人500円/月から外注できるキャリア面談プラットフォーム「Kakedas」を提供しています。ご興味あれば、下記から詳細をご覧ください。フォームに入力いただければ、すぐ詳細資料もご覧いただけます。

関連サービス資料を
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キャリア面談プラットフォーム|Kakedas(カケダス)...
キャリア面談プラットフォーム|Kakedas(カケダス)...

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また、キャリア研修との組み合わせによるキャリア自律の支援サービスも提供しています。

 

キャリア開発のメリットや方法、注意点、事例などは以下にまとめているので参考にしてください。

 

著者情報

東宮 美樹

株式会社ジェイック 執行役員

東宮 美樹

筑波大学第一学群社会学類を卒業後、ハウス食品株式会社に入社。営業職として勤務した後、HR企業に転職。約3,000人の求職者のカウンセリングを体験。2006年にジェイック入社「研修講師」としてのキャリアをスタート。コーチング研修や「7つの習慣®」研修をはじめ、新人・若手研修から管理職のトレーニングまで幅広い研修に登壇。2014年には前例のない「リピート率100%」を達成。2015年に社員教育事業の事業責任者に就任。

著書、登壇セミナー

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