セクハラは「セクシャルハラスメント」の略称で、職場等における「性的な嫌がらせ」を指します。セクハラは、被害者の心身に深刻な影響を及ぼすだけでなく、企業のブランドや評判にも大きなダメージを与えます。一方で、セクハラの判断基準は曖昧であり、判断が難しい側面もあります。
本記事では、セクハラの定義と基準、種類や事例を解説するとともに、企業が知っておくべき防止策と対処法も紹介します。セクハラやパワハラ等のハラスメント問題は、組織の士気を大きく下げるものです。マネジメント層や人事の方はぜひご覧ください。
<目次>
- セクハラの定義と基準
- セクハラの種類は4つ
- セクハラに関する責務
- データで見るセクハラの現状
- セクハラで生じる悪影響
- セクハラを発生させないための対策方法
- セクハラが発生してしまった際の対処方法
- セクハラに関するよくある質問
- まとめ
セクハラの定義と基準
記事では最初に、セクハラの定義と基準について解説します。
セクハラの定義
多くの方がご存知であるとおり、セクハラはセクシュアルハラスメントの略です。厚生労働省によると、次のように紹介されています。
出典:明るい職場応援団「ハラスメントの定義」
ここでいう「職場」は社内だけではなく、出張先や移動先、職務の延長ともいえる会社の飲み会なども該当します。また、労働者は、正社員だけじゃなくパートやアルバイトも対象です。もちろん異性だけでなく、同性も含まれます。
セクハラの基準
セクハラを判断する基準は、実際にはケースバイケースで個別に判断されるものですが、一般的には以下の3点から判断されることが多くなります。
② 労働者の意に反するものであるか?
③ 行われた言動が性的なものであるか?
まず「職場で行われたものか?」ですが、ここでの職場は物理的な社屋や仕事場ということではありません。業務上で関係する場所であれば職場とみなされますので、たとえば、職場の飲み会(場所は居酒屋)や社員旅行(宿泊先)なども該当します。
次に、労働者の意に反するものであるかは、相手方の望まない言動で不快なものであれば意に反するとみなされます。「相手が嫌だとは言わなかったから良い」ということではありませんので注意が必要です。
そして、行われた言動が性的なものであるかは、性的な事実関係を尋ねたり冗談を言ったりすること、身体的接触などが該当します。
セクハラの判断をするうえでは、被害者の主観を尊重しつつ、一定の客観性も必要です。被害者本人が不快感を示しており、平均的な労働者が不快だと感じるような言動であれば、セクハラと認められる可能性が高まります。また、一度きりであっても悪質なものであればセクハラと判断されることもあります。
セクハラの種類は4つ
職場のセクハラには大きくわけて4つの種類があります。
- 対価型セクシュアルハラスメント
- 環境型セクシュアルハラスメント
- 制裁型セクシュアルハラスメント
- 妄想型セクシュアルハラスメント
対価型セクシュアルハラスメント
対価型のセクハラとは、なんらかの優遇する措置の見返りとして性的な行為を求めることです。上司から部下、発注元から発注先など、職場や業務における優越的な地位を利用されることが多いとされます。
「優遇」するの逆で、たとえば、経営者が社員に関係を迫ったものの断られた結果、「拒絶されたから」といって不当に配置転換したり解雇したりするなども対価型に該当します。
環境型セクシュアルハラスメント
環境型とは言動や装飾物の設置などで性的な嫌がらせを行なうことです。例えば女性が多い職場で、男性の上司が常に性的な言動を繰り返すなどが環境型のセクシュアルハラスメントです。
環境型のセクハラはメンバーのパフォーマンスを下げるだけでなく、職場の人間関係や雰囲気を損ね、離職者の増加や企業の生産性低下にもつながります。環境型のセクハラは、加害者にセクハラ意識がなく行なっているケースもあるからこそ注意が必要です。
制裁型セクシュアルハラスメント
制裁型セクハラとは、性別に基づくステレオタイプな偏見を持ち、異性に不当な圧力をかける行為を指します。例えば、女性に対してのみお茶出しを強要する、あるいは女性上司の指示に従わない、といった行為が制裁型セクシュアルハラスメントに該当します。
このような行為は、性別による不平等を助長し、職場の健全な環境を損なうものであるのは言うまでもありません。企業の多様性と公平性を保つためにも、マネジメント層は注意して是正することが必要です。
妄想型セクシュアルハラスメント
妄想型セクハラは、本人が錯覚した一方的な好意を通じて、相手に不快感を与える行為を指します。例えば、単なる挨拶や業務上の会話を恋愛感情と錯覚し、執拗にプライベートな誘いをかけるなどが該当します。妄想型のセクハラは加害者に自覚がない、また都合よく捉えていることも多く、周囲による指摘や介入が必要です。
セクハラに関する責務
本章では、セクハラでどのような責務が生じるのかについて、事業主、従業員それぞれで解説します。
事業主の責務
事業主が、職場で起きたセクハラの被害者や第三者から損害賠償請求された場合、使用者責任や債務不履行責任などで法的責任を負う可能性があります。また、職場におけるハラスメントを防止するために、事業主には、雇用管理上必要な措置を講じる義務があります。
具体的には、以下5つの措置が求められます。
2.相談、苦情に応じ、適切に対応するために必要な体制を整備すること
3.相談があった場合、事実関係を迅速かつ正確に確認し、被害者及び行為者に対して適正に対処するとともに、再発防止に向けた措置を講ずること
4.相談者や行為者等のプライバシーを保護し、相談したことや事実関係の確認に協力したこと等を理由として不利益な取扱いを行ってはならない旨を定め、労働者に周知・啓発すること
5.業務体制の整備など、職場における妊娠・出産等に関するハラスメントの原因や背景となる要因を解消するために必要な措置を講ずること
(参考)厚生労働省|職場のハラスメントを防止するために事業主が雇用管理上講ずべき措置
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/seisaku06/index.html
従業員の責務
従業員がセクハラを行った場合は、会社から懲戒処分や解雇などの処分を受ける可能性があります。また、被害者から損害賠償請求や刑事告訴されるリスクもあります。そのためにも、従業員は、自分自身がセクハラを行わないことは当然として、事業主の講ずるセクハラ防止措置(方針周知・啓発・相談体制整備・再発防止策等)に協力する必要があります。
データで見るセクハラの現状
セクハラの発覚件数は年々増加傾向にあります。セクハラの現状を実際のデータから解説します。
セクハラの件数
職場にはさまざまなハラスメントがありますが、最も多いのがセクハラです。例えば、厚生労働によると、雇用環境・均等部(室)に寄せられた相談のうち、令和元年度は37.4%と、約3件に1件がセクハラの相談です。したがって、セクハラは企業が最も力を入れて対策・対処しなければならないハラスメントのひとつであるといえます。
参考:厚生労働省「令和元年度 都道府県労働局雇用環境・均等部(室)での法施行状況」
セクハラの事例
ここからは過去に起きた事例からセクハラについて解説します。平成19年3月に判決が出た通称広島セクハラ事件と、平成27年に判決が出た通称海遊館事件を参考に忘年会でのセクハラを紹介します。
<広島セクハラ(生命保険会社)事件>
ある企業の従業員7名が、部下1名に対して飲み会の場で両足を体に巻き付けたり、抱きついたりしました。また、強制的に被害者の股間に陰部を押し当てたり、抱きついたところを写真に撮ったりした、などの行為が認められています。
従業員たちは「被害者も楽しんでいた」「飲み会を盛り上げようとしただけ」などと説明しましたが、行為者および使用者の損害賠償責任が認められました。
判決では同時に「被害者にもセクハラ行為を煽るような言動があり、落ち度があった」として損害賠償額の減額が認められています。しかし、判決のとおり、被害者側にセクハラ行為を煽る言動などがあったとしても、セクハラ行為として責任が生じるわけです。
「煽られたから」「セクハラしてもいいような雰囲気だったから」と感じても、セクハラととらえられかねない言動は慎みましょう。なお、セクハラもパワハラもお酒がきっかけとなりやすいため、職場の飲み会は特に注意が必要です。
<海遊館事件>
ある企業の管理職2名が、派遣社員などに対してセクハラ発言を繰り返しました。例えば、不貞行為をはたらいている相手との性生活を話したり、年齢に対する差別的・侮蔑的な発言をしたりといった言動が認められています。
被害者からの抗議はなかったそうですが、しかし、判決では「就業意欲の低下や能力発揮の阻害を招来する」と認められています。上述したセクハラの定義である「就業環境が害されること」に当てはまるといえるでしょう。
本判決でわかるとおり、体を触るなどの物理的な接触だけがセクハラではありません。また、「相手が何も言わなかったからセクハラじゃない」ともいえない点に注意すべきです。
セクハラで生じる悪影響
セクハラが発生するとさまざまな悪影響が生じます。ここではおもな悪影響を4つ紹介します。
- 被害者の休職・退職
- 損害賠償
- 男女雇用機会均等法による制裁
- 企業やブランドイメージの棄損
被害者が休職・退職する可能性
セクハラが発生すると、被害者がメンタル疾患にかかり休職・退職するリスクがあります。メンタル疾患等がならずとも職場や上司に嫌気がさして、退職するケースも多いでしょう。
厚生労働省によれば、”ハラスメント行為を受けた後の行動”として、実に6.9%が退職しているのです。退職すれば人員不足を招き、人員を補充するためのコスト・時間・リソースが必要とされます。
また、セクハラの場合、他の女性社員も離職する、仕事へのエンゲージメントが下がる、社内風土が悪化するなどの悪影響も生じやすいといえるでしょう。
参考:厚生労働省「令和2年度厚生労働省委託事業 職場のハラスメントに関する実態調査 主要点」
損害賠償
重度の悪質なセクハラの場合、加害者だけでなく企業にも損害賠償が請求される恐れがあります。平成10年3月26日に裁判が行なわれた通称千葉不動産会社事件では、行為者である代表取締役と勤務先会社が被害者に対して損害賠償を支払う形になっています。
本件は行為者が代表取締役であるという事情もありますが、場合によっては会社は管理責任を問われる可能性は十分にあり得ます。
男女雇用機会均等法による制裁
男女雇用機会均等法とは採用やマネジメントに関する男女差別を禁じた法律です。セクハラに対する対処を行なわなければ、外部機関から報告を求められたり助言・勧告・指導を受けたりする可能性があります。
企業やブランドイメージの棄損
ハラスメントに対する価値観が変わったなかで、報道やSNS等で大きく取り上げられるリスクが高まっています。特にBtoC企業などでは、企業イメージやブランド棄損の影響は非常に大きいといえるでしょう。採用活動への悪影響なども大きなものがあり、優秀な人材確保が難しくなって中長期的に企業の利益や生産性の低下を招く恐れもあります。
セクハラを発生させないための対策方法
上述したとおり、セクハラはさまざまな悪影響をおよぼすため、発生を防止するための対策を講じることが大事です。ここではセクハラへの具体的な対策方法を5つ紹介します。
- 職場全体への周知
- 就業規則への反映
- 相談窓口の設置
- 研修の実施
- 社内アンケートやサーベイの実施
職場全体への周知
法律や企業の方針を職場全体に周知しましょう。ハラスメントに関する企業の方針をきちんと示し、発生時には厳重に罰する旨を表明することが、メンバー全員の意識改善につながります。
就業規則への反映
セクハラの基準や対処法を規定して就業規則に盛り込みましょう。例えば「問題が起きた際は人事異動を行なう」や「加害者には一定の処罰を科す」などです。実際にセクハラを理由にして解雇できるか否かは行為の程度によるものの、一定の抑止や啓発効果を期待できます。
相談窓口の設置
相談室を設置して、被害者から悩みをヒアリングする担当者を決めましょう。設置する際は、人事部門と連携が取れるようにすることが大切です。
なお、大事なのは担当者の人選です。社員から信頼性があり、なおかつ被害者・加害者両方に肩入れすることのない中立的な視点を持った人物が望ましいといえます。社内に該当者がいなければ、外部と契約することもひとつです。
研修の実施
セクハラに関する意識啓発の研修を実施するのも大事です。メンバーの意識を高めることがセクハラ防止につながります。
セクハラは”上司から部下”、“正規雇用者から非正規雇用者”といった優越的な地位を利用したものが多いからです。したがって、職場で優越的な地位にいる管理職層に対する研修は必須ですし、また、女性のパートやアルバイト等が多い職場でも研修の実施が重要です。
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社内アンケートやサーベイの実施
社内アンケートやサーベイを実施して現状の組織風土やコミュニケーションの状態を知ることも有効です。セクハラは他人に相談できていないケースも少なくありません。個人を特定するよりも、匿名で回答可能にして現状を把握することがおすすめです。
セクハラが発生してしまった際の対処方法
対策を講じても、セクハラを100%防げるとは限りません。そこで大事なのはセクハラが発生してしまった際の対処方法を事前に決めておき、迅速に対応することです。セクハラが発生してしまって相談を受けた際の対処には、おもに4つのステップがあります。
- 1.相談窓口に報告する
- 2.被害者に寄り添いって話を聞く
- 3.事実関係を確認する
- 4.被害者・加害者への対応を行う
1.相談窓口に報告する
まず相談窓口に“相談があった”等の事実を共有しましょう。上司が加害者であるケースもあるため、上司に相談するのが適切とは限りません。のちのちの対処をスムーズにするためにも、社内のハラスメント対応窓口に初期から共有することが大切です。
2.被害者に寄り添って話を聞く
プライバシーが確保できる場所で被害者の話を聞いてください。セクハラは被害者の精神被害が多く、その他のハラスメント以上に「セクハラにあったことは表に出したくない」という意向も強くなりがちです。精神状態を考えながらゆっくりと時間を取り、話を聞きましょう。
3.事実関係を確認する
被害者と加害者では認識の相違があるケースもあります。「中立的な立場で聞く」という意識を持って、同じ部署などの第三者に事実確認しましょう。事実確認する際は守秘義務に十分考慮したうえで行なうことが大切です。
4.被害者・加害者への対応を行う
被害者と加害者の両方に対応しましょう。部署異動で引き離すだけでなく、加害者には懲戒処分を、被害者にはメンタルケアを施す必要があるでしょう。
セクハラに関するよくある質問
最後に、セクハラに関する抱くよくある質問を2つほど紹介します。ここで紹介するのは以下の2点です。
- ジェンダーハラスメントとの違いは?
- セクハラがあった時に相談できる公的窓口は?
- セクハラがあったことの証拠はどのように集めるべきしょうか?
ジェンダーハラスメントとの違いは?
ジェンダーハラスメントとは、社会的・文化的な意味合いから性差別的な言動・行動を取ることです。ジェンダーハラスメントがセクハラに該当する場合もあります。ただ、ジェンダーハラスメントはLGBTQなど性的志向の多様性に関連して出てきた概念ともいえます。
セクハラがあった時に相談できる公的窓口は?
万が一セクハラがあった時に相談できる公的な相談窓口を2つ紹介します。企業側としても被害を受けた従業員に紹介できるよう窓口を知っておくことをおすすめします。
・厚生労働省「ハラスメント悩み相談室」
厚生労働省の委託事業である「ハラスメント悩み相談室」は、セクハラやパワハラなどの職場でのハラスメントに関する相談を受け付ける窓口です。ハラスメント悩み相談室では、専門的な知識と経験を持ったカウンセラーが、相談者の状況や希望に応じて、具体的な対処方法や解決策をアドバイスします。また、必要に応じて、他の相談機関や支援団体への紹介や連絡も行います。
https://harasu-soudan.mhlw.go.jp/
・女性の人権ホットライン
法務局の「女性の人権ホットライン」は、配偶者やパートナーからの暴力、職場等におけるセクシュアル・ハラスメント、ストーカー行為といった女性をめぐる様々な人権問題についての相談を受け付ける専用相談電話です。電話は、最寄りの法務局・地方法務局につながり、相談は、女性の人権問題に詳しい法務局職員又は人権擁護委員が対応します。相談は無料で秘密は厳守されます。
https://www.moj.go.jp/JINKEN/jinken108.html
(電話)0570-070-810
セクハラがあったことの証拠はどのように集めるべきか?
セクハラがあったことを立証する上では、客観的な証拠を揃えることが重要です。具体的には、セクハラに該当する発言や行為を記録したメモ、メール・チャットの履歴、SNSのやりとり、写真などが有効です。また、目撃者の証言も強力な証拠になり得ます。これらの証拠は、セクハラの事実を明らかにし、実行者に指摘して適切な対処を行うための大切な材料となります。
まとめ
職場で起こるセクハラには対価型・環境型という2つの種類があります。けっして許されるものではなく、未然に防止しなければなりません。万が一、発生してしまうと、離職や職場風土の悪化に加えて、企業イメージの悪化、損害賠償が発生するような危険性もあります。
記事で紹介した対策を講じたうえに、万が一の対処法も制定して、発生した場合には迅速に対応しましょう。
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