マインドフルネスとは、「雑念にとらわれたり、余計な判断をしたりすることなく、目の前の出来事に意識を集中した状態」です。
マインドフルネスは、ストレスが多い現代にパフォーマンスするうえで欠かせない考え方となります。
マインドフルネスには数々の実績があり、また、効果を裏付ける科学的根拠も存在します。
Google社をはじめとするWeb企業がマインドフルネス瞑想を導入したことなどから、ビジネス界でもマインドフルネスに注目が集まるようになりました。日本国内でも導入企業は増えつつあります。
マインドフルネス瞑想の効果を得るには、正しい実践方法や注意点を把握しておくことも大切です。
記事では、まずマインドフルネスの概要と効果を確認します。そのうえで、実践編として、職場でできるマインドフルネス瞑想の方法と注意点を解説しましょう。
記事の後半では、マインドフルネス瞑想の科学的根拠や導入企業の事例も紹介しています。
<目次>
- マインドフルネスとは?
- マインドフルネスを取り入れる効果
- 職場でできる!マインドフルネス瞑想の実践方法
- マインドフルネス瞑想を実践するときの注意点
- マインドフルネス瞑想の科学的根拠とは?
- マインドフルネスを導入した企業例
- まとめ
マインドフルネスとは?
マインドフルネスとは「雑念にとらわれたり、余計な判断をしたりすることなく、目の前の出来事に意識を集中する状態」のことです。
最近では、マインドフルネスな状態だけでなく、「自分自身に意識を集中させ、“今この瞬間の気持ちや身体状況”などをありのままに受け入れる練習や過程(マインドフルネスな状態を作るための瞑想やトレーニング)」のことも含めて、“マインドフルネス”と呼ばれることが多くなっています。
マインドフルネスが普及・注目されたきっかけ
マインドフルネスは現在、経営者やビジネスマンをはじめ幅広い層から注目されています。
マインドフルネスの概念や手法は、マサチューセッツ大学医学校名誉教授のジョン・カバットジン博士が医療分野にマインドフルネス瞑想を取り入れ、ストレス低減法として開発したことがきっかけで誕生しました。
医療分野での臨床研究によって脳や身体への有効性が示され、また、Google社などシリコンバレーの著名企業によるマインドフルネス瞑想の研修プログラムの導入、また、Apple社の創始者スティーブ・ジョブズ氏が実践したことなどから、マインドフルネスの認知度は世界中に広まることになりました。
マインドフルネスを取り入れる効果
マインドフルネス瞑想などを習慣化して、日常のなかでマインドフルネスな状態をつくり出せるようになると、個人や組織には以下のようなメリットが生じます。
集中力や記憶力が向上する
個人への効果で最も注目したいのは、集中力や記憶力、正確性などが向上することです。
ワシントン大学やハーバード大学などでも多くの調査が行なわれており、企業で実際に働く現役ビジネスパーソンを対象にした実験でも、マインドフルネスで集中力などが高まると、仕事のミスや失敗も起こりにくくなり、作業スペースもアップすることが証明されています。
集中力や記憶力などの向上は、記憶力や学習力などをコントロールする脳の機能が良くなることに起因します。
ある実験では、一日30分のマインドフルネス習慣を8週間続けることで、能力の向上が見られることが証明されています。
組織の生産性が向上する
マインドフルネス瞑想などでメンバー一人ひとりのパフォーマンスなどが高まると、個人の生産性が向上します。
また、集中力を持ったメンバー同士が協働することで、プロジェクトの課題解決や創造的なアイデアの創出など、組織レベルにも良い影響が生じるでしょう。
マインドフルネスの習慣化によってストレスへの対応能力を身に付けたメンバーが増えることは、問題解決の施策を実行したり、出てきた新たなアイデアにチャレンジしていったりすることにも非常に効果的です。
ストレス対応力が向上する
組織で求められる変化対応、スピード対応、感情労働、創造性の発揮、正解がわからない意思決定などの仕事は、メンバー一人ひとりにストレスをもたらします。
マインドフルネスの習慣化には、こうしたストレスに対応するうえ欠かせない、ストレス対応力やレジリエンスを高める効果があります。
医療分野では、うつ病、不安障害、心的外傷後ストレス障害(PTSD)といった精神疾患の治療に、マインドフルネスによるストレス低減法や認知療法が活用されています。
そのなかでは、マインドフルネス瞑想によって、怒りなどの気持ちをつかさどる扁桃体の活動が低下した、と報告されています。
マインドフルネス瞑想を行なって落ち着いた精神状態を維持する能力を高めることは、集中力などの能力を高めると同時に、ストレスに対応する力を高める効果もあるのです。
職場でできる!マインドフルネス瞑想の実践方法
マインドフルネスや瞑想と聞くと、実践することに大変そうなイメージがあるかもしれません。
しかし、マインドフルネス瞑想は、職場での休憩時間や在宅勤務の昼休みなどに、気軽に一人で実施できるものです。マインドフルネス瞑想の実践方法を3タイプご紹介します。
静座瞑想法
静座瞑想法は、呼吸に意識を集中することでマインドフルネス瞑想を実践するやり方です。
静座瞑想法は、背筋をまっすぐにできれば、床に座っている状態でも、オフィスの椅子などに座っている状態でも実践できます。
頭と首、背筋をまっすぐにして、床に対して垂直に座ります(椅子に座った状態でも大丈夫です)。
そして、息を吸い込んだときに静かに膨らみ、吐いたときに引っ込むお腹の状態を感じながら意識を集中させていきましょう。
自分の意識が呼吸から離れたことに気付いたら、対象が何かを確認してから、静かにお腹に意識を戻していきます。
座禅を組むときなどを同じように、薄く目を閉じるような状態が一番やりやすいかもしれません。
静座瞑想法は、呼吸に集中することから始めて、慣れてくるにしたがって徐々に時間を伸ばしたり、意識の使い方を変えたりしてステップアップしていきます。
- 最初は呼吸に注意を向けることに集中、1回10分から始めて30分以上継続できるように少しずつ時間を延ばします。
- 呼吸への意識集中ができたら、自分の心と呼吸の一体感を味わいます。
- マインドフルネス瞑想の間は、周囲の音だけに意識を向けます。
- 瞑想中に浮かんでくる考えや想いに意識を向けて、ひたすら観察します。(最初は2~3分程度から)
- 何もせずにただ座って意識を解放し、あるがままの自分をじっと観察します。
ボディー・スキャン
ボディー・スキャンは、自分の身体のさまざまな部位に順番に意識を集中させながら、集中させる場所を動かしていくという集中瞑想の一種です。
ボディー・スキャンは、目を閉じて呼吸を感じることからスタートします。そして、以下の流れで意識を集中させる部位を移動させていきます。
- まずは身体全体に意識を向けていきます。はじめは呼吸とともに上下するお腹の中心部へ意識を向けるとよいでしょう。
- 足の小指から順番に親指まで、そして足の裏、甲、ふくらはぎ、腿へと意識を向けていきます。片足が終わったらもう片足を同じように小指から順番にやりましょう。
- 同じようにして、手の指、手、腕を意識します。
- そしてお腹から背中へ、心臓が動いているのを感じましょう。
- 腰から背骨、首へと順番に意識を向けていきます。
- そして、顔に注意を向け、喉、唇、鼻、額など一つひとつのパーツを意識しましょう。
- 最後に再び身体全体、お腹の中心へと意識を向け、身体全体で穏やかに呼吸していることを意識します。
歩行瞑想法
歩行瞑想法は、Googleの社員研修プログラムSIYでも実践されているものです。歩行瞑想法の流れは、以下のとおりになります。
- 頭のてっぺんを天から糸につるされている感覚で背筋をスッと伸ばしから身体を脱力し、手と腕をリラックス状態にする。そして深呼吸する。
- 地面に立つ自分の足の感覚に意識を集中する。
- リラックスして普通の呼吸に戻し、ゆっくりしたペースで歩き始める。
- 歩くときに足の感覚に意識を向けて、「かかとが上がる」、「つま先が上がる」、「移動する」、「着地する」の4つの動作に集中する。
歩いていると、目や耳に飛び込んでくるものについ意識が向きがちになります。このように意識が逸れてしまったときには、再び足の動きに注意を引き戻しましょう。
はじめは素足に近い状態で芝生の上や体育館のようなフロアで実施するとコツをつかみやすいでしょう。
慣れてくると、通勤で最寄り駅まで歩く時間や、昼休みにお弁当を買いに行くときなどにも実践できるようになります。
マインドフルネス瞑想を実践するときの注意点
マインドフルネス瞑想の実践では、以下の2点で注意が必要となります。
- 呼吸に集中する
- 目的意識を持つ
この章では、それぞれのポイントを詳しく解説しましょう。
瞑想中は呼吸に集中する
マインドフルネス瞑想を行なう際には、瞑想に集中することが大切です。しかし、瞑想に慣れないうちは、周囲の雑音や雑念に意識が向いてしまいがちになります。
マインドフルネス瞑想の実践中に雑音・雑念などに意識が向きそうな場合は、自分の呼吸に集中し、雑念を払うことが有効です。
具体的には、自分の鼻から出入りする空気の流れに注意を向けると集中しやすくなるでしょう。
また、深い複式呼吸を意識しながら、雑念を吐く息にのせて川に流すようなイメージを持つことも有効です。
目的意識を持つ
初めてマインドフルネス瞑想を行なう場合、慣れるまでは雑念などに意識も向きがちになりますし、上級者が語るような効果が感じられないこともあるかもしれません。
自分が行なうマインドフルネス瞑想に対して「やり方が合っているか?」「効果が得られているか?」などを確認するには、瞑想を始める前に、「何のためにマインドフルネス瞑想をするのか?」という目的意識を持つことが大切です。
具体的には、以下のような目的になるでしょう。
- 頭のなかをすっきりさせたい
- 集中力を高めたい
- 不安を解消して心を落ち着けたい
たとえば、「頭のなかをすっきりさせたい」という目的を設定した場合、マインドフルネス瞑想を行なったあとに、「頭のなかはすっきりしたのか?」という振り返りを行なえます。
たとえば、瞑想後に「非常にすっきりさっぱりした」というのであれば、同じ方法で瞑想を続けてみてもよいでしょう。
一方で「まったくすっきりしない」「何も変わらない」というのであれば、たとえば、正座瞑想法を歩行瞑想法に変えてみたり、さらに集中できる工夫などを行なったりするとよいでしょう。
マインドフルネス瞑想の科学的根拠とは?
初めてマインドフルネス瞑想を行なう場合、「科学的根拠はあるのだろうか?」という疑問が生じることもあるかもしれません。
結論からいうと、マインドフルネス瞑想に関する研究の成果として、瞑想によって脳の変化やストレス・精神疾患への効果が認められた事例が存在します。
この章では、マインドフルネス瞑想による脳の変化と、ストレスや精神疾患への効果について詳しく解説しましょう。
脳の変化に対する科学的根拠
マインドフルネス瞑想と脳の変化に関する研究は、さまざまな視点で行なわれています。ここでは、各分野の研究でわかっていることの一部を紹介していきましょう。
脳における一部分の肥大化・縮小
ある研究では、マインドフルネス瞑想によって、学習や記憶などに関わる脳の灰白質に増加が認められました。
同時に、怒りの感情が生まれやすい扁桃部分は、マインドフルネス瞑想によって萎縮することがわかっています。
参考:マインドフルネスを生活にいかそう(北里大学健康管理センター学生相談室)
参考:マインドフルネスは現代人の心を救えるか(早稲田大学・熊野宏昭研究室)
マインドフルネス瞑想によるACCへの影響
前頭葉の後ろにある前帯状皮質(ACC)が影響を受けることも、注目されています。
ACCとは、注意と行動の対象を決める自己制御力に関わる部位です。ACCに支障がある場合、攻撃性に歯止めがきかなくなったり、思考の柔軟性に欠けたりする傾向があります。
マインドフルネス瞑想を行なうと、ACCが活発になるとともに、自己制御力のテストでも優れた成績が示されています。
こうしたテスト結果から、マインドフルネス瞑想には、より最適な意思決定を下す能力の向上が期待できるとされています。
マインドフルネス瞑想による海馬の変化
先述の肥大化・縮小と関係する結果ですが、マインドフルネス瞑想に関する研究では、海馬の灰白質も増加することも認められています。
海馬とは、ストレスに関わる部位です。うつ病などストレス関係の疾患がある場合、海馬の萎縮が見られやすくなります。
海馬はストレスから回復する力(レジリエンス)にも関わる部位であることから、マインドフルネス瞑想によるレジリエンス能力の向上も期待されています。
参考:マインドフルネスは現代人の心を救えるか(早稲田大学・熊野宏昭研究室)
ストレスや精神疾患に関する科学的根拠
最新の研究では、マインドフルネス瞑想は不安や抑うつの減少に有用であるとされ、認知行動療法などと同程度に役立つ可能性があることがわかっています。
たとえば、うつ病の人の場合、悲観的な考えを現実としてとらえてしまう傾向があります。また、不安症の場合は、物事を大げさに考えすぎて落ち込むといった症状がみられます。
マインドフルネスには、自分の考えを肥大化させるのではなく、現実をありのままにとらえることを重視する特徴があります。
そのため、マインドフルネス瞑想を繰り返すと、打つ病や不安症の人にありがちな症状の改善が期待できるとされています。
なお、日本の精神科医のなかにも、マインドフルネスと同じ概念の治療法を実践している人が多く存在しています。
また、PTSDの治療法として用いられている長時間の暴露療法と比較したところ、マインドフルネス瞑想でもPTSD症状の軽減が見られたことで、長時間の暴露療法と同等に有用だと考えられるようになりました。
プログラムとしてマインドフルネスを行なう、マインドフルネス・ストレス低減法(MBSR)なども確立されています。
この低減法を実施することで、慢性疼痛やうつ病の再発予防に効果が見られることもわかっています。
参考:マインドフルネスを生活にいかそう(北里大学健康管理センター学生相談室)
参考:マインドフルネスは現代人の心を救えるか(早稲田大学・熊野宏昭研究室)
参考:実行機能とマインドフルネス(田中圭介・杉浦義典)
マインドフルネスを導入した企業例
最後にマインドフルネスを導入した企業の事例を紹介します。
Googleは、マインドフルネスを取り入れた先駆け的な企業です。
Googleでは、社内エンジニアによって開発されたマインドフルネス瞑想を含めた研修プログラムSIY(Search Inside Yourself)を設立に導入しています。
Googleでは当初、「平和・喜び・思いやり」などの価値観を社内で広める目的でマインドフルネスに注目しました。
しかし、この目的だけではなかなか浸透しないということで、実践するメンバーの直接的な価値につながる「集中力向上・創造性向上・ストレス低減」などに導入目的を変えて再浸透させています。
初期に行なわれていた自主参加のプログラムは、7の瞑想をする形のものでした。
Googleでは、社員がマインドフルネス瞑想への関心を持ちやすいように、宗教色は取り除き、科学的な裏付けをわかりやすく説明しています。また、社内には瞑想ルームも設置されています。
プログラムに参加したGoogleの各メンバーからには、生産性の向上、集中力UPによる作業時間の短縮、昇進、人間関係の改善などにつながったという声が寄せられています。
Apple
Apple社は、創業者のスティーブ・ジョブズ自身がマインドフルネスを実践していたことで知られています。
新端末の発表などの大事なプレゼンテーション前に必ずマインドフルネス瞑想を行なっていたとされます。
現在、Apple社では、マインドフルネスの「創造性が高まる」効果に注目をして、エンジニアに瞑想を推奨しています。
具体的な取り組みとしては、正しい方法でマインドフルネスができるように、ヨガや瞑想の社内講習を実施しています。
また、職務時間内の30を瞑想にあてられるように、社内には専用の瞑想ルームも完備されています。
Appleにおいても、マインドフルネス瞑想を取り入れたことでGoogleと同じように生産性の向上や新端末や新サービスの開発につながる創造性の向上といった効果が生まれたとされます。
Sansan
Sansan株式会社は、日本で初めて全社規模のマインドフルネスプログラムの導入を行なった企業です。
Sansan株式会社では当初、生産性向上などを目的に社内研修の一環としてマネージャー職を対象にマインドフルネスを取り入れていました。
全マネージャーを対象とする研修で、脳神経科学などに基づくマインドフルネスの基礎を座学で学び、研修後にマインドフルネス瞑想の個人ワークを実践してもらうというプログラムです。
研修を実施したところ、参加者の約8割にモチベーションUPやリーダーシップ向上などの効果が得られたため、2018年1月に全社員を対象とした研修に切り替えています。
現在は、外部講師を招いて本格的なマインドフルネス研修も実施されています。
まとめ
マインドフルネスは、もともと仏教の「瞑想」にヒントを得て医療分野で取り組まれたものです。
呼吸や自分の身体に意識を向けることで、過去や未来への思考などから解き放たれ、「今このとき」に集中した状態を指す概念になります。
近年では、経営者やトップビジネスパーソンも取り組み始めるようになりました。とくに、AppleやGoogleといった世界的企業も導入したことで、世界中に認知されるようになっています。
現在は、科学的な研究でも、マインドフルネス瞑想により、ストレスや精神疾患を抑える働きがあると認められています。
さまざまな研究者によってマインドフルネスによる集中力や記憶力の改善、ストレス対応力の向上などが証明されています。
“マインドフルネス”や“瞑想”という言葉だけを見ると、難しい印象を受けるかもしれません。しかし、自宅や職場、また、歩きながらでも実践できるのが、マインドフルネス瞑想の良いところです。
集中力やストレスなどの悩みがある人は、記事で紹介した実践方法を参考にマインドフルネスに取り組んでみてはいかがでしょうか。
個人での実践で成果を感じることできた人は、チームや組織にもぜひマインドフルネス瞑想を取り入れてみてください。
以下の記事でも、マインドフルネスに関して解説していますので、よろしければご覧ください。
マインドフルネスについて知りたい。 ―どんな風に役に立つの?―|リワーク支援(自立訓練・就労移行)のリワークセンター【Rodina】