終身雇用が崩壊して転職が一般化した中で、部下から突然退職の意向を告げられたことがある管理職や人事、経営者の方も多くなっているのではないでしょうか。
退職の際に対応を誤ると、企業にとって悪影響をおよぼす恐れもあります。
記事では、最近の退職事情や部下から退職意向を告げられた際の対応、また、部下の退職兆候を見抜き手遅れにしない、要望するためのポイントを紹介します。
<目次>
- 部下が退職を決意する理由
- 部下から退職の意思を伝えられたら手遅れ!?
- 部下の退職兆候を見抜く4つのポイント
- 部下の退職を未然に防ぐ4つの方法
- 部下の退職を引き止めるうえでの対処法
- 部下の退職は未然に防ぐのが大事
部下が退職を決意する理由
前提として、終身雇用が崩れ、中途採用が一般化した中で転職(退職)という選択肢は、数十年前と比較すれば “重い決断” ではなくなっています。
日本労働調査組合の報告によると、会社員の35.8%が退職もしくは転職を考えているという結果もあります。
かなり限られた調査ではありますが、想像以上の数字ではないでしょうか。では、なぜこれだけ多くの人が退職・転職を考えているのでしょうか。
厚生労働省「令和2年雇用動向調査結果の概況」によれば、年代別の離職理由は下記のような形になっています。
- 1位「給料等収入が少なかった」
- 2位「職場の人間関係が好ましくなかった」
- 3位「労働時間、休日等の労働条件が悪かった」
- 1位「会社の将来が不安だった」
- 2位「職場の人間関係が好ましくなかった」
- 3位「給料等収入が少なかった」
- 1位「給料等収入が少なかった」
- 2位「会社の将来が不安だった」
- 3位「職場の人間関係が好ましくなかった」
各年代の結果を俯瞰すると、転職理由の上位に入ってくるのはいつの時代もさほど変わらず、人間関係、会社の将来性=自分のキャリア開発への不安、給与を始めとする待遇面という3つの理由であることがわかります。
すべてを短期間で解決することはできませんが、組織として3つの要素を改善していくことに取り組まなければ根本的な解決はできないでしょう。
退職理由に関しては以下の記事でランキング形式で詳しく解説しています。
部下から退職の意思を伝えられたら手遅れ!?
部下から退職の意思を伝えられたら、もう引き止めることは不可能なのでしょうか。ここでは近年の退職事情を説明し、3つのケースを考えてみます。
- 退職の意思を口頭で伝えられた場合
- 退職願を出された場合
- 退職届を出された場合
近年の退職事情
最近は転職が一般化、かつオンライン採用も普及したことで現職に勤務しながらの転職活動をしやすくなりました。
また、前述のとおり若手層やインターネット系などの業界を中心に、転職は昔ほどの一大決心ではないという認識にもなりつつあります。
その結果、近年は転職先が決定した状態で退職を申し出てくるケースが増えています。このような場合だと、現実的に引き留めることはほぼ不可能です。
退職の意思を口頭で伝えられた場合
退職の意思表示方法は、法律で定められているわけではありません。口頭でも退職の意思表示は有効です。
また職業選択の自由により、従業員が退職を申し出た場合には企業側は拒否することはできません。
民法上は企業側が承諾するか否かに関わらず、意思表示してから14日後には退職が可能です。
よって、口頭での意思表明であっても法的には有効であり退職が認められることになります。
しかし、会社によっては就業規則で“退職願を提出すること””退職日の1ヵ月前に申し出ること”などのルールを設けている場合があります。
この場合、手続き上は会社の規則に従うことが求められますが、法律と就業規則が相反する場合に優先されるのは法律です。
いずれにせよ部下の意思次第となるため、口ぶりや上述した態度から本気度を推し量り、親身になって話を聞くことが必要です。
退職願を出された場合
退職願を出された場合も口頭の場合と変わりません。「退職願」を出してきたということは、退職に対する意思はより固いといえるでしょう。
なお、部下の退職の意思が固い場合は、無理に引き留めずに退職手続きを行なったほうがよいでしょう。
退職引き留めでトラブルが起きると、SNS等で炎上するようなケースもあります。
また、引き留め交渉している間にどんどん退職予定日までの時間がなくなり、引継ぎが十分にできないまま退職ということにもなりかねないので注意が必要です。
退職届を出された場合
退職願は、会社(あるいは経営者)に対して退職を願い出るための書類です。それに対して退職届は、会社の承諾可否を問わず自分の退職を通告するための書類となります。
前述の通り、民法第627条で退職に会社の承認は不要であり、労働者が意思表示することで14日後には会社を退職できると認められています。
よって、退職届を出されたらほぼ退職を覆すことはできません。
部下の退職兆候を見抜く4つのポイント
前述のとおり、最近は退職の申し出があった時には、既に引き留めには手遅れなケースが増えています。
したがって退職の兆候、モチベーションダウンの兆候を見抜いて早めにケアすることが大切です。
モチベーションが明らかに下がった
退職したいと思っている部下は「今の会社に長くはいない」「短期的な評価が落ちても構わない」と考え、業務へのモチベーションが低くなる傾向にあります。
具体的には仕事の手を抜いたり積極性が薄れたりします。
業務のスピードが遅くなったり、他の人に仕事を振ることが多くなったりした場合、転職活動をしている可能性もあるので働きぶりや勤怠も確認しながらケアすることが大切です。
会社の愚痴が増えた
否定的な発言や不満などをいうようになったら、不満の原因を理解・確認しにいくことが大切です。
不満や愚痴の対象が何なのか明確にしなければ、ケアできずに退職につながってしまう恐れがあります。
また、不満・愚痴を言うメンバーがいると周辺メンバーの士気も下がり、職場の空気が悪くなって連鎖的に退職を生み出すリスクも生じます。
休みや遅刻が増えた
モチベーションの部分でも紹介した通り、モチベーション低下が行動として表れやすいのは仕事への主体性や納期などに加えて、休みや遅刻などの勤怠面です。
ただし、休みや遅刻が増えた背景には、精神的にキツく休息を求めている、職場に来ることに心理的ハードルが生じている可能性もあります。
出社後の表情が以前に比べて曇っていることが多いなど、外見面でも変化がわかる場合はかなりのストレスを内包している可能性が高いでしょう。
厚生労働省の調査によると「仕事や職業生活に関することで強い不安、悩み、ストレスを感じている労働者の割合は54.2%」と約半数以上がストレスを抱えていることがわかっています。
ストレスの原因は業務の負荷や人間関係、さらに本人の解釈などさまざまな原因がありますので、状況を見ながら、1on1等を実施して状況を把握することが必要です。
上述の通り、休みや遅刻は気の緩みなどの可能性もありますが、退職兆候やストレス要因である可能性もあります。
従って、むやみに怒らず部下の現状を理解することが大切です。また、有給休暇の取得回数が増えた場合、転職の準備や面接の時間を確保している可能性もあります。
他メンバーとのコミュニケーションが悪化した
退職要因が職場の人間関係、対人コミュニケーションに対する不満などである場合、退職兆候は他メンバーへの攻撃的、また投げやりな言動として表れることもあります。
モチベーション低下と同じ、この職場に長くないと考えるからこそ人間関係の改善を諦める言動になってくるのです。
なお、不満をいっていたメンバーが発言しなくなるのも職場への関わりを諦めた状態であり、退職兆候です。
オフラインでのコミュニケーションだけでなく、オンラインであればチャットツールでの返信が遅くなったり発言量が減ったりする場合もあるでしょう。
部下の退職を未然に防ぐ4つの方法
繰り返しになりますが、退職を伝えられてからでは引き止めるのは手遅れであるケースが増えています。
退職兆候を見抜いて個別にケアすると同時に、下記のような取り組みで退職やモチベーション低下を未然に防ぐことが大切です。
□ | コミュニケーションの量を増やす |
---|---|
□ | ストレスチェックなど定期診断を実施する |
□ | 正当に評価する |
□ | 職場を改善する |
コミュニケーションの量を増やす
退職する部下は、上述したような予兆となる言動を取ることが多くなる傾向があります。部下の変化を見極めるには、定期的なコミュニケーションが重要な役割を担っています。
入社して間もない若手社員への対応としては、ブラザーシスター制度やメンター制度などを導入し、成長促進や良好な人間関係をフォローアップする組織構築が有効です。
また、部下を支援したり様子を把握したりするために1on1ミーティングを実施することも効果的です。
昨今普及しているリモートワークの場合には、意図的にMTGの冒頭などで雑談やアイスブレイクを入れることも有効です。
ストレスチェックなど定期診断を実施する
定期的なストレスチェックも有効です。
厚生労働省の報告によると、ストレスチェック制度を受けた労働者を追跡した研究では職場環境改善の有用性が示されており、職場環境改善を経験した労働者のうち約6割が自分たちのストレスを減らすのに「有用だった」と回答しています。
ストレスチェック制度は、2015年から労働者が50人以上の事業所では実施が義務付けられています。
労働者が50人を下回る事業所は実施義務こそありませんが、厚労省のマニュアルなどを参考にして導入に取り組むことでモチベーション状況を定期チェックすることができます。
正当に評価する
給与など待遇への不満は各年代で退職理由の上位に入ってくるものです。待遇への不満は絶対的なもの・相対的なもの、2つの側面があります。
まず絶対的な給与水準等を向上させるには労働生産性、従業員ひとりあたり粗利の改善が必須です。
ネット等でいくらでも求人情報が見えるようになった中で、各職種や業界の平均相場との乖離が大きいと重大な退職要因になってきます。
ただ、労働生産性を向上しない限り、給与水準を向上させることは難しいですので、従業員にもしっかりと基礎的なP/Lの仕組み、生産性の改善に巻き込んでいくことが大切です。
もうひとつが相対的な待遇への不満です。評価基準を明確にして、成果を出している社員が適切に評価される仕組みを作りましょう。
給与への不満は絶対的なものと同じぐらい「なんであいつが高く評価されるんだ」という相対的なものが多くあります。
評価基準があいまいになると相対的な不満が増えます。最終的な経営陣による調整はあるにしても、基本的には透明・公正な評価制度を構築・運用することが大切です。
評価方法にはさまざまな種類がありますが、MBOによる業績評価が一番ベーシックです。
業績評価を主にして、プロセス評価、情意評価(コンピテンシーやバリューの実践度、自己開発の取り組みなどを評価)を入れてバランスを取るとよいでしょう。
職場を改善する
冒頭で紹介したとおり、退職理由の大きなものは人間関係、会社の将来性=自分のキャリア開発への不安、給与を始めとする待遇面という3つです。
当たり前の話になってしまいますが、3つの要素に一つひとつ丁寧に取り組んでいくことが大切です。
人間関係に関しては社風形成や管理職研修、キャリア開発に関しては能力開発の機会や人事評価・異動や配置の仕組み、待遇面に関しては上述した通り評価制度の平等性などに取り組みましょう。
根本的には生産性を高めて事業を成長させていかないと、将来性への不安や待遇面の改善はできません。中長期的な目線で地道に取り組むことが必要です。
部下の退職を引き止めるうえでの対処法
繰り返しになりますが、退職相談してくる社員は転職先がすでに決まっていることが多いです。入社日等が決まっている場合、過度な引き留めをしても効果は薄いといえます。
退職の申し出に対して恫喝的な引き留めをしたりすることは、最近ではSNS等での炎上リスクにもなります。
また、退職者の社内の人間関係から在籍している他社員に話が出回って、他社員の信頼を失いかねません。左記も踏まえたうえで、部下の退職申し出に関する対処のポイントを紹介します。
退職理由を確認する
退職理由を聞いておくことで、今後の改善に活かすことができます。ただし、基本的に引き留めをしている段階では相手は本音を言いません。
タイミングとしては退職日などがすべて決まったあと、また、場合によっては人事や経営陣、上司ではなく、仲の良い同僚などから聞いてもらうこともひとつです。
以下の質問をしながら確認してみましょう。
- いつから退職を考えていたか?
- 何がきっかけで退職を決めたか?
- 会社の改善すべきだと思うところは?
意思が変わらなければ手続きを進める
職場環境の不備を認めたうえで、部下に対して期待することや残ってほしい理由を説明し、それでも意思が変わらなければ速やかに手続きを進めた方がよいでしょう。
繰り返しになりますが、就業規則等でどう定めていたとしても、民法第627条では退職2週間前までに社員が雇用解約を申し出ることで退職は認められるとなっています。
引き留めに時間を使ってしまったり、関係を悪化させてしまったりすると、引継ぎがうまくいかなくなることが増えます。
現実的には2週間で引継ぎしてもらうことは困難なことも多く、ある程度退職者と調整する必要があるでしょう。
その点も含めて、意思が変わらなそうであれば、無理に引き留めるよりも引継ぎをスムーズにいかせることの方が重要だと言えるでしょう。
部下の退職は未然に防ぐのが大事
転職が一般化している中で、部下が突然の退職を申し出てくるようなことが増えています。
最近では、退職を申し出てきた時点で次の入社先と入社日が決まっているケースも多くなっています。
状況を確認して引き留めが難しそうであれば、無理な引き留めはせず引継ぎをスムーズに進めたほうがよいでしょう。
部下の退職理由は、大きく分けると、いつの時代も人間関係、会社の将来性=自分のキャリア開発への不安、給与を始めとする待遇面という3つです。
退職兆候を早めに掴めるような職場環境を作りつつ、中長期的に3つの要素をひとつずつ改善していくことが大切です。