「相手に対する嫌がらせ」を指すハラスメントが企業にとっての大きな問題点となっています。近年ではパワハラやセクハラだけでなく、マタハラやモラハラ、新型コロナ禍で増加したリモハラなど、ハラスメントの種類も多様化しています。
ハラスメント自体は許されないものであり、発生させてはいけないものです。一方で、ハラスメントを恐れるあまり、適切な指導や叱責、必要なコミュニケーションができなくなることも問題です。
だからこそ、企業は社員、とくに管理職層にハラスメントに関する正しい知識を身に付けさせ、また、予防策や対応策を講じることが求められています。2020年には改正労働施策総合推進法(パワハラ防止法)が施行され、職場でのパワハラ対策が事業主の義務となっています。また、2022年4月1日からは中小企業においても義務化が開始されました。
ハラスメント対策はすべての企業にとって喫緊の課題です。本記事ではハラスメントの発生要因や企業が負う法的責任のほか、ハラスメント問題が企業に及ぼす影響、そして対応策について解説します。さらに職場で起こりうるさまざまなハラスメントについて19種類紹介します。
<目次>
- ハラスメント問題とは
- ハラスメントとは
- ハラスメントを判断する基準
- ハラスメントの発生要因
- ハラスメントと法的責任
- ハラスメント問題が企業に及ぼす影響
- さまざまなハラスメント
- ハラスメント問題への対応
- ジェイックのハラスメント研修
- まとめ
ハラスメント問題とは
職場におけるハラスメントは、近年とくに問題視されており、件数も増加傾向にあります。厚生労働省がまとめた「令和2年度個別労働紛争解決制度の施行状況」によると、民事上の個別労働紛争相談件数のうち最多は「いじめ・嫌がらせ」で79,190件。9年連続で最も多くなっています。
今や、ハラスメント問題への対応は企業にとっての死活問題といっても過言ではありません。国内の人口減少による労働力不足が続くなかで、社員の流出や悪評の発生は企業業績の低下に直結しかねません。
なお、個人の権利に対する概念が10年前とは大きく変わっていることから、「何がハラスメントに該当するか?」の基準は大きく変化しています。だからこそ、ハラスメントの放置を看過しないための対策とともに、上司や管理職が萎縮しないよう、正しい知識を身に着けるための教育を実施する必要があるのです。
ハラスメント問題は重要であると同時に、難しい課題であることから、必要な場合には専門家の知恵も借りながら対策していきましょう。
引用:【厚生労働省】令和2年度個別労働紛争解決制度の施行状況
ハラスメントとは
ハラスメントとは「いじめ」や「嫌がらせ」を表し、言葉や行動によって相手に不快感を与える行為です。ハラスメントの特徴は「行為者にいじめや嫌がらせをする意思がない場合でも、相手が苦痛に感じたり、不快感を抱いたりする場合に成立する」という点にあります。
そのため、行為者が無意識に行なっており相手も問題提起しづらいといったケースも少なくありません。ハラスメントの種類は多岐に渡っており、一般社団法人日本ハラスメント協会は「職場でよくあるハラスメント」として39種類ものハラスメントを紹介しているほどです。
ハラスメントを受けた経験について厚生労働省が行なった調査「令和2年度職場のハラスメントに関する実態調査」によれば、過去3年間にハラスメントを受けた経験がある人のうち、最も多かったのはパワハラで31.4%となっています。
厚生労働省は代表的なハラスメントの一つといえるパワハラのパターンを6つに分けて「パワハラ6類型」として定義しています。
1.身体的な攻撃
殴る、蹴る、モノを投げつけるなど身体に対する攻撃。唾を吐いたり威嚇したりする行為も含まれます。
2.精神的な攻撃
暴言や侮辱、名誉毀損など精神に対する攻撃。人格否定や長時間の叱責も含まれます。
3.過大な要求
達成が無理な業務量、能力に見合わない高度な業務を強制するなどの行為です。
4.過小な要求
嫌がらせや退職を目的として仕事を与えないなどの行為が該当します。
5.人間関係からの切り離し
職場において無視したり仲間外れにする、また隔離するなど人間関係から切り離す行為です。
6.個の侵害
社員の私的な部分に立ち入ったり暴露したりするなどの行為です。
引用:一般社団法人_日本ハラスメント協会
引用:【厚生労働省】職場のハラスメントに関する実態調査報告書
引用:【厚生労働省】NOパワハラ
ハラスメントを判断する基準
セクシャルハラスメントの場合、相手に性的な不快感を与えるかどうかが基準となります。したがって、言動がセクハラに当たるか否かの判断に迷うケースはそれほど多くありません。
しかし、パワハラの場合には業務遂行を目的とした合理的な指導・叱責はハラスメントに該当しません。部下指導や職場の規律維持のために正当な指示や指導、叱責を行なうことは上司として当然の行為でありハラスメントではありません。
一般的に、パワハラに該当するか否かを判断する際にポイントとなるのは業務上の必要性があるかどうか、そして必要な範囲を逸脱していないかという点です。
厚生労働省はパワハラについて、次の3つの要素を満たすことを要件としており、「業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については該当しない」と明記しています。
1.「優越的な関係を背景とした」言動
相手が抵抗や拒絶できない関係を背景として行われる言動のこと。
2.「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」言動
社会通念に照らし、明らかに業務上の必要性がない言動のこと。
3.「就業環境が害される」
身体的または精神的な苦痛により相手に就業上の支障が生じること。
引用:【厚生労働省】職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました!
ハラスメントの発生要因
ハラスメントは以前から、企業内だけでなく学校などさまざまな組織内で発生しています。
最近問題視される機会が増えているのは、インターネットの普及に伴って、情報が拡散しやすい時代になったことが一因といえます。今まで水面下で行なわれていたハラスメントが、権利意識の向上とSNS等という発信手段が結びついたことで問題提起される場面が増加したのです。
では、そもそもハラスメントはなぜ発生するのでしょうか。ハラスメントの発生要因は個人の意識に問題点がある場合と、企業など組織内の風土に問題がある場合に分けられます。
個人の意識に問題がある場合、ハラスメントについての無自覚や無知が原因といえます。
価値観の違いに気づかず「自分は普通だから」という感覚で不快感を与える言動に及んでしまうケースです。「自分ならこのくらい許されるだろう」といった認識の甘さも一因となります。
また、時代環境の変化も個人の意識によるハラスメントを増やす結果となっています。
とくに中高年の管理職層を中心に「自分が育てられてきた環境では、これぐらいの言動は当たり前でありハラスメントではない」という個人の感覚が、「これはハラスメントに該当する」という価値観の変化に付いていっていないケースです。
組織内の風土に問題がある場合としては、コミュニケーションが不足している職場等をあげることができます。コミュニケーションの不足から良好な人間関係を構築するのが難しく、ハラスメントを指摘しづらい環境となるためです。
また、高い目標に追われたりミスが許されたりしないなど、強いストレスにさらされがちな職場や他部署との関係が少ない閉鎖的な環境の職場も、組織内の風土に問題点がある場合があります。
ハラスメントと法的責任
ハラスメントに対しては各種の法律により事業主に対して防止措置を講じることが求められています。
パワハラについては2020年に「労働施策総合推進法」改正法が施行されました。
「労働施策総合推進法」は「パワハラ防止法」とも呼ばれ、2022年4月からは中小企業を含む全ての企業に対しハラスメント防止措置が義務化されます。
このように企業に求められる「ハラスメントを防ぐ義務」は年々強まる傾向にあり、適切な措置を講じる必要があります。
(雇用管理上の措置等)
第30条の2事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
2 事業主は、労働者が前項の相談を行ったこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他 不利益な取扱いをしてはならない。
またセクハラについても2020年に「男女雇用機会均等法」が改正され、周知や啓蒙、それに範囲を取引先や顧客など社外の関係者に拡大するなどの防止対策強化が図られています。
(職場における性的な言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置等)
第11条 事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
2 事業主は、労働者が前項の相談を行ったこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
3 事業主は、他の事業主から当該事業主の講ずる第1項の措置の実施に関し必要な協力を求められた場合には、これに応ずるように努めなければならない。
さらにいわゆるマタハラ(マタニティハラスメント)に関しても育児・介護休業法において妊娠・出産・育児休業などについてのハラスメント規定が改正され、2020年に施行されました。
(職場における妊娠、出産等に関する言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置等)
第11条の3 事業主は、職場において行われるその雇用する女性労働者に対する当該女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、妊娠又は出産に関する事由であって厚生労働省令で定めるものに関する言動により当該女性労働者の就業環境が害されることのないよう、当該女性労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
2 第11条第2項の規定は、労働者が前項の相談を行い、又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べた場合について準用する。
<育児・介護休業法(抄)>
(職場における育児休業等に関する言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置等)
第25条 事業主は、職場において行われるその雇用する労働者に対する育児休業、介護休業その他の子の養育又は家族の介護に関する厚生労働省令で定める制度又は措置の利用に関する言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
2 事業主は、労働者が前項の相談を行ったこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
引用:【厚生労働省】職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました!
ハラスメント問題が企業に及ぼす影響
ハラスメント問題は企業にどのような悪影響を与えるのでしょうか。4つの点から説明します。
人間関係が悪化する
ハラスメントによる悪影響として、まず職場における人間関係を悪化させる点があります。ハラスメントが生じる職場は、気持ちよく業務に取り組める就労環境とはいえません。また、ハラスメントを受けていない社員も、「次は自分が被害者になるかもしれない」という不安や疑念を抱くようになるかもしれません。
さらにハラスメントを放置している会社や上司への不満や不信感も高まります。ハラスメントによる職場の人間関係や雰囲気の悪化は、社員のメンタルヘルス不調につながる可能性も生じてしまいます。
生産性が低下する
職場環境の悪化に伴う生産性の低下も無視できません。社員が労働意欲を失い、モラールやモチベーションが低下するなどすれば、当然、労働生産性の低下を招きます。前述した「次は自分が被害者かもしれない」という心配は精神的な不安定を招き、ミスの増加といった効率性の低下にもつながります。
さらにメンタルヘルス不調から休職する社員が出た場合、企業全体の労働力の低下へと繋がります。くわえて、ハラスメント問題が発生すると担当者は当事者への調査やフォロー、それに対策会議に追われることとなります。こうした点も企業の生産性を低下させる要因となり得ます。
退職者が増加する
ハラスメント問題は退職者の増加にもつながります。被害者がメンタルヘルスの不調から休職、退職となってしまうケースは珍しくありませんし、またハラスメント問題が発生した部署で職場環境の悪化から退職が連鎖する場合もあります。
ハラスメント問題の担当者が疲労から退職してしまう事例もあります。職場環境や人間関係への不満は、とくに優秀な人材の退職を招きかねません。ハラスメントを放置している企業は、人材流出の危険性を放置しているともいえます。
評判が下がる
最後に、ハラスメントが及ぼす企業への影響として忘れてはならないのが企業イメージの低下です。ハラスメント問題がメディアで報じられれば企業の評判は大きく下がってしまいます。上場企業の場合、株価の下落というリスクも生じます。悪評の発生は、優秀な人材の獲得が難しくなるという問題も引き起こします。
少子高齢化が加速して、さらに働き方が多様化するなかで、優秀な人材の獲得は難しさを増しています。そこに悪評の発生が絡むと、採用難易度はどんどん向上して、人材の獲得困難や採用費の高騰を招きます。さらに評判の低下から顧客や取引先が離れていく可能性も生じるなど、企業イメージの低下はさまざまな形でダメージを与えるでしょう。
さまざまなハラスメント
企業内で発生しがちなハラスメントにはどのような種類があるのでしょうか。19種類のハラスメントについて説明します。
1.パワーハラスメント
パワーハラスメント(パワハラ)は、立場を利用した嫌がらせであり、「優越的な関係を背景とした」「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」言動で「就業環境が害される」ことが要件です。「身体的な攻撃」「精神的な攻撃」「過大な要求」「過小な要求」「人間関係からの切り離し」「個の侵害」という6つの形態に分類されます。
一般的にパワハラは、上司と部下など立場が上の者が下の者に対して行なうハラスメントと理解されることが多いですが、しかし、最近では部下が上司に行なうパワハラといったケースも増加しています。部下が集団で上司の指示を無視したり悪口を言ったりするなどの事例があり、「逆パワハラ」とも呼ばれています。
2.セクシャルハラスメント
セクシャルハラスメント(セクハラ)は、性的な嫌がらせです。男性が女性に行なうケースが多い一方で、女性から男性へ、また同性同士のセクハラもみられます。
セクハラは「親しさの表現のつもりだった」など、無意識に行なわれる場合も多いハラスメントです。しかし、無意識であったり、冗談としての言動であったりしても相手が不快感を抱けばセクハラにあたります。
セクハラは「対価型セクハラ」と「環境型セクハラ」に分類されます。前者は上下関係や立場を利用して、例えば、食事に誘った対価として性的な関係などを要求するタイプで、後者は性的な言動の繰り返しによって職場環境を悪化させるタイプです。
3.モラルハラスメント
モラルハラスメント(モラハラ)は、精神的に相手を傷つけるハラスメントです。
モラハラは職場で上下の関係にある上司と部下だけでなく、同僚同士や家庭など職場外でも発生します。当事者以外にはわからない形で行なわれる場合もあり、多くの場合、モラハラの加害者に自覚がないのが特徴です。また長期に渡って継続的に行なわれるケースも少なくありません。
4.マタニティハラスメント
マタニティハラスメント(マタハラ)は、女性の妊娠や出産、育児についてのハラスメントです。産休、育休や時短勤務制度を利用することに対して嫌がらせを行なったり、妊娠や育児を理由とした解雇、異動、降格など不当な扱いをしたりすることを指します。
マタハラは男女雇用機会均等法や育児・介護休業法、あるいは労働基準法に抵触する行為で、妊娠や出産、時短勤務制度が整備されていない企業で起こりやすいのが特徴です。マタハラは上司からだけではなく、同僚から行なわれるケースも少なくありません。
5.パタニティハラスメント
パタニティハラスメント(パタハラ)は、マタハラの男性版といえるハラスメントです。男性が育児休暇を取得したり、時短勤務制度を利用したりする際の不当な扱いや嫌がらせを指します。
人事評価を下げたり、育児休暇や時短勤務を利用させなかったり、遠方への転勤を命じるなどの行為がみられます。パタハラは男性の育児参加に理解を示さない上司、また組織風土で発生するケースが多いのが特徴です。
6.ジェンダーハラスメント
ジェンダーハラスメント(ジェンハラ)は、旧来の価値観に基づいた「男らしさ」「女らしさ」を強要するハラスメントです。性別に対する偏見からの発言だけでなく、不平等な人事評価、採用条件の差異といった行為が含まれます。
また、職場でお茶出しを女性に担当させる、体力が必要な作業を男性にやらせるといった行為もジェンハラにあたります。「男のくせに」「女のくせに」などの表現を伴う偏った意識に基づくジェンハラは少なくありません。
7.SOGIハラスメント
SOGIハラスメント(ソジハラ)は、性的指向や性自認についてのハラスメントです。性的指向を示す「SO(Sexual Orientation)」と性自認を指す「GI(Gender Identity)」が語源となっています。
イメージは、LGBTに対するハラスメントであり、当事者が望まない性別で扱ったり、LGBTへの差別的言動などの行為が対象となります。本人の同意なく性的指向や性自認を第三者に暴露するアウティングもSOGIハラスメントに含まれます。
8.テクノロジーハラスメント
テクノロジーハラスメント(テクハラ)は、主に高度なIT技術を有する側がそうでない人に対して行なうハラスメントです。難解な専門用語を多用したり、「こんなことも知らないの?」と見下したりするなどの言動が含まれます。
テクハラの被害者は困惑したり圧力を感じたりするだけではありません。継続的に繰り返される場合には体調への悪影響が生じる場合もあります。
9.時短ハラスメント
時短ハラスメント(ジタハラ)は、上司が部下に労働時間を短縮するよう指示する一方で、業務量を改善せず従来どおりの結果を求めるハラスメントです。過労死や長時間労働の社会問題化によって働き方改革が求められている中で、長時間労働の是正を誤った手法で実現を図る動きが背景となっています。
生産性を向上させること自体は推進されるべき行為であり、意識向上も必要ですが、それがハラスメントとして使われると問題です。時短ハラスメントは社員のサービス残業や自宅への業務持ち帰りといった負担増や違法な就業につながりやすいことも特徴です。
10.セカンドハラスメント
セカンドハラスメント(セカハラ)は、パワハラやセクハラの被害者が別の人物から受ける二次被害を指すハラスメントです。パワハラやセクハラを相談した際に、周囲が批判的な態度だったり、業務における非協力的な姿勢を示したりなどの行為が該当します。
また、組織や人事部門等がパワハラやセクハラの訴えに対して我慢を強いるよう求めたり、「被害妄想ではないか」といった言動に及んだりするケースもみられます。パワハラ、セクハラの被害者の中にはセカンドハラスメントへの恐れから相談をためらうケースも少なくありません。
11.スメルハラスメント
スメルハラスメント(スメハラ)は、においによって、周囲を不快にさせるハラスメントです。タバコや口臭、汗などによる体臭のほか、香水のにおいがスメハラに該当するケースもみられます。
スメハラの特徴は加害者本人に自覚がない場合が多い点にあり、デリケートな問題であることから対応が難しいハラスメントです。
12.エイジハラスメント
エイジハラスメント(エイハラ)は、年齢に関するハラスメントです。エイハラは従来、中高年の社員が役職に就いていないことに対し、嫌がらせを行なうなどの形でみられてきました。
近年では若い女性に対し「若いんだから」「経験が浅いんだから」など年齢を理由としたエイハラを行う例もみられています。エイハラは世代間のコミュニケーション不足が原因となっているケースが多いのが特徴です。
13.アルコールハラスメント
アルコールハラスメント(アルハラ)は、飲酒にまつわるハラスメントです。職場の飲み会や宴会で上下関係を利用し飲酒を強要したり、酒に酔って相手に絡んだり暴言を浴びせるといった迷惑行為がアルハラにあたります。
アルハラはパワハラやセクハラにも該当する可能性が多く、また、最近では減りましたが飲酒の強要は急性アルコール中毒等の身体的な危険を招く行為ともいえます。アルコールを摂取することで理性が緩みやすくパワハラやセクハラも、最も発生しているのは「飲み会」の場と言われますので注意が必要です。
14.スモークハラスメント
スモークハラスメント(スモハラ)は、喫煙者による非喫煙者へのハラスメントです。喫煙によって非喫煙者に受動喫煙させる、非喫煙者に喫煙を強要するなどの行為が該当します。勤務時間中の喫煙タイムが不当に多い・長い場合もスモハラにつながりやすいといえます。
15.ソーシャルメディアハラスメント
ソーシャルメディアハラスメント、ソーシャルハラスメント、ソーシャルネットワークハラスメント(ソーハラ)は、SNS上で行なわれるハラスメントです。上司や先輩がFacebookやTwitterなどのSNSに社内の人間関係を持ち込み、「いいね!」や「コメント」を強要するなどの行為が該当します。
また、部下につながり申請を要求したり、部下の投稿を頻繁にチェックして「いいね!」して監視したりするような行動もソーハラにあたる可能性があります。ソーハラは上司や先輩側は「部下とコミュニケーションをとるつもりだった」など、自覚なく行なわれるケースも多くなっています。また、上司から異性の部下に対して実施された場合などは、セクハラ等にも該当しますので注意が必要です。
16.リストラハラスメント
リストラハラスメント(リスハラ)は、リストラ対象者に対して行なわれるハラスメントです。リストラの対象となっている社員に仕事を与えなかったり、無理な仕事を押し付けたり、希望しない部署への異動を命じるなどの行為が該当します。
リスハラは会社に残りにくい状況を作って、リストラに追い込むことを目的とするケースが多いハラスメントです。パワハラにあたる可能性もあります。
17.リモートハラスメント
リモートハラスメント(リモハラ)は、テレワークハラスメント(テレハラ)とも呼ばれ、リモート環境で行なわれるハラスメントです。新型コロナウイルスの感染拡大によって一般化したリモートワークを背景に増加しています。
オンライン会議から特定の社員を排除したり、オンライン飲み会への参加を強要したり、写り込んだプライベート空間をチェックする、などの行為が該当します。オンライン会議におけるハラスメントは、zoomを利用することが多いことから「ズムハラ」と呼ばれることもあります。
18.ハラスメント・ハラスメント
ハラスメント・ハラスメント(ハラハラ)は、他人の言動を「ハラスメントだ」と過剰に反応し問題視する行為を指します。各種のハラスメントに対する法令が整備されてきたことが背景となっています。
ハラスメントの概念が広まったことで、被害者がハラスメントを相談しやすくなった一方で、被害者であるかどうか疑わしい社員までがハラスメントを主張するケースが出始めているためです。ちょっとした注意や叱責をパワハラではないかと主張するなど、ハラスメントに関する誤った理解もハラスメント・ハラスメントが生じる理由のひとつです。
19.カスタマーハラスメント
カスタマーハラスメント(カスハラ)は顧客からの過剰なクレームを指すハラスメントの概念です。社員のちょっとしたミスに、例えば土下座を強要するなどの要求を行なったり、問い合わせ窓口に執拗に嫌がらせを行ったりするなどの行為が該当します。
また、支払いを拒否する、無根拠な優遇を求めるといった行為もカスハラにあたります。カスハラは消費者による理不尽な要求に基づくハラスメントであることが多く、会社側として適切な対応をして、社員を守る必要があります。
ハラスメント問題への対応
企業はハラスメント問題に対し、どのような対策を講じる必要があるのでしょうか。予防策と解決策に分けて説明します。
予防策
ハラスメントを発生させないためには、一人ひとりが加害者とならないために自身の言動を振り返る必要があります。自分の価値観や思い込みを見直し、周囲からアドバイスを受けるなど自身を客観視する習慣を身に着けることが重要です。同時に、企業側でもさまざまな予防策を講じておく必要があります。
1.経営陣がメッセージを発信する
企業がハラスメント問題を予防するためには、経営陣による明確なメッセージの発信が必要です。「パワハラやセクハラをはじめとするハラスメントを発生させない、許さない」と強く問題提起する姿勢を社員に示しましょう。
経営者によるメッセージは、ハラスメントに該当する行為の発生を抑制する効果だけではありません。ハラスメント問題が起きてしまった場合に、被害者が相談しやすい環境の醸成にもつながるのです。
また、ハラスメント問題に対する社内の対応も被害者に寄り添う姿を形成しやすくなり、早期の問題解決を図ることが可能となります。
2.ルールを設ける
ハラスメントに関する社内の規則・ルールを設けておくのも重要なポイントです。規則・ルールの設定により、社員がハラスメント問題の重要性をより深く理解する契機となるためです。就業規則、服務規程にハラスメントの具体例を記述しておきましょう。
また、どのような言動がどのような懲戒処分、例えば懲戒解雇、減給、停職、けん責などにつながるのかについても明記しておく必要があります。ルールを設定しておけば、ハラスメント問題が発生した場合に適切な対応を図ることができます。
3.実態を把握する
職場に現状、ハラスメントが発生していないかどうかの実態調査も求められます。社員へのアンケートを通じて、現在ハラスメントが発生していないかどうかの実状を把握しましょう。
ハラスメント問題に理解が進んでいるとはいえない職場の場合、二次被害であるハラスメント・ハラスメントへの危惧から十分な情報を得られない可能性もあるため、アンケートは匿名での実施が有効です。アンケート以外に産業医など外部によるヒアリングも効果的です。
4.教育研修を行なう
ハラスメントを防止するためには、社員への教育研修も大切です。ハラスメントについての基本的な知識から対策・対処方法などについて理解を深める機会を設けましょう。最近ではeラーニングを活用する企業も増えています。
また、ハラスメント問題は上司と部下など立場によって学ぶべき点に違いが生じるため、管理職と一般社員など別に実施すると効果が高まるでしょう。特にハラスメントが多様化した中でデリケートな問題を含むケースも少なくないため、外部の専門家による研修が望ましいといえます。
5.社内で周知・啓蒙する
経営者によるメッセージ、ルールの設定、実態の把握、教育研修にくわえて、社内への積極的な周知・啓蒙にも努める必要があります。パワハラ防止法とも呼ばれる労働施策総合推進法によって、2022年4月からは中小企業を含むすべての企業にハラスメント防止措置が義務化されるため、より一層の対策が必要になります。
パワハラ、セクハラ、マタハラを中心に厚生労働省が公開している「NOパワハラ」や「職場におけるハラスメント対策マニュアル」を参考に啓蒙活動を実施しましょう。周知・啓蒙にあたっては社内ポスターや朝礼などの集合時のほか、社内報の活用などが考えられます。
解決策
万一、ハラスメント問題が発生してしまった場合の解決策についても事前に検討しておく必要があります。
1.相談窓口を設置する
ハラスメント問題が発生した場合、社員がすぐに相談できる窓口を設けておきましょう。相談窓口は社内だけでなく、社外にも設けておくと社員は安心して相談することができます。
相談窓口では対面だけでなく、メール、郵便物、電話などさまざまな手段で受け付けるようにし、匿名で相談できる仕組みとする点が重要です。相談を受ける際には、相談した内容についての秘密保持や相談者が不利な扱いを受けたり追い詰められたりしないための配慮が求められます。
相談窓口の設置は、ハラスメントの発生を抑制する効果も見込むことができます。なお、労働施策総合推進法では相談(苦情を含む)に適切に対応できる体制の整備が求められています。
2.再発防止に取り組む
ハラスメントは、発生した問題を解決するだけではなく、再発防止への取り組みも重要です。再発を防止するための取り組みとしては、ルールや教育研修制度の見直し、啓蒙手段の強化などが考えられますが、それだけではありません。
ハラスメントが発生した要因となりうる職場内のコミュニケーションや長時間労働といった点の改善にも力を注ぐべきです。人間関係の悪化や長時間労働によるストレスが原因である場合も少なくないからです。
また、部下を適切に指導でき、健全な関係性を保つことのできる人材を管理職に登用すれば、パワハラの発生回避につながります。再発防止に取り組むにあたっては、社員にとって安全・快適な職場環境となっているかという点を重視して対策を講じましょう。
ジェイックのハラスメント研修
HRドクターを運営する研修会社ジェイックではハラスメントに関する 正しい知識を身に付けるためのハラスメント研修をご用意しています。
- ハラスメントがコンプライアンス管理上、大きなリスクとなる認識が甘い
- 管理職の感覚にギャップがある
- ハラスメントを恐れるあまり、管理職がメンバーの指導に腰が引けている
といった課題やニーズがある場合にはお気軽にお問い合わせください。
1.ハラスメントの定義を基礎から学び、統一の見解を学ぶことができます
2.ケーススタディやロールプレイングをとおして、当事者の気持ちを理解します
3.ハラスメントに対して組織が一丸となって体制、対策を取るきっかけを作ります
まとめ
ハラスメントは、あってはならない行為です。一方で、部下の指導や職場の規律維持のため正当な指示や指導、叱責を行うことは上司として当然の行為でありハラスメントとはいえません。組織としては、ハラスメントへの恐怖から、正当な指導や規律の維持がなされなければ、中長期的に大きな問題が生じてしまいます。
だからこそ、ハラスメントを防止すると共に、上司や管理職が萎縮しないようにハラスメントに関するきちんとした知識を身に着け、ハラスメントの基準や事例等に関する教育を実施していくことが重要です。
個人の権利や人権に対する意識が向上する中で、ハラスメントの概念は多様化し、また、企業が適切な予防策を実施することも求められています。
記事を参考に、ハラスメントが起こらない職場づくりに取り組んでください。