オンボーディングは新しく採用した社員が組織に適応することを支援し、いち早く戦力化するためのプロセスを指す言葉です。
オンボーディングを適切に実施することで、新しく入社・配属されたメンバーがより早く組織に馴染み、一人前として活躍するまでの期間を早めることができます。
記事では、人材育成に関わる企業担当者に向けてオンボーディングの目的とメリット、成功させるために必要な5つのポイント、導入方法などを紹介します。
<目次>
- オンボーディングとは?
- オンボーディングの目的
- オンボーディングを実施するメリット
- オンボーディングにデメリットはあるか?
- オンボーディングのプロセス
- 人事がオンボーディングを成功させる5つのポイント
- オンボーディングの成功事例
- オンボーディングに関するよくある質問
- まとめ
オンボーディングとは?
オンボーディングとは、新入社員を受け入れて育成するプロセスのことです。
新しく入った社員の早期戦力化を促進するとともに早期離職を防ぐ施策で、新卒だけでなく中途社員も対象にしたプログラムです。
オンボーディングの目的
オンボーディングはどんな目的で行われるのでしょうか?本章では、オンボーディングを行う目的を3つ解説します。
目的① 新メンバーの早期戦力化
オンボーディングは新入社員を受け入れ、組織に馴染んでもらい戦力化することを支援するプロセスです。オンボーディングを適切に実施することで、新しく入った社員がより早く組織に馴染み、一人前として活躍するまでの期間を早めることができます。
オンボーディングでは、単に業務知識を身に付けさせるといった教育だけではなく、組織の風土や価値観、仕事のスタイル等も知ってもらうことが重要です。たとえば同業界出身などで業務知識は十分にある即戦力候補の中途社員は、オンボーディングのプロセスを経ることで、スムーズに組織に馴染み、早期に能力発揮できるようになります。
目的② 早期離職を防止する
新しく入ったメンバーが組織やチームに馴染みやすくなることは、早期戦力化の促進はもちろん、早期離職の防止にも期待できます。オンボーディングによって、早期に成果をあげることはもちろん、組織の価値観を知り、また、メンバーと関係性をつくることは、「組織に自分の居場所がある」感覚を得ることにつながります。
たとえば、下記のような取り組みも早期離職の防止につながるオンボーディング施策の一例です。
- 入社前に、社員宛に経歴や人柄、面接での評価ポイント(強みなど)を共有する
- 人間関係やキャリアなどを気軽に相談できるブラザー・シスター社員をつける
- 仕事以外の交流やイベントを企画する
目的③ 教育・指導内容を標準化する
オンボーディングは、教育・指導内容の標準化を図る上でも有効です。もちろん配属される部署や職種によって、業務知識のレクチャー部分は異なります。
しかし、人事や総務など担当部門が先導して、組織に馴染むためのオンボーディングを体系的・計画的に進めていくことで、時期や部門による受け入れの属人化を防ぎ、受け入れレベルを底上げ出てきます。
また、業務レクチャープランを作成するためのひな型を準備し、過去のデータを蓄積して、受け入れ部門に提供してプランを作成してもらう、といった取り組みをすることで、部門における指導者の受け入れ経験の多寡による指導内容の抜け漏れや品質低下を防げます。
オンボーディングを実施するメリット
オンボーディングを実施する主なメリットは下記の4つです。
- 採用コストが削減できる
- 受け入れ部門の負荷が軽減される
- 組織全体の生産性が向上する
- 従業員満足度が高まる
メリット① 採用コストが削減できる
せっかく苦労して採用した社員が早期離職してしまったら、採用にかけた費用と手間、給与などの人件費、さらには受け入れの手間や育成の工数は水の泡になってしまいます。加えて次の人を採用するとなれば、さらなる手間と採用費用が生じます。つまり、早期離職が多いとコスト競争力で不利になってしまうのです。
前章でお伝えしたように、オンボーディングの実施によって早期離職の防止ができれば、結果としてコストダウンや効率化につながります。
メリット② 受け入れ部門の負荷が軽減される
オンボーディングを整備して受け入れプロセスを標準化することで、受け入れ部門の負荷を低減することができます。
オンボーディングを整備する過程で、人事部門が全社的な受け入れプロセスの整備、OJT計画のテンプレート、過去のOJT計画書の蓄積、人事による面談等の仕組み、メンター制度などを整えていくことで、受け入れ部門の上司やOJT指導者の受け入れ負荷を減らしたうえで、受け入れ品質を向上させられます。
メリット③ 組織全体の生産性が向上する
オンボーディングを通じて、新入社員は職場の文化や人間関係も把握する機会が持つことができます。とくに中途社員の場合、当初から配属部門や配属職種が決まっていることが多く、他部門や他職種とのコミュニケーションが減りがちです。
組織内でのコラボレーションやイノベーションを進めるうえでは、単純に「顔見知りである」「気軽に声をかけられる」ことが重要だったりします。オンボーディング施策を通じて、とくに中途社員の他部門・他職種交流を進めることは、組織全体の生産性向上にもつながります。
メリット④ 従業員満足度が高まる
従業員満足度はES(Employee Satisfaction)とも呼ばれます。フレッシュで吸収意欲の高い新入社員は、既存社員にとっても良い刺激となりますし、新しいメンバーとのコミュニケーションは既存社員にもポジティブな影響や新しい気づきを与えます。採用とオンボーディングがうまくいって新入社員の即戦力化が進むと、既存社員が組織に抱くイメージも良くなるでしょう。
オンボーディングにデメリットはあるか?
前述のとおり、オンボーディングの運用は戦力化の向上やコスト効率の改善、さらに受け入れの負担低減などにつながり、特筆すべきデメリットはありません。
あえてデメリットを挙げるとするならば、立ち上げ時に手間がかかることです。
今まで採用後の受け入れを各受け入れ部門に任せていたなら、人事部門などに負荷が生じることもあるでしょう。また、面談の実施など既存メンバー側も多少の工数がかかることになります。
しかし、数十〜百万以上かけて採用をし、かつ年間数百万円の人件費が生じることを考えれば、定着促進とスムーズな戦力化に多少の手間がかかってもメリットのほうが大きいといえます。
オンボーディングのプロセス
オンボーディングのプロセスはおもに下記5つのステップで構成されています。
- 1.成長目標の設定
- 2.プランの作成
- 3.プランの共有と見直し
- 4.実行
- 5.振り返りと改善
なお、ここで記載するプロセスは個別の受け入れプロセスです。はじめにテンプレートを作るとグッと楽になりますので、共通で使えるテンプレートを作ったうえで、受け入れ部門などに応じて変更が必要な箇所のみ変更することがお勧めです。
1.成長目標の設定
まずは新入社員に「入社後、どれくらいの時点でどのような活躍をしてもらいたいか」「目標となるパフォーマンスに際して、どのようなプロセス目標の達成やスキルの習得が必要か」の目標を設計します。
OJTの計画作成プロセスと共通する部分となりますので、計画作成のテンプレートを準備することがおすすめです。成長目標は未経験の新卒以外であれば入社人材に応じて、ある程度、個別作成することになるでしょう。
2.プランの作成
オンボーディングプランは入社前〜入社後1年程度を目安にスケジュールを組みます。
入社前の受け入れ〜組織に馴染むためのプロセス、OJT期間中のOJT担当者以外からのサポート(上司や人事面談など)などは、新卒で1パターン、中途で1パターンといった形で受け入れプランを共通化することができます。
プランの共通化は、人事部門で標準化して運用することがおすすめです。OJT側の計画に関しては、受け入れ部門や担当者の力量に依存しすぎないよう、テンプレートを整備したうえで部門側に作成を任せましょう。
3.プランの共有と見直し
作成したプランは受け入れ部門と人事部で共有し、必要であれば見直しや修正を行ないます。
人事部門は、受け入れ部門側のOJT計画がしっかり組まれているかを確認すると共に、OJT以外でどのようなケアがされるか、配属前にどのような研修を受けるかを受け入れ部門と共有することが大切です。
なお、作成したプランは入社した新入社員側にも共有できるようにしておくとよいでしょう。
新入社員と育成プランを一緒に見ることで、「受け入れを準備してくれている」という安心感と感謝が生まれます。また、全体像を理解することで実務の飲み込みも早くなりますし、自助努力をしてもらいやすくなります。
4.実行
作成したプラン通りにオンボーディングを実施していきます。
- 組織に馴染むこと
- 業務に必要な知識のインプット
- 精神的なケア
- 即戦力化の促進 など
それぞれのバランスを見ながら進めていきましょう。特に、中途社員の場合は経験やスキルもそれぞれなので、状況を見ながら微調整して進めることが大切です。
5.振り返りと改善
オンボーディングの進行中、また終了後に振り返ることも重要です。
実施した部門側(上司とOJT担当者)と実際にオンボーディングを受けた新入社員、双方の意見を聞くことで、効果的な改善点を知ることができます。
改善点や良かった点はテンプレートに反映したり、OJT計画に記録したりしておきましょう。人事部が主導する部分は仕組み自体を改善し、部門側のOJT計画は次の受け入れ時に参考にできるように保管することが大切です。
人事がオンボーディングを成功させる5つのポイント
人事がオンボーディングを成功させるポイントは5つあります。
- 受け入れ準備を徹底する
- 組織社会化のプロセスを設計する
- メンター制度やブラザーシスター制度を導入する
- OJTをきちんと設計する
- OJT指導者を育成する
詳しく見ていきましょう。
受け入れ準備を徹底する
まずは受け入れ準備は標準化してきちんと準備することは当たり前ですが大切です。
新入社員を受け入れるのに必要なハードやソフト、アカウントの準備は必須です。事前準備は新入社員にとって、企業の第一印象につながります。準備がされていないと企業への不信感が生じたり、歓迎されていないように感じたりします。
また、既存社員に対しての事前アナウンスも大切です。
どのような人が入社してくるのか、どこが評価のポイントだったかなどを共有して、受け入れのための心構えや親近感を醸成しておきます。なお、あまり期待値を高め過ぎると入社した新入社員がやりづらくなるので注意が必要です。
組織社会化のプロセスを設計する
前述のとおり、パフォーマンスを発揮してもらうには業務知識を覚えるだけでは不十分であるため、組織内の暗黙知や立ち振る舞いを伝えることも大切です。
これは組織社会化と呼ばれるプロセスです。例えば以下のようなものを指します。
- 理念やビジョン
- バリュー
- 沿革
- 暗黙の行動規範
- 社内用語
- 組織構成
- 人間関係
- 仕事のスタイル など
共通言語や行動規範などは仕事しながら覚えていく部分もありますが、受け入れプロセスのなかで習得する機会を設計することで早く能力を発揮できるようになります。
特に中途社員の場合、初期研修などで組織に馴染む期間が少なく、現場での業務知識インプット(OJT)に入ってしまいがちなので注意しましょう。
ブラザーシスター制度やメンター制度を導入する
ブラザーシスター制度とは、階級や年齢が新入社員に近い社員を気軽な相談役として設定する制度のことです。メンター制度も、新入社員向けに行なう場合はほぼ同義といえます。
新入社員は業務上の質問だけでなく、些細な組織内のルールや人間関係での疑問・ストレスなどが多々生じます。OJT指導者も相談先ではありますが、OJT指導者は新入社員にとって一種の“上司”にあたる存在であり、なかなか気軽な関係にはなりません。
したがって、新人にはOJT指導者以外の”気軽に質問や相談ができる相手”を設けることが有効です。
また、ブラザーシスターやメンターを配置することでOJT指導者の負荷を減らすこともできますし、新入社員とOJT指導者の相性などによる関係性リスクを担保できるというメリットもあります。
OJTをきちんと設計する
部門が主導するOJTをきちんと設計・計画してもらうことも大切です。部門やOJT指導者に受け入れノウハウがないと、場当たり的な指導になりかねません。そうならないために下記ポイントを意識して整理しましょう。
□ | 中期的なゴールとミニゴール |
---|---|
□ | 各ステップで身に付けるべきスキル |
□ | 身に付けるための経験 |
□ | 指導方法 |
□ | ぶつかりがちな壁 など |
きちんとOJTを設計・計画することで効果的な指導ができますし、計画を新入社員側と共有することで余計なプレッシャーを緩和したり学習意欲の向上につなげられたりします。
人事部門は、
- ①テンプレートを準備する
- ②作成の依頼を出して計画を確認する
- ③作成した計画や振り返りを保管する
といったところを主導し、設計・計画をサポートするのが効果的です。
OJT指導者を育成する
部門だけではなく、OJT指導者の育成スキルも重要です。ここまで解説してきたようなオンボーディングに関する基礎知識や新入社員が感じがちなプレッシャーの理解を促しましょう。
さらに、実際のスキルとして4段階指導法やコーチングスキル、ソーシャルスタイルに応じたコミュニケーションなどを育成するのが大切です。育成するためのスキルアップを図るには、外部機関を活用することもおすすめです。
オンボーディングの成功事例
3社のオンボーディング成功事例を紹介します。
LINE株式会社
新入社員のために業務や人間関係の悩みを相談できる窓口を設けています。前述のメンター制度やブラザーシスター制度と同様に、”気軽に”相談できる場所を準備しておくことは新入社員の居場所を作るために大切です。
キユーピー株式会社
キユーピー株式会社では、工場勤務の社員に3年間のオンボーディング期間を設けています。外部のeラーニングを業務と並行して行なうことで、不足していた基礎教育を充実させました。
現業部門などは特にOJTが実務に偏りがちです。一見すると実務に直結しないような体系的な基礎知識、周辺知識の獲得も大切です。
コネヒト株式会社
コネヒト株式会社ではオンボーディングツアーという独自のプロジェクトを行なっています。入社初日から3ヵ月間にわたって、全部で30コマにわたるイベントを新入社員に体験してもらうものです。
ビジョンと行動指針に基づいて構成されたオンボーディングツアーを経て、カルチャーを自分の言葉で語れるように時間をかけて取り組んでいます。社員の思いと企業の想いをつなげ、同じ方向を向いて業務ができるような環境を作り上げていくことも重要です。
オンボーディングに関するよくある質問
オンボーディングに関するよくある質問に回答します。
オンボーディングとOJTの違いとは?
オンボーディングはOJTを含んだ受け入れプロセス全体を指します。対してOJTは、実務スキルやノウハウの習得にフォーカスした現場での受け入れ・育成プロセスが中心です。
実務スキルを現場で覚えていくOJTは大切ですが、OJTだけでは組織の全体像を知ったり、人間関係を構築したり、精神面をフォローしたりという部分がどうしても欠けてしまいます。OJTではカバーできないところまで含んだ育成プログラムがオンボーディングといえます。
オンボーディングを実施するタイミングは?
オンボーディングの期間は、採用したポジションや対象などによっても異なります。目安としては9ヵ月から1年間程度が一般的です。前述の期間はある程度の業務知識を身に付けて自走し、成果を挙げられるようになるまでを想定しています。
初期の3ヵ月間程度を手厚く実施して、後半はOJT中心に精神面やモチベーション面のフォローを定期的に実施するといったイメージです。
新卒社員と中途社員で違いはある?
新卒社員も中途社員もオンボーディングは必要です。特に中途社員はキャリア層になるほど「即戦力だからOJTだけでいい」と思われがちですが、違います。
前述したように組織に馴染んで暗黙知や共通言語などを知ることで、本来の能力を発揮できるようになります。
新卒の場合は初期研修も手厚く、またOJTもしっかりと計画されることが多いため、基礎的なオンボーディングは実施されていることが多いでしょう。
しかし、初期研修が終わって部門配属されたあとにフォローされなくなるケースもあるので、人事による定期面談、ブラザーシスター制度による精神面のフォロー、配属半年の振り返り研修などの場を設けることが有効です。
まとめ
オンボーディングを通じて、メンバーの知識やスキル、メンタル面をフォローすることで有用な人材の定着・活躍や、組織全体の生産性向上を実現できます。また、オンボーディングを上手に活用すれば、早期離職やモチベーション低下といった組織に悪影響をおよぼしかねないリスクも大きく減らすことが期待できます。
今回紹介したプロセスとポイントを参考に、ぜひオンボーディングによる受け入れ体制を整備してみてください。