本記事は、全2部構成でお送りします。Vol.1は下記よりどうぞ。
<目次>
- AI解析からわかった管理職のホンネ〜事例紹介〜
- 組織を牽引するはずの管理職が停滞してしまう理由
- 管理職を飛躍させるスイッチの押し方
- キャリア自律している管理職は1.2倍のパフォーマンス
- 管理職がイキイキ働くことは特に若手の離職防止にもつながる
- 管理統制型のリーダーから共創型のリーダーへ
AI解析からわかった管理職のホンネ〜事例紹介〜
従業員数千名、IT系の企業での事例を紹介します。
とある部門の管理職層を対象に「Kakedas」で面談を実施、分析したレポートの抜粋です。とくに人事と経営層が考えていた管理職の課題と大きくずれていた部分を紹介します。
まず1つ目ですが、約7割の管理職がキャリアパスについて悩んでいました。これは会社側では把握できていませんでした。
一方で、電子カルテデータによると、適職度は高く、仕事に対してのフィット感をお持ちの方が多い状況でした。退職リスクも低く、転職しようと思っている人は少なかった傾向です。
しかし、その中でチームの雰囲気だけは、他社と比較して低い点数でした。職場の雰囲気、上司や部下、同僚の関係性が良好でないことに悩んでる管理職が多いという状況です。
データをさらにAIで解析をかけたデータです。Kakedasでは、管理職の方々が使った言葉を全てテキスト解析します。カウンセリングの場での話を全て文字化して、それを数十人分、膨大なテキストデータを分析することで、いろいろなことが分かってきます。
この会社で圧倒的に人事や管理職の想定と違ったことは、管理職の皆様が「自信がない」というデータです。 特にパフォーマンスに関する不満・不安が強く、自己効力感が欠如していることが解析から分かりました。
例えば、「任されたミッションを達成できているが、自分がいなくても同じだったのではないか」と思われているといった状況がありました。
こうした自己効力感のなさがどんな風に出ていたかというと、会社として新しい施策を打とうとなった時に、反対意見や「出来ない」という否定的な意見が出るといった事象です。
じつは会社に対して反発していたわけではなく、自信のなさから受け身になり、新しいプロジェクトへの挑戦や学びに対して拒否感が出ていたということが分かりました。また、キャリアパスへの懸念も見えてきました。
管理職にはなったものの、専門職になるべきか、5年後、10年後という将来があまり見えていないという感覚です。会社でキャリアについて学ぶ機会や面談もなく、そのまま管理職になった人がほとんどでした。
いまの30代後半以上の方というのは、今ほどキャリア自律に会社が力を入れていない時代に、現場で働き、管理職に進んできているので、じつは「キャリアを考える機会がなかった」ケースが多くなります。
結果として、キャリアビジョンを描けていない、なりたい将来像がありません。
その中で、それなりの経験を積み、能力もある中で、新たにリスキリングが打ち出され、将来像を描けていない中で学ぶことに疲弊しているという状態です。危機感から学ぶ人もいますが、危機感によるモチベーションが長続きしません。
また、家庭生活と仕事のバランスに悩んでいる方も多かったのですが、ここは会社では把握できておりませんでした。
家庭生活と仕事のバランスというと、女性を思い浮かべる方も多いかも知れませんが、じつは女性の管理職候補ではなく、男性で家族を持たれている40前後の方が、これから子育てや共働きが増える中で、 家庭生活と仕事のバランスに苦しんでいるケースが見受けられました。
そして、これがポジションアップを目指さず、受け身になってしまう理由になっていたこともわかりました。
他社の管理職との面談データでも、自己効力感の欠如や自信のなさ、「キャリアビジョンが見えてない」という課題は頻出します。
一方で、会社から見えていたのは「新しいプロジェクトへの挑戦や学びに対して反対がある」「昇進への意欲等も見えない」といった状況であり、管理者の本音を掴めていない状態で、厳しめのアプローチで叱咤激励するような研修をやっていたそうです。
しかし、上記のような本音を踏まえると、本人たちの捉え方を変えるようなマインドチェンジをさせる研修が適しているのではないかということで、教育プログラムの方針を大きく変えました。
キャリアビジョンを明確化したり、自信をつけるための教育プログラムに変更したり、制度面の見直しやケアも実施しました。
組織を牽引するはずの管理職が停滞してしまう理由
組織をけん引して欲しい管理職が停滞してしまうという悩みですが、背景にある3つの理由も解説します。
まず環境変化の中で、人を育てる難易度が圧倒的に上がっているということです。働き方が変わっています。時短やリモート勤務で、上司と部下が同じ空間・場所を共有しながら理解し合うことが難しくなりました。
また、入ってくる社員の価値観も多様化しています。就職氷河期に就職した40代~50代は、会社を中心に住む場所も時間も決めていくような、会社中心の人生設計を行ってきた人が多いでしょう。
しかし、今入ってきている20代の価値観は、自分の人生が中心であり、その周囲に仕事や会社があるという考え方です。会社を中心に生きてきた管理職が、こういった今の世代の方々をモチベートすることは難易度が高いでしょう。
また、VUCAとも言われ、顧客ニーズも変化スピードも変わる中で、今は「真面目に頑張っていれば正解が見つかる」時代ではありません。生じる変化に対して、現場の1人1人が新しい正解を作っていけるチームを作らなければなりません。
また、管理職が停滞する理由の2つ目は、組織のデフレスパイラルに陥り、管理職が疲弊してしまっている状態です。管理職というのは、より上位、会社や部門の事業計画から落とし込まれてきた部課やチームの目標に責任を負います。
そして、管理職自身が目標を噛み砕いて自分のものにして、現場に説明していかなければいけません。
しかし、多様な価値観を持った社員に対して、ビジョンや目標を自分事として伝えていくことは非常に難しくなっています。
このようにリーダーシップや部下育成の難易度が上がったなかで、仕事ができる部下に仕事が偏り、放置気味の部下が生じたりします。仕事が来る部下は「なんで自分ばかりたくさん仕事が来るの」となりますし、仕事を分け与えられない部下は疎外感を感じます。
結果として、モチベーションダウンが生じたり、できる部下の離職が増えたりします。そうなると、管理職が「自分がやってしまった方が早い」と現場に入ってしまうなど、マネジメントとプライングのバランスが崩れてしまうことが起こりがちです。
管理職のプレイヤー化が進んで忙しくなると、短時間で難易度の高いマネジメントをやるわけですから、さらに部下育成やリーダーシップの発揮が難しくなります。このデフレスパイラルに陥っている状態を止めないと、組織をけん引する管理職は育ちません。
最後に、リーダーシップのあり方が変わってきているという時代の変化です。スライドは、求められる管理職のあり方について、10年前と今を比較したものです。グレーの棒グラフが10年前、水色が現在のデータです。
10年前に求められていたのは部下を説得するリーダーシップでした。しかし、今管理職に求められているのは、対話を重んじるリーダーシップです。
また、昔はトップダウンが求められていましたが、今はボトムアップです。そして、部下に「私の背中を見て真似しなさい」という指導から、今は部下1人1人の強みを発揮させる指導が求められます。
昔のままのやり方で管理職をしていると、現場のマネジメントが上手くいきません。リーダーシップのリスキリングを行わないと、管理職は停滞してしまいます。
管理職を飛躍させるスイッチの押し方
最後に、管理職を飛躍させるスイッチの押し方のポイントを紹介します。
①管理職の現状把握と悩み解消、キャリアビジョンと教育設計
まずは管理職自身がどんなキャリアを築いていきたいのかを、しっかり個別対応していくことが重要です。集合型研修も効果はありますが、過去と比べると、抱えている悩みや描きたいキャリアビジョンが多様になっています。
そして、悩みや課題は、会社の人にしゃべりにくいわけです。利害関係、評価者である上長や経営層に相談できないわけです。
そこで、外部のキャリアカウンセリングシステムを活用して、まずは管理職の現状を把握します。管理職自身の悩みを解消しないと、どれだけ会社が働きかけをしても受け身になったり、反発しがちになったりします。
個別カウンセリングを続けていくと、モヤモヤが解消されてきた時に「こうなりたい」というキャリアビジョンが描けるようになります。
会社側は、ポジションや給与が上がることがキャリアだと思っている人も多いでしょう。また、40代50代の管理職自身も、そう思っている人もいます。
一方で、実態として、とくにミドルシニアの管理職全員に対して、今後のポジションや昇給は到底約束できない時代です。成果主義やジョブ型の中で、むしろ降格や降給もありえることを納得してもらう必要があります。
だからこそ、ポジションや給与以外の「こういう人になりたい」「こんな価値提供を世の中にしていきたい」「こういうやりがいを感じたい」「プライベートでも社会に対してもこんなことをしたい」といったキャリアビジョンを描かせることが大事です。
ただ、お尻を叩くように「リスキリングだ」と煽っても、学ぶ意欲は生まれません。管理職自身が受け身ではなく、自らの人生やキャリアの主体者になるための支援をしていくことが、管理職を飛躍させるスイッチの1つ目です。
②キャリアビジョンに向けた学び、キャリア自律を促す支援を行う
「Kakedas」でキャリア面談のサービスを提供していると、上層部の方によく「キャリアビジョンが描けると転職してしまいませんか?」とご質問いただきます。実際には逆で、むしろ離職防止、定着に結びつきます。
どういうことかと言うと、人というのはモヤモヤしたままだと、未来のキャリアが描けず「いまの会社にいてもしょうがない」と考えてモチベーションが下がってしまったりします。
そこで、転職サイトに登録したり、転職エージェントと面談したりすると転職の方向に傾いていきます。
いまの時代、キャリアビジョンを描いたことで辞めるよりも、キャリアビジョンが描けないから辞めるケースが大半です。主体的にキャリアが描けるようになると、「この環境から逃げ出したい」というような回避的な転職やモチベーションダウン、諦めが減っていきます。
そして、そのタイミングでリーダーシップのリスキリングを行うことが大切です。目指す方向性が見つかった時、「それを実現する時に学ぶ」ことは意欲を生み出します。
今、マネジメントや部下育成に困っている管理職は非常に多いわけです。トップダウンで落としていく管理統制型のマネジメントが求められていた時代はもう終わっています。それを感じている管理職は多いです。だからこそ、ストレスや悩みも溜まっているわけです。
キャリアビジョンが見えた中で、周りを巻き込みながら、新しい創造性も生み出して作り出していくような共創型のマネジメントを学んでいくと、管理職の皆さんは喜ばれます。
③効果測定から組織開発行うAIデータで効果的支援を行う
皆さんの会社では教育や研修を行う際に、効果測定をしておりますでしょうか。そして、社員育成に関するデータを貯めて分析して、翌年以降の組織開発に反映させているでしょうか。
特定の人の声やアンケート結果だけではなく、AIによる解析を使うことで、組織開発を継続的に進化させられる時代になってきました。
研修後にアンケートを取っている会社も多いと思いますし、弊社でも研修を提供した際にはアンケートは実施しています。ただ、アンケートは研修の満足度は見えても、人材育成の効果測定として不十分です。本来は、現場で本当に変わったかを見る必要があります。
また、エンゲージメントサーベイをやっていますという企業も多いですが、低い点が出た時に皆さんはどうされていますでしょうか。現場でヒアリングしても、本音を言わない人の心の声は吸い上げることができません。
会社全体として、また管理職層の育成に際して、客観的な、また現場と本音のデータを貯めながら組織開発を行っていくことが、管理職育成を効果的にする3つ目のスイッチです。
キャリア自律している管理職は1.2倍のパフォーマンス
キャリア自律というのは、会社から何かしらのキャリアを与えられるという受け身ではなく、自分からキャリアを描いていく、自ら必要な学びを設計していくという状態です。
キャリア自律が高いレベルでできているとパフォーマンスは上がっていきます。管理職の皆様がキャリア自律を促されると、パフォーマンスや学習意欲、仕事の充実感が1.2倍高まるというデータもあります。
ただ教育の機会を与えて受け身で受けさせるのではなく、キャリア自律を促す設計を管理職育成に入れて、能動的な学びを生み出すことが重要です。
管理職がイキイキ働くことは特に若手の離職防止にもつながる
管理職以外の社員が辞めていくという悩みを抱えていらっしゃる企業様も多いです。じつはシニアがいきいき働いていない会社は、若手社員が辞めやすいという相関データも出ています。
若手からすると、自社のシニアは「この会社に居続けた時のロールモデル」です。ロールモデルであるシニアが停滞していたり、もしくは孤立していたりする会社は、若手も辞めたいとなる傾向が強いです。
例えば、管理職が停滞している会社の若手からは「ああはなりたくないです」「うちは上が詰まっています」「どうしてあの人があんなに高い給与をもらうんでしょうか」といった声がよく上がります。
管理統制型のリーダーから共創型のリーダーへ
ここまでリーダーシップのリスキリングについて触れてきましたが、弊社では次世代リーダー育成で「リーダーカレッジ」という1年間の教育プログラムを提供しています。
時代の中で、管理職は管理統制型のリーダーから共創型のリーダーに変わっていく必要があるわけですが、悪気なく従来のパターンが正解だと思っている方も多くいます。
しかし、トップダウンで落とすことで上手くいっていた時代はもう終わりつつあります。
これからの管理職は、現場のメンバーの本音の声を吸い上げて、現場からも新しい成果を一緒に作り出していく共創型のマネジメントを学んでいくことが重要になってきます。
共創型のリーダーや管理職育成について興味関心があればぜひ、お問い合わせください。