企業が成長していくためには、強いリーダーが不可欠です。しかし、強いリーダーは勝手に育つものではありません。拠点展開や新規事業、事業拡大において、リーダーの存在は必要になります。
“育った人をリーダーにする”のではなく、組織的に“リーダーを育てる”仕組みを作っていきましょう。とはいえ、リーダーは研修をやれば育つというわけではありません。記事では、研修も含めたリーダー育成のポイントを分かりやすく解説していきます。
<目次>
どの企業でも求められる「強いリーダー」の育成
企業が新拠点の設置や規模拡充に取り組むには、必ず強いリーダーが必要です。しかし、中小企業においては、リーダー不足によって事業展開や拠点展開が進まないという悩みもよく伺います。
リーダーが育っていない企業では、今のリーダーを次のステージに引き上げたり、新規事業に異動させたりすることが困難になってしまいます。
また、リーマンショックやコロナ禍のような激動時、厳しい環境の中でメンバーを鼓舞し、成果に向けて施策を打ち続ける強いリーダーが、組織をギリギリの線で生き残らせます。強いリーダーがいないと、業績の悪化に歯止めが利かず、組織が一気に崩れてしまう可能性もあります。
多くの企業でリーダーが育っていない
一方で、多くの企業はリーダーの必要性に気付きながらも、自社の理想とする育成ができていない実情があります。
2018年にリクルートマネージメントソリューションズが、組織規模が拡大している従業員50~1,000人規模の成長企業に対しておこなった調査結果を1つご紹介します。
調査では、47.7%の経営者や人事責任者、事業責任者が、人事・組織戦略上での課題として、「次世代リーダーが育っていないこと」を選択しており、リーダー育成が経営層にとって悩ましい課題となっていることが分かります。
リーダーは勝手に育つものではない
成長企業が、リーダー育成に悩む最大の理由は、前述したように事業規模を拡大していくうえでは、リーダーが不可欠だからです。
例えば、「30人、5店舗」を経営した企業が、「70人、10店舗」を目指そうとすれば、当然、リーダー(拠点長以上)も「6~7人」から「13~15人」程度必要となります。
こうなると、リーダーが「育ってくる」のを待っているわけにはいきません。やはりリーダーを「育てる」必要が出てきます。
また、これだけ多くの企業がリーダー育成に悩む背景には、日本国内でも長く続いたピラミッド型組織の影響も一部あるかもしれません。古くからのピラミッド型組織におけるリーダーは、自ら考え自ら動くというよりも、業務効率化等を目指し前任者と同じ決まった仕事をするのが一般的でした。
しかし、コロナ禍のようにどう変動するか分からない、VUCAの時代には、決まった業務だけをこなすリーダーでは、悪い流れを変えることはできません。今後は、企業の抱える問題や目標に対して主体的に動くリーダーを育成する必要があります。
その意味でも、今まで以上に、「リーダーが育つのを待つ」のではなく、「リーダーを育てる」ことを意識する必要があります。
企業において「リーダー」のあるべき姿とは?
企業におけるリーダーは、職位でいえば、マネージャー、係長、課長、店長、拠点長等のポジションになるでしょう。リーダーとして活躍するには、以下のような資質が求められます。
チームメンバーがバラバラの方向を見ていては、強いチームにはなりませんし、相乗効果は発揮されません。従って、チーム共通のビジョン、ゴール、具体的な目標を掲げることが、リーダーが果たすべき第一の役割となります。
リーダーが果たすべき第二の役割は、掲げたゴールに向かう道筋を示すことです。「エベレストに登ろう!」というビジョンを掲げても、無為無策で登りにいっては達成することはできません。まずは、高尾山を登り、富士山を登り、体力と十分な装備を揃えることが必要です。
リーダーはゴールから逆算して、チームとして何をいつまでに実現するのか、誰が実行するのか、ゴールに向かう計画を決めて、進めていく必要があります。
リーダーの第三の役割は、ゴールへの到達、目標の達成に向けて、組織をまとめることです。ここには、メンバーとの相互理解を深めてモチベートすること、メンバーの強みを活かせる役割配置をおこなうこと、また、チームメンバーが仕事に集中しやすいように組織構造や環境作りをおこなうこと等が含まれます。
強いリーダーは、管理統制するだけではなく、各メンバーに仕事を任せ、エンパワーメントしながら、人材を育成します。現場を通じて、メンバーの成長を促し、次のリーダーを育てることもリーダーの役割です。
リーダーが組織の求心力となり、組織として結果を出し続けるためには、リーダー自身が日々の言動や立ち振る舞いで、メンバーの手本になる必要があります。目標達成への意欲、考え方や価値観、実行して欲しい行動、リーダー自身が模範となることで、説得力が生まれます。
リーダー研修の目的と対象
ここまでリーダーの重要性を説明しましたが、リーダーを育てる方法の1つにリーダー研修があります。リーダー研修の目的は、自社に必要な能力を持った強いリーダーを育成することです。
企業の5年後10年後の将来を左右するリーダー育成は、企業を成長させ、存続させるうえで、非常に大事なものです。
同時に、リーダー研修のもう1つの目的は、今のリーダーが抱える悩みや問題を解決し、ビジネスの課題に対応していくことでもあります。現場のリーダー同士が、お互いを理解して、相互支援することで、ゴールに向かって成長できる組織が生み出されます。
リーダー研修の対象者
リーダー研修は、以下のうちどのカテゴリの人材を対象にするかによって、内容が変わってきます。
- 次期リーダー:今後1~3年間で引き上げたいリーダー候補
- ⇒早めにリーダーとなる自覚を持たせ、成長を促進する
- 新任リーダー:プレイヤーからリーダーへ昇格した人
- ⇒リーダーとしての役割や自覚を持たせる
- ミドルリーダー:数年のリーダー経験がある層
- ⇒マンネリの打破
- シニアリーダー:幹部ステージに上がる候補者
- ⇒次のステージで必要となる知識の習得、準備
どのカテゴリへの育成も不可欠ですが、実施しないと致命的になってしまうのが、新任リーダー向けの研修です。また、成長企業の場合は、事業成長に伴って新たなリーダーが必要となるペースが早いため、次期リーダー向けの研修を計画的におこなうことが重要です。
一方で、成熟企業の場合には、そこまでハイペースで新たなリーダーが必要とされるわけではないため、経験を持つミドルリーダーの自己革新や部下育成に重きを置くことが必要でしょう。
リーダー研修を考えるうえでは、3年後の事業計画、組織図を描き、「何人の新たなリーダーが必要となるか」を考えることから始めると良いでしょう。
なお、リーダー、管理職向けの研修について詳しく知りたい方は、以下の記事を併せてご覧ください。
リーダー育成で身に付けさせたい5つの力
リーダー育成では、対象者に以下の5つのスキルを身に付けさせる必要があります。
- ビジョンを描く力
- 目標達成力
- 人間力
- 部下とのコミュニケーション力
- 判断力
それでは、それぞれの詳細を解説していきます。
1. ビジョンを描く力
ビジョンを描く力は、方向性を見定めてチームをけん引するために不可欠です。組織が置かれた状況を把握して、共通のビジョンやミッション、ゴールを描き伝える力は、コンセプチュアスキルや概念化能力と呼ばれています。
プレイヤー時代にはあまり必要とされることはありませんが、リーダーとして組織を率いるうえでは必要不可欠なスキルです。
リーダー、管理職として、より大きな組織を率いていくと、どんどん重要性が増してきますので、プレイヤーからリーダーへの転換時にしっかりと意識させて、鍛えていくことが必要です。
リーダーとして、必要なコンセプチュアルスキルは、具体的には以下のようなものがあります。
- メンバーをビジョンで鼓舞する
- 企業のビジョンやミッション、バリューを浸透させる
- 企業のビジョンやミッションを、チームのビジョンやミッションに落とし込む
2. 目標達成力
リーダーとしての目標達成力は、まず目標設定から始まります。目標設定は「SMARTの原則」ともいわれますが、組織を共通の方向に向けるにはビジョンから落とし込まれた適切な目標が必要です。
また、目標が設定されたら、達成するための道筋を描く計画力、リソースをやりくりしながら計画を前に進めていく管理力や推進力が必要とされます。
目標を設定して、達成に向けた計画を描き、計画を前に進める、一連のサイクルを動かす、また、得られた結果の評価と改善、目標や計画の再設定というPDCAを回してビジョンに近づいていく、というのがリーダーに必要な目標達成力です。
3. 人間力
組織においてメンバーをまとめ、信頼関係を作るうえで、不可欠なのは人間力です。人間性、器等という表現もできるでしょう。
リーダーは、人として信頼される人間力を磨くことが重要です。どれだけコミュニケーションスキル等のテクニックを学び、実践したとしても、周囲からそもそも信頼、尊敬されていなければ、テクニックの効果は出ないでしょう。
人間力は、木の根っことなるような部分です。地面の上にある幹や枝葉のように目に見えるものではありませんが、根っこがしっかりしていなければ、いくら幹や枝葉のテクニックを磨いても、木には成果という実はなりません。
大きな実を実らせるためには、生い茂った枝葉や太い幹が必要です。そして、地上にある幹や枝葉を大きくするためには、地下で幹や枝葉を支え、養分を送り届ける根っこの充実が必要となるのです。
4. 部下とのコミュニケーション力
人間力を土台としたうえで、リーダーには部下とのコミュニケーション力が必要となります。部下を動かす、部下を育てる、どちらにもコミュニケーションが欠かせません。リーダーに必要なコミュニケーションは、「伝える力」「聴く力」「褒める力」「叱る力」です。
プレイヤーとして、成果を上げてきた人物であれば「伝える力」は一定レベルで備わっていることが多いでしょう。プレイヤーからリーダーとなった際、とくに重要になってくるのは、残りの3つです。
組織をまとめて、しっかりと伝えるうえでは、「聴く力」が必要になります。例えば、部下からの相談に対してフィードバックをするときには、一方的に意見を伝えるのではなく、まずは相手の認識の仕方や価値観に耳を傾けてから助言をする「理解してから理解される」ことが有効でしょう。
一人ひとりの声に耳を傾け、適切な接し方ができると、リーダーとチームメンバーの信頼関係の向上や円滑なコミュニケーションも可能になるでしょう。
また、メンバーを育てるうえでは、「褒める力」と「叱る力」も重要です。
「褒める」とは、良い行動を習慣化してより促進するためのアプローチ、「叱る」とは、良くない行動を是正するためのアプローチです。リーダーが適切に「褒める」「叱る」力を身に付けることで、メンバーの成長が加速します。
5.判断力
リーダーに求められる重要な役割は判断する、決断することです。ビジネスの現場における判断は、学校の課題と違い正解がないことが大半です。しかし、その中で情報を集め、迅速に意思決定することはリーダーの責任です。
判断力を磨くためには、ロジカルシンキングやクリティカルシンキングが必要となります。また、他人の意見に耳を傾ける姿勢が求められるでしょうし、失敗を恐れず、自分を信じて挑戦する姿勢も必要となるでしょう。
この章では、リーダー育成において身に付けさせたい5つのスキルをご紹介しました。とりわけ1つ目のビジョンを描くコンセプチュアルスキル、3つ目・4つ目の人間力や部下とのコミュニケーション力といったヒューマンスキルは、プレイヤー時代に求められたスキルとは大きく異なります。
だからこそ、プレイヤーからリーダーへとポジションを変えた新任リーダーに向けた研修がとりわけ重要となるのです。
リーダー研修を実施する際のポイント
最後に、リーダー育成、リーダー研修をおこなう際に重視すべきポイントをご紹介します。
「研修、現場実践、経験の振り返り」をセットで繰り返す
リーダーは、座学で育つものではありません。現場での成功/失敗を経て、成長するものです。
では、座学はいらないのかというと、そんなことはありません。座学でフレームワークを学び、現場で実践して、現場での経験を振り返る。その繰り返しが、最も早い成長ルートになります。
研修で学んだことを現場で実践し、結果を振り返ることで、物事を客観的に判断するというリーダーに必要なPDCAの力も育むことができるでしょう。
「経験の振り返り」は、研修に限らず日常の中でも実践していきましょう。
経験を成長の糧とするためには、コルブの経験学習モデルを意識することが重要です。経験学習モデルを日常に組み込むためには、日次や週次で以下のような3つの問いを考えることが有効です。
↓
Q2.この経験から何を学べるか?(学ぶ)
↓
Q3.もう一度やるならどうやるか?(実践に繋げる)
「中長期的な目標」を設計する
リーダー育成は、企業にとって非常に重要なテーマである一方で、新入社員研修のように「毎年決まったタイミングにまとまった人数が入社してきて研修をおこなう」といったスタイルではないため、手つかずになることも多いものです。
また、何となく「プレイヤーとして実績を上げてきた○○さんなら、リーダーを任せても、大丈夫じゃないか?」と思ってしまいがちな側面もあります。しかし、前述のようにプレイヤーとリーダーは異なる能力が必要です。
3年後に必要となるリーダー人数を計算して、中長期的な視点で育成に取り組みましょう。感覚としては、退職や独立してしまうケース、思うようにリーダーが育たないケース等を考えると、必要となるリーダーの3倍ぐらいの“育成対象”が必要です。
リーダー育成には、座学だけではなく、配置転換や異動も効果的です。重要性を明確にしたうえで、予算や研修内容を含めて長期的にゴールや計画を立てていきましょう。
リーダーに対して期待を伝える
リーダー育成やリーダー研修の効果を高めるためには、リーダーに対して経営者や上司が具体的な期待を伝えることが大切です。経営者の一言で、リーダーのモチベーションは高まります。
経営陣から、現場の中核となるリーダー陣に対して、叱咤激励のメッセージを意識的に伝えていくことが非常に重要です。
目的や状況にあった研修スタイルを選ぶ
リーダー育成において、重要なものは「現場での経験」です。それに加えて、「現場で活かすための意識や知識を学ぶ」「現場での経験を学びに変える」ための研修があることで、現場での経験が、スムーズに成長へと繋がります。
新入社員と違って、対象者が少なく、指導の難易度が高いリーダー研修は社外に依頼する企業が大半です。リーダー向けの研修には、さまざまな種類がありますので、大まかな種類やポイントを解説しておきます。
外部の研修会社が実施している研修に対象者を派遣するものです。1名から派遣が可能ですので、多くの企業で利用されています。
また、リーダー研修で外部研修を利用するもう1つのメリットは「他流試合」です。他社のリーダーと共に学び、それぞれの職場で実践し、結果を共有する中で、他業界や他職種のリーダーから学んだり、健全な危機感を抱いたりすることができます。
外部研修は、一口にリーダー研修といっても、プログラムがたくさんあり、自社の課題や目的に合ったものを選択できるところも大きな利点です。なお、外部研修を選ぶ際には、「学び⇒実践⇒振り返り」のサイクルを回せる継続型のプログラムがおすすめです。
自社の社員のみを対象として、外部から講師を招く、もしくは自社の社員が講師として登壇する形の研修です。研修プログラムや事例等を、自社にフィットした形にアレンジできることが大きなメリットです。
自社のビジョンやバリュー、社内用語等を盛り込んで、方向性やリーダー像の統一を図ることもできるでしょう。また、受講者が多数存在する場合に、低コストで効率よくプログラムを組めることも大きな利点です。
新型コロナウイルスの影響で三密を避けるために、オンラインのリーダー研修も多く利用されるようになりました。全国どこからでも参加できるオンライン研修は、とくに直行直帰が多い会社や拠点型の会社で多く導入されています。また、地方の企業が、首都圏のリーダー等と混じって学ぶことでの他流試合効果を期待して利用することも増えています。
オンライン研修の場合には、事前に動画等を使って知識をインプットしたうえで研修に臨む反転学習を取り入れたもの、また、移動時間等がいらないオンラインならではの良さを活かしたフォロープログラムがしっかりしたもの等を選ぶと良いでしょう。
まとめ
成長企業ほど、「3年後に必要なリーダーの人数」を計算してみると、リーダーが「育つ」のを待っているのではなく、組織的に「育てる」ことが必要なことが分かります。
リーダー育成をおこなってきた感覚としては、育成対象とする候補者は必要なリーダー人数の3倍です。“3年後の組織図”から必要なリーダー人数を計算し、計画的に育成に取り組んでいきましょう。
また、リーダー育成に不可欠なのは、「学び⇒実践⇒振り返り」のサイクルです。リーダーは座学では生まれません。現場での成功/失敗体験がリーダーを成長させるのです。では、研修は必要ないのかというと、そうではありません。
現場での実践を加速させるための意識や知識を学ぶ、また、現場での経験を振り返って学びに繋げることで、リーダーの成長が加速します。現場での実践と適切な研修を組み合わせて、自社のリーダーを育成して、事業を成長させてください。