企業による「キャリア自律」支援の実態と課題|最大の課題は従業員の意識醸成

更新:2024/09/21

作成:2023/08/02

東宮 美樹

東宮 美樹

株式会社ジェイック 執行役員

企業による「キャリア自律」支援の実態と課題|最大の課題は従業員の意識醸成

この数十年で日本の終身雇用は崩壊し、転職が当たり前となりました。

 

とくにZ世代やミレニアル世代の若年層は、新卒での入社時点から「転職」を視野に入れていることも当たり前で、組織への帰属意識は低いとも言われます。

 

ひとつの会社に縛られることなく、また、副業・兼業、フリーランスなどの多様な働き方が選択できるようになる一方で、会社に依存することなく個人でキャリア、人生の自律を目指すことが必要な時代となっています。

 

個人にとってもキャリア自律は自分の人生をマネジメントすることそのものですが、企業にとっても優秀層の離職防止やエンゲージメント向上、また、年功序列が崩れた中で中高年のキャリア支援など、「キャリア自律の支援」に関する取り組みは不可欠なものとなっています。

 

現在、各社がキャリア自律の支援に関してどのような取り組みを実施しているか、また、どのような課題感を抱えているかを調査しました。

調査概要
  • 調査期間 : 2022年10月7日~2022年10月20日
  • 調査方法 : Webアンケート
  • 調査対象 : 上場および非上場企業の人事責任者・担当者
  • 提出数 : 有効回答246件
  • 実施機関 : 株式会社ジェイック
調査項目

調査項目

<目次>

Q1.貴社では、「従業員のキャリア自律」は経営陣や人事の関心事になっていますか?

Q1のグラフ

  • キャリア自律が「強い関心事になっている」「関心事になっている」を合わせると58%と過半数が関心を持つ。
  • 1001名以上の会社においては「強い関心事になっている」の割合が3割と非常に高くなっている。

東宮:本日は、2022年の10月に上場および非上場上場企業の人事責任者担当者に有効回答として246件頂いたアンケートから、キャリア自律支援の実態と対策を読み解いていきたいと思います。

 

ここからは、キャリア自律の支援や組織改善をサポートするキャリア自律支援プラットフォーム「Kakedas」を展開する株式会社Kakedasの渋川社長にもお話を聞いていきます。

 

まず質問の一つ目ですね。「従業員のキャリア自律は経営陣や人事の関心ごとになっていますか?」という質問ですが、キャリア自律について「強い関心ごとになっている」もしくは「関心ごとになっている」は58%。過半数を超えており、かなり高い比率ですね。

 

なかでも特徴的なのは1,001名以上の企業においては「強い関心ごとになっている」が約3割と高い数値です。

 

キャリア自律の支援事業を展開される中で、やはりキャリア自律について、実際お問い合わせや関心というのが高まっている感覚があるでしょうか?

 

渋川:はい。間違いなく増えてきています。特に企業の規模や社員数が大きい会社ほど、「施策がうまくいってない」という相談も寄せられていますね。

 

東宮:「取り組もうと思っている」「取り組んでいるけどうまくいっていない」、双方含めてキャリア自律のご相談が増えてきているということですよね。

 

ありがとうございます。

Q2.貴社では、「従業員のキャリア自律」に関する取り組みを実施していますか?

Q2のグラフ

  • 全体では、「キャリア自律を主目的とした施策を実施している(13%)」「キャリア自律に関連性のある取り組みを実施している(26%)」と、約4割の企業が既に何らかの(取り組みを)実施している。
  • 規模別に見ると、 1001名以上の企業では「(取り組みを)実施している」割合が6割になる。

東宮:では、2つ目の設問を見ていきます。

 

渋川さんから“企業からの相談は増えている”とのことでしたが、「従業員のキャリア自律に関する取り組みを実施していますか?」という質問です。

 

「取り組みを実施している」は13%。そして「キャリア自律に関連性のある取り組みを実施している」は26%。合計すると約4割の企業がキャリア自律に関する何かしらの取り組みを実施しているようです。

 

ここでも大手企業の方が導入は進んでおり、1001人以上の企業では6割が実施しているようです。

 

“キャリア自律の取り組みについて相談が増えている”ということでしたが、もう少し具体的にお話しいただいてもよろしいですか?

 

渋川:はい。事例としては大手企業の中でも自社内でキャリア相談の窓口を設けていて、そこで専任の国家資格のコンサルタントに対して相談できる。

 

そんな仕組みを作っている企業様もいらっしゃいますね。

 

東宮:なるほど、社内に相談者を置くということですね。

 

渋川:そうですね。2018年頃から伊藤忠商事やサントリー、キヤノンなどを中心に先進事例として成功事例が出てきました。

 

東宮:なるほど、ここで「キャリア相談」というキーワードが出てきました。

 

私も企業への教育研修を提供する中で「キャリア研修」に関する相談、また実施も増えてきています。

 

このように研修や相談などを通じて、「キャリア教育」「キャリア自律の支援」に取り組む会社が増えてきているわけですが、実際に何のためにするのかというところで質問2つ目ですね。

Q3.「従業員のキャリア自律」を支援する目的として、当てはまるものをすべてお選びください。

Q3のグラフ

  • キャリア自律の支援をする目的は、「従業員のパフォーマンス向上」「従業員のモチベーション向上」「組織や仕事へのエンゲージメント向上」が、いずれも6割以上であった。
  • 「301~1000名」の会社では「従業員の離職防止」が、他の規模に比べて突出した高い傾向が見られた。

東宮:従業員のキャリア自律を支援する目的ですが、全体として従業員の「パフォーマンス向上」そして「モチベーション向上」「組織や仕事へのエンゲージメント向上」とあります。

 

全体平均で、上位3つの理由はいずれも6割以上ですが、300名から1000名の会社では、少し回答傾向が変わりますね。

 

300~1000名の中堅企業では「従業員の離職防止」というところが他の規模に比べて突出して高い傾向が見られています。

 

これはひとつ面白い傾向だと思うのですが、渋川社長が相談を受けてきた中で、この違いを感じる事もありますか?

 

渋川:ありますね。やはり弊社に問い合わせをいただく際のテーマや背景は大きく「エンゲージメントの向上」と「離職率の低下」、この2つですね。

 

もちろん大企業様の中でも離職率を下げたいというお問い合わせもあるんですけれども、それよりも“会社のブランディング”だったり、“これからの時代はこうしたキャリアの形成支援が必要だ”というムーブメントの中でキャリア自律支援をするという企業様が多いです。

 

一方、規模感が小さくなっていくに連れて、「離職率の低下」というテーマも増えてきます。組織規模が下がっていくほど、優秀層や管理職層の離職が経営に直結する課題となってくるからですね。

 

また、離職率の低下というテーマで相談いただく企業は、問い合わせ段階で取り組む緊急度も高くなっているケースが多いですね。

 

東宮:そうなんですね。

 

企業規模1000名以上ですと、“社員を応援している”とか、“相談窓口を設けている”ということが、企業評価を高めるということにもつながるし、一方で企業規模がそこから下回ってくると、現実問題として、やっぱり社員の離職防止がてーまになってくる。

 

確かにこの傾向は弊社でも相談を受けるなかで感じます。

Q4.「従業員のキャリア自律」を支援する取り組みとして、実施・検討しているものをすべてお選びください。

Q4のグラフ

  • 実施・検討している施策として、最も多かったのは「キャリア開発に関する研修」。
  • 実施率の高い1001名以上の会社でみると、「キャリア開発に関する研修」「社内公募やFA制度、異動希望制度」「カフェテリアプランやeラーニングなど学習環境の提供」などの割合が高い。

東宮:では、実際にキャリア自律を支援するということで、何を実施または検討しているかを見ていきます。

 

もっとも多いのは、キャリア自律というベースを浸透させるためのキャリア研修ですね。

 

キャリア研修の実施率が高い1001名以上の会社で見ると、キャリア研修以外に社内公募・フリーエージェント制度・異動希望、また、カフェテリアプラン・eラーニングの提供、自己啓発の補助、キャリア面談の実施といったものが続きます。

 

実際にキャリア自律の支援がうまくいっている企業では、どんな施策を実施しているのでしょうか?

 

渋川:実はこれらの施策というのは連鎖していまして、何か一つだけだと上手くいきません。

 

たとえば、実施率2位と3位のeラーニング・学習支援の環境と社内公募などの挙手性のキャリア制度もそうです。

 

自らが作りたいキャリアに向けて学ぶ環境とそれを実現するための仕組みやキャリパス、両方がないと、キャリア自律は実現しません。

 

更にいうと、学習環境と機会を得るための仕組みだけあっても、従業員に「やりたい」という意思がないといけないので、意思を引き出すためにキャリア自律を促すための研修を実施したり、キャリア相談の機会を提供したりと、すべて一本の流れでつながっていくことが大切です。

 

しかし、現実には所々をピックアップして取り組んでいる企業様が多い印象を受けます。

 

東宮:確かにそうですね。最近増えている“キャリア研修”のご相談も「過去にやったけど失敗した」といった相談を受けるケースがしばしばあります。

 

伺っていくと、やっぱりぶつ切りになっているケースは多いですね。従業員個人の視点で考えても、“キャリア”というものは継続的に考えていくものです。

 

だからこそ、会社側の施策も「点」でぶつ切りに提供するのではなく、「線」で提供する、「線」としての流れの中で、従業員それぞれのタイミングや場面で、自分のキャリアについて考えていく、取り組んでいけるようにするという支援が求められてくるのかなと思いますね。

 

キャリア開発のメリットや方法、注意点、事例などは以下にまとめているので参考にしてください。

 

Q5.貴社が、キャリア自律の支援対象として注力している層はありますか? 当てはまるものをすべてお選びください。

Q5のグラフ

  • 全体として最も注力されているのは「次世代リーダー層」。
  • 規模別に見ると、1001名以上の会社は特定の層だけをターゲットとせず「全従業員」に対して注力している傾向が見られる。一方、1000名以下の会社では「現リーダー・管理職層」への注力度が相対的に高くなっている。

東宮:では質問5つ目に入っていきたいと思います。キャリア自律の支援対象として注力している層ですね。

 

全体を通して「次世代リーダー層」は圧倒的に高い数字になっています。同時に、1000名以下の会社では次世代リーダー以外に「現リーダー、管理職層」への注目度も相対的に高くなっていますね。

 

実際相談が寄せられるケースとしては、どんな階層でキャリア自律を促したいという企業が多いですか?

 

渋川:データでもある通り、次世代リーダー層というのはひとつの切り口としてやはり多いですね。

 

一方で、若手の離職に課題がある企業だと「入社後3年目までの定着を促したい」ということでキャリア支援の導入層を絞るケースもありますね。

 

また、大企業様の場合だと「中高年やシニアの方々を対象にしたい」という場合もあります。

 

特定の支援対象として上がってくるのは上記の3つ、「次世代リーダー」「入社2、3年目の若手」「中高年やシニア層」ですね。

 

ただ、キャリア支援の対象層を考えるとき、ひとつ陥りやすい落とし穴があると思っています。

 

上記のように「次世代リーダー層の育成に注力したい」というのは、実際に弊社への相談としても届くのですが、私たちは必ず最終的には全従業員を対象にした形で施策を推奨しています。

 

なぜかと言うと、たとえば、若手や次世代リーダー層だけにキャリア自律を支援しようとする時、シニア層の社員がしっかりとキャリア自律支援できていないと、若手から見ると、“自分の十年後二十年後、会社の中で輝くイメージが持てない”となってしまいます。

 

結果として、施策の効果性は薄れますし、会社へのエンゲージメントも上がりません。

 

導入時の優先順位はあると思いますが、中期的にはひとつの層だけに注力するのではなく、「全年代の従業員がキャリア自律している」状態の実現に取り組むことが、もっとも全体としての熱量が高くなっていく、効果的だと捉えています。このあたりは、相談いただく企業の方にもお伝えすることが多いですね。

 

東宮:仰る通りですね。たとえば、若手の離職という話は弊社でも企業からの相談が多いテーマですが、若手の離職要因を探っていくと、上司のマネジメントに課題があることが多い。

 

それと同じで、キャリア自律を考えても、若年層のエンゲージメントやキャリア自律を考えたとき、職場の身近な先輩や上司が自律的にキャリアを描いていると、自分ごととして考えやすい。

 

逆も同じ。確かに、ひとつの層だけではダメで、各世代のキャリア自律を高めていくことが相乗効果につながっていくんだなと聞いていて思いました。

 

渋川:間違いないです。上司や先輩が格好いい背中を示せるかどうかは大切ですね。

Q6.貴社では、「従業員のキャリア自律」に関する取り組みの効果検証ができていますか?

Q6のグラフ

  • 「まだ効果検証の段階ではない(51%)」が過半数を占める。
  • 「できている」企業は8%で、キャリア自律に関する取り組みの効果検証はできていない企業が多い。

東宮:では、次の質問に行きたいと思うんですが、なかなか面白いと感じる結果です。

 

従業員のキャリア自律の取り組みを行っている会社に対して「効果検証できてますか?」という質問です。

 

「効果検証の段階ではない」が51%。「できている」はたったの8%ということで、やっぱりどうやって効果を見るかというところは各社悩みが多いのだと感じますが、実際に相談はありますか?

 

渋川:あります。離職状況、また、エンゲージメントなどで何らかの数値を取ろうと各社取り組んでいますが、なかなかデータとつながっていないのは各社の課題ですね。

 

相談も多いので、弊社のサービスでも効果をしっかりと数値化して費用対効果や導入の効果測定ができるようにということで「データ化」はすごく早い段階から取り組んできました。

 

東宮:取り組む中で、現状がどうなっているのか、社員や組織がどのように変化しているのかといった「目に見えない情報」をどのように視覚化するかは非常に大きなテーマですし、それが出来ると、企業としても組織としても強い証拠にもなるんでしょうね。

 

渋川:はい。たとえば、弊社のキャリア自律支援のサービス内でやっている見える化のひとつが、キャリア相談の内容を従業員個人が特定されないような形での収集・分析とフィードバックです。

 

べつに弊社のサービスだけの話ではなく、たとえば「どんな相談が多いか?」という定性的な情報も、今の時代はワードクラウドやテキストマイニングを使えば簡単に見える化できる。

 

キャリア自律の支援に取り組む中で、こうしたデータ化に取り組んでいくと、定性的な「従業員のキャリアに対する考え方の変化」なども分かってくるものです。

 

キャリア研修の前後でレポートを書いてもらって分析するとか、カウンセリングの前後でデータを取れるようにアンケートを取るとか、こうした取り組みがあるだけでも変わってくる部分があります。

 

東宮:定性的な情報の見える化は大切ですね!

 

とくに働き方も変わり、リモートワークも増えてきた中で、従業員が何を考えているのか、どんな風にキャリアを考えているのか、会社に対してどう思っているのか、こういったところを生の声として吸い上げたい、本音はどう思っているのか知りたいという企業は増えていますね。

《補足》

以降のQ7、Q9、Q10、Q11については、質問2*の回答に応じて、①(キャリア自律に関する取り組みを)実施している企業群②(キャリア自律に関する取り組みを)実施していない企業群に分類して回答を集計している。

  • *質問2:貴社では「従業員のキャリア自律」に関する取り組みを実施していますか?
実施している企業群
  • キャリア自律を主目的とした施策を実施している
  • キャリア自律に関連性のある取り組みを実施している
実施していない企業群
  • キャリア自律に関する取り組みを実施する予定がある
  • キャリア自律に関する取り組みを検討している
  • キャリア自律に関する取り組みを実施・検討していない

Q7.キャリア自律やその取り組みに関して、従業員からあがる声として当てはまるものをすべてお選びください。

Q7のグラフ

  • 既に取り組みを実施している企業群では「自身の客観的な市場価値がわからない」「自身のやりたいことがわからない」などの回答が多い一方で、まだ取り組みを実施していない企業群では「自分にどのような選択肢があるかわからない」「具体的に何をしたらよいのかわからない」などの回答が多くなっている。

Q8.キャリア自律やその取り組みに関して、 従業員からのその他の意見・反応がありましたら簡単にご記入ください。

  • 役職登用以外に年代毎のライフイベントなどについてどの様な対策を個人として行うべきか
    (例:育児時短勤務をしながらのキャリアアップや介護をしながらの働き方など)
  • 自分が期待されているキャリアが分からない
  • “キャリア自律=昇格構想”という印象がある
  • 女性社員からはロールモデルがないという声を聴く
  • キャリアについて、考えたことがない
  • 自律という言葉に不安、抵抗を感じている社員が多い(ネガティブイメージが強い)、キャリアパスを示してほしいという声が多い
  • そもそもキャリア自律という概念が全くの皆無
  • 特段の反応なし
  • キャリア自律はそもそも各人が自身のキャリアについて考え、それが実現できる機会を自ら得るよう行動することであると考える。そのため人事施策はあくまで補助で個人の考え方自体は入社前に育み、選考で判断するものと思う
  • ミドル期からの研修等の実施
  • 将来が不安だという声をよく聞く
  • 掲げた自律支援策が一部の優秀層にのみを対象に実行されているというネガティブな意見があった
  • 会社が求めるあるべき人財像やキャリアプランがない
  • キャリア自律を目指すほど高い目標思考やモチベーションをもった人はいない。そんな人はとっくの昔に退職・転職しているはず
  • 通常の話や、愚痴・相談を聞く際には、近い話も出たケースもあるが、【キャリア自律】自体知らなかったし、そのことについて認識して聴く機会を作った事がない。大半の従業員がそうした認識であると思う。資格支援という形での相談や応援はしているが、少し意味合いが違うのかなと思う。
  • 弊社では「自発的貢献意欲」と題しているが、その定義が曖昧となっている。また全従業員とした場合、例えば地方拠点の製造現場に従事する社員と、東京本社管理部門にいる社員ではキャリアの考え方が大きく違ってくる。正直、世間で言われている「キャリア自律」と社内がつながっていくイメージがわかない。
  • 社内ヒアリングを含めた、全体計画に乏しい
  • まずは自分自身にどういう選択肢があるのかが腹落ちできていない。会社としてメッセージは発信しているが、会社が合併してまだ3年。会社の方向性として先がまだまだ見えないという点もあるかと思う
  • 現時点でキャリア自律に対する取り組み要望、意見はない
  • できる人に仕事が集中するので、大多数は、事なかれ主義者。またできる人はつぶされて辞めていく。
  • 将来の見通し(自助努力では変えられない部分)について、不透明感が強く、不安になる。
  • 何をしたいかを含め、色々な業務を一旦触ってみる
  • 従業員によってモチベーションが違う為、反応は様々
  • PL計画だけで体制・仕組み・実行が不足し振り返りやフィードバック・対話をしない(できない)経営者・管理者にキャリア自律などの認識と学ぶ
  • 意識が見られず、教育も受け皿も用意されていない
  • 会社としての考え方がわかないとの意見をもらう
  • 部署移動の希望が取り入れられない、現部署では昇進が叶えられないなど
  • 会社の支援・援助が無い
  • ジョブローテーションや、キャリアの自立に向けた試みを考えて欲しいという声がある
  • 個々人のキャリア開発が、人事にどういう情報として蓄積されるかが不安材料となる
  • サンプル数は少ないものの、やる気がでたという声が上がっている
  • 「考えた事が無い」という意見が多い
  • 他社事例が知りたい。実現へのロードマップが作りたい

 

東宮:では7番目、8番目の質問に入っていきたいと思います。

 

先ほどまさに“生の声”とか“本音”といったキーワードが出てきましたが、これはキャリア自律の支援に取り組む人事の方々の生の声です。

 

従業員からどういった声が多いかと言うと「自身の客観的な市場価値がわからない」あとは「やりたいことがわからない」という回答が多い一方で、まだ取り組みを実施していない企業群では「自分にどのような選択肢があるかわからない」「具体的に何をしたら良いのか分からない」という回答も多くなっています。

 

だいぶ色々と悩みがあるのかなと感じてますが、実際にデータを見て何か感じることはありますか?

 

渋川:そうですね。やはり会社の中での役職等級、昇進よりも社会での客観的な市場価値を求める。

 

これはZ世代であったり、ミレニアム世代だったりの傾向として顕著だと思います。

 

また、「自分のやりたいことがわからない」というのは先ほどの各キャリア推進の施策がうまく噛み合ってない、単発だと進まない根本的な要因ですね。

 

つまり、“社内公募の仕組み”だけあっても機能しなくて、その人が何をやりたいのか、その人がどんな風にキャリアを考えて今まで生きてきたのかってところをしっかり棚卸しすることを会社として支援してあげて、はじめて次のキャリアに関する行動が引き出される。

 

この辺りはしっかりと連鎖するような取り組みにならないともったいないなと思います。

 

東宮:そうですね。パラレルキャリアやダブルワークといった言葉もいろいろ出てくる中で、キャリアに悩んでいる従業員がほぼ100%、悩んだことがない人はいないと言ってもいいかも知れません。

 

その一方で、では、自分のキャリアを棚卸して将来のことを考えるような機会が日常的にあるかというと、ない。ないからこそ、もやもやと考えて、より悩みだけが深くなってしまう、という感じですね。

 

渋川:間違いないです。さらに、この「モヤモヤして自分がどうしたいのかわからない…」というぼんやりした状態のところに上司・人事が無闇に介入しようとすると、それはそれで課題が複雑化するきっかけになってしまうことも多いですね。

 

上司や人事は良かれと思って、自分のこれまでの成功のイメージから「こうしたらいいよ」とアドバイスしてしまう。これは1on1や上司によるキャリア面談でよくある傾向です。

 

しかし、上司がアドバイスした裏側にある上司の価値観と、相手の価値観や悩みのポイントがズレていると、1on1や面談したことがきっかけで、より悩むようになる。

 

そして、離職を考え始めたり、転職を考えてみたりする原因にもなってしまう。

 

実際キャリア面談においては、アドバイスよりもしっかりと傾聴して相手が考えたことを整理してあげる、内省を促す方が優先順位は高いですよね。

 

しかし、それが出来る上司は意外と多くない。このあたりは、キャリア自律の支援、とくにキャリア面談を成功させるうえでギャップが生じがちなポイントかなと思います。

 

東宮:上司も傾聴できる方だといいんですけどね…。

 

弊社にも寄せられる相談でも、上司が話を聞かなかったり、もしくは武勇伝を語ってしまったりして、逆に離職のきっかけになってしまったというケースも聞きます。

 

フラットに相談を受けるというのは本当に大切ですね。

Q9.貴社では、キャリア自律の支援について、従業員から会社や職場へどのような期待があると思いますか?当てはまるものをすべてお選びください。

Q9のグラフ

  • 実施している企業群と実施していない企業群を比較すると、実施している企業群では「必要な時に必要な学習ができる仕組みや機会の提供」が従業員からの大きな期待であろうと考えている点に大きな差異が見られた。

東宮:では、質問9番目に移りたいと思いますが、「キャリア自律支援について従業員から会社や職場へどのような期待があると思いますか」というところですね。

 

「従業員からの期待をどう受け止めているか?」ということですが、これも面白いですね。圧倒的に多いのは「必要な時に必要な学習ができる仕組みや機会を提供してほしい」という回答ですね。

 

実際にキャリア自律の支援に関する相談を受ける中で、このデータを見て感じることは何かありますか?

 

渋川:今回の調査で、この回答結果は一番面白いなと思ったポイントですね。

 

実際にこういった声をもとに各社でリスキリングの環境だったり、eラーニングの環境を導入していることが多いわけです。

 

しかし、導入してみると利用率が芳しくない、しっかりと使われていないというのがよくある悩みです。

 

なぜこうなるかというのが先ほど話した通り、キャリア自律の支援体制が一貫したものとして構築されていない、「点」になっているという根深い問題です。

 

もともと学ぶ環境だけあっても自らキャリア自律して学習できる人はわずかなんですね。

 

“なぜそれを学ぶ必要があるのか”ということを、しっかりと未来から逆算してキャスティングできるようになるには、キャリアを一度しっかり整理する時間が必要です。

 

これが多くの会社では抜け落ちている施策でしたね。

 

学べる環境や仕組みはもちろん大切ですが、“本当に必要とされる支援”と“会社でひとつめの施策として導入されやすい施策”の間でズレが出やすいところかなと思います。

 

東宮:生じる課題も、人事の方の心理も、よく分かりますね。

 

人事側としては「場」や「機会」を与えてあげたいということですが、そこが大多数の従業員の中でヒットしてなかったりタイミングが合っていなかったりしてズレが生じている、というのは実態としてはありますね。

Q10.「従業員のキャリア自律」に関する取り組みの実施・検討における課題として、当てはまるものをすべてお選びください。

Q10のグラフ

  • 実施している企業群では「従業員のキャリア自律に関する意識の醸成・向上」が顕著な課題、また、「人事や上司の工数」が上位の課題として挙げられた。
  • 実施していない企業群では、実施している企業群の回答と比べて、相対的に「推進・実施方法がわからない」「経営陣からの理解」「従業員の希望を聞いても叶えられないことが多い」が相対的に強い課題になってい。

東宮:次に「従業員のキャリア自律に関する取り組みの課題」というところですね。

 

実施するうえで、どんな課題があるかということですが、実施している企業で顕著な課題となっているのが「キャリア自律に関する意識の醸成や向上」ということですね。

 

また、同じく既に取り組みを実施している企業では、「人事や上司の工数」が上位の課題として挙げられるのも面白いなと思います。

 

一方で、実施していない企業群ではやっぱり「推進や実施方法がそもそもわからない」であったり「経営陣の理解」がなかったりといった課題。

 

また、「従業員の希望を聞いても叶えられない」など。これもリアルな話ですね。ご覧になっていかがでしょうか?

 

渋川:実施していない企業群からの課題というのは、弊社にキャリア自立支援を探して問い合わせをいただいて、でも、そこから導入に至らなかったケース、社内で稟議通らなかったケースでも聞かれますね。

 

とくに経営陣からの理解という視点では、キャリアは自己責任であり、自分で考えるべきものとだという考えがまだ強くあるんですね。

 

しっかりと会社で取り組む必要があるかどうかというのは具体的なデータだったり、それがエンゲージメント定着率にどう繋がってるのかといったことを示す必要もありますし、もう少し草の根的に、じつは従業員からすると「相談すること自体が価値である」ということも、キャリアの自律支援の取り組みを広めていく上で重要な観点かなと思っています。

 

東宮:確かにそうですね。いま様々な方が多様な働き方をするようになっています。

 

でも、その中で、「自分で考えて」と言われるとやっぱり苦しい部分があったりしますよね。選択肢が多様化した一方で、まだ組織内に十分なロールモデルがいなかったりする。

 

その中でキャリアを積んでいくうえで「迷走する時に相談できる機会を与えてもらえるか」どうかによって、従業員のモチベーションや組織へのエンゲージメント、活性度が変わってきそうですね。ありがとうございます。

Q11.「従業員のキャリア自律」に関する取り組みにおいて、今後、実施・強化したい内容はありますか?当てはまるものをすべてお選びください。

Q11のグラフ

  • 実施している企業群では「キャリア開発に関する研修」「キャリアカウンセリング、キャリア面談」が多かった。一方、実施していない企業群では、「自己開発に関する時間的支援(自己啓発休暇など)の導入・強化」「資格取得など自己開発に関する金銭的補助の提供・強化」なども実施したい内容として挙げられている。

東宮:では、最後の質問です。「従業員のキャリア自律に関する取り組みについて今後強化したい内容はありますか?」ということです。

 

回答を見ると、やはり「キャリア開発に関する研修」、そして「キャリアカウンセリングや面談」は既に取り組みを実施している企業も実施していない企業でも上位に入ってきますね。

 

一方で、実施してない企業群では「自己開発に関する時間や金銭的な支援の導入強化」や「資格取得の支援」などが相対的に強いですね。

 

こちらの結果を通して感じるところやお気づきの点を教えていただけますか?

 

渋川:はい。少し繰り返しになりますが、「キャリア開発に関する研修」というのはとても大事ですが、キャリア研修だけを一時的に行なっても、もったいない打ち手になってしまいます。

 

キャリア研修の中身を自分ごとにして落とし込んでいくためには、個々人が考える時間が必要になってきます。やはり研修内でのワーク等だけでは、落とし込むことは難しいです。

 

ですから、1位と2位になっていますが、企業にはキャリア研修とキャリア相談(キャリアカウンセリング)の機会、この2つはぜひセットで入れてほしい施策ですね。

 

研修を通じてキャリアについて考える必要性を理解できたとしても自分ごとにして考えるというのは難しい。

 

自分ごとに落とし込むためには、適切に傾聴してもらう、自分の頭の中を吐き出して整理することが大切で、それが得られるのがキャリアカウンセリングだと思っています。

 

東宮:非常によく分かりますね。

 

キャリア研修の実施はもちろん価値はあるんですが、やっぱり一人一人の価値観も多様になって、選択肢も広がっている中で、一人一人描きたいもの、描けるものが変わっている。

 

だからこそ一人一人に対応したキャリアカウンセリング、キャリア相談の機会があることで、個々のビジョンが描けるようになり、それが会社の活性化や離職防止にもつながっていくのだと思います。

 

ここまで全部で11問の質問についてご意見を伺ってきました。最後に渋川社長からコメントや全体を通しての感想は何かありますか?

 

渋川:はい。ここまでお話をしてきた、やはりキャリア自律支援の施策に取り組むうえで、ひとつひとつが分断してしまっている状態は一番もったいないですね。

 

そして、キャリア研修や学習環境、キャリア選択の機会といった施策をつなげていくためには、間に入る個別のキャリアカウンセリングが大切な取り組みになってくるわけなんです。

 

キャリアというのは全体や傾向で考えるものではなくて、「自分だけのキャリア」「自分事」として考えてもらう必要があるテーマです。

 

そのためにも一対一の面談というのは、今後企業が必ず取り組むべきキャリア支援の形かなと思っております。

 

東宮:そうですね。自分ごとにならないと、どんなに「場」や「機会」を提供しても活用されることも、個人が前に進むこともない。

 

だからこそ、個別対応、個別のキャリア面談を通して、ひとりひとりの社員が自分が目指す姿を見えるようにすることがキャリア自律の重要なポイントになるということですね。

 

ここまでキャリア自律支援に関しての実態調査についてコメントを頂きました。渋川社長、どうもありがとうございました。

最後に

「キャリア自律」というキーワードは、最近のHR分野におけるひとつのトレンドワードとなっています。

 

今回の調査結果では、6割の企業で経営陣や人事が「キャリア自律の支援に関心を持っている」、また規模感の大きな企業ほど「強い関心事」となっていることが分かりました。

 

既にキャリア自律の支援に関する取り組みを実施する企業も全体の約4割、1001名以上の大手企業では6割となっています。

 

一方で、コメント等を見ると「従業員個人に“漠然としたキャリアへの不安”はあるが、従業員の意識がキャリア自律を考えるところに至っていない」「キャリア自律という言葉にネガティブなイメージを持つ従業員もいる」といった悩ましい状況もあるようです。

 

既に取り組みを開始している企業からは「従業員のキャリア自律に関する意識の醸成・向上」が突出した課題であるという回答もあり、(外部から)“自律を支援する”取り組みの難しさを感じさせます。

 

上司や人事の工数にも制限がある中で、キャリア自律支援にどのように取り組むか、悩んでいる企業が多いことがうかがえる調査結果となりました。

キャリア自律支援プラットフォーム kakedas

Kakedasは1945名(2022年9月時点)の国家資格キャリアコンサルタントが、従業員のキャリア自律を支援、組織改善をサポートするキャリア自律支援プラットフォームです。

 

第三者が仲介することで、組織が持つ構造的なキャリア支援の課題を解消します。

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著者情報

東宮 美樹

株式会社ジェイック 執行役員

東宮 美樹

筑波大学第一学群社会学類を卒業後、ハウス食品株式会社に入社。営業職として勤務した後、HR企業に転職。約3,000人の求職者のカウンセリングを体験。2006年にジェイック入社「研修講師」としてのキャリアをスタート。コーチング研修や「7つの習慣®」研修をはじめ、新人・若手研修から管理職のトレーニングまで幅広い研修に登壇。2014年には前例のない「リピート率100%」を達成。2015年に社員教育事業の事業責任者に就任。

著書、登壇セミナー

・新入社員の特徴と育成ポイント
・ニューノーマルで迎える21卒に備える! 明暗分かれた20卒育成の成功/失敗談~
・コロナ禍で就職を決めた21卒の受け入れ&育成ポイント
・ゆとり世代の特徴と育成ポイント
・新人の特徴と育成のポイント 主体性を持った新人を育てる新時代の学ばせ方
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